姿勢の異常 4つの不良姿勢と軟部組織移行部のストレス 前弯型・後弯-前弯型・偏平型・スウェイバック・後頭下関節部・頚椎胸椎移行部・胸椎腰椎移行部・腰椎仙骨移行部
姿勢の異常と機能障害
- 姿勢は遺伝的要素に加えて、環境、生活習慣、仕事スポーツなど後天的な要因によっても形成される
- 立位姿勢は重力に対して、筋・筋膜・靭帯などの軟部組織の張力によって保たれており、マッスルインバランスはその人の姿勢によって表現される
- 姿勢アライメントは機能障害と密接に関連しており、姿勢のタイプにより物理的ストレスがどこに加わりやすいかが予測できる
- 姿勢アライメントを評価することで非常に多くの情報を得ることができる
標準的姿勢アライメント
良い立位姿勢とは
よくいわれる良い姿勢とは、背筋を伸ばして、顎を引いて…などの表現がよく使われると思います。
では、具体的には何がどうなっているのが良い姿勢なのでしょうか。
前額面の正常な立位姿勢
前額面(人の体を前からみること)における正常な立位姿勢における重心線
- 後頭隆起ー椎骨棘突起ー殿烈ー両膝関節内側の中心ー両内果間の中心を通る
矢状面の正常な立位姿勢
矢状面(人の体を横からみること)における正常な立位姿勢における重心線
- 耳垂ー肩峰ー大転子ー膝蓋骨後面ー外果2~3㎝前方を通る
矢状面の各部のアライメント
- 頸椎前弯は約30~35°
- 胸椎後湾は約40°
- 腰椎前弯は約45°
- 仙骨底は第5腰椎に対して約40°前下方に傾斜
- 肩甲骨は前額面から前方に約35°傾斜
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/27/2/27_119/_pdf
標準的姿勢アライメントについて復習したい方はこちら
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脊柱彎曲による姿勢の分類
前弯型
①アライメント
- 骨盤前傾と腰椎前弯の増強
- 膝関節の過伸展
- 足関節の軽度底屈
②過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 股関節屈筋群
- 梨状筋
③弱化筋
- 腹筋群
- 腰仙部脊柱起立筋
- 大殿筋
- ハムストリングス (※長くなるか、姿勢の代償として短縮する)
後弯・前弯型
①アライメント
- 頭部前方姿勢
- 肩甲骨の外転
- 胸椎の後弯
- 腰椎前弯の増加
- 骨盤の前傾
- 股関節の屈曲
- 膝関節の過伸展
②過緊張筋
- 後頭下筋群
- 斜角筋
- 肩甲挙筋
- 股関節屈筋群
- 前鋸筋
- 大胸筋
- 小胸筋
- 僧帽筋上部線維
③弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 胸腰椎部脊柱起立筋
- 外腹斜筋
- 僧帽筋中部・下部線維
偏平型
①アライメント
- 頭部前方姿勢
- 胸椎上部の後弯
- 胸椎下部は平坦
- 骨盤の後傾と腰椎前弯の減少
- 股関節・膝関節の過伸展傾向
- 足関節の軽度底屈
②過緊張筋
- ハムストリングス
- 腹筋群
③弱化筋
- 脊柱起立筋
- 腸骨筋
スウェイバック
①アライメント
- 胸椎の後弯
- 腰椎の平坦
- 股関節は重心線の前方
- 骨盤はニュートラルか、もしくは後傾
- 股関節・膝関節の過伸展
②過緊張筋
- ハムストリングス
- 内腹斜筋
- 大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の短縮
③弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 外腹斜筋
- 脊柱起立筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋の広筋群
軟部組織移行部に対するストレスと機能障害
- 軟部組織移行部は解剖学的に構造が移り変わっていく部分で重心線はここを通る
- ストレスの変化を受けやすいところであり機能障害を起こしやすい部分でもある
- 評価、治療を進めるうえで重要な部分である
1.後頭下関節部
- この部分は硬い硬膜から良く動く頚椎への移行部であり、椎間関節の方向も中部頚椎とは異なっている
- また、後頭下関節・環軸関節があるためストレスを受けやすい
- 習慣的には頭部の重心は前方に位置することが多く、後頭下筋群に対するストレスが増加する
- この筋群の過緊張は、大後頭下神経および小後頭下神経の血行障害を招き、頭痛の原因になる
2.頚椎・胸椎移行部
- この部分は、第1胸椎の上関節突起はより頚椎方向に、下関節突起はより胸椎方向に向いている
- 頚椎は胸椎に比べて動きが多いため、この部分には重心線の移動が起こる
- したがって、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、斜角筋などは過緊張を起こしやすく、第1肋骨を挙上させる
- これは胸郭出口症候群、斜角筋症候群、肩関節機能障害の原因になる
3.胸椎・腰椎移行部
- この部分は、椎間関節の方向が前額面から矢状面へと変わっていく
- 棘突起も胸椎から腰椎へと角度が変わっていく
- 脊柱のカーブは後弯から前腕に移り変わる
- また、動きの少ない胸椎と動きのある腰椎の移行部はストレスがかかりやすく、圧迫骨折の好発部位でもある
4.腰椎・仙骨移行部
- この部分は、動きのある腰椎から硬い骨盤への移行部である
- 椎間関節の方向は、再び矢状面から前額面へと移り変わっていく
- 第5腰椎から第1仙椎間の椎間板はもっとも楔状で前方へと引かれる力を受ける
- また、第5腰椎~第1仙椎間の神経孔はもっとも小さく、椎間関節の症状が出やすい
- このため、椎間板ヘルニア、すべり症の好発部位でもある
頭部前方姿勢と機能障害
問題点
- 後頭下筋群に短縮や過緊張を生じさせ、大後頭下神経・小後頭下神経の絞扼を引き起こす
- それにより、頭痛の原因になる可能性がある
- また、深部頚屈筋群は相反抑制により弱化する傾向にある
- 後頭下関節は伸展位で固定されるため、屈曲が困難になる
- それにより、下部頚椎は屈曲する
- 中部頚椎は可動域過剰を起こしやすい
- 下部頚椎は椎間関節を圧迫するため、可動域制限を起こしやすい
- 顎関節は開く傾向にあるため、口呼吸のパターンになる
- そのため、咬筋・側頭筋の緊張を生み出し、歯ぎしりや顎関節症の原因になる
- また、嚥下を妨げることもある
- 胸椎は後弯、肩甲骨は外転、前胸部は短縮傾向になるため、横隔膜呼吸を阻害し、呼吸補助筋が促通される
- 第1肋骨は挙上するため、胸郭出口症候群の原因になる
- 肩甲骨は大胸筋、小胸筋が過緊張となるため、外転傾向になる
過緊張筋
- 後頭下筋群
- 側頭筋
- 咬筋
- 斜角筋
- 胸鎖乳突筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部線維
- 大胸筋
- 小胸筋
弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 僧帽筋中部、下部線維
- 横隔膜
胸椎中部機能不全と機能障害
問題点
- 第4~8胸椎の機能障害であり、デスクワークなど長時間の座位保持により胸椎の後弯が起こる
- いったんアライメントが崩れると歯車が回るように徐々に重力により進行する
- 胸椎の後弯は頭部の位置を前方に移動させるため、頭部前方姿勢を引き起こす
- 胸椎の後弯は肩関節の屈曲・外転・外旋を制限するため、肩関節のインピンジメントの原因になる
- 腰椎の前弯は減少し、そのため腰椎に屈曲ストレスが生じることで椎間板障害などが起こり疼痛の原因となる
- 胸郭が腹部を圧迫するため、横隔膜呼吸を抑制する
過緊張筋
- 後頭下筋群
- 側頭筋
- 咬筋
- 斜角筋
- 胸鎖乳突筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部線維
- 大胸筋
- 小胸筋
弱化筋
- 僧帽筋中部、下部線維
- 菱形筋
- 腰仙部脊柱起立筋
- 横隔膜
- 腸腰筋
骨盤交差症候群と機能障害
問題点
- 腸腰筋と脊柱起立筋の過緊張により、腰椎の前弯を増強し骨盤の過剰な前傾を引き起こす
- 相反抑制の結果により、腹筋群および大殿筋は弱化する
- 腰椎に伸展ストレスがかかるため、椎間関節症、脊椎分離症、すべり症の原因となる
過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 腸腰筋
- 梨状筋
- ハムストリングス
弱化筋
- 腹筋群
- 腰仙部脊柱起立筋
- 殿筋群
逆骨盤交差症候群と機能障害
問題点
- 腸腰筋および腰仙部脊柱起立筋の弱化により、腰椎の前弯減少と骨盤の後傾を引き起こす
- 骨盤が後傾することにより腹筋群下部は緩み、腹筋群上部は過緊張となる
- また、腰仙部脊柱起立筋は引き伸ばされ弱化し胸腰部脊柱起立筋は過緊張となる
- 腰椎に屈曲ストレスがかかるため、椎間板障害の原因となる
過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 腹筋群上部
- 梨状筋
- ハムストリングス
- 大腿筋膜張筋
弱化筋
- 腹筋群下部
- 腸腰筋
- 腰仙部脊柱起立筋
- 大殿筋
参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)