腰椎・腰部の機能解剖 関節突起・椎間関節・椎弓根・前縦靭帯・後縦靭帯・黄色靭帯・棘間靭帯・棘上靭帯・横突間靭帯・腸腰靭帯・椎間板・関節軟骨・関節包・滑膜

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関節突起および椎間関節

  • 関節突起の関節面の形状は、腰椎の運動とその安定性に大きく関与している

 

  • 上関節突起の関節面は、後内方を向き凹面をなし、下関節突起の関節面は前外方を向き凸面をなす

 

  • 連結する2つの腰椎を側方から観察すると、上位腰椎の下関節突起は、下位腰椎の上関節突起の内側に位置する

 

  • 仮に、連結した腰椎の上位腰椎を下位腰椎対し前方に滑らせようとすると、下関節突起が制動される

 

  • さらに、上位腰椎を下位腰椎に対し回旋すると、回旋と反対側の上下の関節突起(左回旋であれば右の)がぶつかり、回旋が制動される

 

  • 椎間関節の関節面は、頚椎では水平面に近いのに対し、腰椎ではほぼ垂直に起き上がっている

 

  • また、上位腰椎では矢状面に近く、下位腰椎では前額面に近く

 

  • 一方、胸椎の関節面は前額面を向く

 

  • つまり、胸腰椎移行部では急激な関節面の変化が起こる

 

  • 腰椎の上位に位置する胸椎では胸郭を形成し一塊となるため、胸部に大きな外力が加わると、そのストレスは胸腰椎移行部に集中しやすい

 

  • これは、外傷性対麻痺の好発部位が胸腰椎移行部であることに関連する

 

  • 上記のように、腰椎の関節面が矢状面に近くほぼ垂直であるため、腰椎の運動は屈曲・伸展方向への制限は少ないが、回旋および側屈方向には制限が大きい

 

 

椎弓根

  • 椎弓根は、椎体と棘突起や横突起などの後方要素をつないでいる

 

  • 後方要素は、棒状の突起はさまざまな方向へ伸びており、筋や靭帯が付着している

 

  • 後方要素の付着する筋の収縮はレバーを引くように作用し、その力が椎弓根を経て椎体に伝わる

 

  • 椎体自体に滑りや回旋を制動する術がないため、椎弓根が後方要素に加わった力を椎体へ伝えなければならない

 

  • そのため、椎弓根は強度が求められるが、その断面は厚い壁を有する円柱をなしている

 

 

各椎骨の特徴

  • 腰椎の基本的な構成要素は同一であるが、その形態は椎骨間で若干異なる

 

  • 特に第5腰椎は、仙骨と関節を形成していることもあり、特徴的である

 

  • 仙骨の仙骨底は前下方に傾斜しており、立位における仙骨底と水平面がなす角度(仙骨角)は約40°とされている

 

  • そのため、第5腰椎には常に仙骨上を前方へ滑る力が働いている

 

  • 第5腰椎と仙骨の連結部における前後方向の安定性には、前縦靭帯と腸溶靭帯が主に関与する

 

  • さらに、第5腰椎と仙骨の椎間関節の関節窩は広く、前額面に近い角度で傾斜しているため、この部位で発生する前方剪断力に部分的に抵抗することができる

 

  • 第5腰椎の椎体は前方が後方より厚く、楔形をしている

 

  • 前方と後方の厚さの比率は第5腰椎で 0.88 と報告されている

 

  • 第5腰椎の横突起は他の腰椎のものよりも太く、椎体から椎弓根の全長にわたって付着している

 

  • そこへ強力な腸溶靭帯が付着し、仙骨へ固定している

 

  • 第4腰椎は横突起が短く、椎体が他の腰椎より相対的に広めである

 

  • 第3腰椎は、関節面が相対的に中間的な方向を向き、横突起は長い

 

  • 第1腰椎と第2腰椎は関節面あ矢状面に近く、第1腰椎は第2腰椎より副突起が発達し、横突起が短い

 

 

腰椎の靭帯と椎間板

前縦靭帯

概要
  • 後頭骨底部から仙骨にかけて椎体と椎間板の前面を走行しており、頭側で狭く、腰椎領域では発達して広い

 

  • 上下の椎体に付着する短い線維と、いくつかの椎体をまたぐ長い線維から構成される

 

  • 深部では短い線維が走り、椎体の前面の骨あるいは骨膜に付着する

 

  • 椎間板上では線維輪の前面に付着している

 

  • 長い線維は深部の短い線維を数層で覆う

 

  • それは2~5つの椎体間を走行し、付着している

 

 

機能

  • 脊柱全体の安定性

 

  • 伸展および過度の前弯の制限

 

 

後縦靭帯

概要

  • 後頭骨底部から仙骨にかけて脊柱後面に付着している

 

  • 頭側で広く、腰椎領域では細くなる

 

  • そのため、腰部における椎間板ヘルニアを抑制する機能は限られる

 

  • 深層の短い線維は弓状に走行し、外側へ広がるようにして椎間板後面に付着している

 

 

機能

  • 脊柱全体の安定性

 

  • 屈曲の制限

 

 

黄色靭帯

概要

  • 短く厚い靭帯で、上下の椎弓板を連結している

 

  • 左右対称に存在し、脊柱管を閉鎖する

 

  • 上方は椎弓板の前面下部と椎弓根の下部に付着し、下方は下位の椎弓板上縁および背面に付着している

 

  • 外側部では、椎間関節の前面を走行し、その関節の下関節突起と上関節突起の前面に付着している

 

  • 他の靭帯と異なるのは、弾性を有することであり、中間位から最大屈曲すると35%伸びる

 

 

機能

  • 椎弓板の離開を防ぐ

 

  • 屈曲を制限する

 

 

棘間靭帯

概要
  • 棘間靭帯は上下の棘突起を連結する

 

  • 腹側部は黄色靭帯背側部から上位の棘突起下縁の前1/2へ、中間部は棘突起上縁の前1/2から上位の棘突起下縁の後1/2へ、背側部は下位棘突起上縁の後1/2から上位棘突起の後縁背側へそれぞれ付着する

 

 

機能

  • 屈曲の制限に作用する

 

 

棘上靭帯

概要

  • 棘突起先端に付着し、上下の棘突起を連結する

 

  • 腹部では腰背筋群の線維に混入し、不明瞭である

 

 

機能

  • 屈曲の制限に作用する

 

 

横突間靭帯

概要

  • 隣接する横突起間に広がる靭帯

 

  • 腰部では良く発達している

 

 

機能

  • 対側への側屈を制限する

 

 

腸腰靭帯

概要

  • 前腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の前下縁の全長から後外側に走行し、腸骨稜前縁に付着している

 

  • 上腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の先端から腰方形筋を包むように分割し、腸骨稜に付着している

 

  • 後腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の先端から腸骨粗面に付着している

 

  • 下腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の下縁と第5腰椎椎体から仙腸靭帯上を横切り、腸骨窩の上部と後方部分に付着している

 

  • 垂直腸腰靭帯は、第5腰椎横突起の前下縁から垂直に下方へ走行し、弓状線の後面に付着している

 

 

機能

  • 第5腰椎の仙骨に対する前方への滑りを制動し、回旋・前後屈・側屈を制限する

 

 

線維輪

  • 線維輪はタイプⅠコラーゲン線維から構成されるため、伸展に抵抗する

 

  • 線維輪の外側1/3の線維は椎骨の輪状骨突起に付き、上下の椎体を連結して靭帯のように作用する

 

  • 脊柱の捩れや屈伸では外側の線維は椎体の中心よりも離れるため、伸張が大きくなる

 

  • これらの運動に抵抗するように線維輪が機能する

 

  • 線維輪の線維は、水平面に対し傾斜して走行しており、隣接する層の線維は反対方向に走行している

 

  • 線維輪の線維の走行が一方向性ではなく交互性であることは、さまざまな方向への制動を可能とする

 

 

椎間板

髄核

  • 髄核は粘液物質からなる半流動体であり、組織学的にはいくつかの軟骨細胞と、不規則に並ぶコラーゲン線維からなる

 

  • 髄核に圧が加わると変形するが、容積は変化しない

 

  • 髄核は主として体重支持に関与し負荷を伝達し、線維輪を支持する働きがある 

 

 

線維輪

  • 線維輪は規則正しく配列されたコラーゲン線維からなる

 

  • コラーゲン線維は層板を形成し、10~20枚の層板が髄核を包むように同心円状に配置されている

 

  • コラーゲン線維の方向は層板毎に異なり、各層板のコラーゲン線維は網目状に交差するように配列されている

 

  • 線維輪は靭帯のように作用し、運動を制限し、関節を安定させる働きがある

 

 

線維輪の線維方向と運動

  • 各層板を形成するコラーゲン線維は垂直線に対して約65°の角度をなす

 

  • この角度は、あらゆる方向の動きに抵抗できるように計算されている

 

  • この角度が65°よりも大きい場合は、理解や屈曲に対する制限力は増加するが、滑走や回旋に対する抵抗力は低下する

 

 

離開
  • 腰椎牽引のように椎間板に長軸方向の負荷(離開)が加わると、線維輪のコラーゲン線維の付着部が離れ、すべてのコラーゲン線維が等しく緊張し、離開を制限する

 

 

滑走
  • 上位椎骨が下位椎骨上を平行移動する椎体間関節の滑走運動では、線維輪のコラーゲン線維の走行および位置により作用が異なる

 

  • 前方滑走を例によると、側方に位置するコラーゲン線維のうち、滑走方向と同じ方向に走行するコラーゲン線維は緊張し、滑走方向とは異なる方向に走行するコラーゲン線維は弛緩する

 

  • コラーゲン線維の方向が層板毎に逆方向となるため、側方に位置するコラーゲン線維の1/2が緊張し、運動を制限する

 

 

転がり運動
  • 屈曲のような転がり運動では、椎体の一端が低くなり、他端が高くなる

 

  • その結果、低くなった方の線維輪が圧迫され高くなった方の線維輪が伸張される

 

  • 同時に、椎体が傾斜した側の髄核が圧迫される

 

  • 例えば、屈曲運動に伴う椎体の傾斜により主として髄核の前方部分が圧迫される

 

  • 髄核はこの圧迫から逃れるために後方に移動する

 

  • この時、椎間板に負荷が加わると椎間板圧が上昇し、この圧が椎体の後方離開によりすでに伸張された後方の線維輪に作用する

 

  • このような伸張と圧迫の組み合わせに抵抗できない場合は、髄核の圧により、残存している層板が断裂し、髄核の膨隆やヘルニアが起こる

 

 

回旋
  • 線維輪のコラーゲン線維の方向が交互に異なるため、運動方向と同じ方向の線維のみの付着部が離れ、運動方向とは逆方向に走行する線維の付着部は近づく

 

  • したがって、一側の回旋に対して、前コラーゲン線維の1/2の線維が抵抗し、残りの1/2の線維は弛緩する

 

 

腰椎椎間関節

  • 脊柱の椎間関節は、上位椎骨の下関節突起と下位椎骨の上関節突起で形成される滑膜関節である

 

  • 四肢の滑膜関節のように、関節面は関節軟骨(硝子軟骨)で覆われ、関節軟骨の縁に滑膜が付着している

 

  • 滑膜は関節包に覆われている

 

  • 関節包は関節軟骨から離れた関節突起に付着する

 

  • 腰椎椎間関節の関節面を後方から見ると、矢状面に位置し、その平坦な形状から平面関節に分類される

 

  • 腰椎椎間関節の横断面の形状はさまざまであり、関節面がカーブしているのもや、上関節面がC形やJ形をしているものがある

 

  • 横断面における腰椎椎間関節の関節面の形状は、L1-2、L4-5、L5-S1間は比較的平坦である

 

  • L2-3、L3-4間はカーブしている関節が多い

 

 

横断面における関節面の形状と機能

  • 腰椎椎間関節の横断面の形状は、椎間関節の前方変位や回旋の可動性に影響を与える

 

  • 椎間関節の関節面の方向は、平坦な関節では関節面に平行な線が矢状面となす角度で表し、関節面がカーブしている関節では関節腔の前内側端と後外側端を通る線が矢状面となす角度で表す

 

  • 上関節面が前額面に位置する関節では、関節面が後方を向くため、前方変位に対する制限力が最大となるが、回旋時に対する制限力は最小となる

 

  • これに対して、上関節面が矢状面に位置する関節では、回旋に対する制限力が最大となるが、前方変位に対する制限力は最小となる

 

  • 上関節面が前額面と矢状面の中間に位置する関節では、上関節面が後内側を向き、前方変位と回旋の両者を制限することができる

 

  • 上位椎骨が前方へ動こうとすると、その椎骨の下関節突起が下位椎骨の上関節面に衝突し、前方への動きが制限される

 

  • また、上位椎骨が半時計方向に回旋しようとすると、上位椎骨の右側の下関節突起が椎骨の右側の上関節面と衝突し、それ以上の回旋が制限される

 

  • 関節面がカーブしている関節では、後方を向いている上関節面の内側端が前方変位を制限する

 

  • 上位椎骨が前方に動こうとすると、上位椎骨の下関節面が下位椎骨の上関節面の前内側部に衝突する

 

  • 後方に向く関節面の面積が大きいC形関節面は、後方を向く関節面の面積が小さいJ形関節面よりも制限力が大きい

 

  • 回旋に対しては関節面全体が接触するため、C形とJ形の両者が回旋を制限する

 

  • 横断面における関節面の角度は、上位腰椎よりも下位腰椎の方が大きく、下位腰椎では前方への変位に対する制限力が大きくなっている

 

  • また、L3-4、L4-5、L5-S1椎間関節では45°の角度をなす関節が多く、前方滑走と回旋の両者を制限している

 

 

関節軟骨

  • 上下の関節突起を覆っている関節軟骨は、四肢関節の関節軟骨と全く同じである

 

  • 正常な関節では、関節面の中心部が最も厚く、約2㎜程度である

 

  • 組織学的には4層(表層、中間層、放射層、石灰化層)からなる

 

 

関節包

  • 腰椎椎間関節の関節包は、上位椎骨の下関節突起から、下位椎骨の上関節突起に向かって横断方向に走行するコラーゲン線維からなる

 

  • 関節包は2層からなる

 

  • 外側層は、密性の平行に配列するコラーゲン線維からなり、内側層は不規則性に走行する弾性線維からなる

 

  • 関節包は背側で厚く、多裂筋の深部線維により補強されている

 

  • 関節の上部と下部では、骨軟骨移行部から離れたところに関節包が付着し、上下の関節突起の上端と下端に、関節包下ポケットという空間を形成する

 

  • 関節包の上部と下部には小さな孔があり、脂肪が関節包内から関節包外へ移動できる

 

  • 腰椎椎間関節の上方、下方、後方はこのような線維性の関節包で包まれるが、前方は黄色靭帯に置換される

 

  • 関節包の最外側の線維は関節軟骨の縁から2㎜のところに付着するが、いくつかの最深部の線維は関節軟骨の縁に付着する

 

 

滑膜

  • 四肢の滑膜関節にみられる滑膜と同様であり、特別な特徴はない

 

  • 椎間関節の滑膜は関節軟骨の遠位全縁に付着し、関節を横断し、対側の関節軟骨の縁に付着する

 

  • 滑膜は線維性の関節包と黄色靭帯の深層を覆うが、一部は反転して、椎間関節の種々の関節内組織を包む

 

 

関節内組織

脂肪
  • 脂肪は主として関節の上部と下部の関節包の下に位置し関節包内の空間を満たす

 

  • 脂肪の外側は関節包に覆われ、内側は滑膜で覆われる

 

  • 脂肪は、関節包にある孔を通って関節内外を移動することができる

 

  • 関節包外に出た脂肪は、上方では椎間板の外側で椎間孔の背側に位置し、下方では椎弓上端の背側に位置し、骨とその上方の多裂筋の間に位置する

 

 

半月様組織

1.結合組織縁

  • 単純かつ最小の組織であり、関節包の内面が楔状に肥厚したものであり、空間を埋める役割をしているものと考えられる

 

  • 関節が衝突する時の接触面積を大きくし、荷重を伝達する役割を果たす

 

 

2.脂肪組織パッド

  • 主として関節の上腹側と下背側にあり、血管と脂肪を取り囲む滑膜ヒダからなる

 

  • 2㎜ほど関節内に突き出ている

 

 

3.半月組織

  • 最も大きな半月組織であり、上下の関節包の内面から突き出す線維脂肪性半月である

 

  • これらは滑膜のヒダで構成され、血管、コラーゲン、脂肪を囲んでいる

 

  • 脂肪は主にその構造の底部にあり、ここで関節内脂肪に続き、関節包の上下の孔を通って、関節外の脂肪と交通する

 

 

 

参考文献

腰椎・腰部の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 根地嶋誠)

 

腰椎椎間板および腰椎椎間関節の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)