ピッチング 腕の振り テイクバック・体幹から腕へ・肩内旋と肘伸展・前腕回内・グラブハンドの動き・右手のスピード・腕を引きずる

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体幹の回転と腕の振り

体幹や肩のエネルギーを腕に流す

上肢の運動学
  • 投球動作の中で腕の振りは複雑な動きだけに注目を集める

 

  • 肩には4方向の動きがある

 

  • 腕を前に上げ下げする動き (屈曲・伸展)

 

  • 横に上げ下げする動き (外転・内転)

 

  • 水平に開いたり閉じたりする動き (水平屈曲・伸展)

 

  • 上腕の長軸まわりの回転 (内旋・外旋)

 

  • かなり自由に動く分、動きの個人差は大きくなる

 

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肩関節運動の名称

(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)  

 

 

  • 肩より先では4方向の動きがある

 

  •  肘の曲げ伸ばし (屈曲・伸展)

 

  • 肘から先の長軸周りの回転 (前腕の回内・回外)

 

  • 手首の曲げ伸ばし (掌屈・背屈)

 

  • 親指、小指側への手の横の動き (撓屈・尺屈)

 

  • オーバーハンドスローでの腕の動きでは、肩の水平屈曲と内旋、肘の伸展、前腕の回内、手首の掌屈が主要な動作であり、いずれについてもその動きに先立って逆方向への動き、つまり水平伸展する

 

  • この逆方向の動きがあると、動く範囲は広がり、筋肉での伸張-短縮サイクル運動(SSC運動)にもなるので、その先の部分により多くの仕事ができることになる

 

 

エネルギーの源 
  • 先の部分に筋肉で仕事をすればその先の部分のエネルギーは増える

 

  • しかし、腕自体には仕事をするための筋肉はそれほど多くはない

 

  • 腕の各部分のもっているエネルギーを分析したところによると、ボールに伝えられるエネルギーの大部分は、体幹や肩の運動(筋肉)によって生み出されたエネルギーが関節や筋-腱を介して転移されるころによってもたらされている

 

  • うまく転移されてボールまでいきつくようにと、「しなやかに腕を振れ」と指導されるのである

 

 

体幹に沿って腕を挙げる

テイクバック
  • 体幹の運動によって生み出されたエネルギーがうまく転移されるためには、腕にうまく力が働くように、体幹に対する腕の位置が問題になる

 

  • 足を踏み出した時に、背中側に大きく肘を引いてテイクバックする(肩の水平伸展が42°よりも大きい)投手の75%は、ボールを加速するときにも過度な水平伸展位になってしまう

 

  • 踏み出し脚着地までに肩の内旋から外旋への切り替えが遅い投手ほど、背中側に大きく肘を引いてしまう傾向にある

 

  • 切り替えが遅いというのは、2塁にボールを見せるように前腕を内側に絞っておくが、それを戻すのが遅れるテイクバックである

 

  • 背中側に大きく肘を引いてテイクバックしてしまうと、体幹のエネルギーがうまく転移されないし、それでもボールを加速しようとするので、肩へのストレスが増加する

 

  • 体幹に沿って腕を挙げることがよい

 

 

体幹の動きを腕に転移させる
  • ボールリリース時、ボールスピード(100%)に身体のどの部分の動きが何%貢献したかを調べた

 

  • 主要な貢献を身体部位で表すと以下のようになる

 

  1. 肩の内旋運動         34.1%
  2. その他の腕の動きと体幹の動き 33%
  3. 手首の掌屈          17.7%
  4. 肘の伸展           15.2%

 

  • 肩の内旋、肘の伸展、手首の掌屈は主に体幹からエネルギーが転移して生じているということであった

 

  • 無理にこれらの動きを担っている筋肉を働かせるのではない

 

  • 動きの中で関節と関節との間に働く力、押し合う力によってエネルギーが転移されるのである

 

 

 

腕を伸ばしてから肩を内旋させる

  • 腕の振りの中で、しゅとうとされる肩の内旋と肘の伸展の動きはどのような順序なのだろうか?

 

  • 子供のころに身に着けた投げ方をイメージすると、肘を伸ばしてボールをリリースするので肘の伸展が後のように思うが、実は、肘を伸展してから肩を内旋してリリースする

 

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肩の内外旋角度と肘の伸展角度との関係

(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング) 

 

 

  • 図では、横軸に肘の伸展角度を、縦軸に肩の内外旋角度をとってある

 

  • 点線に0より上のプラスが内旋位で、下のマイナスが外旋位である

 

  • ただし、この「位」は位置のことで、動きとしては上に進めば内旋、下に進めば外旋になる

 

  • 踏み出し脚の着地時(SFC)をみると、ほぼ0度、、つまり腕相撲のスタート時のような上腕の角度である

 

  • その後、上腕とともに体幹を回転させるおかげで、肘から先が置いてきぼりになるように肩は外旋され、それが最大になる(MER)

 

  • そこまでの間、横軸の大きさでみればわかるように肘は曲がってから伸びていく

 

  • 体幹の回転を伝えやすいように前腕やボールを一度体幹に近づけているのである

 

  • 最大の外旋時(MER)には、肘は約130°にまで伸びつつある

 

  • そこからさらに伸びていって、肩の内旋しながらボールリリース(REL)を迎える

 

  • 〇の間隔は0.005秒であり、〇が離れているほど動きが速いことになる

 

  • 肘の伸展が速いのはMERの後、肩の内旋が速いのはREL直後である

 

  • 肘の伸展が先で、肩の内旋は後というのがわかる

 

  • 腕の振りは速いので実際に投げるときにこの順序を意識するのではなく、ゆっくり腕の振りを練習するときに意識したい

 

 

 

手首では親指側から小指側に斜めに掌を曲げる

  • 上腕とともに体幹を回転させるおかげで肩が外旋される

 

  • この時、肘が下がっていると肩は外旋し難い

 

  • 体幹の回転が伝わると窮屈なので、余分なストレスが肘の内側にかかって故障の原因にもなる

 

  • 逆に肘が上がり過ぎていても外旋し難い

 

  • 体幹の回転が伝わらずに腕がしならない

 

  • その後のボールスピードにとって重要な内旋が十分にできないことにもなる

 

  • つまり、「脇を90°ぐらいに保て」と指導される理由はここにある

 

  • 手首付近の動きも眺めておこう

 

  • ボールリリースに向けて、前腕の回外から回内させる動きがある

 

  • この動き自体は前腕の長軸まわりの回転なので、ボールスピードにそれほど貢献しないが、肩を内旋させる力を手先やボールへ伝える重要な役割を担っている

 

  • この回内させる動きのおかげで手首では親指側から小指側に斜めに掌を曲げることになる

 

  • 掌は伸びている、そして親指側に傾いている状態からボールリリース時になると、小指側に傾いて、その曲げは「真っ直ぐ」になる直前となる

 

 

 

グラブハンドの動きはボールスピードに貢献している

グラブを体幹に近づけて回転させる
  • 投球腕を振るまでのこととしてもうひとつ、非投球腕(グラブハンド)の役割を考えておきたい

 

  • 細かい動かし方は置いといて、踏み出し足を着地する前にグラブハンドを打者のほうへ伸ばし、身体を回転させる時には小さく畳んでグラブを体幹に近づける

 

  • こうすることで素早く体幹を回転でき、ボールスピードに貢献すると考えられている

 

  • テニスのサービスでも、ラケットを持っていない腕を伸ばしておいて、その後素早く引き付けることがラケットのスイングスピードに貢献するといわれている

 

 

グラブハンドを固定すると体幹の捩りが減ってしまう
  • グラブハンドの動きが体幹や投球腕の動きにどう貢献しているかをもう少し実験的に調べた

 

  • そのためにゴムバンドでグラブハンドを体幹にピッタリ固定して投げてもらい、普通に投げた場合と比較した

 

  • 上胴や腰の回転、そのズレである体幹の捩り、肩や肘の動き、ボールスピードなどを比較した

 

 

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グラブハンドを固定した場合と通常の場合での投球動作時における上胴・腰・体幹の捩りの角度の比較

(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)   

 

 

  • 画像が結果の一部であるが、横軸は時間経過がとってあり、「0」でボールリリース、「 a 」は体幹の捩りが最大、「 b 」は踏み出し足着地、「 c 」は腕のしなり最大(肩の最大外旋)である

 

  • 細かい縦の破線がグラブハンドを固定して投げた場合で、太い縦の破線が普通に投げた場合である

 

  • したがって、固定した場合のほうが a・b・c は早く現れていたことになる

 

  • 一方、縦軸は上から上胴の角度、腰の角度、体幹の捩りの大きさで、細い線が固定して投げた場合、太い線が普通に投げた場合である

 

  • グラブハンドを固定した場合には、踏み出し足の着地時に上胴がより打者のほうへ向いてしまい、体幹の捩りが減ったことがわかる

 

  • これは、体幹の長軸まわりに上胴と投球腕を回しやすくなったからであろう

 

  • そのおかげで、肩の内旋と肘の伸展のスピードが遅くなり、ボールスピードが遅くなった

 

  • こうした結果から推測すると、グラブハンドは上胴を回り難くして体幹に捩りをつくり、いざ上胴を回す局面になったら小さく畳んで上胴を回しやすくする

 

  • その結果、肩の外旋が大きくなって、その後の肘の伸展と肩の内旋スピードが速くなる

 

  • それでボールスピードに貢献しているといえる

 

 

 

脚と腕のマッチング

子供は腕の振りが重心移動より遅れがちになる

脚からのエネルギーを腕にマッチングさせることが重要
  • 投げたり、打ったりではエネルギーを主として生み出すのは脚、それを使うのは腕である

 

  • したがって、よりよく使うために両者の動きのマッチングあ重要なはずである

 

  • 打撃動作の指導では、脚によって投手方向へ体重を移動させたときにバットが置いてきぼりになることがある

 

  •  そうなると、いざ身体を回転させると腕にその勢いが伝わらず、身体の前にバットが出てこなくて困ることがある

 

  • 投球動作では一方の腕だけでボールを投げるので、身体の勢いを伝えるためのマッチングはさらに重要なはずである

 

  • 腕にエネルギーを伝えるため、力を込めるためにはそうしたいときに腕がどこにあれば良いのか?

 

  • わかりやすい局面でみると、脚を踏み出した時に腕がどこにあれば良いのか?

 

 

身体重心の移動スピードと右手のスピード
  • プロの投手とリトルリーグの投手を対象に、投手方向への身体重心の移動スピードと右手のスピードを重ねて比べた調査がある

 

  • 画像の横軸は時間経過で、踏み出し脚の着地とボールリリース時のフォームを描いている

 

  • 縦軸はスピードで、● が身体重心、〇 が右手であり、● の重心移動のスピードは主に脚の動きで、踏み出したころに最も速くなってリリースに向けて遅くなった

 

 

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身体重心の移動スピードと右手のスピード

(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)   

 

 

  • 踏み出し脚を着いて踏ん張るのだから当然そのようになるわけで、プロもリトルリーグの投手も同じような変化だった

 

  • しかし、それに対する 〇 の右手は両者で随分スピードの様子が違った

 

  • ボールリリースのほうから遡るとわかりやすいが、リトルリーグの投手腕の振りは、重心移動に対して遅れていたので慌ただしくなっていたのである

 

 

軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックする

腕を振るのではなく、引きずる
  • もう少し詳しくみると、踏み出し脚を着地する前にプロの投手は右手のスピードがマイナスになっていたのに対して、リトルリーグの投手ではそうなっていなかった

 

  • 軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックすれば右手のスピードはマイナスになる

 

  • リトルリーグの投手は重心移動のスピードより右手のスピードが遅くなってはいるが、マイナスになるほどではなかった

 

  • 移動に引きずられるように腕が動いていってしまっていたのである

 

  • 次に、踏み出した後に右手は前に振られるが、右耳の近くでその振りが一度遅くなる局面がある

 

  • 〇 の右手のスピードが遅くなっている局面だが、そこでもプロの投手は重心移動のスピードよりも右手のスピードが遅くなっていたが、リトルリーグの投手はそうならなかった

 

  • ここでも移動に腕が引きずられていたのである

 

 

バネを引き伸ばして縮めるように動かす
  • リトルリーグの投手にみられたこれらの動きのマッチングは、本来バネを引き伸ばして縮めるように使う筋肉がうまく働けなくなってしまい、結果として大きなエネルギーを発揮できなくなってしまうのである

 

  • 軸脚に体重を乗せているうちに腕をテイクバックして、踏み出した後に一度右手を遅くしてからボールを加速したい

 

  • もちろん適度な引き伸ばしであって、置いてきぼりでは困る

 

  • プロの投手は踏み出し脚の着地でやや早く腕が挙がっていたとみなせる

 

  • 子供は軸足でバランスをとるのがあまり得意でなく、ボールは相対的に大きく重いので、腕の振りが遅れてマッチングが悪くなりやすい、ということである

 

 

 

わかりやすいポイントでマッチングを確認する

踏み出し足裏全体を着地したころに腕の力を入れる
  • 野球経験のない大学生9人に投球動作を指導した研究がある

 

  • 1日に1時間半~2時間、週2日、約1年間指導した

 

  • 指導のポイントは以下の順で行った

 

  1. 大きな動作(脚の引き上げ、腕のスイング)で投球する
  2. 軸脚から踏み出し脚へと体重移動して投球する
  3. 上腕-前腕-手とスムーズに動かして投球する

 

  • そして、その効果を脚と腕のマッチングから調査した

 

  • 画像は、横軸は時間経過を表している

 

( a ) 棒グラフの左端:ボールを最も後方へ引いた距離
( b ) 0       :踏み出し足裏全体を着地したとき
( c ) 棒グラフの右端:ボールリリース時

 

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トレーニング前後の手の指先の移動所要時間

 (画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)   

 

 

  • 参加した大学生9人それぞれがT1~T9、熟練した投手2人がS1・2である

 

  • 大学生は練習前が白棒、練習後が網点棒である

 

  • そして、軸脚で蹴る力が最大になった時を ▲ 、肘を伸ばす筋肉 (〇) 、手首を曲げる筋肉 ( ● )の活動が始まった時をそれぞれ示している

 

  • 投球動作の中で、脚の力発揮と腕の筋肉の活動開始のマッチングをみようとしたのである 

 

  • 熟練した投手は、ボールを最も後方へ引いてから軸足で最大の力を発揮し、そして、踏み出し足裏全体を着地したころ ( b ) に2つの筋がほぼ同時に活動を始めていた

 

  • つまり、テイクバックしてから軸足でしっかり蹴り、踏み出し足を着く頃に腕の筋肉を働かせて始めていたのである

 

  • 野球経験のない大学生の中にも練習する前から熟練した投手のパターンになっていた者、練習してもパターンが変わらなかった者もいたが、練習によって熟練者のパターンに近づく傾向がみられた

 

 

脚と腕のマッチング例
  • 投球の腕振り動作は速いので、振る動き自体の良し悪しは見極め難いが、脚の動きとマッチングは軸足を挙げた時、踏み出し足の着地時など、あるポイントを基準にすれば見極めやすい

 

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脚と腕のマッチング

(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)   

 

 

 

 

 

ピッチング ステップ編』について復習をしたい方はこちら

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ピッチング 投球動作のタイプ』について復習をしたい方はこちら

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ピッチング コントロール』について復習をしたい方はこちら

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参考文献

科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)