ピッチング 投球動作のタイプ 体幹の傾き・肩甲骨位置の違い・最大外旋後の違い・タイプによる優位な動作・指導者が着目する投球動作
投球動作のタイプ別の特徴
投球動作のタイプの違いは体幹の傾きにある
- 投球動作はオーバーハンド、スリークォーター、サイドハンド、アンダーハンドの4つのタイプに分けられる
- ボールリリース時の体幹に対する投球腕の肘の位置によって分けられる
ピッチング動作の類型
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- オーバーハンドは肘の位置を肩よりも大きく上げて円直線からおよそ3/4の範囲内でリリースするタイプである
- スリークォーターはオーバーハンドよりも肘の位置を下げておよそ3/4の位置でリリースするタイプである
- サイドハンドは肘と肩の高さレベルがほぼ同じタイプである
- アンダーハンドは肘の位置を肩よりも大きく下げてリリースするタイプである
- 体幹が真っ直ぐで、投球腕だけが上下しているようにみえるが、いずれの投法も脇の開き具合(肩の外転角)はほぼ90°なので、タイプの違いは体幹の傾きにある
- どのタイプでもボールリリースに向けて体幹の回転の勢いを投球腕に伝える必要がある
- それを体幹の傾きで区別している
- オーバーハンドでは体幹を非投球側に大きく傾けて回転させる
- スリークォーターではそれよりやや小さく傾けて回転させる
- サイドハンドではさらに小さく傾けて回転させる
- アンダーハンドでは少し違って、前下に傾けてからそれを持ち上げるように回転させる
- どのタイプもリリース時の肩外転角がほぼ90°といっても、リリースまでの体幹の動きがこのように違うと、肩や腕への影響は違うはずである
- さらに、肩外転角は上腕を上げることと肩甲骨を上へ回転させることの足し算で成り立っているので、その違いも知っておきたい
アンダーハンドでは肩の前方、サイドハンドでは肘の内側にかかる力が大きい
投球動作のタイプによる肩甲骨位置の違い
- 投球動作のタイプによって 、肩甲骨の動きがどう違うのかを調査すると、投球腕が最もしなったとき(肩の最大外旋時)には肩の外転角度に差はなかった
- 肩甲骨の上への回転(上方回旋角)はサイドハンドやアンダーハンドに比べて、オーバーハンドで小さかった
- しかし、リリースに向けてサイドハンドやアンダーハンドでは肩甲骨はそれほど大きく回転しなかったが、オーバーハンドでは大きく回転した
加速期における肩甲上腕リズムの変化
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 最大外旋時に回転が小さかったり、リリースに向けて大きく回転したりする理由や、そのことの影響については明らかではない
- オーバーハンドで肩甲骨が大きく動くのであれば、ストレッチングやトレーニングでその動きをよくしておくことが求められる
投球動作のタイプによる最大外旋後の違い
- オーバーハンドやスリークォーターと比べて、サイドハンドやアンダーハンドの動作がどのような特徴をもつのかを調べると、アンダーハンドの投手は投球腕側に体幹を傾け、サイドハンドの投手は体幹を比較的鉛直に保っていたという
- この結果は先に述べた体幹の傾きの話と一致する
- そして、投球腕を最大にしならせるまでの局面(最大外旋)で、肩の高さで投球腕を水平にすぼめる回転力(水平屈曲トルク)の最大値が、アンダーハンドで小さかったという
- これは、体幹を前下に傾けることで重力の助けを借りられるので、投球腕があまり遅れなくて済むからだろう
- さらに、しならせた後、投球腕を加速する局面において、アンダーハンドでは肩を75°より小さく外転させていたのに対して、サイドハンドでは肩(投球腕)を体幹と直角に保っていたという
- アンダーハンドでは投球腕を絞り込む、サイドハンドでは投球腕を横に振るという実際のイメージ通りである
- そしてここが重要だろうが、アンダーハンドでは肩の前にかかる最大の力が大きく、サイドハンドでは肘の内側にかかる最大の力が大きかったという
- これらの力によって、障害とならないようにこれらのタイプの投手は身体の手入れをしっかりとすべきだろう
指導によってタイプ別の特徴が現れる
- オーバーハンドやスリークォーターの投手は多いので、そのタイプで通用しないとサイドハンドに変えるという指導者がいる
- アンダーハンドよりは体幹の動きが似ているので、サイドハンドには変えやすい
- 少ないタイプなので通用することも結構多い
- これに比べると、そもそも両者の境界線が明らかではないので、オーバーハンドからスリークォーターへの変更は少ない
- それぞれのタイプの特徴をとらえてこの変更を試みた調査があり、大学生投手2名にボールスピードの向上を目指してオーバーハンドからスリークォーターへとタイプの変更を試みた際に、技術指導の内容を以下の13項目とした
<ワインドアップ期>
1:両手の頭上への振りかぶりを増大させる
2:踏み出し脚の挙上を大きくする
<踏み出し期>
3:身体の沈み込みを大きくする
4:身体の投方向への押し出しを大きくする
5:非投球腕の水平面内の回転を大きくする
<加速期>
6:踏み出し期終了時の体幹の後傾を大きくする
7:踏み出し期終了時の肩外転90°位を保持する
8:踏み出し期終了時の肘屈曲90°位を保持する
9:肩外転90°位を保持する
10:体幹の前方捩りを大きくする
11:体幹の前傾を小さくする
12:リリース時の肘の挙上を抑える
13:リリース時の肘前方移動を抑える
- 12項目のうち、2名に共通して認められた動作の改善項目は太字・アンダーラインの印をつけた7項目であった
- そして、投球動作の変化を概観すると、非投球腕側と前へ体幹を傾けながら手を高くして投げおろす動作から、体幹をほぼ垂直に立てて捩りながら肘を横から前へ引き出す動作へと変化した
- その結果、ボールスピードは速くなったという
投球動作のタイプにより優位となる動作がある
- 投球動作の変化をもう少し詳しくみてみる
- 鉛直軸まわりについて、投球腕の動く半径が長くなり、勢いも増した
- 肩の内旋速度の最大値がリリース時に生じて、大きくもなった
- 体幹および投球腕のボールスピードへの貢献を調べた結果、リリース時のボールスピードには肩の内旋速度が全体の34.1%で、最も大きく貢献したという
- したがって、肩の内旋速度がおおきくなったことはボールスピードの増加に貢献したのだろう
- 以上から、オーバーハンドは身体の縦回転および肘の伸展動作を優位に用いた投法、スリークォーターは横回転および肩の内旋動作を優位に用いた投法と考えられる
オーバーハンドスローとスリークオータースローにおける球速増大様式の相違仮説
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
熟達した指導者が着目する投球動作
指導の着眼点は多岐にわたる
- 中学生から大学生まで25人の投手の動作ビデオを11人の熟練した指導者にみてもらって、投球動作の指導上の着眼点を調査した
- それによると、以下の点が明らかになった
- 投球腕や体幹に対する指摘が最も多かったが、いずれも指摘全体の約20%であり、着眼する部位は眼から足先まで多岐にわたっていた
- 指摘が多く、かつ同じ投手に対する評価が一致していたのは、『ストライド期の “くの字” 姿勢など投手を前から見た体幹の姿勢』、『ストライド期から加速期にかけての巻き付くような投球腕の動き』、『ストライド期からボールリリースにかけての投球腕の挙がり具合(肩外転位)』の3カテゴリーであった
- 最も指摘が多かった『ストライド期から腕が最もしなる時(最大外旋時)にかけての腰部や胸部の “入れ替え” や “開き” 』から、指摘が多かった『投球動作全般にわたる協調性』、『肩の外転運動を除く投球腕のテイクバック動作』、『主にバランスポジションからストライド期にかけてのピボット脚への荷重』、『着地からボールリリースにかけてのストライド足への荷重』までを含む9カテゴリーにおいて、同一投手の動作の評価が指導者間で食い違うケースが認められた
- 同一投手に対する指導の優先順位は指導者間で大いに異なっていた
- このように着眼点が多岐にわたり、かつ重要と考えられる項目において熟練した指導者間でも評価が分かれるのは、投球動作の指導の難しさを物語っているとまとめられている
- 評価が一致していたカテゴリーは見てわかりやすい、食い違ったカテゴリーはわかりにくいということになる
頻出カテゴリーを表すイメージ図
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
( a ) ストライド期からMERにかけても腰部や胸部の “入れ替え” や “開き”
( b ) 主にバランスポジションからストライド期にかけてのピボット脚への荷重
( c ) 肩の外転動作を除く投球腕のテイクバック動作
( d ) ストライド期から加速期にかけての巻き付くような投球腕の使い方
( e ) 着地からボールリリースにかけてのストライド足への荷重
( f ) ストライド期からボールリリースにかけてのストライド足への荷重
( g ) 投球動作全般にわたる協調性
( h ) ストライド期の “くの字” 姿勢など投手を前から見た体幹の姿勢
指導者は体幹の回転の良し悪しを重視している
- さらに、この11人の指導者で共通した着眼点を調べ、その好ましくない動作の因果関係をまとめた調査がある
- 軸脚にしっかりと体重を乗せないで投球方向に出ることは、体幹が早期に開いてしまうことや、踏み出した足への体重移動がうまくいかないことにつながる
- 腕を肩よりも水平後ろに持っていき過ぎる(肩関節水平伸展過多)や、肘を伸ばし過ぎる(肘関節伸展過多)など、テイクバック動作に欠陥があると、投球腕が耳元で巻き付くようなしなやかな動きができなくなるとともに、腕の挙がり具合(肩関節外転)が不十分になる。それによって、体幹の開きが早くなることも指摘された。特に、肩関節伸展が大き過ぎると体幹の開きを誘発する
- グラブ側の腕を伸ばし過ぎると体幹が早期に開くことにつながり、その腕をうまく畳まないと体幹の回転が不十分になる
- 頭部を体幹長軸と異なる方向に曲げることは、体幹の回転に悪影響を及ぼす
投球腕の巻き付き動作の概念図
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- こうした好ましくない動作の因果関係を挙げることによって
- 逆に優れた動作とは何か、を浮き上がらせることができたと考えられている
- まとめられた因果関係の結果のほうは、ほとんどが体幹の回転、あるいは開きになっていて、指導者は体幹の回転の良し悪しを重視していることが伺われる
幅広い年齢層に適用可能な着眼点がある
- 投球動作の指導における共通認識の高い着眼点を明らかにするために、プロ、高校、中学の指導者にアンケート調査をした結果がある
- それによると、幅広い年齢層に適応可能な着眼点がある
- バランスポジション付近において、軸脚の膝を外に向けないこと
- バランスポジション付近において、軸脚がずれないようにすること
- ステップ中、投球側およびグラブ側の前腕を親指側に絞る(回内)こと
- ステップ時に踏み出し足を回し込むように出さないこと
- テイクバック時に投球腕を肩より水平後ろに持って行かない(肩関節を水平伸展しない)こと
- ステップ時に投球方向と平行になるように両肩を結ぶ線が出ること
『ピッチング ステップ編』の復習をしたい方はこちら
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『ピッチング 腕の振り編』の復習をしたい方はこちら
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)