下部体幹の筋群
腹筋群の役割とその捉え方の視点
- 腹筋群は、体幹の可動性と安定性に関わる
- 腹筋群の主な役割は、以下の3つがある
- 脊柱の安定化を図る
- 骨盤と脊柱の最適なアライメントを保つ
- 四肢の運動時での体幹や骨盤による代償運動を防ぐ
- 例えば、荷物を持ち上げるためには腰椎が安定していることが求められるが、腹筋群を収縮させることで腹腔や胸腔の内圧を高めて腰椎を安定させる
腹直筋
作用
- 体幹の屈曲と骨盤後傾、腹腔・胸腔内圧を高める
- 呼吸にも関与している
概要
- 腹直筋は腱膜に包まれており、他の腹筋群の付着部にもなっている
- したがって、付着しているどの腹筋群が活動しても腹直筋は収縮する
- 体幹を屈曲しながら骨盤後傾を行うと、内腹斜筋や外腹斜筋よりも腹直筋の活動が優先的に大きくなる
- 体幹や骨盤を固定させることで下肢の円滑な運動を行えるように、安定性を提供している
- SLRは下肢重量の約10倍を上回る股関節屈曲筋力を必要とするが、腹直筋の筋力が低下していると、下肢の重量を支えられずに骨盤前傾と腰椎前弯が生じる
- つまり、過度の腰椎前弯があると、腹直筋の筋力低下が疑われる
- したがって、下肢の運動を腹筋群による骨盤の安定作用に依存しているのである
- 不安定な状態でトレーニングを行うことで、より腹直筋の活動を増加させる効果がある
- 腹直筋は、スポーツの種類によっては、利き手側と非利き手側の腹直筋の厚さに左右差があることが報告されている
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外腹斜筋
作用
- 左右両側が同時に活動する際に腰椎後弯と骨盤後傾に働く
- 一側が活動すると骨盤を側方挙上させる
- 左外腹斜筋と右内腹斜筋が活動すると、体幹は右側へ、骨盤は左側へ回旋する
概要
- 腹斜筋の筋力低下は回旋の制御能力低下を意味する
- その他に、腰椎を安定させるために作用したり、腹式呼吸での呼気に作用したりする
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内腹斜筋
作用
- 両側が同時に収縮すると体幹が屈曲する
- 一側のみが収縮すると同側の骨盤が挙上する
- 腹式呼吸時の呼気に作用する
概要
- 外腹斜筋と直角に走行する
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腹横筋
作用
- 腹壁を平らにすること、腹腔内圧を増大させること、脊柱のアライメントを整えること
概要
- 腹部の筋のうち最も深部に位置し、筋線維は腹部のベルトのように横に走行する
- このことから、コルセット筋としても知られる
- 胸腰筋膜に付着することから、腰つの安定化にも関与する
- 立位姿勢で上下肢を動かす際に姿勢保持のために最初に活動するのが腹横筋である
- 腰痛患者では腹横筋の活動の遅延が確認されており、この筋活動の遅延が腰痛の原因の一つとされている
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腸腰筋
作用
- 股関節の屈曲、外旋、外転、骨盤前傾に作用する
- 腰椎の側屈と前弯、腰椎を安定させる
概要
- 座位で体幹を垂直位に保持したまま骨盤を前傾させ、腰椎を前弯させるのに最も適した筋である
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胸腰筋膜
- 胸腰筋膜は脊柱起立筋を包み込み、広背筋や大殿筋、大腿二頭筋と連結している
- 内腹斜筋や外腹斜筋の起始部にもなる
- このように広範囲に付着することから、腹筋群や殿筋などが収縮すると胸腰筋膜の緊張が増大する
- 胸腰筋膜はさまざまな方向から引っ張られることで緊張が増加し、腰背部、特に下部腰椎の力学的な安定化に大きく貢献している
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広背筋
作用
- 脊柱の伸展方向の力を生み出し、骨盤の前傾を引き起こす
概要
- 腰椎と骨盤のアライメントに関与する
- 広背筋が短縮している場合、肩関節を屈曲して広背筋を伸張すると、背部が代償的に伸展する
- 腰痛患者で広背筋の短縮がある場合、手を頭より高く挙上しただけで腰椎が伸展し、腰痛を引きお起こす可能性がある
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多裂筋
作用
- 前屈時の遠心性収縮により、脊柱の屈曲や前方剪断力をコントロールする
概要
- 棘突起に付着しているため、横突起に付着している脊柱起立筋よりも脊椎を伸展させるレバーアームが長い
- 片側に腰痛を訴える患者では同側の多裂筋の萎縮を認めることがあるため、その萎縮に対するアプローチが必要となる
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腰方形筋
作用
- 両側が収縮すると腰椎を伸展させ、骨盤を挙上する作用がある
- 歩行時には足部を地面から持ち上げる動作に関与する
概要
- 大腰筋とともに、脊柱の縦方向への強力な安定化作用を持つ
- 腰椎横突起に付着しているため、骨盤が固定された状態で収縮すると、体幹が側屈する
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大腿筋膜張筋および腸脛靭帯
作用
- 股関節の屈曲と外転、内旋である
概要
- 大腿筋膜張筋に引っ張られることで腸脛靭帯は張力を保ち、その張力によって股関節と膝関節の外側面の安定性を提供している
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大殿筋
作用
- 股関節の伸展、外旋、外転(主に上部線維)、内転(主に下部線維)、骨盤後傾、下肢に対する体幹の伸展である
概要
- 大殿筋の約80%は腸脛靭帯に入り込むため、大殿筋は股関節内転の可動域制限に関与することがあるほか、短縮があると座位姿勢で代償的な腰椎後弯がみられることがある
- 立位では、大殿筋は膝関節伸展最終域の20~30°程度の膝関節伸展に作用する
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参考文献
下部体幹の筋群の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)
腰椎・腰部の機能解剖 関節突起・椎間関節・椎弓根・前縦靭帯・後縦靭帯・黄色靭帯・棘間靭帯・棘上靭帯・横突間靭帯・腸腰靭帯・椎間板・関節軟骨・関節包・滑膜
関節突起および椎間関節
- 関節突起の関節面の形状は、腰椎の運動とその安定性に大きく関与している
- 上関節突起の関節面は、後内方を向き凹面をなし、下関節突起の関節面は前外方を向き凸面をなす
- 連結する2つの腰椎を側方から観察すると、上位腰椎の下関節突起は、下位腰椎の上関節突起の内側に位置する
- 仮に、連結した腰椎の上位腰椎を下位腰椎対し前方に滑らせようとすると、下関節突起が制動される
- さらに、上位腰椎を下位腰椎に対し回旋すると、回旋と反対側の上下の関節突起(左回旋であれば右の)がぶつかり、回旋が制動される
- 椎間関節の関節面は、頚椎では水平面に近いのに対し、腰椎ではほぼ垂直に起き上がっている
- また、上位腰椎では矢状面に近く、下位腰椎では前額面に近く
- 一方、胸椎の関節面は前額面を向く
- つまり、胸腰椎移行部では急激な関節面の変化が起こる
- 腰椎の上位に位置する胸椎では胸郭を形成し一塊となるため、胸部に大きな外力が加わると、そのストレスは胸腰椎移行部に集中しやすい
- これは、外傷性対麻痺の好発部位が胸腰椎移行部であることに関連する
- 上記のように、腰椎の関節面が矢状面に近くほぼ垂直であるため、腰椎の運動は屈曲・伸展方向への制限は少ないが、回旋および側屈方向には制限が大きい
椎弓根
- 椎弓根は、椎体と棘突起や横突起などの後方要素をつないでいる
- 後方要素は、棒状の突起はさまざまな方向へ伸びており、筋や靭帯が付着している
- 後方要素の付着する筋の収縮はレバーを引くように作用し、その力が椎弓根を経て椎体に伝わる
- 椎体自体に滑りや回旋を制動する術がないため、椎弓根が後方要素に加わった力を椎体へ伝えなければならない
- そのため、椎弓根は強度が求められるが、その断面は厚い壁を有する円柱をなしている
各椎骨の特徴
- 腰椎の基本的な構成要素は同一であるが、その形態は椎骨間で若干異なる
- 特に第5腰椎は、仙骨と関節を形成していることもあり、特徴的である
- 仙骨の仙骨底は前下方に傾斜しており、立位における仙骨底と水平面がなす角度(仙骨角)は約40°とされている
- そのため、第5腰椎には常に仙骨上を前方へ滑る力が働いている
- 第5腰椎と仙骨の連結部における前後方向の安定性には、前縦靭帯と腸溶靭帯が主に関与する
- さらに、第5腰椎と仙骨の椎間関節の関節窩は広く、前額面に近い角度で傾斜しているため、この部位で発生する前方剪断力に部分的に抵抗することができる
- 第5腰椎の椎体は前方が後方より厚く、楔形をしている
- 前方と後方の厚さの比率は第5腰椎で 0.88 と報告されている
- 第5腰椎の横突起は他の腰椎のものよりも太く、椎体から椎弓根の全長にわたって付着している
- そこへ強力な腸溶靭帯が付着し、仙骨へ固定している
- 第4腰椎は横突起が短く、椎体が他の腰椎より相対的に広めである
- 第3腰椎は、関節面が相対的に中間的な方向を向き、横突起は長い
- 第1腰椎と第2腰椎は関節面あ矢状面に近く、第1腰椎は第2腰椎より副突起が発達し、横突起が短い
腰椎の靭帯と椎間板
前縦靭帯
概要
- 後頭骨底部から仙骨にかけて椎体と椎間板の前面を走行しており、頭側で狭く、腰椎領域では発達して広い
- 上下の椎体に付着する短い線維と、いくつかの椎体をまたぐ長い線維から構成される
- 深部では短い線維が走り、椎体の前面の骨あるいは骨膜に付着する
- 椎間板上では線維輪の前面に付着している
- 長い線維は深部の短い線維を数層で覆う
- それは2~5つの椎体間を走行し、付着している
機能
- 脊柱全体の安定性
- 伸展および過度の前弯の制限
後縦靭帯
概要
- 後頭骨底部から仙骨にかけて脊柱後面に付着している
- 頭側で広く、腰椎領域では細くなる
- そのため、腰部における椎間板ヘルニアを抑制する機能は限られる
- 深層の短い線維は弓状に走行し、外側へ広がるようにして椎間板後面に付着している
機能
- 脊柱全体の安定性
- 屈曲の制限
黄色靭帯
概要
- 短く厚い靭帯で、上下の椎弓板を連結している
- 左右対称に存在し、脊柱管を閉鎖する
- 上方は椎弓板の前面下部と椎弓根の下部に付着し、下方は下位の椎弓板上縁および背面に付着している
- 外側部では、椎間関節の前面を走行し、その関節の下関節突起と上関節突起の前面に付着している
- 他の靭帯と異なるのは、弾性を有することであり、中間位から最大屈曲すると35%伸びる
機能
- 椎弓板の離開を防ぐ
- 屈曲を制限する
棘間靭帯
概要
- 棘間靭帯は上下の棘突起を連結する
- 腹側部は黄色靭帯背側部から上位の棘突起下縁の前1/2へ、中間部は棘突起上縁の前1/2から上位の棘突起下縁の後1/2へ、背側部は下位棘突起上縁の後1/2から上位棘突起の後縁背側へそれぞれ付着する
機能
- 屈曲の制限に作用する
棘上靭帯
概要
- 棘突起先端に付着し、上下の棘突起を連結する
- 腹部では腰背筋群の線維に混入し、不明瞭である
機能
- 屈曲の制限に作用する
横突間靭帯
概要
- 隣接する横突起間に広がる靭帯
- 腰部では良く発達している
機能
- 対側への側屈を制限する
腸腰靭帯
概要
- 前腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の前下縁の全長から後外側に走行し、腸骨稜前縁に付着している
- 上腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の先端から腰方形筋を包むように分割し、腸骨稜に付着している
- 後腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の先端から腸骨粗面に付着している
- 下腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の下縁と第5腰椎椎体から仙腸靭帯上を横切り、腸骨窩の上部と後方部分に付着している
- 垂直腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の前下縁から垂直に下方へ走行し、弓状線の後面に付着している
機能
- 第5腰椎の仙骨に対する前方への滑りを制動し、回旋・前後屈・側屈を制限する
線維輪
- 線維輪はタイプⅠコラーゲン線維から構成されるため、伸展に抵抗する
- 線維輪の外側1/3の線維は椎骨の輪状骨突起に付き、上下の椎体を連結して靭帯のように作用する
- 脊柱の捩れや屈伸では外側の線維は椎体の中心よりも離れるため、伸張が大きくなる
- これらの運動に抵抗するように線維輪が機能する
- 線維輪の線維は、水平面に対し傾斜して走行しており、隣接する層の線維は反対方向に走行している
- 線維輪の線維の走行が一方向性ではなく交互性であることは、さまざまな方向への制動を可能とする
椎間板
髄核
- 髄核は粘液物質からなる半流動体であり、組織学的にはいくつかの軟骨細胞と、不規則に並ぶコラーゲン線維からなる
- 髄核に圧が加わると変形するが、容積は変化しない
- 髄核は主として体重支持に関与し負荷を伝達し、線維輪を支持する働きがある
線維輪
- 線維輪は規則正しく配列されたコラーゲン線維からなる
- コラーゲン線維は層板を形成し、10~20枚の層板が髄核を包むように同心円状に配置されている
- コラーゲン線維の方向は層板毎に異なり、各層板のコラーゲン線維は網目状に交差するように配列されている
- 線維輪は靭帯のように作用し、運動を制限し、関節を安定させる働きがある
線維輪の線維方向と運動
- 各層板を形成するコラーゲン線維は垂直線に対して約65°の角度をなす
- この角度は、あらゆる方向の動きに抵抗できるように計算されている
- この角度が65°よりも大きい場合は、理解や屈曲に対する制限力は増加するが、滑走や回旋に対する抵抗力は低下する
離開
- 腰椎牽引のように椎間板に長軸方向の負荷(離開)が加わると、線維輪のコラーゲン線維の付着部が離れ、すべてのコラーゲン線維が等しく緊張し、離開を制限する
滑走
- 上位椎骨が下位椎骨上を平行移動する椎体間関節の滑走運動では、線維輪のコラーゲン線維の走行および位置により作用が異なる
- 前方滑走を例によると、側方に位置するコラーゲン線維のうち、滑走方向と同じ方向に走行するコラーゲン線維は緊張し、滑走方向とは異なる方向に走行するコラーゲン線維は弛緩する
- コラーゲン線維の方向が層板毎に逆方向となるため、側方に位置するコラーゲン線維の1/2が緊張し、運動を制限する
転がり運動
- 屈曲のような転がり運動では、椎体の一端が低くなり、他端が高くなる
- その結果、低くなった方の線維輪が圧迫され高くなった方の線維輪が伸張される
- 同時に、椎体が傾斜した側の髄核が圧迫される
- 例えば、屈曲運動に伴う椎体の傾斜により主として髄核の前方部分が圧迫される
- 髄核はこの圧迫から逃れるために後方に移動する
- この時、椎間板に負荷が加わると椎間板圧が上昇し、この圧が椎体の後方離開によりすでに伸張された後方の線維輪に作用する
- このような伸張と圧迫の組み合わせに抵抗できない場合は、髄核の圧により、残存している層板が断裂し、髄核の膨隆やヘルニアが起こる
回旋
- 線維輪のコラーゲン線維の方向が交互に異なるため、運動方向と同じ方向の線維のみの付着部が離れ、運動方向とは逆方向に走行する線維の付着部は近づく
- したがって、一側の回旋に対して、前コラーゲン線維の1/2の線維が抵抗し、残りの1/2の線維は弛緩する
腰椎椎間関節
- 脊柱の椎間関節は、上位椎骨の下関節突起と下位椎骨の上関節突起で形成される滑膜関節である
- 四肢の滑膜関節のように、関節面は関節軟骨(硝子軟骨)で覆われ、関節軟骨の縁に滑膜が付着している
- 滑膜は関節包に覆われている
- 関節包は関節軟骨から離れた関節突起に付着する
- 腰椎椎間関節の関節面を後方から見ると、矢状面に位置し、その平坦な形状から平面関節に分類される
- 腰椎椎間関節の横断面の形状はさまざまであり、関節面がカーブしているのもや、上関節面がC形やJ形をしているものがある
- 横断面における腰椎椎間関節の関節面の形状は、L1-2、L4-5、L5-S1間は比較的平坦である
- L2-3、L3-4間はカーブしている関節が多い
横断面における関節面の形状と機能
- 腰椎椎間関節の横断面の形状は、椎間関節の前方変位や回旋の可動性に影響を与える
- 椎間関節の関節面の方向は、平坦な関節では関節面に平行な線が矢状面となす角度で表し、関節面がカーブしている関節では関節腔の前内側端と後外側端を通る線が矢状面となす角度で表す
- 上関節面が前額面に位置する関節では、関節面が後方を向くため、前方変位に対する制限力が最大となるが、回旋時に対する制限力は最小となる
- これに対して、上関節面が矢状面に位置する関節では、回旋に対する制限力が最大となるが、前方変位に対する制限力は最小となる
- 上関節面が前額面と矢状面の中間に位置する関節では、上関節面が後内側を向き、前方変位と回旋の両者を制限することができる
- 上位椎骨が前方へ動こうとすると、その椎骨の下関節突起が下位椎骨の上関節面に衝突し、前方への動きが制限される
- また、上位椎骨が半時計方向に回旋しようとすると、上位椎骨の右側の下関節突起が椎骨の右側の上関節面と衝突し、それ以上の回旋が制限される
- 関節面がカーブしている関節では、後方を向いている上関節面の内側端が前方変位を制限する
- 上位椎骨が前方に動こうとすると、上位椎骨の下関節面が下位椎骨の上関節面の前内側部に衝突する
- 後方に向く関節面の面積が大きいC形関節面は、後方を向く関節面の面積が小さいJ形関節面よりも制限力が大きい
- 回旋に対しては関節面全体が接触するため、C形とJ形の両者が回旋を制限する
- 横断面における関節面の角度は、上位腰椎よりも下位腰椎の方が大きく、下位腰椎では前方への変位に対する制限力が大きくなっている
- また、L3-4、L4-5、L5-S1椎間関節では45°の角度をなす関節が多く、前方滑走と回旋の両者を制限している
関節軟骨
- 上下の関節突起を覆っている関節軟骨は、四肢関節の関節軟骨と全く同じである
- 正常な関節では、関節面の中心部が最も厚く、約2㎜程度である
- 組織学的には4層(表層、中間層、放射層、石灰化層)からなる
関節包
- 腰椎椎間関節の関節包は、上位椎骨の下関節突起から、下位椎骨の上関節突起に向かって横断方向に走行するコラーゲン線維からなる
- 関節包は2層からなる
- 外側層は、密性の平行に配列するコラーゲン線維からなり、内側層は不規則性に走行する弾性線維からなる
- 関節包は背側で厚く、多裂筋の深部線維により補強されている
- 関節の上部と下部では、骨軟骨移行部から離れたところに関節包が付着し、上下の関節突起の上端と下端に、関節包下ポケットという空間を形成する
- 関節包の上部と下部には小さな孔があり、脂肪が関節包内から関節包外へ移動できる
- 腰椎椎間関節の上方、下方、後方はこのような線維性の関節包で包まれるが、前方は黄色靭帯に置換される
- 関節包の最外側の線維は関節軟骨の縁から2㎜のところに付着するが、いくつかの最深部の線維は関節軟骨の縁に付着する
滑膜
- 四肢の滑膜関節にみられる滑膜と同様であり、特別な特徴はない
- 椎間関節の滑膜は関節軟骨の遠位全縁に付着し、関節を横断し、対側の関節軟骨の縁に付着する
- 滑膜は線維性の関節包と黄色靭帯の深層を覆うが、一部は反転して、椎間関節の種々の関節内組織を包む
関節内組織
脂肪
- 脂肪は主として関節の上部と下部の関節包の下に位置し関節包内の空間を満たす
- 脂肪の外側は関節包に覆われ、内側は滑膜で覆われる
- 脂肪は、関節包にある孔を通って関節内外を移動することができる
- 関節包外に出た脂肪は、上方では椎間板の外側で椎間孔の背側に位置し、下方では椎弓上端の背側に位置し、骨とその上方の多裂筋の間に位置する
半月様組織
1.結合組織縁
- 単純かつ最小の組織であり、関節包の内面が楔状に肥厚したものであり、空間を埋める役割をしているものと考えられる
- 関節が衝突する時の接触面積を大きくし、荷重を伝達する役割を果たす
2.脂肪組織パッド
- 主として関節の上腹側と下背側にあり、血管と脂肪を取り囲む滑膜ヒダからなる
- 2㎜ほど関節内に突き出ている
3.半月組織
- 最も大きな半月組織であり、上下の関節包の内面から突き出す線維脂肪性半月である
- これらは滑膜のヒダで構成され、血管、コラーゲン、脂肪を囲んでいる
- 脂肪は主にその構造の底部にあり、ここで関節内脂肪に続き、関節包の上下の孔を通って、関節外の脂肪と交通する
参考文献
腰椎・腰部の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 根地嶋誠)
腰椎椎間板および腰椎椎間関節の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)
少年野球指導のポイント
野球指導者の責務
子供には基本的な技術を指導する
- 子供に野球を指導する人向けのアメリカ本に、「指導者としての4つの責任」が書かれている
- 楽しめるプレイにする
- 安全なプレイにする
- 障害をもつ子供にも機会を与える
- 基本的な技術を教える
- これらは小学生頃の選手を指導する際の責任であって、特にこの時期「基本的な技術を教える」ことの責任は重い
- 自分が小学生の頃を思い出してみると、体育の授業ではマット運動、跳び箱、鉄棒といった体操競技でみられる運動を良く指導された
- 将来、体操選手になるのでなければこれらの動きは生活の中でどう役に立つかと思ったものである
- しかし、こうした運動は自分の身体を思うように動かせる技術を磨くことになる
- 汎用性があって、その先の様々な動きをするのに役立ったように思われる
- 野球の基本的な技術はこうした技術の支えに成り立っているのだろう
子供には多くの種目を経験させる
- 「若いアスリートを育成する際の留意点」を国際オリンピック委員会(IOC)は以下のように示している
1:若い競技者の育成は、それぞれユニークでありながら常に変化する身体発育、成熟度、そして社会行動の発達を考慮して進めなければならない。それゆえ、その育成は個人ごとの対応が基本となる。
2:エビデンスに基づいた実践的で柔軟な競技者育成の包括的な枠組み(例えば、各々の発育段階に応じた「最適の練習」)を構築する。それによって、個々の競技者の発達過程を把握し、展望やニーズに応じた育成が可能となる。
3:健全で、粘り強く、自己制御ができるなど精神的回復力に富み、精神的に柔軟な競技者の育成を目指し、こうした心理的特性の涵養をはかる。この心理特性こそ、まさにオリンピック精神に通じるものである
4:子供期にスポーツスキルや社会的スキルを幅広く育てることによって、スポーツを障害にわたって継続して楽しむことのできる生活習慣が獲得できる。そのためには、子供期には組織化されていない様々な身体活動への参加を、そして、ある年齢に達すれば、年齢に応じて組織化されたスポーツ活動への参加を積極的に奨励する。
5:多種目のスポーツを経験させること、あるいは、そのスポーツの中で変化を持たせることを積極的に実践すべきである
6:若い競技者のタレント発掘、育成に関する基本理念は、スポーツの特異的な生理的機能、知覚機能、認知機能、戦略的機能、そして個々の競技者の長期にわたる幅広い発達過程に基づくものでなければならない
- このうち、「多種目を経験させる」は日本に馴染みが薄い
- しかし、アメリカではシーズンによって異なる種目に参加することはよくみられる
- アメリカオリンピック委員会の調査によると、14歳までは平均すると3種目を実施している
- しかも、90%の人が多種目を実施することは価値があると認めているとのことだった
- 日本では、種目を変えなくてもその種目の中で変化をもたせる、つまり他の種目の動きを体験できればよいとしよう
発育発達状況を見極めるとともに、野球環境の変化にも留意する
- 昭和40年代の調査によると、男子の最も身長が伸びる年齢は13歳頃である
- 平成20年代になると、11歳と低年齢化している
- 野球をする環境が変わると体重は減ることが多いので、体重については毎月チェックしたい
- そして、トレーニングしている体力や運動能力については3ヶ月に1回は測定をしてチェックしたい
- さらに、その測定結果に対して、目標とした数値に届いたら褒賞を与えるという評価にしたい
- 例えば、スプリント走のトレーニングをして目標タイムをクリアしたら、無条件で選抜合宿に参加させるといった評価である
- 中学、高校、大学のように学校運動部のチームだと下級生は体力的にも技術的にも劣るので練習についていくのに大変である
- そこで、入学してからどのくらいの期間で1年生が上級生に体力的に追いつくかを調査した
- 上肢を伸ばすパワーを毎月測って、体重あたりのパワーにして比較した
- その結果、4月に入学してから7月になるまでは上級生との間に差がみられた
- この期間は、新しい野球環境に慣れる期間とみなして相応の練習メニューを作らなければならない
- 以上のように、性・年齢・個人による差を常に意識して、しかも将来を見据えて指導したい
『コアスタビリティートレーニングの考え方』の復習をしたい方はこちら
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『体幹筋機能とトレーニング』の復習をしたい方はこちら
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『野球に必要な2つの筋肉 上半身編』の復習をしたい方はこちら
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『野球に必要な2つの筋肉 下半身編』の復習をしたい方はこちら
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
投手の体力トレーニング 高強度・短時間の間欠的運動
高強度・短時間の間欠的運動
投手の全身持久力はそれほど求められていない
- 運動に対する身体の反応を手軽にみられるのは心拍数である
- 野球の投球時の心拍数が報告されたのは1969年である
- 大学1年生の投手の試合中の心拍数である
大学1年生投手の試合中における心拍数
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 画像の横軸には時刻とイニングが記されている
- 灰色の部分が投球中、白い部分がベンチに戻った時の心拍数である
- 投球中には170~190拍/分くらいの強い運動になっているのがわかる
- しかし、イニングが進むにつれて投球中の心拍数が増えていくわけではない
- つまり、イニングを重ねても投球は血液循環への負担を増やし続けるものではないということである
- その結果から、投球にはそれほど全身持久力は求められないと考えられる
- そこで、プロ野球投手7人について測定用の自転車を使って全身持久力の指標である最大酸素摂取量(体に取り込める酸素の最大量)を測定した調査がある
- 結果は、平均3.68ℓ/分、体重あたりにすると44.9mℓ/㎏/分だった
- 一般の20歳代男性をトレッドミルで測ると、およそ40~45mℓ/㎏/分である
- 投手や野手を含めても野球選手の全身持久力は一般人と同じかやや優れている程度である
厳しい全身持久力トレーニングを筋力トレーニングと併用すると、筋力は頭打ちになる
- 厳しい全身持久力トレーニングと筋力トレーニングを併用すると、筋力が頭打ちになる
- 画像は、レジスタンストレーニング(5日/週、30~40分/日)と、持久的な自転車ペダリングあるいはランニングによるトレーニング(5日/週、30~40分/日)を、同じ日の中で10週間実施した際の最大筋力の変化を示したものである
レジスタンストレーニング、レジスタンストレーニング+有酸素性トレーニングの複合形式、有酸素性トレーニングの3形式によりトレーニングが筋力におよぼす影響
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 横軸にトレーニングの期間がとってあり、縦軸には最大筋力がとってある
- レジスタンストレーニングだけの場合には最大筋力は向上を続けた
- 有酸素性トレーニングだけの場合には最大筋力は向上していない
- 両者を併用すると、筋力は頭打ちになって、その後低下している
- しかし、ここでの有酸素性トレーニング(低い強度で比較的長い時間の運動)を、高い強度で短時間の間欠的運動に変えると、レジスタンストレーニングと併用しても筋力への効果は損なわれることはないという
トレーニング後は炭水化物といっしょにタンパク質を早めに摂る
- トレーニングには、十分な酢市民を含めた休養とバランスのとれた三度の食事は欠かせない
- スポーツ選手のタンパク質摂取量の上限は、1日に体重1㎏あたり2gである
- 1.7g以上は必要ない、あるいは1.4g摂って筋力トレーニングすれば筋肉は増えて筋力も強くなる、といった報告もある
- 筋肉を増やそうとしてサプリメントを取らせたりする指導者もいるが、タンパク質を摂る量にはあまり過敏になる必要はなさそうである
- トレーニング後、炭水化物といっしょにタンパク質を早めに摂ると、からだづくりに利用されやすいと考えられている
- 摂った炭水化物によって分泌されたインスリンが、タンパク質の合成を促進し、分解を抑制するためである
- 早めに摂るのは筋肉へ血液が多く流れているので、材料となるアミノ酸を多く送り込めるし、インスリンに対する筋肉の感受性が高まっているためという
- 摂るタイミングはトレーニング前でもトレーニング中でも良いと言われているが、回復時間が必要と考えられるので、トレーニング後が合理的ではないかという
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
野球選手の体格 除脂肪体重・筋肉量・体脂肪率
野球選手のからだつきの特徴
大きなパワーを発揮するために筋肉量を多くする
プロ野球選手と一般人の体格の違い
- 1990年頃のデータでは、日本のプロ野球選手の身長は180㎝、体重は80㎏くらいだった
- 一方、一般の男子大学生は170㎝、60㎏くらいだった
- 野手に比べると投手のほうが少し大きかったが、この傾向は今でも同じだろう
- 脂肪の重さを引いた体重を除脂肪体重という
- そこには骨や内臓の重さも含まれているが、この体重は筋肉の量を示す指標、身体の活動度を示す指標といわれている
- これを身長との関係でみると、一般の男子大学生の平均的な関係、つまり斜線を引いた関係よりもプロ野球選手の点は上のほうにある
身長に対する除脂肪体重
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
プロ野球選手の筋肉量
- 身長が高ければ除脂肪体重も重い傾向にあるので、プロ野球選手の場合、身長1mあたり40㎏の除脂肪体重を目標にしていた
- ちなみに、1996年アトランタオリンピック全日本候補選手は、身長177.8㎝、体重80.1㎏、除脂肪体重70.9㎏が平均と報告されている
- 身長1mあたりの除脂肪体重は39.9㎏であった
- これは、設定したプロ野球選手の目標値に近い
- 投げたり打ったりでは大きな力を発揮する、大きなパワーを発揮するということからすれば筋肉が多いのは当然の結果といえる
- すなわち、筋肉の量を多くした方が野球のプレイにとってはとくと考えたいところである
環境が変わった時には体重の変化に注意する
- 野球をする環境が変わった時には除脂肪体重に注意したい
- プロ野球に入団後3年間の体重と除脂肪体重の推移を調査した報告がある
- それによると、1年目のシーズン中には体重も除脂肪体重も5%程減っていた
- 1年目のシーズンオフになるとウエイトトレーニングなどによってそれを取り戻し、2シーズン目になるとシーズン中でも除脂肪体重を増やしていた
- 入団までの学校生活や会社生活と違って、プロでの生活はほとんど野球になる
- 練習の質も量も増えたおかげでこうした現象が生じたと考えられた
- プロ野球に限らず、中学から高校、高校から大学と野球をする環境が変わった時には体重、できれば除脂肪体重の変化に注意したい
- 体重、除脂肪体重が減ってきたら、練習時間を減らしてバランスのとれた食事を3食、そして休養を十分に摂るように指導すべきである
野球選手の脂肪率は一般人とは変わらない
- 体脂肪率は、プロ野球選手も一般の男子大学生も体重の13%ぐらいで差がなかった
- 一般人と比べると、プロ野球選手では食事でたくさんのエネルギーを摂取して、野球でたくさんのエネルギーを消費する、出入りが多いタイプだろう
- さらに、プロ野球選手はベテランになると、食事の量は減るが質が高くなり、野球のプレイでも量より質を求めるようになるので、体脂肪率は増える傾向になる
- 一方、県でベスト8に入る高校野球選手の体脂肪率は平均12.5%であった
筋肉の太さは野球の練習内容に応じる
- プロ野球選手の腕や脚の長さ、太さを調査した報告がある
- 身長に対する上腕、前腕、大腿、そして下腿の長さを一般の男子大学生と比べてみると、プロ野球選手は下腿がやや長い、という程度だった
- 投手ではなで肩で腕が長いほうが有利といわれ、そのような体系の投手が多いように思うけれども、実際には様々なタイプの投手がいるので平均すると一般の男子大学生とそれ程変わらない相対的な長さだった
- 太さ部分の長さ当たりの太さ(周径位/長さ)で比べると、下腿以外は一般の大学生よりもプロ野球選手は太く、さらに投手よりも野手は上腕・前腕・大腿が太かった
- 野球選手は上腕と大腿は太く、特徴的なのは前腕が太いことであった
- 腕や脚の太さそのものには骨の太さや脂肪の厚さも含まれるので、それらを除いた筋肉の太さを調査した報告がある
各肢全体に占める組織断面積比率
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- この画像では、プロ野球選手と一般男子大学生の身体の大きさの違いからくる筋肉の太さの違いをなくすために相対値(%)でみている
- すなわち、前腕なら前腕の太さを100%として、手首を伸ばす筋肉の太さがその中の何%を占めるかといった表し方である
- こうしてみると、一般男子大学生に比べて、前腕の屈筋と大腿の屈筋がプロ野球選手ではよく発達していた
- 前腕の屈筋はバットをスイングすること、大腿の屈筋はダッシュすること、それぞれによって特異的に発達していると考えられた
日本では身体の大きな選手が野球に集まっている
- 国立スポーツ科学センターでまとめている「形態・体力測定データ集2010」によると、野球の全日本候補選手の体幹の筋肉の太さは、81種目中、21番目である
- ウエイトリフティング重量級や柔道重量級の選手がいることを思えばかなりの高順位であるが、野球ならではの特徴と言い切ることはできない
- 日本では身体の大きな選手が野球に集まっているとも言えるからである
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング ボールスピン リリース位置・回転軸と回転数・純粋なバックスピン
ボールの回転軸の向きと回転数
5つの要素が球筋を決める
- 同じ 140㎞/h のボールを投げても打たれる投手と打たれない投手がいる
- 投げられたボールの出どころ(リリース位置)
- 投げ出す角度(投射角)
- ボールスピード
- ボールスピン
- 縫い目の向き
によっておよそ決まる
- これらのうち、リリース位置、ボールスピード、ボールスピンによって投射角はおよそ決まる
- リリース位置は重要で、左投手、長身投手、アンダーハンド投手が好投するのは打者がリリース位置や球筋に慣れていないこともある
- プロ野球左投手のリリース位置を調べたところ、ピッチャーズプレートの中心から50㎝程打者から見て右側、160~170㎝打者寄りだった
- これは、球筋にするとプレートの真ん中からボールが来るよりも角度にして2°ほど右側からボールが来ることになる
- 右投手も同じようなリリース位置とすると、左右で4°ほど違う球筋になる
- 単純な対応策は、左投手の時に左打者は4°オープンスタンスにすればよいということになる
- ボールスピンについて、打者にわからないように投手は微妙に握りやスピンのかけ方を変えている
- プロのスコアラーでさえ球種の区別には苦労している
- ボールスピンといった時には、回転軸の向きと回転数を考える
- さらに、回転軸の向きは空間的にみなければならないので、ボールを投げる向き(進行方向)に対してどのくらい傾いているのか(方位角)、そして上下(鉛直方向)にそれがどのくらい傾いているのか(仰角)を考える
回転軸と回転数の影響
- ハイスピードビデオの性能が良くなったおかげでボールスピンについてよく調べられている
- プロ野球投手と大学一流投手の直球のスピンを分析した調査がある
- 回転軸の向きはプロと大学で差はなく、進行方向に直角とは19°傾き、鉛直方向には-32°傾いていた
- これは、上から見ると、回転軸は3塁側より19°前に傾いている、投手から見ると、回転軸は3塁側より32°下に傾いている、ということである
直球スピンにおける大学生投手とプロ野球投手の比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- ごく稀に進行方向にほとんど直角な回転軸をもつ投手もいたが、鉛直方向では20°より小さい、つまり回転軸が水平に近い投手はいなかったことがわかる
- この調査では、プロと大学を平均するとボールスピードは37.7m/秒(136㎞/h)、回転数は34.4回転/秒 であったという
- プレートからホームベースまでは18.44mなので、そのスピードであれば、0.49秒でホームベースまで到達する
- その間にボールは16.8回転することになる
- 20回転/秒のボールをバットの芯でとらえたとするとそれが40回転/秒のボールになると、かろうじて掠めるくらいにバットの上部を通過することになるという
純粋なバックスピンのためには前腕と掌を進行方向に向ける
- このボールスピンの結果として 、球筋は以下の画像のようになる
大学生投手の直球の投球軌道の一例
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- スピンがない場合には細線のようにボールは進むが、スピンのおかげで〇太線のようにずれる
- ずれるのは空気からの力(マグナス力)を受けるからである
- ここでは右投手なので、リリース位置は打者から見てホームベースより左になっていて、⊿x だけ横へずれてほぼ真ん中に入ってくる球筋になっている
- このずれが小さいと「ボールがお辞儀する」、「ボールが垂れる」とか言われることになる
- 逆に「浮き上がるボール」とは、このずれが大きいボールである
- このような回転軸の向きのおかげで直球は必ずシュートする
- 手指からの力の向きが回転軸の向きを決めるので、リリース直前の手の動きがシュートさせることになる
- 前腕を回内する動きで進行方向に対する傾きを、スナップの親指側から小指側へへ掌を振る動きで鉛直方向に対する傾きをつくることになる
- したがって、進行方向と直角で水平な回転軸、純粋なバックスピンにするためには前腕および掌を進行方向に向けることが求められる
- 純粋なバックスピンにできれば空気から受ける浮き上がり力(揚力)は最大になる
- プロの投手になると純粋なバックスピンに近くなるという報告もある
- 前腕および掌の向きと直交するように回転軸があるとすれば、オーバーハンドであれば純粋なバックスピンのような横の回転軸となり得るが、スリークォーター、サイドハンドと腕が下がってくると回転軸は縦になってくるはずである
ボールスピンによって球筋がずれる
- 2008年、北京オリンピックへ向けた女子ソフトボールに対する国立スポーツ科学センターでの医・科学サポートがあった
- 日本の打者がアメリカの左投手を打てないということで、同じようにボールスピンによる球筋のずれを調べた
- その結果、1人の左投手のライズボールは30㎝上へ、ドロップは30㎝下へ球筋がずれることがわかった
- ボールの端を押せばスピンが多くなるが、スピンのおかげで押す位置が動いてしまって大きな力で押せずにスピードは出なくなる
- したがって、スピードとスピンは相反すると思いがちである
- しかし、スピードとスピン関係を調べた結果によると、スピードの速い投手はスピンも多いという
- それは、そもそも押す力が大きければ、そのうちのスピンを生む分、つまり回転力も大きくなるからである
- ボールの端を押せばスピンが多くなるとすれば、スピンを少なくしたい、なくしたいとすればボールの中心を押せばよい
- フォークボールやナックルボールでは中心を押すことになる
カーブでは手背屈を小さく、回外を大きくする
- 直球とカーブのボールスピンを比較した報告によると、カーブ(スピードは27.2m/秒)の回転軸は、進行方向に対して-48.3°、上から見て3塁側より後ろに傾き、鉛直方向に対して-27°、投手からみて3塁側より下に傾いていたという
- カーブの握りや軌道を想像すればその回転軸の向きは納得できる
- そして、回転数は31回転/秒であった
- 回転させて球筋を変えようとしているのに、直球より回転が速いというわけではない
- カーブでは指先ではなく指の腹でボールを押すので、それ程早くならないのかもしれない
- カーブであることを打者に見破られないようにするために、直球を投げる時との動作の違いは、ボールリリース前に手首をあまり後ろに反らさず(手背屈が小さい)、肘から先の部分を大きく内側に回す(大きく回内する)程度にとどめる
- それでこの回転軸と回転数の違いを生むのである
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング ボールスピード 腕のしなりと胸の張り・遠投とボールスピード・アシスティッドトレーニング・投球数とスピードの関係・筋力とスピードの関係
遠投とスピード・トレーニング
速投と遠投の投げ方の違いは上胴の傾きにある
- 遠投は、全身、特に脚や腰を大きく使って投げるようになる効果、ゆったりとバランスよく投げられるようになる効果があるとして、投手の練習に取り入られている
- 昔から取り入れられているから練習するとうのではなく、その特徴を知って遠投を練習に取り入れるかどうかを決めたい
- 5m先のネットに向かって速いボールを投げる動作(速投)と、できるだけ遠くまで投げる遠投の動作とを比較した調査がある
- それによると、遠投では後ろに、そして投げる腕とは反対側に上胴(肩から肋骨下までの胴体)をより大きく傾け、そして体幹をより大きく捩る傾向にあったという
- 画像は、踏み出し足を着地した時と、ボールリリースした時の上胴の動きを模式的に示したものである
踏み出し足着地時とボールリリース時における速投と遠投の動作
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 上段が前後の傾き、下段が左右の傾きになっている
- 左列の速投に比べると、右列の遠投での上胴は確かに後ろにそっくり返っているし、投げる腕とは反対側に傾いている
- ボールを遠くまで投げようとすれば斜め上向きに投げるので、上胴は後傾し、捩りを大きくするのは当然である
- ただし、踏み出し足の着地からボールリリース時まで上胴の動く範囲をみると、両者は変わらず、腰で上胴の傾きだけを変えているということになる
遠投で肩の外旋と水平伸展が大きくなることに注意する
腕のしなりと胸の張りをつくる
- 投手は、肩・肘の動きがどうなるのかは、やはり気になるところである
- 遠投の場合、踏み出し足を着地したときに肘がやや曲がっていたという
- この理由は定かではないが、上胴をそっくり返らせているので、つぎに力を込めるためにはボールを身体に近づけておきたいのかもしれない
- 踏み出し足着地に続く腕のしなし(肩の外旋)は、遠投でより大きかった
- そして、ボールリリースに向けて脇はやや閉められ、肩の外転は小さく、肩よりも腕が後ろになっていった(肩の水平伸展は大きくなっていった)という
- 投げる腕とは反対側に上胴をより大きく傾けるので、こうした違いが生じるのかもしれない
肘内側や肩前面の障害には注意
- こうしてみてくると、遠投では投げ上げるために上胴の傾きや捩りが違い、それが肩や肘の動きにも影響することがわかる
- 具体的には以下の2つがある
- 肩の外旋が大きくなること
- 肩の水平伸展が大きくなること
- こうなることのポジティブな面として、腕のしなりがつくれない投手、胸の張りができない投手の練習法として、遠投は有効な可能性がある
- しかし、ネガティブな面として、肩の外旋は肘内側の障害、水平伸展は肩前面の障害の危険性があるということになる
スピード・トレーニングにするための遠投がある
遠投とボール初速度
- 超最大スピードの発揮および獲得を目的としたトレーニングをスピード・トレーニングと呼ぶ
- 遠投がこのトレーニングになるかどうか調べた調査がある
- 結果によると、70~80m離れた遠投は、ボール初速度が最大になる可能性が高く、しかも水平に近くボールをリリースする動作とは異なるので、スピードの頭打ちを解消する方法としての意義は大きいという
- 動作の異なる点は先に記したように、上胴の傾きや捩りであり、それに伴う肩や肘の動きである
ボールスピードへの効果と動作への効果
- 20~80mまで少しづつ離れた相手に、『できるだけ早いボールを相手に投げなさい』とだけ指示した遠投と、それに加えて『リリース時のボールの角度をできるだけ小さくするように』と指示した遠投とを行わせて、投げ出されたボールのスピードと角度を測定した
- 画像には、両方の遠投でのボールスピードが記されている
- 横軸の距離は相手が立っていた場所であり、◇、〇、△はできるだけ早いボールとだけ指示した遠投、🔷は加えて角度をできるだけ小さくと指示した遠投でのスピードである
- 角度をできるだけ小さくと指示した場合には、40mくらいまでしか投げられないので、そこまでのマークしかない
2種類の遠投タイプによる球速の比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- その結果、遠投の時には20mよりは30m、40mで少しスピードアップするが、その先までスピードが速くなっていくことはなく、角度だけが上向きになった
- 一方、角度をできるだけ小さくと指示すると、同じ距離での遠投の時よりも全体的にスピードが速くなっていた
- そして、居地が伸びれば角度はやや上向きになるが、指示されていたので、その分角度は低く抑えられていた
- 実際に投げていることをイメージすると、低く投げろと指示されるとボールを相手に届かせようとしてよち力を込めることになるので、スピードが速くなるのだろう
- スピード・トレーニングとしてはこのほうが良いはずである
- しかも、動作は実際の投球動作に近いはずである
- したがって、30~40mでできるだけ水平に投げればスピードへの効果、70~80mと遠ければ動作への効果ということになる
重さの違うボールを併用したトレーニングで効果が表れる
- スピード・トレーニングとしてすぎに頭に浮かぶのは、ダッシュを引っ張ってもらったり、坂道を駆け下りたりするトレーニングである
- それまで経験したことのないスピードを経験することで神経系に働きかける
- これをアシスティッド・トレーニングという
- ウエイトトレーニングにように通常よりも大きな負荷をかけるレジスティッドトレーニングの逆である
- 野球の投球でのアシスティッド・トレーニングは、軽いボールを投げることに相当する
- スピード・トレーニングだけではなく、重さの違うボールを併用すると効果が表れるのである
- 6週間トレーニングをしたところ、以下の順でボールスピードへの効果が大きかった
1:( 重いボール + 普通のボール ) の後に ( 軽いボール + 普通のボール )
2:( 軽いボール + 普通のボール )
3:( 重いボール + 普通のボール )
投球数の増加と投球スピードの低下
全力で150球投げたら3日以上は休む
- メジャーリーグでは1人の投手の投球数を100球程度までとしている
- これは故障を防ぐためだが、投球数が増えてスピードが落ちてきて打たれるのを防ぐためでもある
- 疲れてくればスピードが落ちてくるのは当然だが、どのように落ちてくるのか?
- どうして落ちてくるのか?
- さらに、どうしたら落ちないようにできるのか?
- 大学野球選手に、1イニングでの球数を想定してアップ5球・全力15球を1セットとして、10セット投げてもらった
- 横軸にはそのセット数が、縦軸には1セット目のスピードを100%としての相対スピードがとってある
アップ5球 + 全力15球 × 10セット投げた時の球速の変化
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- セット間の休みは2分間とした
- すると、4セット目、60球を超えるとスピードが落ちてきた
- その低下が9セット目まで続き、10セット目は最終セットということで少しスピードが上がった
- 平均すると9セット目まででボールスピードは2~3%低下した
- 投球前と投球後の7日間、筋肉が微細な損傷を受けると、血液の中に出てくるクレアチンフォスキナーゼ(CPK)という物質もこの投球では測定した
- その結果、投球後にCPKは上昇して3日後にようやく投球前のレベルに戻った
- これは、全力で150球投げると筋肉は微細な損傷を受けて、それを示すCPKが治るまでに3日かかったということである
- ただし、完全修復ではないため、3日以上は休むべきということである
試合でも投球数が増えれば投球スピードは落ちる
- 試合で投球スピードの変化をスピードガンで測った
- 2001年のシーズン中に3試合以上先発したプロの投手7人について測った
- 100球投げると直球のスピードは0~5㎞/h 低下した
- 試合開始から全力で投げる投手もいれば、立ち上がりはコントロールを重視してスピード抑え目で行く投手もいるので、このように幅のある結果であった
- こうした状況を踏まえて、以下の3つの項目について、大学とプロの投手7人について分析した(※100球以上投げた試合について、50球までを前半、51~100球を後半とした)
- 直球のスピードのばらつきは、試合の前半と後半で同じか?
- 直球のスピードが落ちる割合は、試合の前半と後半で同じか?
- 直球のスピードが落ちる割合は、変化球のそれと同じか
- その結果は、以下の通りであった
- スピードのばらつきは試合の前半と後半で同じだった
- 1人の投手は試合の後半になるとスピードがより大きく落ちたが、残りの6人は試合の前半と後半で同じようにスピードが落ちた
- 直球と同じように変化球もスピードが落ちた
球速が落ちるのは乳酸が筋肉に溜まるからではない
- ボールを投げて、心拍数、腕の血流量、血中乳酸濃度を測って調べてみた
- 心拍数で投球に必要な血液の量がわかり、そのうち腕にどのくらいの血液が流れたかが血流量でわかる
- そして、筋肉からのエネルギーの要求が多くなると糖質を乳酸にまで分解してエネルギーをまかなう、血液に溜まってきたその分解産物が血中乳酸濃度である
- ウォームアップしてから投球を開始し、10球を1セットとして12セット、120球を30分間程度で投げた
- 横軸に投球セットと時間を示して、縦軸に心拍数、血液量、血中乳酸濃度を示したのが以下の画像である
ウォームアップ + 10球 × 12セット投げた時の生理指標の変化
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 投げている最中に心拍数は150拍/分くらいになったが、投球数が増えるにつれて心拍数が増えていくことはなかった
- また、投げ始めると血流量は増えたが、これもそう増え続けはしなかった
- さらに、血中乳酸濃度にいたっては2ミリモル/ℓ 程度で留まり、溜まっていくというものではなかった
- これは糖質を乳酸にまで分解することに頼っているかもしれないが、溜まっていくほど主要に頼っていなかったということである
- つまり、投球はきつい運動であるが、続けても筋肉に送り込む血液が不足することもないし、乳酸が溜まって賛成に傾いて活動しにくくなるということでもない
球速の低下は全身持久力と関係しないが、筋力とは関係する
- 大学と高校の投手に、20球を1セットとして5セット100球投げてもらって、セット毎に上腕の血流を測った報告がある
- 40球後に血流量は安静時より56%増という最高値になり、その後低下して100球前後には安静時の14%増になったという
投球腕と非投球腕における平均血流量
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- ここでは投げるのと反対の腕も測っていて、こちらはウォームアップ直後に10%増で最高になり、その後低下して100球後には-30%、つまり安静時よりも少ない血流量になったという
- これらの結果から投球数が増えると上腕の血流量は低下するとまとめられている
- さらに、ボールスピードの低下と筋力、全身持久力との関係を調べた調査がある
- ボールスピードの低下は全身持久力とは関係なかったが、握力と背筋力でみた筋力とは関係があったという
- つまり、筋力が強い投手ほどボールスピードの低下が少なかったのである
- ただし、投球中に測った筋力の低下とボールスピードの低下とは関係なかったので、そもそもの筋力が強いと筋肉にかかる負担が相対的に小さく、筋肉の損傷が少なくて済むからだろうと考えられている
- ここでの結果は、投手が長い距離を走り込んで全身持久力を高めてもボールスピードの低下を防ぐことができる可能性は低い
- むしろ、筋力を強くするトレーニングを重視する方が良い、とまとめられている
投球数が増えると動作も変わる
- 高校生投手について、いわゆる100球肩を検証した調査がある
- 投球数が増加するにつれて、肩の内旋可動域は狭くなり、外旋可動域は広くなったという
- そして、肩の内旋と外旋の筋力はともに弱くなったという
- 肩の筋力に限らず、投球で使われる筋肉の力が弱くなるのは仕方ないところであるが、動作を一定に保つためには可動域は確保しておきたいところである
- 投球数が増えた時に、メジャーリーグの投手の動作がどうなるかを調べた調査がある
- 腕のしなり(肩の外旋)が減って、ボールリリース時の踏み出し膝が伸びてきたという
- どこに負担がかかるのかによって投手ごとに動作の変化は違うのだろうが、この結果は動作の変化をみるひとつのポイントにはなる
- なぜ投球スピードが落ちるのかをまとめると、ひとつには投球に使われる筋肉が微細な損傷を受けるからである
- そしてつぎには、腕に血液を十分に遅れなくなることが挙げられる
- それに伴って、栄養を十分に筋肉に補給できなくなる可能性が挙げられる
- 一方、神経系の働き、つまり動作を生み出す脳からの指令が不足したり、乱れたりするか、については今のところ不明である
投球スピードは落ちないようにはできない
- 投球スピードは落ちないようにはできない
- それを少しでも食い止めるためには、投球では繰り返し腕を振ることでうっ血するので、それを戻し、血液が腕に十分に送られるようにストレッチやマッサージなどをすることである
- 筋肉の損傷については、日頃からトレーニングを重ねて筋肉を強くしておくべきだが、限界があることは知っておくべきである
- それゆえ、修復期間を十分にとる、登板間隔を十分にとることが求められる
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科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング コントロール 腕の動き・リリースポイント・スピードとの関係・軸足の位置・ストライド長・ボールリリース
腕の振りとコントロール
余分な動きを減らしてコントロールを良くする
コントロールタイプとスピードタイプ
- コントロールが良いとは、「ボール半個分でコントロールできることだ」とよく聞く
- これは、ストライクゾーンの端をボール半個分で出し入れできる、という意味である
- そして、この出し入れができる「コントロールタイプ」と、スピード勝負の「スピードタイプ」との2つによく分けられる
- 分けられるのは両立しない、コントロールとスピードが相反することを含んでいるからである
腕の動きを直線的にすればコントロールは良くなる
- コントロールを良くするためには、できるだけ使う筋肉を少なくすればよい
- 調節するのが簡単だからである
- 多くすれば、それぞれの筋肉を調節するのが難しくなってコントロールは悪くなるが、その分、それぞれの筋力を足し算できるのでスピードを速くできる可能性は高まる
- バッティングで例えれば、バントのほうが使う筋肉が少ないのでバットコントロールが良く、スイングすれば使う筋肉が多くなるのでスピードは速くなる、ということである
- しかし、実際の投球動作を考えた場合、使う筋肉を減らすのには限界がある
- 余計な筋肉を使わない、つまり、余計な動きを減らすと考えるべきである
- 投げる方向以外の動きは何のためにあるのか、必要なのか、を考えることで余計な動きを減らせるはずである
- 使う筋肉の数に加えてもうひとつ、筋肉を使って生み出す腕の動きを直線的にすれば、投げ出すボールのコントロールは良くなる
- 「肩の上にある筒の中を通すようにボールを投げ出せ」と指導でよく聞く言葉である
- しかし、スピードはなくなる
- 一方、腕の動きを回転的にすればボールのコントロールは悪くなるが、回転の端の動きは速くなるのでボールスピードを速くできる可能性は高まる
- 腕を『切る』ように使えばスピードが出て、『押す』ように使えばコントロールが良くなることはよく聞く話である
腕を直線的な軌道で動かしてコントロールを良くする
腕を直線的に動かす
- 的に向かって手から物を投げる時、手の軌道を曲線的にした場合、と直線的にした場合とで的への正確性がどう違うかを示した
的に向かってものを投げた時の手の違いによる的への正確性
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 手から放たれた物は軌道の接線方向に飛んでいく
- 画像でのA、B、Cで手から物を放つと、曲線的な軌道の場合には的に入るためには許されるリリース位置の範囲が狭いため、コントロールが難しいということである
- 逆に、直線的な軌道にすると許されるリリース位置の範囲が広いため、コントロールが易しいということである
- これも見方を変えると、コントロールを良くするためには直線的な手の軌道にすれば良いということである
- 「肩の上にある筒の中をボールが通るように」という指導は、この直線的を意識させるためである
- しかし、腕だけではそれを成し遂げようとするスピードが犠牲になるため、体重移動、つまり脚の動きを使って直線的な腕の軌道にすればよい
- 脚の動きと腕の振りをマッチングさせるのがコントロールを改善するひとつの方策ということになる
リリースポイントによる投球のばらつきの特徴
- 腕の振りを横から見て、上下方向でボールのばらつき見ているが、実際の投球では上下に加えて左右のばらつきもある
- 上下左右の投球のばらつきを野球選手と野球未経験で比べた調査によると、当然、野球選手の投球のばらつきは小さい
- それでも、両者とも、画像のように右上から左下にボールが分布したという
投球の上下左右のばらつきの比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- それぞれの投手が15m先の的に向かって50球投げて当たった位置(中心0で㎝単位)を画像では示しているが、右投手なので腕が右上から左下に振られるのを反映するように、当たった位置も右上から左下にばらついている
- 腕の振りの中でボールリリースが早ければボールは右上に行き、遅ければ左下に行く、ということである
- 右投手では体重移動が早く腕の振りが遅れるとボールリリースが早くなって、右打者のインハイにボールが行くことはよく経験するところである
オーバスローで肘を曲げ、肩を早く回すとコントロールは乱れる
コントロールとスピードは相反する
- 大学野球選手に100球の的当てをやってもらい、その正確性と動作の関係を分析した結果、上下のばらつきの大きい選手は、手の軌道の曲がり具合が大きく、回転的であった
- そして、曲がり具合が大きくなる動作としてはリリース時の上腕の角度が大きい、よりオーバースローであることがまず挙げられたという
- さらに、腕が後ろにしなっている時(肩の外旋が最大になる時)に肘をより曲げていたこと、あるいは肩が早く回ってリリース時には肩が回り過ぎていたことが挙げられたという
- 逆にばらつきが小さい、コントロールの良かった選手は、肩を内旋する角度や肘を伸ばす角度が小さかったという
- 動かす角度が小さいということはスピードにとってはマイナスなので、やはり、コントロールとスピードは相反するという結果である
軸足の位置やストライドの長さの違いによるコントロールへの影響
- ピッチャーズプレート上の軸足の位置を『右・中・左』の3ヶ所、踏み出し脚を着く位置を『近く・正常・遠く』の3ヶ所、3×3=9条件で直球投げの的当てを調べた報告がある
- 結果は、踏み出し脚を着く位置(ストライドの長さ)、プレート上の軸足の位置を変えてそれらを組み合わせても、ストライクゾーンの高低、内外への一貫した投球を修正するのに必ずしも助けにはならないということであった
- しかし、これは的の中央に当てるコントロールに9条件で違いがないということで、それぞれの動作は変わっているはずである
- 動作を同じにしてプレートの位置を変えれば、ボールの到達する位置は変わるはずだし、上半身の動作を同じにすればストライドの長さによってボールの到達する位置は変わるはずである
- これを利用してコントロールを調整している選手はいるはずだろうから、使い方によってコントロールの助けになるはずである
ボールの重さを変えてトレーニングしても、コントロールへの影響はない
- 軽いボールと重いボールを使ってトレーニングすると、的当てのコントロールにどう影響するかを調べた報告がある
- 通常の大学野球の練習に加えて、週2回、6週間で、以下の4つのトレーニングをそれぞれ計60球投げるグループをつくった
①:軽15 + 普通5 + 軽15 + 普通5 + 軽15 + 普通5 = 60球
②:重15 + 普通5 + 重15 + 普通5 + 重15 + 普通5 = 60球
③:前3週間でグループ②のパターン + 後3週間でグループ①のパターン
④:普通のボールのみ60球
- 結果、ボールスピードは ③⇒①⇒② の順で早くなった
- しかし、的当てのコントロールはどのグループでも良くならなかった
- グループ③は、重いボールと軽いボールを併用するトレーニングであり、複数の刺激を身体に与える「複合トレーニング」の効果を支持するものであった
- さらに、重いボールよりも軽いボールでの効果が大きかったということは、筋肉よりも神経系への効果が大きかったということが示唆される
- 通常よりも軽い負荷でのトレーニングをアシスティッド・トレーニングという
- 陸上競技のスプリンターや競泳選手がロープゴムチューブで引っ張ってもらうことによって通常よりも早いスピードで走ったり、泳いだりするトレーニングとして知られてる
- これは、通常経験できないスピードの中で動作を対応させるという神経系への働きかけである
- ボールスピードについても、動作を対応させる神経系の効果だったのだろう
- コントロールを研くためには繰り返しの練習が必要であるが、試合で投げる時の状況は様々である
- マウンドの高さも違えば、踏み出し位置の傾斜や土の状態も違う
- 同じブルペンで繰り返し練習していても、そこは所詮試合場ではない
- ブルペンで身に着けた身体のコントロールを状況に応じて使い分けていく
ボールリリース・指の反動動作
手首のスピードが最大の時に指を曲げて長く保つ
- 指の関節には、根元から中手指節関節(MP)、近位指節関節(PIP)、遠位指節関節(DIP)がある
手指の関節
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 投球動作におけるこれら関節の動きとボールスピードとの関係を分析した報告がある
- 手首のスピードが最大になってからリリースまでボールスピードは増加した
- その間のMP関節のスピードが最大になって以降その増加には個人差がみられた
- 増加が大きかった投手は、手首のスピードが最大の時にPIP関節がより曲がっていてリリースに向かって伸びるが、最後に再び曲がったという
- つまり、ボールによって伸ばされてから自分で曲げるという反動動作をPIP関節で使っていた、ということである
- さらに、そうした投手はMP関節のスピードが最大になるまではボールを直角に押す力が大きかった
- しかし、それ以降はその力が急に減ってボールの進む方向へ押す力が増加したという
- ボールスピードが増加するとは、投げる方向にボールを押しているということなので、MP関節のスピードが最大になるまでは手指と直角の方向が投げる方向になっていて、それが最後にはボールの進む方向が投げる方向になっていた、ということである
- 以上から、手首のスピードが最大の時に指を曲げて、それを長く保つことがボールスピードの増加には重要とまとめられている
スピンを速くしてマグナス力を大きくする
スピン量の違いとボールの軌道
- 手や指はボールスピードを最終的に増加させる役割を持つが、もうひとつにはボールスピンを変える役割が考えられる
- 普段のフリーバッティングでは野手が投げることが多く、打者はそのボールスピンに慣れている
- スピンを変えるのは、慣れていないボール軌道にして打者を討ち取るためである
- 直球の場合、スピンを増やして「伸びるボール」、「浮き上がるボール」にしたい
- 実際には伸びたり、浮き上がったりはしないのだが、バックスピンを多くすることで空気からの浮き上がる力(揚力)をより大きくボールに作用させて、野手が投げるボールより落ち方を少なくする
- 野手の投げるボールスピンに慣れている打者は、落ち方が少ないのでボールの下を振ってポップフライや空振りになる
- 一方、バックスピンを減らすためには人差し指と中指の間を広げてスプリットボール、さらに広げてフォークボールにすることで直球よりも落ち方が大きくなる
- 直球と思ってスイングするとボールの上を振ってボテボテのゴロや空振りになる
マグナス力
- 揚力は画像に示した原理で生じる
- 右から左にボールが進んでいき、バックスピンがかかっていると、ボールの上側ではボールの動きによる空気の流れとスピンによって引きずられるボール表面近くの空気の流れとが同じ右向きになるので、空気の圧力は低くなる
- 一方、下側では両者の空気の流れが逆向きでぶつかるので圧力は高くなる
- このボールの上下での圧力差で、高い方から低い方へ押す力が生じる
- この力を『マグナス力』、ボール軌道のずれを『マグナス効果』と呼ぶ
- バックスピンの場合には、揚力が生じる
- そして、揚力はスピンの速さに比例するので、スピンを速くして揚力を大きくすることでボールの落下を少なくしたい
空中を進むスピンボールのまわりの空気の流れ
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
ボールスピンを利用して抵抗力を変える
伸びるボールとは?
- ボールには揚力だけでなく、抵抗力も空気から受ける
- ボールのすぐ近くを通り過ぎた空気がボールの後ろで乱れた流れになり、その結果として、前に比べるとボールの後ろの圧力が低くなるから生じる
- そのおかげで減速するので、初速はどのぐらいで、終速はどのくらいという話になる
- アトランタオリンピックで投球の分析を調査した結果によると、初速の5%を失うという
- また、大学生の投手が直球を投げた場合、終速は初速の92.8%になるという
- 空気の密度が高ければ、空気の流れを妨げるような形であれば、進む向きの面積が大きければ、そしてスピードがあれば抵抗力は大きくなる
- ただし、スピードが速くなると急に抵抗力が半分以下になる領域があって、トップクラスの投手はその領域を使っているはず、という
- 抵抗力によるスピードの減り方が少ない、終速が初速に近くなるということである
- 「伸びるボール」と言われるのは、この領域のボールということになるだろう
ジャイロボール
- 加えて、ボールが回転して空気の流れを妨げたり促したりすれば抵抗力は変化する
- ジャイロボールは弾丸あるいはスクリューのような回転なので、空気を蹴散らすように進んで抵抗力が減る
- つまり、初速と終速の差が小さくなる
- 縦スライダーはこの向きの回転になる
- そして、時速145㎞以上であれば4シーム回転、それ以下であれば2シーム回転のほうが抵抗力は小さい、つまりスピードの落ちが小さいという
ボールの握り方を変えてスピン量を増やす
- スピンを減らすための握りのことを考えれば、スピンを増やすためには人差し指と中指の間を狭くすれば良いことになる
- 狭くすると握りが安定しなくなるのでボールコントロールは難しくなるかもしれないが、掌から指先までの距離は長くなるので、ボールを押す力を長い距離・長い時間加えられる
- ボールを深く握ればボールは手首に近づくので、スナップが良く効かなくなる
- 指でボールを押し難くなるということである
- 浅く握ることでスナップが効いて、スピンを多くするために貢献するはずである
- ただし、スナップを利かすための前腕の筋肉は小さいので、その筋肉による貢献は少ない
- 手指のエネルギーは体幹や肩回りの筋肉で生み出されたエネルギーが転移されてくるのであった
- また、その筋肉による回転力のピークが現れるのは、肘が後ろにしなった頃(肩最大外旋位)で、ボールリリースに向けてはそのトルクが減っていく
- したがって、前腕にある筋肉によるトルクというより、手首の骨と骨の間に働く力(関節力)に由来するものと考えられる
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング 投球動作のタイプ 体幹の傾き・肩甲骨位置の違い・最大外旋後の違い・タイプによる優位な動作・指導者が着目する投球動作
投球動作のタイプ別の特徴
投球動作のタイプの違いは体幹の傾きにある
- 投球動作はオーバーハンド、スリークォーター、サイドハンド、アンダーハンドの4つのタイプに分けられる
- ボールリリース時の体幹に対する投球腕の肘の位置によって分けられる
ピッチング動作の類型
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- オーバーハンドは肘の位置を肩よりも大きく上げて円直線からおよそ3/4の範囲内でリリースするタイプである
- スリークォーターはオーバーハンドよりも肘の位置を下げておよそ3/4の位置でリリースするタイプである
- サイドハンドは肘と肩の高さレベルがほぼ同じタイプである
- アンダーハンドは肘の位置を肩よりも大きく下げてリリースするタイプである
- 体幹が真っ直ぐで、投球腕だけが上下しているようにみえるが、いずれの投法も脇の開き具合(肩の外転角)はほぼ90°なので、タイプの違いは体幹の傾きにある
- どのタイプでもボールリリースに向けて体幹の回転の勢いを投球腕に伝える必要がある
- それを体幹の傾きで区別している
- オーバーハンドでは体幹を非投球側に大きく傾けて回転させる
- スリークォーターではそれよりやや小さく傾けて回転させる
- サイドハンドではさらに小さく傾けて回転させる
- アンダーハンドでは少し違って、前下に傾けてからそれを持ち上げるように回転させる
- どのタイプもリリース時の肩外転角がほぼ90°といっても、リリースまでの体幹の動きがこのように違うと、肩や腕への影響は違うはずである
- さらに、肩外転角は上腕を上げることと肩甲骨を上へ回転させることの足し算で成り立っているので、その違いも知っておきたい
アンダーハンドでは肩の前方、サイドハンドでは肘の内側にかかる力が大きい
投球動作のタイプによる肩甲骨位置の違い
- 投球動作のタイプによって 、肩甲骨の動きがどう違うのかを調査すると、投球腕が最もしなったとき(肩の最大外旋時)には肩の外転角度に差はなかった
- 肩甲骨の上への回転(上方回旋角)はサイドハンドやアンダーハンドに比べて、オーバーハンドで小さかった
- しかし、リリースに向けてサイドハンドやアンダーハンドでは肩甲骨はそれほど大きく回転しなかったが、オーバーハンドでは大きく回転した
加速期における肩甲上腕リズムの変化
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 最大外旋時に回転が小さかったり、リリースに向けて大きく回転したりする理由や、そのことの影響については明らかではない
- オーバーハンドで肩甲骨が大きく動くのであれば、ストレッチングやトレーニングでその動きをよくしておくことが求められる
投球動作のタイプによる最大外旋後の違い
- オーバーハンドやスリークォーターと比べて、サイドハンドやアンダーハンドの動作がどのような特徴をもつのかを調べると、アンダーハンドの投手は投球腕側に体幹を傾け、サイドハンドの投手は体幹を比較的鉛直に保っていたという
- この結果は先に述べた体幹の傾きの話と一致する
- そして、投球腕を最大にしならせるまでの局面(最大外旋)で、肩の高さで投球腕を水平にすぼめる回転力(水平屈曲トルク)の最大値が、アンダーハンドで小さかったという
- これは、体幹を前下に傾けることで重力の助けを借りられるので、投球腕があまり遅れなくて済むからだろう
- さらに、しならせた後、投球腕を加速する局面において、アンダーハンドでは肩を75°より小さく外転させていたのに対して、サイドハンドでは肩(投球腕)を体幹と直角に保っていたという
- アンダーハンドでは投球腕を絞り込む、サイドハンドでは投球腕を横に振るという実際のイメージ通りである
- そしてここが重要だろうが、アンダーハンドでは肩の前にかかる最大の力が大きく、サイドハンドでは肘の内側にかかる最大の力が大きかったという
- これらの力によって、障害とならないようにこれらのタイプの投手は身体の手入れをしっかりとすべきだろう
指導によってタイプ別の特徴が現れる
- オーバーハンドやスリークォーターの投手は多いので、そのタイプで通用しないとサイドハンドに変えるという指導者がいる
- アンダーハンドよりは体幹の動きが似ているので、サイドハンドには変えやすい
- 少ないタイプなので通用することも結構多い
- これに比べると、そもそも両者の境界線が明らかではないので、オーバーハンドからスリークォーターへの変更は少ない
- それぞれのタイプの特徴をとらえてこの変更を試みた調査があり、大学生投手2名にボールスピードの向上を目指してオーバーハンドからスリークォーターへとタイプの変更を試みた際に、技術指導の内容を以下の13項目とした
<ワインドアップ期>
1:両手の頭上への振りかぶりを増大させる
2:踏み出し脚の挙上を大きくする
<踏み出し期>
3:身体の沈み込みを大きくする
4:身体の投方向への押し出しを大きくする
5:非投球腕の水平面内の回転を大きくする
<加速期>
6:踏み出し期終了時の体幹の後傾を大きくする
7:踏み出し期終了時の肩外転90°位を保持する
8:踏み出し期終了時の肘屈曲90°位を保持する
9:肩外転90°位を保持する
10:体幹の前方捩りを大きくする
11:体幹の前傾を小さくする
12:リリース時の肘の挙上を抑える
13:リリース時の肘前方移動を抑える
- 12項目のうち、2名に共通して認められた動作の改善項目は太字・アンダーラインの印をつけた7項目であった
- そして、投球動作の変化を概観すると、非投球腕側と前へ体幹を傾けながら手を高くして投げおろす動作から、体幹をほぼ垂直に立てて捩りながら肘を横から前へ引き出す動作へと変化した
- その結果、ボールスピードは速くなったという
投球動作のタイプにより優位となる動作がある
- 投球動作の変化をもう少し詳しくみてみる
- 鉛直軸まわりについて、投球腕の動く半径が長くなり、勢いも増した
- 肩の内旋速度の最大値がリリース時に生じて、大きくもなった
- 体幹および投球腕のボールスピードへの貢献を調べた結果、リリース時のボールスピードには肩の内旋速度が全体の34.1%で、最も大きく貢献したという
- したがって、肩の内旋速度がおおきくなったことはボールスピードの増加に貢献したのだろう
- 以上から、オーバーハンドは身体の縦回転および肘の伸展動作を優位に用いた投法、スリークォーターは横回転および肩の内旋動作を優位に用いた投法と考えられる
オーバーハンドスローとスリークオータースローにおける球速増大様式の相違仮説
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
熟達した指導者が着目する投球動作
指導の着眼点は多岐にわたる
- 中学生から大学生まで25人の投手の動作ビデオを11人の熟練した指導者にみてもらって、投球動作の指導上の着眼点を調査した
- それによると、以下の点が明らかになった
- 投球腕や体幹に対する指摘が最も多かったが、いずれも指摘全体の約20%であり、着眼する部位は眼から足先まで多岐にわたっていた
- 指摘が多く、かつ同じ投手に対する評価が一致していたのは、『ストライド期の “くの字” 姿勢など投手を前から見た体幹の姿勢』、『ストライド期から加速期にかけての巻き付くような投球腕の動き』、『ストライド期からボールリリースにかけての投球腕の挙がり具合(肩外転位)』の3カテゴリーであった
- 最も指摘が多かった『ストライド期から腕が最もしなる時(最大外旋時)にかけての腰部や胸部の “入れ替え” や “開き” 』から、指摘が多かった『投球動作全般にわたる協調性』、『肩の外転運動を除く投球腕のテイクバック動作』、『主にバランスポジションからストライド期にかけてのピボット脚への荷重』、『着地からボールリリースにかけてのストライド足への荷重』までを含む9カテゴリーにおいて、同一投手の動作の評価が指導者間で食い違うケースが認められた
- 同一投手に対する指導の優先順位は指導者間で大いに異なっていた
- このように着眼点が多岐にわたり、かつ重要と考えられる項目において熟練した指導者間でも評価が分かれるのは、投球動作の指導の難しさを物語っているとまとめられている
- 評価が一致していたカテゴリーは見てわかりやすい、食い違ったカテゴリーはわかりにくいということになる
頻出カテゴリーを表すイメージ図
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
( a ) ストライド期からMERにかけても腰部や胸部の “入れ替え” や “開き”
( b ) 主にバランスポジションからストライド期にかけてのピボット脚への荷重
( c ) 肩の外転動作を除く投球腕のテイクバック動作
( d ) ストライド期から加速期にかけての巻き付くような投球腕の使い方
( e ) 着地からボールリリースにかけてのストライド足への荷重
( f ) ストライド期からボールリリースにかけてのストライド足への荷重
( g ) 投球動作全般にわたる協調性
( h ) ストライド期の “くの字” 姿勢など投手を前から見た体幹の姿勢
指導者は体幹の回転の良し悪しを重視している
- さらに、この11人の指導者で共通した着眼点を調べ、その好ましくない動作の因果関係をまとめた調査がある
- 軸脚にしっかりと体重を乗せないで投球方向に出ることは、体幹が早期に開いてしまうことや、踏み出した足への体重移動がうまくいかないことにつながる
- 腕を肩よりも水平後ろに持っていき過ぎる(肩関節水平伸展過多)や、肘を伸ばし過ぎる(肘関節伸展過多)など、テイクバック動作に欠陥があると、投球腕が耳元で巻き付くようなしなやかな動きができなくなるとともに、腕の挙がり具合(肩関節外転)が不十分になる。それによって、体幹の開きが早くなることも指摘された。特に、肩関節伸展が大き過ぎると体幹の開きを誘発する
- グラブ側の腕を伸ばし過ぎると体幹が早期に開くことにつながり、その腕をうまく畳まないと体幹の回転が不十分になる
- 頭部を体幹長軸と異なる方向に曲げることは、体幹の回転に悪影響を及ぼす
投球腕の巻き付き動作の概念図
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- こうした好ましくない動作の因果関係を挙げることによって
- 逆に優れた動作とは何か、を浮き上がらせることができたと考えられている
- まとめられた因果関係の結果のほうは、ほとんどが体幹の回転、あるいは開きになっていて、指導者は体幹の回転の良し悪しを重視していることが伺われる
幅広い年齢層に適用可能な着眼点がある
- 投球動作の指導における共通認識の高い着眼点を明らかにするために、プロ、高校、中学の指導者にアンケート調査をした結果がある
- それによると、幅広い年齢層に適応可能な着眼点がある
- バランスポジション付近において、軸脚の膝を外に向けないこと
- バランスポジション付近において、軸脚がずれないようにすること
- ステップ中、投球側およびグラブ側の前腕を親指側に絞る(回内)こと
- ステップ時に踏み出し足を回し込むように出さないこと
- テイクバック時に投球腕を肩より水平後ろに持って行かない(肩関節を水平伸展しない)こと
- ステップ時に投球方向と平行になるように両肩を結ぶ線が出ること
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング 腕の振り テイクバック・体幹から腕へ・肩内旋と肘伸展・前腕回内・グラブハンドの動き・右手のスピード・腕を引きずる
体幹の回転と腕の振り
体幹や肩のエネルギーを腕に流す
上肢の運動学
- 投球動作の中で腕の振りは複雑な動きだけに注目を集める
- 肩には4方向の動きがある
- 腕を前に上げ下げする動き (屈曲・伸展)
- 横に上げ下げする動き (外転・内転)
- 水平に開いたり閉じたりする動き (水平屈曲・伸展)
- 上腕の長軸まわりの回転 (内旋・外旋)
- かなり自由に動く分、動きの個人差は大きくなる
肩関節運動の名称
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 肩より先では4方向の動きがある
- 肘の曲げ伸ばし (屈曲・伸展)
- 肘から先の長軸周りの回転 (前腕の回内・回外)
- 手首の曲げ伸ばし (掌屈・背屈)
- 親指、小指側への手の横の動き (撓屈・尺屈)
- オーバーハンドスローでの腕の動きでは、肩の水平屈曲と内旋、肘の伸展、前腕の回内、手首の掌屈が主要な動作であり、いずれについてもその動きに先立って逆方向への動き、つまり水平伸展する
- この逆方向の動きがあると、動く範囲は広がり、筋肉での伸張-短縮サイクル運動(SSC運動)にもなるので、その先の部分により多くの仕事ができることになる
エネルギーの源
- 先の部分に筋肉で仕事をすればその先の部分のエネルギーは増える
- しかし、腕自体には仕事をするための筋肉はそれほど多くはない
- 腕の各部分のもっているエネルギーを分析したところによると、ボールに伝えられるエネルギーの大部分は、体幹や肩の運動(筋肉)によって生み出されたエネルギーが関節や筋-腱を介して転移されるころによってもたらされている
- うまく転移されてボールまでいきつくようにと、「しなやかに腕を振れ」と指導されるのである
体幹に沿って腕を挙げる
テイクバック
- 体幹の運動によって生み出されたエネルギーがうまく転移されるためには、腕にうまく力が働くように、体幹に対する腕の位置が問題になる
- 足を踏み出した時に、背中側に大きく肘を引いてテイクバックする(肩の水平伸展が42°よりも大きい)投手の75%は、ボールを加速するときにも過度な水平伸展位になってしまう
- 踏み出し脚着地までに肩の内旋から外旋への切り替えが遅い投手ほど、背中側に大きく肘を引いてしまう傾向にある
- 切り替えが遅いというのは、2塁にボールを見せるように前腕を内側に絞っておくが、それを戻すのが遅れるテイクバックである
- 背中側に大きく肘を引いてテイクバックしてしまうと、体幹のエネルギーがうまく転移されないし、それでもボールを加速しようとするので、肩へのストレスが増加する
- 体幹に沿って腕を挙げることがよい
体幹の動きを腕に転移させる
- ボールリリース時、ボールスピード(100%)に身体のどの部分の動きが何%貢献したかを調べた
- 主要な貢献を身体部位で表すと以下のようになる
- 肩の内旋運動 34.1%
- その他の腕の動きと体幹の動き 33%
- 手首の掌屈 17.7%
- 肘の伸展 15.2%
- 肩の内旋、肘の伸展、手首の掌屈は主に体幹からエネルギーが転移して生じているということであった
- 無理にこれらの動きを担っている筋肉を働かせるのではない
- 動きの中で関節と関節との間に働く力、押し合う力によってエネルギーが転移されるのである
腕を伸ばしてから肩を内旋させる
- 腕の振りの中で、しゅとうとされる肩の内旋と肘の伸展の動きはどのような順序なのだろうか?
- 子供のころに身に着けた投げ方をイメージすると、肘を伸ばしてボールをリリースするので肘の伸展が後のように思うが、実は、肘を伸展してから肩を内旋してリリースする
肩の内外旋角度と肘の伸展角度との関係
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 図では、横軸に肘の伸展角度を、縦軸に肩の内外旋角度をとってある
- 点線に0より上のプラスが内旋位で、下のマイナスが外旋位である
- ただし、この「位」は位置のことで、動きとしては上に進めば内旋、下に進めば外旋になる
- 踏み出し脚の着地時(SFC)をみると、ほぼ0度、、つまり腕相撲のスタート時のような上腕の角度である
- その後、上腕とともに体幹を回転させるおかげで、肘から先が置いてきぼりになるように肩は外旋され、それが最大になる(MER)
- そこまでの間、横軸の大きさでみればわかるように肘は曲がってから伸びていく
- 体幹の回転を伝えやすいように前腕やボールを一度体幹に近づけているのである
- 最大の外旋時(MER)には、肘は約130°にまで伸びつつある
- そこからさらに伸びていって、肩の内旋しながらボールリリース(REL)を迎える
- 〇の間隔は0.005秒であり、〇が離れているほど動きが速いことになる
- 肘の伸展が速いのはMERの後、肩の内旋が速いのはREL直後である
- 肘の伸展が先で、肩の内旋は後というのがわかる
- 腕の振りは速いので実際に投げるときにこの順序を意識するのではなく、ゆっくり腕の振りを練習するときに意識したい
手首では親指側から小指側に斜めに掌を曲げる
- 上腕とともに体幹を回転させるおかげで肩が外旋される
- この時、肘が下がっていると肩は外旋し難い
- 体幹の回転が伝わると窮屈なので、余分なストレスが肘の内側にかかって故障の原因にもなる
- 逆に肘が上がり過ぎていても外旋し難い
- 体幹の回転が伝わらずに腕がしならない
- その後のボールスピードにとって重要な内旋が十分にできないことにもなる
- つまり、「脇を90°ぐらいに保て」と指導される理由はここにある
- 手首付近の動きも眺めておこう
- ボールリリースに向けて、前腕の回外から回内させる動きがある
- この動き自体は前腕の長軸まわりの回転なので、ボールスピードにそれほど貢献しないが、肩を内旋させる力を手先やボールへ伝える重要な役割を担っている
- この回内させる動きのおかげで手首では親指側から小指側に斜めに掌を曲げることになる
- 掌は伸びている、そして親指側に傾いている状態からボールリリース時になると、小指側に傾いて、その曲げは「真っ直ぐ」になる直前となる
グラブハンドの動きはボールスピードに貢献している
グラブを体幹に近づけて回転させる
- 投球腕を振るまでのこととしてもうひとつ、非投球腕(グラブハンド)の役割を考えておきたい
- 細かい動かし方は置いといて、踏み出し足を着地する前にグラブハンドを打者のほうへ伸ばし、身体を回転させる時には小さく畳んでグラブを体幹に近づける
- こうすることで素早く体幹を回転でき、ボールスピードに貢献すると考えられている
- テニスのサービスでも、ラケットを持っていない腕を伸ばしておいて、その後素早く引き付けることがラケットのスイングスピードに貢献するといわれている
グラブハンドを固定すると体幹の捩りが減ってしまう
- グラブハンドの動きが体幹や投球腕の動きにどう貢献しているかをもう少し実験的に調べた
- そのためにゴムバンドでグラブハンドを体幹にピッタリ固定して投げてもらい、普通に投げた場合と比較した
- 上胴や腰の回転、そのズレである体幹の捩り、肩や肘の動き、ボールスピードなどを比較した
グラブハンドを固定した場合と通常の場合での投球動作時における上胴・腰・体幹の捩りの角度の比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 画像が結果の一部であるが、横軸は時間経過がとってあり、「0」でボールリリース、「 a 」は体幹の捩りが最大、「 b 」は踏み出し足着地、「 c 」は腕のしなり最大(肩の最大外旋)である
- 細かい縦の破線がグラブハンドを固定して投げた場合で、太い縦の破線が普通に投げた場合である
- したがって、固定した場合のほうが a・b・c は早く現れていたことになる
- 一方、縦軸は上から上胴の角度、腰の角度、体幹の捩りの大きさで、細い線が固定して投げた場合、太い線が普通に投げた場合である
- グラブハンドを固定した場合には、踏み出し足の着地時に上胴がより打者のほうへ向いてしまい、体幹の捩りが減ったことがわかる
- これは、体幹の長軸まわりに上胴と投球腕を回しやすくなったからであろう
- そのおかげで、肩の内旋と肘の伸展のスピードが遅くなり、ボールスピードが遅くなった
- こうした結果から推測すると、グラブハンドは上胴を回り難くして体幹に捩りをつくり、いざ上胴を回す局面になったら小さく畳んで上胴を回しやすくする
- その結果、肩の外旋が大きくなって、その後の肘の伸展と肩の内旋スピードが速くなる
- それでボールスピードに貢献しているといえる
脚と腕のマッチング
子供は腕の振りが重心移動より遅れがちになる
脚からのエネルギーを腕にマッチングさせることが重要
- 投げたり、打ったりではエネルギーを主として生み出すのは脚、それを使うのは腕である
- したがって、よりよく使うために両者の動きのマッチングあ重要なはずである
- 打撃動作の指導では、脚によって投手方向へ体重を移動させたときにバットが置いてきぼりになることがある
- そうなると、いざ身体を回転させると腕にその勢いが伝わらず、身体の前にバットが出てこなくて困ることがある
- 投球動作では一方の腕だけでボールを投げるので、身体の勢いを伝えるためのマッチングはさらに重要なはずである
- 腕にエネルギーを伝えるため、力を込めるためにはそうしたいときに腕がどこにあれば良いのか?
- わかりやすい局面でみると、脚を踏み出した時に腕がどこにあれば良いのか?
身体重心の移動スピードと右手のスピード
- プロの投手とリトルリーグの投手を対象に、投手方向への身体重心の移動スピードと右手のスピードを重ねて比べた調査がある
- 画像の横軸は時間経過で、踏み出し脚の着地とボールリリース時のフォームを描いている
- 縦軸はスピードで、● が身体重心、〇 が右手であり、● の重心移動のスピードは主に脚の動きで、踏み出したころに最も速くなってリリースに向けて遅くなった
身体重心の移動スピードと右手のスピード
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 踏み出し脚を着いて踏ん張るのだから当然そのようになるわけで、プロもリトルリーグの投手も同じような変化だった
- しかし、それに対する 〇 の右手は両者で随分スピードの様子が違った
- ボールリリースのほうから遡るとわかりやすいが、リトルリーグの投手腕の振りは、重心移動に対して遅れていたので慌ただしくなっていたのである
軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックする
腕を振るのではなく、引きずる
- もう少し詳しくみると、踏み出し脚を着地する前にプロの投手は右手のスピードがマイナスになっていたのに対して、リトルリーグの投手ではそうなっていなかった
- 軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックすれば右手のスピードはマイナスになる
- リトルリーグの投手は重心移動のスピードより右手のスピードが遅くなってはいるが、マイナスになるほどではなかった
- 移動に引きずられるように腕が動いていってしまっていたのである
- 次に、踏み出した後に右手は前に振られるが、右耳の近くでその振りが一度遅くなる局面がある
- 〇 の右手のスピードが遅くなっている局面だが、そこでもプロの投手は重心移動のスピードよりも右手のスピードが遅くなっていたが、リトルリーグの投手はそうならなかった
- ここでも移動に腕が引きずられていたのである
バネを引き伸ばして縮めるように動かす
- リトルリーグの投手にみられたこれらの動きのマッチングは、本来バネを引き伸ばして縮めるように使う筋肉がうまく働けなくなってしまい、結果として大きなエネルギーを発揮できなくなってしまうのである
- 軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックして、踏み出した後に一度右手を遅くしてからボールを加速したい
- もちろん適度な引き伸ばしであって、置いてきぼりでは困る
- プロの投手は踏み出し脚の着地でやや早く腕が挙がっていたとみなせる
- 子供は軸足でバランスをとるのがあまり得意でなく、ボールは相対的に大きく重いので、腕の振りが遅れてマッチングが悪くなりやすい、ということである
わかりやすいポイントでマッチングを確認する
踏み出し足裏全体を着地したころに腕の力を入れる
- 野球経験のない大学生9人に投球動作を指導した研究がある
- 1日に1時間半~2時間、週2日、約1年間指導した
- 指導のポイントは以下の順で行った
- 大きな動作(脚の引き上げ、腕のスイング)で投球する
- 軸脚から踏み出し脚へと体重移動して投球する
- 上腕-前腕-手とスムーズに動かして投球する
- そして、その効果を脚と腕のマッチングから調査した
- 画像は、横軸は時間経過を表している
( a ) 棒グラフの左端:ボールを最も後方へ引いた距離
( b ) 0 :踏み出し足裏全体を着地したとき
( c ) 棒グラフの右端:ボールリリース時
トレーニング前後の手の指先の移動所要時間
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 参加した大学生9人それぞれがT1~T9、熟練した投手2人がS1・2である
- 大学生は練習前が白棒、練習後が網点棒である
- そして、軸脚で蹴る力が最大になった時を ▲ 、肘を伸ばす筋肉 (〇) 、手首を曲げる筋肉 ( ● )の活動が始まった時をそれぞれ示している
- 投球動作の中で、脚の力発揮と腕の筋肉の活動開始のマッチングをみようとしたのである
- 熟練した投手は、ボールを最も後方へ引いてから軸足で最大の力を発揮し、そして、踏み出し足裏全体を着地したころ ( b ) に2つの筋がほぼ同時に活動を始めていた
- つまり、テイクバックしてから軸足でしっかり蹴り、踏み出し足を着く頃に腕の筋肉を働かせて始めていたのである
- 野球経験のない大学生の中にも練習する前から熟練した投手のパターンになっていた者、練習してもパターンが変わらなかった者もいたが、練習によって熟練者のパターンに近づく傾向がみられた
脚と腕のマッチング例
- 投球の腕振り動作は速いので、振る動き自体の良し悪しは見極め難いが、脚の動きとマッチングは軸足を挙げた時、踏み出し足の着地時など、あるポイントを基準にすれば見極めやすい
脚と腕のマッチング
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
『ピッチング ステップ編』について復習をしたい方はこちら
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『ピッチング 投球動作のタイプ』について復習をしたい方はこちら
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『ピッチング コントロール』について復習をしたい方はこちら
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
ピッチング ステップ編 ステップの軌道・地面を押す力・エネルギーの流れ・ステップ長と向き・捻転動作・ボールを身体の前で放す・SSC
体幹を支える踏み出し脚
軸足の股と膝を曲げて地面を後ろに押す力をつくる
ステップの軌道からわかること
- 投球すれば地面に足跡が残る
- ステップの着地跡はステップの方向を知るのに用いられる
- 一方、プレートの前にできる軸足の跡は投球方向への体重移動と腰の回転の様子を知るのに利用される
- このうちの軸足の跡はスパイクの甲の部分で印されるが、それだけを見て投手の能力を診るという指導者もいる
- 例えば、軸足の跡の直進部分が長いから、十分に体重移動できているので良い、あるいは直進から曲がる角度が直角に近いことから、よく腰を回転させているので良いとか、逆に、その角度が大きいと回転が鈍いので悪い、跡全体が斜めになっていると移動と回転がじゅうふくしているので悪い、などといったように診るのである
野球のピッチングでの足跡
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
地面を押す力
日本人大学生投手
- 投球時に足で地面を押す力(反作用が地面反力)を測ると、軸足では体重の約0.5倍の力で後ろに押す
- 踏み出し脚では体重の約1.5倍の力で前に押す
アメリカ人高校・大学生投手
- 軸足では体重の約0.35倍の力で後ろに押す
- 踏み出し脚では体重の約0.72倍の力で前に押す
- それでも軸足での力はそれほど大きくないことから軸足で地面を蹴るのではない
- 投球方向へ身体を移動させるのである
- 軸足では大きな筋力を発揮するけれども、脚を伸ばして身体を投球方向に大きな速度で押し出すというよりは、身体を支持してスムーズに下降させるような働きをしている
押し出す動きのタイプの違い
日本の投手
- Drop and Drive type
- 軸足の股と膝を曲げて身体を沈め(Drop)、その後伸ばして前に移動する(Drive)タイプが多い
アメリカの投手
- Tall and Fall type
- 身体を高く保ったまま(Tall)、前に倒れ込んでいく(Fall)タイプが多い
軸足の股関節を伸ばす、そして引き付ける
ステップの意味
- ステップをする意味はそこで生み出したエネルギーを体幹そして腕へ伝えて利用することにある
- 流れるようなフォームには技術の高さを感じ、無駄な力が入っていない、しなやかなフォームといえる
- こうしたしなやかさは、身体のある部分から隣の部分にエネルギーが適切に流れているおかげと解釈されている
エネルギーの流れ
- エネルギーとは、仕事をする能力のことであり、このエネルギーが適切に流れれば、受け取った部分では余分な仕事をしなくてもエネルギーが増えて相応に動くので、無駄な力が入っていないと感じることになる
- 投球動作では、踏み出し脚 ⇒ 体幹 ⇒ 上腕 ⇒ 前腕 ⇒ 手 ⇒ ボールという順でエネルギーがが大きくなる局面が現れる
- ただ、先述したように軸足で地面を蹴っているわけではないので、踏み出し脚のエネルギーはそれほど大きいわけではない
- 大きくなるのは、踏み出し脚を着地する局面での体幹の上部(上胴:肩と肋骨で囲まれた部分)からである
- そして、この大きくなることには、主に軸脚の股関節を伸ばす、そして引き付ける(内転する)筋肉によってなされた仕事が効いている
- そもそも、軸脚のもっていたエネルギーが流れるのではない
- この仕事によって増えたエネルギーが体幹の下部(下胴:肋骨より下の腰を含む部分)を介して上胴へ流れているのである
- そして、このエネルギーの流れが大きいほどボールスピードが速かったという
体幹および投球腕書く部分の力学的エネルギーの変動
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
踏み出した脚の膝や足首は固める
踏み出し脚のエネルギーの流れ
- もうひとつ重要なのは、踏み出し脚でのエネルギーの流れである
- 腕を振る局面で、踏み出した脚で体幹をしっかり支えて、その股関節から下胴にエネルギーを流す
- このエネルギーの流れが大きいほど、やはりボールスピードが速かったという
- ボールスピードが速い投手と遅い投手の踏み出した脚の動きが比べられている
踏み込み脚接地からリリースまでの股関節併進速度および踏み込み脚股関節に作用する関節力 (画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 図には股、膝、足首の関節が描かれていて、実践矢印は股関節に働く力を表し、点線矢印は股関節の速さと動く向きを表している
- これをみると、ボールスピードが速い投手は首・膝が固定されていて股関節が上に動いている
- 一方、遅い投手は膝が前に出ていて股関節が下がっている
踏み出し脚の使い方
- 踏み出し脚の膝や足首を固めることによってパフォーマンスが良くなることもある
- 関節を固めることもまたひとつの技術と考えられて、スプリント走などで研究が進められている
- スプリント走では、着地中に膝や足首の関節をバネのように使っていては時間をロスしてしまうし、腰をしっかり押せないということで、これらの関節を固めて使うように勧められている
- バネを使って走ったほうが速いと考えるのが普通だが、膝や足首については固めて使うというのである
軸脚が踏み出し脚の動きをつくる
ステップの長さと向き
- ステップの長さは伸張の約70~80%である
- 外国人の投手と比べると日本人のほうが広い傾向にある
- 軸脚で発揮する力が大きいから広くなるのである
- そして、ステップは長さだけでなく、向きももちろん重要である
- オープンステップでは体幹が早く正面を向いてしまうことになる
- これにはワインドアップで体幹が後ろに傾いてしまうことが影響していて、体幹の捻りが十分につくれずに投球スピードを速くできないだけでなく、肩や肘への負担になる
踏み出し脚の練習法
真下投げ
- 踏み出し脚をしっかりついて投げられるようになる練習法として『真下投げ』が紹介されている
- 真下投げとは、踏み出し脚のすぐ前にボールを叩きつける投げ方である
- 当初は肩が痛い選手のフォーム矯正法として使われた
- 普通に水平に投げるよりは、真下のほうが重力の影響を受け難いからである
- それをマウンド上でやると、マウンドの傾斜もあって踏み出し脚をよりしっかりつけるようになって、投球スピードにも貢献するようになる
四股踏み
- 投球動作において、軸脚は投球方向への体重移動、踏み込み脚はその支持である
- そして、両脚とも股関節で発揮される回転力やパワーが非常に大きいことから、股関節の筋力を高めることや、股関節の動きを改善することがその役割のために重要である
- 股関節周りの筋肉の働きは、まさしく投球動作のパワー源なのである
脚の踏み出し時の体幹の捩り
肩は開かず体幹の捩りを保ち、その後一気に腰を回す
前額面での動きの特徴
- 日本人の投手には軸足でDrop and Drive するタイプが多いと思われる
- そして、Drive による体幹の移動を踏み出し脚でしっかり支え、このような脚の働きによって多くの体幹の動きは生み出される
- 時速150㎞台のボールを投げる投手と130㎞台の投手の肩、腰、体幹の捩りを比べてみると、ハイレベルの投手であっても動きが違う
投手の捻転動作
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 軸脚側を実線、踏み出し脚側を点線で描き、保守側から見た線画で比べる
- 150㎞台のボールを投げる投手は踏み出し脚の着地地点(SFC)では、まだ若干2塁方向に肩が回転している
- 肩を開かずに体幹の捩りが保たれている
- そして、その後一気に腰を回しているのがよくわかる
- ステップする足の位置を調整したり、投げる向きにグラブハンドを保っておいたりするように指導されるのは、この姿勢を保つためである
- 一方、130㎞台ボールを投げる投手はそうなっておらず、少し体幹が後ろに傾きながらオープンステップ気味で肩が開いている
- この後傾と開きは小学生の投手によくみられ、スピードを速くできないどころか、腕に頼ることになるので肩や肘への負担が大きい
水平面での動きの特徴
- 単純に水平面での腰と肩の回転をみると、先に腰が回転し始めて、肩がその腰を追い越す
投球時の腰と肩の回転
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 横軸にはボールリリースまでの時間がとってあって、0でリリースである
- 縦軸には投げる方向に対する腰と肩の角度がとってあり、0度が横向き、90度で投げる向き、つまり打者と正対する
- 踏み出し脚の局面から描かれていて、その時にも肩も腰も横向きだが、腰よりも肩を少し後ろ向きに回している
- この投手の場合、30度までしか行かない程度である
肩が腰を追い越してボールを前で放す
ボールを身体の前で放す
- 近鉄バッファローズからメジャーリーグにへ行って活躍した野茂投手は打者に背を向けるほどに腰と肩を回していた
- もちろん脚で回していたがのだが、そこまで回すと捩りを戻すのが難しいし、戻すことと腕の振りとのタイミングを合わせるのも難しくなる
- 野茂投手はうまくできたので、体幹を回す勢いを投球スピードに活かせた
- しかし、本人が語っていたように難しい技術なので、特に子供には勧められない
- その後、踏み出し脚から腰を回していくので捩りは大きくなって、踏み出した後に最大に捩られる
- 踏み出し脚を着地しているので、腰の回転は遅くなって60度ぐらいの向きで頭打ちになる
- その腰を支えにして肩を急激にスピードアップ、腰を追い越して反対向きに捩られてボールリリースとなる
- 腰は打者に正対していないが、肩は生体の位置よりももっと回して120度ぐらいでリリースである
- 「ボールを前で放せ」と指導されるが、それは両肩を結ぶラインよりも手を前に出せということでなく、この角度を大きくして手を前に出せ、ということである
SSC (ストレッチ・ショートニング・サイクル)
- 捩りによって下胴(腰を含む)から上胴(肩を含む)へ回転させる力を加える準備ができる
- そして、捩りを戻すことでトルクが上胴に働いて、肩はスピードアップする
- これは、筋肉を一度伸ばしてから素早く短くすると大きな力を生むという伸張-短縮(SSC)運動を利用している
- 下胴を回すことで体幹にある筋肉を伸ばし、素早く短くして上胴を回す
- こうして、上胴は大きなエネルギーをもつことになるが、下胴や両脚がそもそも持っていたものではなく、いずれかの関節まわりの仕事によって生じたものであると考えられる
- 軸脚を伸ばす筋肉の下胴への仕事、踏み出し脚で踏ん張る筋肉の下胴への仕事、さらに上胴と下胴とをつなぐ筋肉の上胴への仕事である
コアスタビリティー・トレーニングで体幹の安定性向上を図る
投げ方による体幹回転の違い
- 捻った後、体幹は水平に回転するだけではない
- 前にも倒すので、併せて斜めになる
- 「柔道の背負い投げのように体幹を使え」と指導されることがあるのは、この斜めの意識を植え付けるためである
- 打撃動作の場合はボールがほぼ水平に来るので体幹もほぼ水平に回転させるが、投球動作の場合には自分主体なので、動きにもう少しバラエティが許される
- オーバースロー、サイドスロー、アンダースロー、どれでも脇の角度は90度くらいで違いがなく、体幹の傾きが違う
- 脇の角度は同じでも腕を振る向きは空間的に違うので、この違いに応じた体幹のSSC運動が求められることになる
コアスタビリティトレーニング
- 腰が痛いという野球選手は多く、年代とともにその割合は高くなる
- 踏み出し脚側の腰がつまって痛いとはよく聞く話である
- 投げるでも打つでも、ひとつの向きに軸脚で体幹を移動して踏み出し脚でそれを支ながら回す
- この勢いを受け止めることがひとつの原因であろう
- 逆向きに回すエクササイズを入れることは当然であるが、姿勢を維持する、動きを良くするエクササイズを練習にも組み込みたい
- 体幹の安定性を向上させるためのコアスタビリティートレーニングは、腰部障害の有無に関わらず、今やどのスポーツにも取り入れられている
- 背筋を伸ばして骨盤を前傾させるエクササイズ
- 体幹の深部にある筋肉を活動させて姿勢を安定させるエクササイズ
- 上胴のみを十分に回すエクササイズ
- 脚を使うことで骨盤を含めた体幹を両方向にスイングするエクササイズ
参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
投球動作分析と投球障害部位 肩関節にかかる関節間力・投球障害に繋がる投球動作の特徴・肩峰下インピンジメント・インターナルインピンジメント・腱板疎部損傷・棘下筋と小円筋損傷
概要
- 野球投手の投球動作は、投球側下肢に溜めた力を指先まで伝える高速で緻密な全身運動である
- 投球障害肩の多くは、いわゆる over use からの身体機能低下により投球動作が変化し起こる場合と、未熟な投球動作により起こる場合が考えられる
- 臨床場面では、身体機能の改善に重点を置くが、再発予防のためにはそれをふまえての投球動作の再構築が重要となる
- 投球動作を三次元動作分析し、各関節運動を数値化することで、投球動作から各関節にかかる負荷を算出し、投球障害の原因を探ることができる
肩関節にかかる関節間力
- 信原克哉は、投球動作を4層に分類している
- 疼痛の訴えが多い acceleration phase は、踏み出し脚の接地(フットプラント)~最大外旋を経てボール・リリースまでである
- ボール・リリースにおける肩関節に加わる前後方向の関節間力と、水平内転・外転角度に強い相関がある
- 関節間力が高いことは、関節周囲の軟部組織にかかる負荷が大きいことを意味している
- ボール・リリースにおいて肩関節に加わる負荷が最小になる上腕姿勢は、水平内転4.49°、外転89.99°である
- 肉眼では、前から見ても上から見ても肩-肩-肘ラインが一直線であるであることを指標とする
投球障害につながる投球動作の特徴
- acceleration phase は投球動作中で最も高速に上肢を運動させる動作であるため、意識的にコントロールすることは困難である
- よって、これより前相である wind up phase ~フットプラントまでの間で acceleration phase に影響を及ぼしていることがないかをチェックする
- cocking phase での肩最大水平外転が大きい
- フットプラントから最大外旋において水平外転が大きいまま外旋が起こると、ボール・リリースで肩水平外転位となりやすい
- ボール・リリース直後には急激な内旋が起こるが、肘が完全に伸展位ではないため、内旋の機能軸は上腕骨軸ではなく、肩・肘・手を結んだ三角形の中にできる
- 従って、内旋によって肘が跳ね上がるように見える
- 肘の屈曲角度が大きければ、肩が大きく揺さぶられるようになることが想像でき、肩後方や肘関節外側に強いストレスが加わる可能性がある
- 障害発生の相として、最大外旋を中心に acceleration phase が注目されているが、このボール・リリース直後の急激な内旋位にもっと注目すべきではないだろうか
- 下半身においては、 wind up phase での踏み出し脚膝最高位時に下半身重心に対する上半身重心が一塁方向(右投手の場合)に大きくなると骨盤後傾が増大する傾向にあり、以後の投球動作に影響を及ぼす可能性がある
- フットプラントで骨盤回旋が大きい、いわゆる体の開くタイミングが早いとボール・リリースで肩水平外転位となりやすい
投球障害部位を探る
肩峰下インピンジメント
- 疼痛部位 :肩峰下
- 疼痛が出現する位相:cocking 以降
- 誘発テスト :Neer テスト、Hawkins テスト
- 徒手検査 :SSP テスト、ISP テスト
インターナルインピンジメント
- 疼痛部位 :肩峰角より後方
- 疼痛が出現する位相:最大外旋
- 誘発テスト :水平外転位で最大外旋を強制
- 徒手検査 :後方タイトネス、前方不安定性
腱板疎部損傷
- 疼痛部位 :三角筋前部・中部線維の境界
- 疼痛が出現する位相:最大外旋~ボール・リリース
- 誘発テスト :最大外旋を強制、Zero position test
- 徒手検査 :Dimple sign 、腱板疎部の圧痛
棘下筋・小円筋の損傷
- 疼痛部位 :棘下筋・小円筋の筋腹
- 疼痛が出現する位相:ボール・リリース直後、フォロースルー
- 誘発テスト :水平内転と内旋を強制
- 徒手検査 :棘下筋・小円筋の圧痛
投球動作の特徴からの身体機能評価
障害を起こしやすい投球動作の特徴 (最大外旋、ボール・リリースでの肩-肩-肘ラインの逸脱)
上半身の身体機能評価のポイント
- 肩関節ルーズにングの有無 (sulcus sign、load and shift test、dimple sign)
- 肩甲上腕リズムの確認 (肩過外転、肩甲骨情報回旋不足)
- 肩甲上腕関節の可動性 (後方タイトネスを含めた可動域制限や過可動性のチェック)
- 肩甲骨の可動性
- 肩甲骨の向きと位置を調整し、胸郭に固定する能力
- 肩甲帯-腱板機能 (腱板筋力低下、肩甲帯-体幹機能低下)
- 前胸部、肋骨の柔軟性 (大胸筋、小胸筋、外腹斜筋)
下半身の身体機能評価のポイント
踏み出し脚膝最高位着目
- 骨盤後傾角度、下半身に対する上半身重心が後方へ位置していないか
- 左股関節屈曲、右股関節伸展可動域の確認
- 右大殿筋・腸腰筋、右股関節内旋・外旋筋群のバランス (右下肢の安定性)
- 下肢-骨盤-体幹の位置関係 (姿勢のチェック)
踏み出し脚膝最高位~フットプラントに着目
- 下肢-骨盤-体幹の位置関係 (姿勢のチェック)
- 右股関節内転筋力
- 右股関節外転・伸展・外旋方向の動的安定性の確認 (サイドランジ)
- 左下肢の支持性 (左股関節内転筋力)
肩甲骨の向きと位置を調整し、胸郭に固定する能力の低下
- 投球障害を有する投手の多くは、ゼロポジションからさらなる屈曲や、リーチ動作(肩甲骨外転)で肩甲骨を固定できず、僧帽筋中部・下部線維や前鋸筋の機能低下が疑われる
- 僧帽筋上部線維や肩甲挙筋での代償動作を認めることが多い
参考文献
モーションキャプチャ・システムを用いた投球動作分析からの理学療法 (関節外科 Vol.33 No.10 2014 亀田淳)
膝前十字靭帯損傷 病態・理学療法(術前・術後)・損傷のメカニズム・再建術後の影響
概要
- 膝前十字靭帯は膝関節の安定性に重要な役割を果たしている
- 完全断裂した場合は自然治癒が期待できないため、靭帯再建を含め、膝関節のさまざまな機能を回復させることが治療に求められる
- 近年の理学療法プロトコルの発展により、より早期に受傷以前の競技レベルまで復帰することが可能となってきている
- 未だ前十字靭帯損傷が重篤な外傷であることに変わりはない
- 近年では、予防がしあ優先の治療法であると認識されるほど、予防への取り組みがクローズアップされている
前十字靭帯損傷時の病態
受傷直後の病態
- 前十字靭帯損傷には大量の関節内出血を生じ、関節内に腫脹や熱感などの炎症症状が出現する
- 激しい痛みを伴い、受傷直後からしばらくは関節運動を行えない場合が多い
- 稀に疼痛が軽度で膝の不安定感や違和感のみを訴える場合もある
- 時間の経過とともに関節内の腫脹が増大し、屈曲・伸展運動に制限を来す
機能的な病態
- 前十字靭帯により制動される脛骨の前方偏位や内旋運動に不安定性が生じ、伸展30°以下の範囲では前外方の亜脱臼が生じる
- 関節内の腫脹によって内側広筋は二次的に興奮性が抑制され、筋緊張が低下し、逆に下腿の筋群は興奮性が増す
- 疼痛や不安定感に対し、拮抗筋同士を強固に固定して荷重する
- スムーズな関節運動が生じず、ハムストリングスや大腿直筋などのに関節筋の過緊張や、殿筋群や大腿筋膜張筋などの過緊張に伴う腸脛靭帯のタイトネスが生じやすくなる
運動学的な病態
- 関節内水腫や軟部組織の可動性低下、内側広筋や中間広筋の緊張低下などが影響し、膝蓋大腿関節の円滑なトラッキングが生じにくくなる
- 伸展時に膝蓋骨が上方に十分動かない、もしくは外側広筋を中心に牽引され外方偏位が生じるといったトラッキングエラーが観察される
- 屈曲時では、大腿直筋や外側広筋の過緊張や腸脛靭帯のタイトネスにより、膝蓋骨が下方に動かない、もしくは外方偏位を呈する場合がある
大腿脛骨関節
- 前面の筋緊張低下と後面の筋緊張亢進は、伸展の制限因子となる
- 膝蓋骨の下方運動の低下は屈曲運動の制限を来す
- 膝蓋骨の外方偏位は屈曲域での脛骨の外旋位拘縮をもたらし、屈曲に伴う円滑な下腿内旋運動を阻害する
- 屈曲時内旋、伸展時外旋という円滑なスクリューホームムーブメントがなされず、下腿外旋位拘縮や内旋可動域制限が生じる例が多い
歩容の病態
- 特徴として、膝関節運動の減少がみられ、荷重応答から立脚中期の屈曲運動や、立脚中期から終期にかけての伸展運動が減少する
- 膝関節の構造的不安定性や自覚的な不安感を代償し、大腿四頭筋とハムストリングスの共収縮が通常より増加する
- 遊脚期には屈曲運動の減少がみられ、クリアランスを確保するために股関節や骨盤の運動で代償する分回し様の歩容となる
- 立脚期にて拮抗筋の共収縮が強まるため、続く遊脚前期でも膝伸展の緊張が低下せず、スムーズな屈曲ができないという運動パターンの連鎖が生じていることが多い
前十字靭帯不全膝の病態
- 前十字靭帯単独損傷であれば、保存療法でも、レクリエーションやジョギングが可能なある程度満足できるレベルまで復帰できる場合がある
- 骨端線が閉じていない若年者には再建術を施すまで保存療法を選択することがある
- 前十字靭帯の断裂により、膝関節には前方不安定性および全内方回旋不安定性が生じる
- そのため、高所からあの着地や方向転換、スピードの変化により膝に急激な力が加わる場面での膝崩れが生じやすくなる
- 長期的にみて、保存的超量の予後は不良である場合が多く、初期に半月板損傷の内前十字靭帯単独損傷であっても、競技活動によって半月板を損傷するリスクもある
- 半月板に損傷があると、変形性膝関節症に移行するリスクが高まる
理学療法を展開する際のポイント
術前
- 腫脹の狭小化
- 健側と同等の大腿脛骨関節および膝蓋大腿関節の可動性獲得
- 正常歩行の獲得
術後
- 術直後の炎症と腫脹の早期消失
- 膝関節可動性の再獲得
- 正常歩行の獲得
- 可動域制限と炎症所見が消失した状態から、グラフトの成熟を阻害しない範囲で段階的にトレーニングや動作獲得
前十字靭帯再建術後の可動域制限
- 伸展制限に関しては術直後より、屈曲制限に関しては術後4ヶ月を目安に、完全な可動域の獲得を目指す
- 可動域制限は副運動の異常パターンの影響が強いと考え、大腿脛骨関節の過外旋や膝蓋骨トラッキングエラーを修正することを目指す
- 内側筋群の活動低下や大腿二頭筋の過活動、腸脛靭帯のタイトネスにより、二次的に膝関節過外旋が増大し、屈曲制限や伸展制限を生じる
- 膝関節外旋や伸展制限に対する理学療法として、内・外側ハムストリングス間、大腿二頭筋・腸脛靭帯間、外側広筋・腸脛靭帯間の過緊張や滑走不全に対して、徒手的アプローチが有効である
- 脛骨内側の後方可動性低下は、膝関節の内旋制限や伸展制限の原因となる
- 膝関節屈曲制限は、大腿直筋など伸筋群の過緊張が原因となるが、関節内水腫の貯留や移動の制限も影響するため、詳細な評価を要する
- 膝関節内の水腫は膝関節伸展位においては膝蓋上包に貯留し、屈曲位においては膝蓋骨下前面や膝関節後面に移動する
- しかし、膝蓋骨のアライメント異常や膝蓋上包の癒着などが存在すると、膝関節屈曲位においても膝蓋上包に水腫が存在する
- この場合、パテラタップテストで関節内水腫が認められるのにも関わらず、indentation test が陰性となり、膝屈曲時に制限が生じ、膝前面での突っ張るような感じを訴える場合が多い
- このような症例では、関節液の循環がスムーズに行われず、水腫の軽減にも支障を来すと考えられる
- 膝蓋大腿関節のマルアライメントやトラッキングエラーを改善させ、水腫のスムーズな移動を促す音が必要である
膝関節周囲筋群の機能改善
- 術後に著名な機能低下を示す内側広筋はもちろんであるが、臨床的には術後の膝蓋上包の水腫貯留や膝蓋骨の上方移動制限により、膝蓋上包の巻き上げ機能を有する中間広筋にも収縮不全が生じる
- このような筋の再教育としては、筋収縮を確認しながら行うエクササイズが有効である
- 表層に位置する内側広筋にはEMSにより筋収縮を誘導し、確認しながら大腿四頭筋セッティングを行う
- 深層に位置し、体表から収縮を確認することが子kkなんな中間広筋に対しては、超音波診断装置などにより筋収縮を視覚的にフィードバックしながら再教育を行う
patella valgus rotation
- 膝蓋骨内下方に位置する膝蓋脛骨靭帯や膝蓋下脂肪体の癒着が原因と推察される
- anterior interval の癒着は膝伸展時の膝蓋骨低位を招き、大腿四頭筋の収縮を阻害する
- 治療としては、膝蓋脛骨靭帯の可動性を高め、膝蓋骨内上方へのモビライゼーションや、徒手的に膝蓋骨を内上方へ誘導しながら大腿四頭筋セッティングを行い、膝蓋骨トラッキングの正常化を図る
前十字靭帯損傷のメカニズム
- 近年、前十字靭帯損傷の予防に注目が集まっているが、その発生メカニズムは明らかとはなっていない
- 現在は、膝関節運動と前十字靭帯負荷(張力や歪み)との関連を調べた研究や、前十字靭帯損傷の発生に関する疫学的研究により、前十字靭帯損傷の発生に影響が大きい因子については明らかになりつつある
- 前十字靭帯損傷の発生メカニズムには以下の3つの因子が考えられる
- 前十字靭帯損傷の受傷リスクが高い膝関節運動が生じやすい人(個人因子)
- 競技特性や疲労により競技中に受傷リスクを高める因子が加わる場合(トレーニング因子や環境因子)
- 素早く速度が変化する動作、片脚動作、膝の軽度屈曲位など、前十字靭帯への力学的な負荷が高まる場面で、受傷リスクの高い膝の姿勢で動作を行う場合(競技スキルやパフォーマンスの因子)
力学的要因
- 前十字靭帯は、脛骨の前方剪断力に加え内旋トルクや外反トルクに抗して緊張が高まり、前十字靭帯自然長からの伸び率を表す指標である歪みが大きくなる
- さらに、屈曲角度が浅い肢位で膝関節に力やトルクが加わった場合、屈曲角度が深い肢位の場合より大きな歪みが生じやすい
- 日常生活レベルの運動における前十字靭帯の歪みを以下に示す
- 動作の種類からみると、膝関節が伸展位に近い動作で前十字靭帯の歪みが大きく、40~50°を超えて屈曲角度が大きくなる動作では歪みは小さくなる
疫学的な調査から
- 前十字靭帯損傷の発生型は、およそ70%が他者とのコンタクトを伴わない非接触型損傷によって生じ、急激な減速動作や方向転換、ジャンプ後の着地動作など、瞬間的に大きな力が加わる動作で発生する
- 受傷時の特徴的な姿勢として、膝の軽度屈曲および外反姿勢、片脚での着地などが挙げられている
- 前十字靭帯損傷者の多くは、受傷時だけでなく、通常の着地動作やスクワットなどの荷重動作中に膝k何背う外反角度が大きくなる傾向がみられ、外反トルクも大きな値を示す
- 臨床的には、膝関節の外反運動には股関節の内旋・内転運動が関連する
- 片脚の動作では、骨盤の回旋運動を伴う膝関節の内方移動や、前足部荷重時の急激な足部回内運動を伴う下腿の内方への傾斜などが膝関節外反に関連する
- 動作中の外反トルク値は、疲労時、リアクションを伴う動作時、上肢の運動を伴う動作時に大きくなることがわかっている
前十字靭帯再建術後の影響
再建グラフトの組織学的治癒と力学的強度の経時的変化
- 再建グラフトの用いられているのは、半腱様筋県や薄筋腱や骨付き膝蓋腱などの腱組織である
- 腱組織は靭帯組織より総コラーゲン量は多いが、Ⅲ型コラーゲン線維やプロテオグリガン含有量は少ない
- 本来の靭帯と組織特性が異なるグラフトは、再建術後に組織壊死に引き続き、術後3週間から血管の湿潤が開始され、線維芽細胞の増殖と成長因子の放散、Ⅲ型コラーゲン線維の賛成を導く
- 術後6ヶ月以降からグラフトに占めるコラーゲン線維の比率が増加し、術後約1年で正常前十字靭帯に近い組織となる
- この一連のプロセスは靭帯化と呼ばれるが、線維径短いなど、正常前十字靭帯とまったく同様の組織特性にはならないと考えられている
- 再建グラフトは骨孔内で骨と強固に結合し、再建靭帯としての機能を果たす
- 結合様式には2種類あり、線維軟骨からなる4層構造を有する direct type と、骨に線維に垂直に走るⅢ型コラーゲン線維によって結合する indirect type とがある
- 正常前十字靭帯や膝蓋腱は direct type であり、薄筋腱は indirect type である
- 骨孔内における治癒過程が異なり、半腱様筋では結合が強固になるのが12週程度なのに対し、膝蓋腱では6~12週であり、組織学的治癒の観点からは膝蓋腱が有利と考えられる
前十字靭帯再建術が膝関節の機能や運動に及ぼす影響
- 前十字靭帯再建術後の膝関節機能の問題として以下の3点がある
- 侵襲による炎症症状
- 術総部の瘢痕化と周囲組織との癒着
- 関節可動域制限
炎症症状
- 初期の炎症症状は侵襲による術創部や関節内の炎症が中心である
- 術後2週間以上経過した膝の炎症症状が残存する場合は、膝関節機能に見合わず運動処方がカフカになっていることや、歩容に異常パターンを抱えたまま過度に移動動作を行っていることが背景にある
- 術後の炎症症状は、運動処方が機能回復に即した適切な内容であるか否かを判断できる判断できる重要な指標である
- 炎症症状が長引くと、関節鏡刺入部の線維化が生じ、anterior interval (膝蓋腱や膝蓋支帯、膝蓋下脂肪体、前方滑膜や滑液包)の癒着が起こりやすくなる
- 加えて、内側広筋が底緊張となることで、膝蓋骨の最大挙上を十分に行えない状態となる
- 前十字靭帯再建膝の膝蓋骨トラッキングは、正常膝や前十字靭帯不全膝と比較し、膝関節屈曲0~30°において外方傾斜、外方偏位、valgus rotation (膝蓋骨下極の外側への回旋)が増大する
- anterior interval の癒着と筋機能の低下が慢性化することで、屈曲・伸展運動の可動域制限を生じる悪循環となり、膝前面痛の原因ともなる
術創部の瘢痕化と癒着
- 膝蓋腱を用いた再建術後の合併症として、膝前面痛や伸展筋力の低下が挙げられる
- 膝蓋腱再建では anterior interval への直接侵襲が大きく、癒着が比較的多くみられ膝前面痛が比較的起こりやすいが、kneeling の痛みを除けば長期的には差がなくなってくる
- 薄筋を用いた術式においても、膝前面痛は一定数存在する病態であることから、原因が膝蓋腱採取のみではないことを意識しておく必要がある
- 膝蓋腱再建術後の伸展筋力は、術後4~8ヶ月の段階では薄筋腱を用いた再建の場合より筋力低下が大きいが、術後1年でほぼ同程度にまで回復する
再建術後の歩容
- 再建術後の歩容は、正常歩行と比較して、立脚中期から終期にかけて伸展角度が減少し、遊脚初期から遊脚中期にかけて屈曲角度が減少する
- 股関節では、初期接地から立脚期にかけて屈曲角度が増加する
- 臨床的には、立脚終期から遊脚前期にかけて、骨盤の同側回旋がみられる場合が多い
- 術後早期では、内側広筋の荷重応答での活動が十分ではなく、大腿二頭筋は遊脚前期に過活動を起こす
- 異常パターンでの歩容を繰り返す期間が長ければ、機能回復に時間がかかることが多い
参考文献
膝前十字靭帯損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法 (理学療法 29巻2号 2012年2月 鈴川仁人)
膝半月板損傷 半月板の構造と機能・荷重分散機能・関節の安定化機能・発生原因・断裂の様式・原因動作・理学療法評価・
概要
- 半月板損傷は膝疾患の中でも発生頻度が高く日常的にみられる疾患の一つである
- 半月板損傷の治療では損傷部位や範囲などを考慮した保存療法が施行されるか、観血療法として半月板切除術、半月板縫合術が選択され理学療法が施行される
- 半月板損傷の程度や範囲、損傷形態、受傷機転などは千差万別である
- 個々の病態の正確な把握と、損傷部位への力学的ストレスをいかに軽減させるかが、半月板損傷後の膝機能を改善するうえで重要となってくる
半月板の構造と機能
機能解剖
- 半月板の主に機能は以下の4つがある
- 関節の荷重伝達
- 関節の安定化
- 関節湿潤
- 関節軟骨の栄養補給
- 組成はタイプⅠコラーゲンが全体の90%以上を占めている
- コラーゲン線維は、円周状に走行する主線維が、中心方向に放射状に走行する線維によって補強されるように配列しており、線維が円周方向に裂けるのを防いでいる
- さらに、表層のすぐ下の層は線維が不規則に入り組んでおり、関節表面に加わる様々な応力に適応できる構造となっている
- 半月板は、成長に伴い内縁の血行が乏しくなり、成人では外縁の10~30%しか血液が供給されていない
- 組織の治癒には血流が必要であることから、血流が乏しい内縁付近では治癒が起こらないと考えられている
- したがって、半月板縫合術は結構領域の損傷のみに適応されている
内側半月板
- C字状を呈し、辺縁部は関節包や内側側副靭帯深層により脛骨に強固に固定されているため、可動性は小さい
外側半月板
- O字状を呈し、辺縁部は関節包や外側側副靭帯と連結しないため、内側半月板に比べて可動性は大きい
運動学
- 膝関節運動に伴う半月板の移動方向は以下の通りである
バイオメカニクス
荷重分散機能
- 半月板は膝関節に生じた荷重を一部伝達している
- 膝関節の内側コンパートメントに生じた応力の50%を内側半月板が、外側コンパートメントに生じた応力の70%を外側半月板が担う
- 膝関節伸展位では応力の50%を半月板が伝達する
- 膝関節屈曲位では応力の85~90%を半月板が伝達する
- 半月板は断面がくさび状であるため、軸圧が加わると円周方向の張力に変換され、最終的には前角と後角の脛骨付着部に吸収される
関節の安定化機能
- 半月板の断面の形状が大腿骨顆部を中心方向に戻すベクトルに作用し、関節の安定化に寄与する
- 前十字靭帯不全膝では、内側半月板の特に後角が脛骨前方移動に重要な役割を果たす
- 靭帯機能が低下した膝では、半月板がスタビライザーとして関節安定性に寄与することが示唆される
半月板損傷の分類と発生メカニズム
発生原因
発生原因は以下の3つに分類される
- スポーツなどにおける外傷性断裂(靭帯損傷を伴う場合もある)
- 加齢による中高年の変性断裂
- 円板状半月を誘因とした若年者の断裂
断裂の様式
- 縦断裂
- 横断裂
- 水平断裂
- フラップ状断裂
- バケツ柄状断裂
- 変性断裂
原因動作
- スポーツでは切り返しやジャンプ動作を反復する種目が挙げられる
- 基本的には、膝屈伸動作と内外旋の協調性が崩れた時に生じることが多い
- 内側半月板であれば、膝軽度屈曲位で脛骨外旋が強制されたとき、または、膝深屈曲位で固い外旋が強制されたときに生じる
- 加齢による半月板の変性断裂は、内側半月板後節を中心に発生する
- 先天的要因、スポーツによる負荷、生活様式(和式)、肥満などが原因となる
- 誘因なく膝関節内側痛を訴えることが多い
- とくに中高年では、変形性膝関節症の曽木症状である可能性が考えられる
半月板損傷の理学療法評価
- 評価の際に重要な3点
- 画像診断および術中所見と症状が合致しているか否かの検討
- 受傷部分へのストレスの増減と症状との関係の把握
- 受傷に至った原因の追究
問診
- 受傷時の膝の屈曲角度や内外反、内外旋に関する情報
- 運動時痛の有無および部位
- 疼痛を生じる動作の種類
- 疼痛が出現する角度
- 荷重痛の有無
- キャッチングやロッキングの有無
視診・触診
- 関節水腫
- アライメント異常の有無(膝関節内反、脛骨外旋)
- 損傷側の半月板に一致した圧痛
関節可動域
- 膝関節屈伸
- 疼痛が出現する部位および角度
- 膝関節屈伸に伴う下腿内外旋の動き
- 疼痛により可動域が制限されている場合、大腿骨と脛骨の位置関係を徒手的に操作して疼痛や可動域の変化を確認する
- ロッキング症状が疑われた場合、医者に報告し治療方針を相談する
- 足関節背屈
- 股関節内外旋
筋力
- 大腿四頭筋
- 特に内側広筋の機能低下が認められることが多い
- 内側ハムストリングス
- 体幹
- 股関節
特殊検査
- マックマレーテスト
- アプレーテスト
- 跳ね返りテスト
- ディスコ検査
スクワッティングテスト
- 患側下肢を一歩前に出した状態で前足に荷重させ、膝をまっすぐ、または、内反位、外反位に誘導し疼痛の変化を確認する
- その際、足部を内向きにしたり外向きにしたりして回旋の動きも誘導する
- また、膝の屈曲角度をさまざまに変えて疼痛の変化を確認する
- 膝外反位で疼痛が出現すれば外側半月板損傷が疑われる
- 膝内反位で疼痛が出現するば内側半月板損傷が疑われる
姿勢および動的アライメント
片脚立位
- 遊脚側の骨盤が降下するトレンデレンブルグ徴候
- 体幹を支持側に傾けるデュシェンヌ徴候
片脚スクワット
- ニーインアライメント
参考文献
膝半月板損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法 (理学療法 29巻2号 2012年2月 松本尚)