腰部のバイオメカニクス

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腰背部の運動学

体幹伸展によって生じるストレス

  • 腰椎伸展時は、前縦靭帯などの腰椎前方には伸張力、後方の椎間関節や棘突起などの棘間には圧縮力が高まる

 

  • これに伴って椎間孔の直径は11%狭小し、脊柱管の容積も15%減少して脊柱後方へのストレスが増大する

 

  • 死体による検討では、椎間関節包と後方靭帯への負荷はそれぞれ40%、20%に達するとされている

 

  • 椎間関節の機能は、椎体間の動きを制限することと、軸方向の荷重を受けることである

 

  • 腰椎椎間関節は上下2つの腰椎を結びつける一対の滑膜関節であり、上位腰椎の下関節突起と下位腰椎の上関節突起とからなり、椎間板とともに脊椎のモーターセグメントを構成し、関節列隙の方向は上い椎間関節になるほど歯状化し、逆に下位腰椎になるほど冠状化しているのが特徴となる

 

  • 歯状化している椎間関節では回旋運動を制限し、冠状化している椎間関節では前屈した際の前方への剪断力を制限する

 

  • また、腰椎を伸展すると軸方向荷重の約16%を受けるが、脊椎に変形があるとその荷重は70%程度まで増加するとされる

 

  • これは、椎間関節包は前方は黄色靭帯、後方は棘上靭帯で補強されているが、椎間関節の運動を制御しているのは椎間板の最外層の線維輪であるため、線維の変性変化が起こると関節の遊びが大きくなり荷重を受けやすくなるとされている

 

  • そのため、腰部脊柱管狭窄症のように加齢による変性が主な原因での脊柱後方の障害では腰部の伸展障害が著名となることが多い

 

  • しかし、この逆にこの伸展の際に椎間板内で髄核が前方へ移動するため、後方の椎間板への負荷は減少する

 

  • この運動学的特徴が、腰椎椎間板ヘルニア例における症状緩解のメカニズムとなっている

 

  • このメカニズムを利用した治療法がマッケンジーの伸展エクササイズである

 

  • また、体幹伸展時は腰椎の前弯が増強することになるが、腰最長筋などのアウターマッスルの活動が優位にとなった場合、腰椎前弯が増強して脊柱後方へのストレスはさらに増大する

 

  • これに比してインナーマッスルである多裂筋の活動により椎体の垂直方向への安定性が増加し、腰椎前弯の増強が抑制される

 

  • したがって、近年では腰部・脊柱安定化エクササイズなどのモーターコントロールエクササイズが重要視されている

 

 

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体幹屈曲によって生じるストレス

  • 体幹屈曲時は椎体をはじめとする前方組織が圧迫を受け、後方の椎間関節包や靭帯には引き離し張力が働く

 

  • そのため、椎間孔の直径は19%、脊柱管の容積は11%増加する

 

  • 椎間関節は、屈曲し始めは圧迫ストレスは減じるものの、最終屈曲時には上下の関節突起により上方への椎体へ生じる前方剪断力拮抗して後方ストレスが増大する

 

  • その際、髄核は後方へ移動する

 

  • したがって、腰椎椎間板ヘルニア例では体幹屈曲により症状が悪化する場合があることを念頭に置く必要がある

 

  • 立位の膝伸展位での体幹屈曲時には腰椎屈曲が約40°、股関節屈曲が約70°の組み合わせで行われ、この運動学的関係を腰つい骨盤リズムと呼ぶ

 

  • ハムストリングスの短縮などにより股関節屈曲の制限が認められると、下位胸椎では通常よりも屈曲の増大が強いられる

 

  • 逆に腰椎に屈曲制限が認められると、股関節は通常より大きな屈曲を強いられることになる

 

腰部屈曲伸展による生体力学的影響

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仙腸関節へのストレス

  • 仙腸関節は、その位置および構造的特徴から、脚長差はもちろん、腰椎や骨盤の不良姿勢によって大きなストレスを受けやすい

 

  • しかし、腰痛の多くが仙腸関節の機能障害や不良なアライメントに起因するという考え方を裏付けるメカニズムについては、依然合意には至っていない

 

  • したがって、仙腸関節だけが腰痛や背部痛の原因になるということはあり得ない

 

  • 仙腸関節は矢状面で比較的小さな回転・並進運動を担っており、その平均可動域は回転が0.2~2°、並進が1~2㎜とされている

 

  • 仙腸関節の運動として、腸骨に対する仙骨底部の相対的な前傾を意味する前屈運動(ニューテーション)、仙骨底部の相対的な後傾を意味する後屈運動(カウンターニューテーション)がある

 

  • 仙腸関節は、前屈トルクを生む力によって安定化される

 

  • この前屈トルクは体重や靭帯の伸張でも生じるが、腰椎・骨盤周囲筋の筋収縮が安定化により貢献する

 

  • そのため、仙骨への前屈トルクを高めるためには脊柱起立筋、腰部多裂筋、外腹斜筋、腹直筋、ハムストリングス(大腿二頭筋)などお筋力強化が重要となる 

 

 

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参考文献

腰椎・腰部のバイオメカニクス的特性 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)