スキルトレーニング 反復量・集中と分散・手段の組み立て・イメージ・フィードバック・効果の定着・期間・過剰学習・効果の転移
スキルトレーニング
- スキルトレーニングでは、目指す動作に向けて動作を繰り返すことになるが、効果的に動作を改善するための手段、方法がいくつか報告されている
- トレーニングを進めると、“中枢神経系の既存の回路は強化され、新しい神経回路の接続も生じる”といわれている
- ただ、トレーニング効果の現れ方には体力トレーニングとは異なる特徴がある
- 動作の改善を力学的に明らかにするのがスポーツバイオメカニクスの役目の1つである
- 身体を含めて運動をする物体には力学的な特性があって、物体の外から力が作用すると、その特性に応じて運動の状態が変わることになる
1.スキルとスポーツ技術・技能
- スポーツのパフォーマンス (Performance) は複数の因子によって成り立ち、以下のような式にまとめられる
P = C∫E(M)
- 脳で運動しようとする意志 (Motivation) が働き、その程度に応じて脳から運動指令が骨格筋に伝えられてエネルギー (Energy) が生み出され、それらがまとめられて (∫:Integration) 、神経系の制御 (Cybernetics) を介してパフォーマンスになる
- したがって、スキルとは“この制御にあたる脳を中心とした神経系の能力、目的に適うような動作を遂行する能力”といえる
- スポーツの場合、パフォーマンスの目的としては以下の2つに大別される
- 出力エネルギーを大きくする方向:力強さ、素早さなど (量という観点で効率よく筋を活動させる)
- 出力エネルギーを調整する方向:無駄のなさ、優雅さなど (意図した配分という観点で効率よく筋を活動させる)
2.スキルトレーニングの特性
- 動作を遂行するためには、視覚、聴覚、体性感覚といった感覚や、これまでに遂行した記憶をもとにして以下の要素を筋へと伝える
- いつ筋を活動させ始めて、いつ終わりにするか?といった時間的要素
- どの筋を活動させるか?といった空間的要素
- どのくらいの強さで筋を活動させるか?といった強度の要素
- このプロセスからわかるように、スキルトレーニングでは感覚や記憶が極めて重要である
- “作業特異性”という、ある作業に特化した神経系の働きである
- スキルトレーニングでは、伸び悩み (プラトー) や、落ち込み (スランプ) は不可避的に起こる
- そうした際には、動機付けが低下しているのか、疲労が蓄積しているのか、あるいはトレーニング手段・方法が不適切なのか、その原因を見極めることが重要である
- トレーニングによる脳を中心とした神経系の変化は、筋力トレーニングをして筋が太くなるのとは違って身体の外からは見えない
- 身体の発育、発達による変化なのかを見極める必要がある
練習に伴うパフォーマンス変化
画像引用:スタートコーチ Reference book 公益社団法人日本スポーツ協会
3.スキルトレーニングの時期
- トレーニングの効果は、“変わり得る機能に対して最大の負荷をかけた時に最大になる”と言われている
- スキルトレーニングでは、機能が最も大きく変わる時期が問題とされる
- 適時性の原理であって神経系の機能が著しく変わっていく時期ということになる
- この時期は生後から6歳頃までと報告されているが、この時期にはまだ自我が発達していない
- トレーニングに対する心理的な準備が十分でないといえよう
- スキルトレーニングは低年齢化しているが、自我が発達していない分、親を中心とした周囲からのサポートが必要である
- 生後間もなくの頃には多様な動作ができるように神経回路が張り巡らされている、といわれる
- したがって、多様な動作を経験することで神経回路が増えるのではなく、多様な動作を経験しないと神経回路が減ることになる
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4.スキルトレーニングの手段・方法
①トレーニングでの反復量
- 30秒間バランスボードに乗る課題を6日間、毎日同じ反復量でトレーニングし、動揺回数の変化をみたところ、効果は最初の2、3日に大きく現れた
- その後、動揺回数は漸減していくものの、反復量の効果は一定になった
- “トレーニングの初期に効果は大きい”ので、その時期に反復量も多くすればより大きな効果が得られると考えられている
- しかし、反復量を多くすれば集中力もなくなるし、疲労して怪我にもつながる
- 年齢や体力を考慮した上で反復量を多くしなければならない
②集中と分散のトレーニング
- 集中トレーニングはある程度で効果がプラトーになってしまい、休憩を入れながら繰り返す分散トレーニングのようにはスキルが向上していかない
- しかし、集中トレーニング後にしばらく休憩を入れてから効果を比べると、分散トレーニングの効果と差がなくなるといわれている
- このように休息後に効果が高まることをレミニセンスという
③トレーニング手段の組み立て
- ある1つの課題をクリアーするために、その課題と同じ動作なり負荷なりを繰り返すトレーニングを“同一練習”という
- また、課題とは少し変化させた条件も加えて繰り返すトレーニングを“変動練習”という
- いくつかの異なる作業をクリアーしていく課題に対して、作業ごと順に繰り返すトレーニングを“ブロック練習”という
- 作業を順不同で繰り返すトレーニングを“ランダム練習”という
- これらのトレーニング方法を比較すると、変動のないトレーニング(同一練習、ブロック練習)に比べて、変動をもたせたトレーニング(変動練習、ランダム練習)は、トレーニング中のパフォーマンスは低いが、トレーニング後の効果は保持は良い
- あるいは柔軟な遂行・方略がとれるようになるといわれている
④イメージトレーニング
- イメージトレーニングの目的は、スキルを獲得するためと、試合において実力を発揮するためとされている
- イメージトレーニングでの重要な点は、スキル獲得のためには実際の動きのトレーニングと組み合わせることで、筋感覚も呼び起こして経過と一致させることである
- また、実力発揮のためには試合での緊張感や興奮も呼び起こすことである
- スキル獲得のためのイメージトレーニングの導入段階では、運動後、感覚が鮮明のうちにイメージを描くようにし、自分の運動を理解した後にイメージを描くようにする
- 応用段階になったら、理想のフォームを自分に置き換える、失敗を分析・修正したイメージを描くようにする
- 初心者というよりはある程度の経験者が、投球動作のような自分のみで完結するクローズド・スキルで、実際の動きのトレーニングと併用すると有効といわれている
⑤フィードバック
- トレーニング中や後に、“自分の動作や運動したできばえについて自分で知覚したり、他人から情報を受けたりすることはスキル向上に役立つ”
- 自分の中からを内在的フィードバック、外からを付加的フィードバックという
- 付加的フィードバックには動作に関するフィードバック(KOP)と、運動の結果に関するフィードバック(KOR)がある
- クローズド・スキルにはKOPが、哀帝に対応して動作を遂行するオープン・スキルにはKORが有効といわれている
- そして、両方のフィードバックを交互に与えるとさらに効果的ともいわれている
⑥トレーニング効果の定着
- トレーニング効果を定着させる、すなわち長時間保持させるには、習得後に4時間以上の時間経過が必要といわれている
- ある課題のトレーニング後、5分、10分に大脳皮質の運動野に課題とは異なる刺激を与えると、習得した効果が消失したと報告されており、習得後6時間経過すれば異なる刺激を与えても効果は減少しなかった
- 睡眠をとるとさらにパフォーマンスは向上するといわれ、スキルトレーニング後に休息、さらには適度な睡眠をとることがトレーニング効果の定着のためには不可欠といわれている
⑦トレーニング期間
- 高度なスキルを獲得するためには長期にわたるトレーニングが必要となる
- 高度なスキルを獲得する一流選手になるためには、“1日3時間、毎日練習するとして10年間、10000時間が必要と考えられている”
- ここではトレーニング量だけが問題にされているが、トレーニング効果にはトレーニングの質も影響する
⑧過剰学習
- できるようになった動作を維持するために繰り返す学習を過剰学習(オーバーラーニング)という
- 過剰学習条件では、課題をクリアーするまでのトレーニング量を100%としているので、クリアーした後は50%の量の繰り返しで効果を維持できることがわかる
- 課題達成後、ある程度の繰り返しで効果を維持できるとともに、ある程度はトレーニングを続ける必要があることも示している
⑨トレーニング効果の転移
- 習得した技術によって、その後の別の技術の学習が影響を受けることがある
- これを学習効果の転移という
- 例えば、軟式テニスを習得した後に硬式テニスに転向したとすると、ボールを打つスキルは正の転移、ストロークで手首をこねるスキルは負の転移ということになる
5.スキルトレーニングの効果
- スキルトレーニングでは体力トレーニングと同じように、まず現状を把握して目標を立てる
- そして、目標を達成するための具体的な手段を考えて計画的に措置する
- そこまでは同じプロセスであるが、いざトレーニングを実施してみると効果がランプ状に現れる体力トレーニングとは異なり、スキルトレーニングではそれがステップ状にあらわれるといわれている
トレーニング効果の推移
画像引用:スタートコーチ Reference book 公益社団法人日本スポーツ協会
①認知的・意識的な段階
- 基本的な知識や動作の習得を目指す
- 確認しながら、意識しながら動作を調整し繰り返すが、粗大な誤りがしばしばみられる
②感覚と運動の連合段階
- 基本的な動作の習得が進む
- 感覚と運動が連合していくが、安定する段階には達していない
③自動化の段階
- 動作に注意を払わずに安定したパフォーマンスを発揮できる
- また、多様なプレーが可能になる
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