マッスルインバランスと姿勢の関係 マッスルインバランスの原因・姿勢筋と相動筋・主動作筋と拮抗筋の関係・マッスルインバランスの改善
マッスルインバランスの考え方による理学療法
マッスルインバランスの原因
- 腰痛症に限らず筋骨格系の障害は、感染や外傷など原因の明らかなものを除けば、個人の姿勢や生活習慣、職業、スポーツなどといった毎日繰り返される物理的ストレスが特性の筋、筋膜、関節などの組織に炎症や損傷を起こすことが原因となる
- また、特定の筋の過剰使用は、筋の過緊張を引き起こし、短縮傾向にさせる
- 一方、過緊張筋の拮抗筋は相反抑制の影響を受け、弱化の傾向に陥る
- このマッスルインバランスにより姿勢アライメントの異常や運動パターンに変化が生じ、これにより起こる異常な代償運動パターンが機能障害の原因となる
姿勢筋と相動筋
- Janda らは、筋の損傷や物理的ストレスに対する筋の反応により、筋のタイプを姿勢筋(postural type)と相動筋(phasic type)に分類している
- 姿勢筋は短縮する傾向にあり、相動筋より筋力は強く、主に多関節筋である
- 例えば、脊柱起立筋、腰方形筋、梨状筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋、ハムストリングス、内転筋群、腓腹筋などがある
- 相動筋は、筋力が姿勢筋に対して弱い傾向にあり、正常な状態より緩んだ状態になりやすく、主に単関節筋に多い
- 例えば、腹筋群、大殿筋、中殿筋、内側広筋、前脛骨筋、腓骨筋などがある
主動作筋と拮抗筋の関係
- これらのマッスルインバランスは主動作筋と拮抗筋の間で起こり、徒手理学療法により過緊張筋を伸張しても拮抗筋である弱化筋を活性化しないと、その効果が長続きしない
- スポーツ選手などでは種目の特性により、特定の筋が強化されるとアライメント異常を起こす
- 例えば、水泳選手は大胸筋が発達しているため、拮抗筋の菱形筋と僧帽筋中部線維が相対的に弱化し、外転肩となり、肩のインピンジメントを起こしやすい姿勢アライメントになる
- また、股関節の屈筋群に過緊張や短縮があると大殿筋の抑制が起こり、股関節伸展の運動を腰椎伸展で代償する異常運動パターンが習慣化する
- バレーボールやテニスなどでは、サーブやスパイクを繰り返すことにより、脊椎分離症を起こしやすい姿勢アライメントになる
- したがって、この異常運動パターンを修正し、代償運動を改善するためには運動療法が重要である
- 長期間習慣化された代償運動を修正するためには、数ヶ月必要になるかもしれない
頚部・上胸部の主動作筋・拮抗筋群関係
姿勢筋 相動筋
僧帽筋上部線維 ⇔ 広背筋
肩甲挙筋
大胸筋(上部線維) ⇔ 僧帽筋中部・下部線維
小胸筋 ⇔ 菱形筋
頚部脊柱起立筋 ⇔ 頚部前方筋群
腰部・骨盤帯の主動作筋・拮抗筋群関係
姿勢筋 相動筋
腸腰筋 ⇔ 大殿筋
大腿筋膜張筋
ハムストリングス ⇔ 大腿四頭筋
股関節内転筋群 ⇔ 中殿筋
下腿三頭筋 ⇔ 足背屈筋群脊柱起立筋 ⇔ 腹筋群
梨状筋
マッスルインバランス改善の考え方
- マッスルインバランスの考え方による腰痛症に対する理学療法の目的は、過緊張筋を抑制し、拮抗筋である弱化筋を活性化させ、異常運動パターンを修正することで腰部にかかるストレスを軽減させるものである
- 運動パターンの修正は
➡運動レベル (単関節運動)
➡動作レベル (スクワットなどの基本動作)
➡行為レベル (歩行など)
➡スポーツレベル と、段階的に取り入れていかなければならない
- 評価で得られた所見をもとに、過緊張筋の抑制や関節機能障害の改善には徒手理学療法、弱化筋活性化や運動パターン改善のためには運動療法を組み合わせて治療プログラムを考える
- 再発予防に対しては、自己管理法など教育的なアプローチが必要である
頚胸部の主動作筋・拮抗筋群の機能障害とその結果
僧帽筋上部線維、肩甲挙筋
作用
- 肩甲骨の挙上
- 肩甲骨内転の補助
- 脊柱の後屈、側屈
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 肩甲骨の挙上、内転
- 頚椎前弯の増加
- 抗重力伸展の制限
- 頚椎の側屈と回旋の制限
大胸筋上部線維
作用
- 肩関節屈曲
- 上腕骨水平内転
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 肩関節伸展の制限
- 上腕骨水平外転の制限
小胸筋
作用
- 肩甲骨の前方突出
- 呼吸補助筋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 下角の外方回線を伴う肩甲骨外転
- 肩甲骨下縁の突出
- 胸椎後弯の増加
菱形筋、僧帽筋中部・下部線維
作用
- 肩甲骨内転
- 肩甲骨下角の胸壁への固定
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 下角の外方回線を伴う肩甲骨外転
- 肩甲骨下縁の突出
- 胸椎後弯の増加
脊柱起立筋群
作用
- 頚椎の伸展
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 頚椎前屈の制限
- 抗重力伸展の制限
- 頚椎を頚部前方姿勢に固定
頚部前方筋群
作用
- 頚椎の屈曲
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 頚椎前屈力の低下
- 抗重力伸展の制限
- 頭部前方姿勢の修正困難
腰部骨盤帯の主動作筋・拮抗筋群の機能障害とその結果
腸腰筋
作用
- 股関節屈曲
- 股関節外旋の補助と内転
- 腰椎の前弯
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節伸展の制限
- 前方の関節包の短縮
- 腰椎前弯の増加
- 腸骨の後方回旋の減少
大腿筋膜張筋
作用
- 股関節屈曲、内旋、外転
- 腸骨の前方回旋
- 膝関節屈曲の補助
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節伸展、外旋、内転の制限
- 腸骨後方回旋の制限
- 腰椎前弯の増加の一助
大殿筋
作用
- 股関節伸展
- 腸骨の後方回旋
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 股関節伸展の制限
- 腸骨の後方回旋の減少
股関節内転筋群
作用
- 股関節内転
- 股関節屈曲の補助
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節外転の制限
- 腸骨の後方回旋の制限
中殿筋
作用
- 股関節外転 (前部線維-内旋・屈曲、後部線維-外旋・伸展)
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 股関節外転の制限
- 股関節外側の安定性の低下
梨状筋
作用
- 股関節外旋
- 股関節外転と伸展の補助
- 仙骨の屈曲または回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節内旋、屈曲、内転の制限
- 仙腸関節機能不全の一因
ハムストリングス
作用
- 膝関節屈曲
- 股関節伸展
- 腸骨の後方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 膝関節伸展の制限
- 股関節屈曲の制限
- SLRの制限
- 腸骨前方回旋の制限
- 腰椎前弯の減少
大腿四頭筋
作用
- 膝関節伸展
- 股関節の屈曲
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 弱化 (内側広筋)
- 短縮 (大腿直筋とその他の広筋)
機能障害の結果
- 膝関節屈曲の制限
- 股関節伸展の制限
- 腸骨の前方回旋
脊柱起立筋
作用
- 脊柱の伸展
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 腰椎前弯の増加
- 骨盤の前傾
腹筋群
作用
- 脊柱の屈曲
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 骨盤前傾の傾向
参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)