下部体幹の筋群
腹筋群の役割とその捉え方の視点
- 腹筋群は、体幹の可動性と安定性に関わる
- 腹筋群の主な役割は、以下の3つがある
- 脊柱の安定化を図る
- 骨盤と脊柱の最適なアライメントを保つ
- 四肢の運動時での体幹や骨盤による代償運動を防ぐ
- 例えば、荷物を持ち上げるためには腰椎が安定していることが求められるが、腹筋群を収縮させることで腹腔や胸腔の内圧を高めて腰椎を安定させる
腹直筋
作用
- 体幹の屈曲と骨盤後傾、腹腔・胸腔内圧を高める
- 呼吸にも関与している
概要
- 腹直筋は腱膜に包まれており、他の腹筋群の付着部にもなっている
- したがって、付着しているどの腹筋群が活動しても腹直筋は収縮する
- 体幹を屈曲しながら骨盤後傾を行うと、内腹斜筋や外腹斜筋よりも腹直筋の活動が優先的に大きくなる
- 体幹や骨盤を固定させることで下肢の円滑な運動を行えるように、安定性を提供している
- SLRは下肢重量の約10倍を上回る股関節屈曲筋力を必要とするが、腹直筋の筋力が低下していると、下肢の重量を支えられずに骨盤前傾と腰椎前弯が生じる
- つまり、過度の腰椎前弯があると、腹直筋の筋力低下が疑われる
- したがって、下肢の運動を腹筋群による骨盤の安定作用に依存しているのである
- 不安定な状態でトレーニングを行うことで、より腹直筋の活動を増加させる効果がある
- 腹直筋は、スポーツの種類によっては、利き手側と非利き手側の腹直筋の厚さに左右差があることが報告されている
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外腹斜筋
作用
- 左右両側が同時に活動する際に腰椎後弯と骨盤後傾に働く
- 一側が活動すると骨盤を側方挙上させる
- 左外腹斜筋と右内腹斜筋が活動すると、体幹は右側へ、骨盤は左側へ回旋する
概要
- 腹斜筋の筋力低下は回旋の制御能力低下を意味する
- その他に、腰椎を安定させるために作用したり、腹式呼吸での呼気に作用したりする
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内腹斜筋
作用
- 両側が同時に収縮すると体幹が屈曲する
- 一側のみが収縮すると同側の骨盤が挙上する
- 腹式呼吸時の呼気に作用する
概要
- 外腹斜筋と直角に走行する
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腹横筋
作用
- 腹壁を平らにすること、腹腔内圧を増大させること、脊柱のアライメントを整えること
概要
- 腹部の筋のうち最も深部に位置し、筋線維は腹部のベルトのように横に走行する
- このことから、コルセット筋としても知られる
- 胸腰筋膜に付着することから、腰つの安定化にも関与する
- 立位姿勢で上下肢を動かす際に姿勢保持のために最初に活動するのが腹横筋である
- 腰痛患者では腹横筋の活動の遅延が確認されており、この筋活動の遅延が腰痛の原因の一つとされている
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腸腰筋
作用
- 股関節の屈曲、外旋、外転、骨盤前傾に作用する
- 腰椎の側屈と前弯、腰椎を安定させる
概要
- 座位で体幹を垂直位に保持したまま骨盤を前傾させ、腰椎を前弯させるのに最も適した筋である
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胸腰筋膜
- 胸腰筋膜は脊柱起立筋を包み込み、広背筋や大殿筋、大腿二頭筋と連結している
- 内腹斜筋や外腹斜筋の起始部にもなる
- このように広範囲に付着することから、腹筋群や殿筋などが収縮すると胸腰筋膜の緊張が増大する
- 胸腰筋膜はさまざまな方向から引っ張られることで緊張が増加し、腰背部、特に下部腰椎の力学的な安定化に大きく貢献している
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広背筋
作用
- 脊柱の伸展方向の力を生み出し、骨盤の前傾を引き起こす
概要
- 腰椎と骨盤のアライメントに関与する
- 広背筋が短縮している場合、肩関節を屈曲して広背筋を伸張すると、背部が代償的に伸展する
- 腰痛患者で広背筋の短縮がある場合、手を頭より高く挙上しただけで腰椎が伸展し、腰痛を引きお起こす可能性がある
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多裂筋
作用
- 前屈時の遠心性収縮により、脊柱の屈曲や前方剪断力をコントロールする
概要
- 棘突起に付着しているため、横突起に付着している脊柱起立筋よりも脊椎を伸展させるレバーアームが長い
- 片側に腰痛を訴える患者では同側の多裂筋の萎縮を認めることがあるため、その萎縮に対するアプローチが必要となる
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腰方形筋
作用
- 両側が収縮すると腰椎を伸展させ、骨盤を挙上する作用がある
- 歩行時には足部を地面から持ち上げる動作に関与する
概要
- 大腰筋とともに、脊柱の縦方向への強力な安定化作用を持つ
- 腰椎横突起に付着しているため、骨盤が固定された状態で収縮すると、体幹が側屈する
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大腿筋膜張筋および腸脛靭帯
作用
- 股関節の屈曲と外転、内旋である
概要
- 大腿筋膜張筋に引っ張られることで腸脛靭帯は張力を保ち、その張力によって股関節と膝関節の外側面の安定性を提供している
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大殿筋
作用
- 股関節の伸展、外旋、外転(主に上部線維)、内転(主に下部線維)、骨盤後傾、下肢に対する体幹の伸展である
概要
- 大殿筋の約80%は腸脛靭帯に入り込むため、大殿筋は股関節内転の可動域制限に関与することがあるほか、短縮があると座位姿勢で代償的な腰椎後弯がみられることがある
- 立位では、大殿筋は膝関節伸展最終域の20~30°程度の膝関節伸展に作用する
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参考文献
下部体幹の筋群の機能解剖学的理解の要点 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)