ピッチング コントロール 腕の動き・リリースポイント・スピードとの関係・軸足の位置・ストライド長・ボールリリース
腕の振りとコントロール
余分な動きを減らしてコントロールを良くする
コントロールタイプとスピードタイプ
- コントロールが良いとは、「ボール半個分でコントロールできることだ」とよく聞く
- これは、ストライクゾーンの端をボール半個分で出し入れできる、という意味である
- そして、この出し入れができる「コントロールタイプ」と、スピード勝負の「スピードタイプ」との2つによく分けられる
- 分けられるのは両立しない、コントロールとスピードが相反することを含んでいるからである
腕の動きを直線的にすればコントロールは良くなる
- コントロールを良くするためには、できるだけ使う筋肉を少なくすればよい
- 調節するのが簡単だからである
- 多くすれば、それぞれの筋肉を調節するのが難しくなってコントロールは悪くなるが、その分、それぞれの筋力を足し算できるのでスピードを速くできる可能性は高まる
- バッティングで例えれば、バントのほうが使う筋肉が少ないのでバットコントロールが良く、スイングすれば使う筋肉が多くなるのでスピードは速くなる、ということである
- しかし、実際の投球動作を考えた場合、使う筋肉を減らすのには限界がある
- 余計な筋肉を使わない、つまり、余計な動きを減らすと考えるべきである
- 投げる方向以外の動きは何のためにあるのか、必要なのか、を考えることで余計な動きを減らせるはずである
- 使う筋肉の数に加えてもうひとつ、筋肉を使って生み出す腕の動きを直線的にすれば、投げ出すボールのコントロールは良くなる
- 「肩の上にある筒の中を通すようにボールを投げ出せ」と指導でよく聞く言葉である
- しかし、スピードはなくなる
- 一方、腕の動きを回転的にすればボールのコントロールは悪くなるが、回転の端の動きは速くなるのでボールスピードを速くできる可能性は高まる
- 腕を『切る』ように使えばスピードが出て、『押す』ように使えばコントロールが良くなることはよく聞く話である
腕を直線的な軌道で動かしてコントロールを良くする
腕を直線的に動かす
- 的に向かって手から物を投げる時、手の軌道を曲線的にした場合、と直線的にした場合とで的への正確性がどう違うかを示した
的に向かってものを投げた時の手の違いによる的への正確性
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 手から放たれた物は軌道の接線方向に飛んでいく
- 画像でのA、B、Cで手から物を放つと、曲線的な軌道の場合には的に入るためには許されるリリース位置の範囲が狭いため、コントロールが難しいということである
- 逆に、直線的な軌道にすると許されるリリース位置の範囲が広いため、コントロールが易しいということである
- これも見方を変えると、コントロールを良くするためには直線的な手の軌道にすれば良いということである
- 「肩の上にある筒の中をボールが通るように」という指導は、この直線的を意識させるためである
- しかし、腕だけではそれを成し遂げようとするスピードが犠牲になるため、体重移動、つまり脚の動きを使って直線的な腕の軌道にすればよい
- 脚の動きと腕の振りをマッチングさせるのがコントロールを改善するひとつの方策ということになる
リリースポイントによる投球のばらつきの特徴
- 腕の振りを横から見て、上下方向でボールのばらつき見ているが、実際の投球では上下に加えて左右のばらつきもある
- 上下左右の投球のばらつきを野球選手と野球未経験で比べた調査によると、当然、野球選手の投球のばらつきは小さい
- それでも、両者とも、画像のように右上から左下にボールが分布したという
投球の上下左右のばらつきの比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- それぞれの投手が15m先の的に向かって50球投げて当たった位置(中心0で㎝単位)を画像では示しているが、右投手なので腕が右上から左下に振られるのを反映するように、当たった位置も右上から左下にばらついている
- 腕の振りの中でボールリリースが早ければボールは右上に行き、遅ければ左下に行く、ということである
- 右投手では体重移動が早く腕の振りが遅れるとボールリリースが早くなって、右打者のインハイにボールが行くことはよく経験するところである
オーバスローで肘を曲げ、肩を早く回すとコントロールは乱れる
コントロールとスピードは相反する
- 大学野球選手に100球の的当てをやってもらい、その正確性と動作の関係を分析した結果、上下のばらつきの大きい選手は、手の軌道の曲がり具合が大きく、回転的であった
- そして、曲がり具合が大きくなる動作としてはリリース時の上腕の角度が大きい、よりオーバースローであることがまず挙げられたという
- さらに、腕が後ろにしなっている時(肩の外旋が最大になる時)に肘をより曲げていたこと、あるいは肩が早く回ってリリース時には肩が回り過ぎていたことが挙げられたという
- 逆にばらつきが小さい、コントロールの良かった選手は、肩を内旋する角度や肘を伸ばす角度が小さかったという
- 動かす角度が小さいということはスピードにとってはマイナスなので、やはり、コントロールとスピードは相反するという結果である
軸足の位置やストライドの長さの違いによるコントロールへの影響
- ピッチャーズプレート上の軸足の位置を『右・中・左』の3ヶ所、踏み出し脚を着く位置を『近く・正常・遠く』の3ヶ所、3×3=9条件で直球投げの的当てを調べた報告がある
- 結果は、踏み出し脚を着く位置(ストライドの長さ)、プレート上の軸足の位置を変えてそれらを組み合わせても、ストライクゾーンの高低、内外への一貫した投球を修正するのに必ずしも助けにはならないということであった
- しかし、これは的の中央に当てるコントロールに9条件で違いがないということで、それぞれの動作は変わっているはずである
- 動作を同じにしてプレートの位置を変えれば、ボールの到達する位置は変わるはずだし、上半身の動作を同じにすればストライドの長さによってボールの到達する位置は変わるはずである
- これを利用してコントロールを調整している選手はいるはずだろうから、使い方によってコントロールの助けになるはずである
ボールの重さを変えてトレーニングしても、コントロールへの影響はない
- 軽いボールと重いボールを使ってトレーニングすると、的当てのコントロールにどう影響するかを調べた報告がある
- 通常の大学野球の練習に加えて、週2回、6週間で、以下の4つのトレーニングをそれぞれ計60球投げるグループをつくった
①:軽15 + 普通5 + 軽15 + 普通5 + 軽15 + 普通5 = 60球
②:重15 + 普通5 + 重15 + 普通5 + 重15 + 普通5 = 60球
③:前3週間でグループ②のパターン + 後3週間でグループ①のパターン
④:普通のボールのみ60球
- 結果、ボールスピードは ③⇒①⇒② の順で早くなった
- しかし、的当てのコントロールはどのグループでも良くならなかった
- グループ③は、重いボールと軽いボールを併用するトレーニングであり、複数の刺激を身体に与える「複合トレーニング」の効果を支持するものであった
- さらに、重いボールよりも軽いボールでの効果が大きかったということは、筋肉よりも神経系への効果が大きかったということが示唆される
- 通常よりも軽い負荷でのトレーニングをアシスティッド・トレーニングという
- 陸上競技のスプリンターや競泳選手がロープゴムチューブで引っ張ってもらうことによって通常よりも早いスピードで走ったり、泳いだりするトレーニングとして知られてる
- これは、通常経験できないスピードの中で動作を対応させるという神経系への働きかけである
- ボールスピードについても、動作を対応させる神経系の効果だったのだろう
- コントロールを研くためには繰り返しの練習が必要であるが、試合で投げる時の状況は様々である
- マウンドの高さも違えば、踏み出し位置の傾斜や土の状態も違う
- 同じブルペンで繰り返し練習していても、そこは所詮試合場ではない
- ブルペンで身に着けた身体のコントロールを状況に応じて使い分けていく
ボールリリース・指の反動動作
手首のスピードが最大の時に指を曲げて長く保つ
- 指の関節には、根元から中手指節関節(MP)、近位指節関節(PIP)、遠位指節関節(DIP)がある
手指の関節
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 投球動作におけるこれら関節の動きとボールスピードとの関係を分析した報告がある
- 手首のスピードが最大になってからリリースまでボールスピードは増加した
- その間のMP関節のスピードが最大になって以降その増加には個人差がみられた
- 増加が大きかった投手は、手首のスピードが最大の時にPIP関節がより曲がっていてリリースに向かって伸びるが、最後に再び曲がったという
- つまり、ボールによって伸ばされてから自分で曲げるという反動動作をPIP関節で使っていた、ということである
- さらに、そうした投手はMP関節のスピードが最大になるまではボールを直角に押す力が大きかった
- しかし、それ以降はその力が急に減ってボールの進む方向へ押す力が増加したという
- ボールスピードが増加するとは、投げる方向にボールを押しているということなので、MP関節のスピードが最大になるまでは手指と直角の方向が投げる方向になっていて、それが最後にはボールの進む方向が投げる方向になっていた、ということである
- 以上から、手首のスピードが最大の時に指を曲げて、それを長く保つことがボールスピードの増加には重要とまとめられている
スピンを速くしてマグナス力を大きくする
スピン量の違いとボールの軌道
- 手や指はボールスピードを最終的に増加させる役割を持つが、もうひとつにはボールスピンを変える役割が考えられる
- 普段のフリーバッティングでは野手が投げることが多く、打者はそのボールスピンに慣れている
- スピンを変えるのは、慣れていないボール軌道にして打者を討ち取るためである
- 直球の場合、スピンを増やして「伸びるボール」、「浮き上がるボール」にしたい
- 実際には伸びたり、浮き上がったりはしないのだが、バックスピンを多くすることで空気からの浮き上がる力(揚力)をより大きくボールに作用させて、野手が投げるボールより落ち方を少なくする
- 野手の投げるボールスピンに慣れている打者は、落ち方が少ないのでボールの下を振ってポップフライや空振りになる
- 一方、バックスピンを減らすためには人差し指と中指の間を広げてスプリットボール、さらに広げてフォークボールにすることで直球よりも落ち方が大きくなる
- 直球と思ってスイングするとボールの上を振ってボテボテのゴロや空振りになる
マグナス力
- 揚力は画像に示した原理で生じる
- 右から左にボールが進んでいき、バックスピンがかかっていると、ボールの上側ではボールの動きによる空気の流れとスピンによって引きずられるボール表面近くの空気の流れとが同じ右向きになるので、空気の圧力は低くなる
- 一方、下側では両者の空気の流れが逆向きでぶつかるので圧力は高くなる
- このボールの上下での圧力差で、高い方から低い方へ押す力が生じる
- この力を『マグナス力』、ボール軌道のずれを『マグナス効果』と呼ぶ
- バックスピンの場合には、揚力が生じる
- そして、揚力はスピンの速さに比例するので、スピンを速くして揚力を大きくすることでボールの落下を少なくしたい
空中を進むスピンボールのまわりの空気の流れ
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
ボールスピンを利用して抵抗力を変える
伸びるボールとは?
- ボールには揚力だけでなく、抵抗力も空気から受ける
- ボールのすぐ近くを通り過ぎた空気がボールの後ろで乱れた流れになり、その結果として、前に比べるとボールの後ろの圧力が低くなるから生じる
- そのおかげで減速するので、初速はどのぐらいで、終速はどのくらいという話になる
- アトランタオリンピックで投球の分析を調査した結果によると、初速の5%を失うという
- また、大学生の投手が直球を投げた場合、終速は初速の92.8%になるという
- 空気の密度が高ければ、空気の流れを妨げるような形であれば、進む向きの面積が大きければ、そしてスピードがあれば抵抗力は大きくなる
- ただし、スピードが速くなると急に抵抗力が半分以下になる領域があって、トップクラスの投手はその領域を使っているはず、という
- 抵抗力によるスピードの減り方が少ない、終速が初速に近くなるということである
- 「伸びるボール」と言われるのは、この領域のボールということになるだろう
ジャイロボール
- 加えて、ボールが回転して空気の流れを妨げたり促したりすれば抵抗力は変化する
- ジャイロボールは弾丸あるいはスクリューのような回転なので、空気を蹴散らすように進んで抵抗力が減る
- つまり、初速と終速の差が小さくなる
- 縦スライダーはこの向きの回転になる
- そして、時速145㎞以上であれば4シーム回転、それ以下であれば2シーム回転のほうが抵抗力は小さい、つまりスピードの落ちが小さいという
ボールの握り方を変えてスピン量を増やす
- スピンを減らすための握りのことを考えれば、スピンを増やすためには人差し指と中指の間を狭くすれば良いことになる
- 狭くすると握りが安定しなくなるのでボールコントロールは難しくなるかもしれないが、掌から指先までの距離は長くなるので、ボールを押す力を長い距離・長い時間加えられる
- ボールを深く握ればボールは手首に近づくので、スナップが良く効かなくなる
- 指でボールを押し難くなるということである
- 浅く握ることでスナップが効いて、スピンを多くするために貢献するはずである
- ただし、スナップを利かすための前腕の筋肉は小さいので、その筋肉による貢献は少ない
- 手指のエネルギーは体幹や肩回りの筋肉で生み出されたエネルギーが転移されてくるのであった
- また、その筋肉による回転力のピークが現れるのは、肘が後ろにしなった頃(肩最大外旋位)で、ボールリリースに向けてはそのトルクが減っていく
- したがって、前腕にある筋肉によるトルクというより、手首の骨と骨の間に働く力(関節力)に由来するものと考えられる
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『ピッチング 投球動作のタイプ編』の復習をしたい方はこちら
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)