バッティング 地面反力・流し打ち・バットの動き・腕の動き・腰の回転
地面反力
踏ん張るのではなく足踏みする
- 「両足でしっかり踏ん張れ」はスポーツでよく聞く言葉で、そうなっていると安定感がある
- しかし、野球のバッティングでで打者が地面を押す力を測ってみると両足でしっかり踏ん張る局面はない
- 画像は実際のフリーバッティングで左右それぞれの足で地面を押す力を測ったものである
打撃時の三方向床反力
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- これは右打者の場合で、右足(軸足)による力は一点鎖線、左足(踏み出し足)による力は実線で描いている
- そもそも左右1つずつの押す力なのだが、わかりやすいように3つの方向に分けて描かれている
- 前は腹側に、後は背中側に押す、右は捕手側に、左は投手側に押す、そして下は真下に押す力である
- 左から右に時間が流れてステップの局面、フォワードスイングの局面、そしてインパクトが示されている
- 上に0.5秒間のものさしがある
- それによって、フォワードスイングの時間はおよそ0.2秒間とわかる
- また、右に20㎏wという力の大きさのものさしがある
- この長さで20㎏の重さに相当する力で押しているということである
- 20㎏wのものさしが一番短いのが真下に押す力である
- つまり一番大きいということなのだが、それは立っているだけでも体重分の力で地面を真下に押しているからである
- 例えば打者の体重が60㎏とすると、20㎏wのものさしの3倍のところに体重の横線があって、その線を基準に打者は下に押す力を加えたり抜いたりしているとみることになる
- 打者はステップに入る時、踏み出し足で下、投手側に地面を押してその足を持ち上げている
- 次のステップ局面では、踏み出し足は空中にあるので地面を押す力はどの方向にも出ていない
- 軸足だけで下、捕手側に地面を押している
- さらに、フォワードスイングが始まると、着地した踏み出し足で前へ、軸脚で後ろ押して、その後に踏み出し足で下、投手側へ押してインパクトを迎えている
- こうみてくると、確かに両足でしっかり踏ん張る局面ではない
- 下に押す力をみればわかるように、野球のバッティングでは右打者の場合、左、右、左と足踏みをするようにして打つのである
地面を押す力の反力で身体を加速する
- こうした地面を押す力の働きは何なのだろうか
- 地面を押すと、同じ大きさで反対向きの力を地面から受ける
- 作用反作用の法則である
- 地面反力(床反力)というのはこの反作用の力のことで、打者の場合、バットを持つ身体がこの反作用の力の向きに加速されるのである
- したがって、ステップ局面でみると、自分では軸足で捕手側に押しているが、その反作用で身体は投手側に加速される
- フォワードスイングに入ると、左右の足で前後反対向きに押すので、その反作用を受けて身体は、踏み出し足側は背中側、軸足側は腹側へと加速される、つまり、フォワードスイングする向きに身体は回転加速されることになる
- その後、踏み出し足で下、投手側へ踏ん張るので、ステップ局面で投手側に加速されてきた身体は減速されることになる
- この減速された身体の支えがあるからこそバットを投手方向へ走らせることができる
- フォワードスイング局面の前後方向の力をさらによくみると、踏み出し足で前に押すよりも軸足で後ろに押す力のほうが先に現れる
- 一方、軸足で後ろに押す力よりも踏み出し足で前に押す力のほうが大きい
- これはフォワードスイングを始める時に軸足の押しが使える状態であるし、バットは身体の前を通過するので踏み出し足で前、その後投手側へしっかり踏ん張っていることを示している
身体の移動を調整できる余力を軸足に残しておく
- ティーバッティングで地面反力を分析した調査によると、構えた位置からバックスイングで捕手側へさがる距離はレギュラー選手のほうが長く、構えた位置からインパクトまでに投手側へ出ていく距離は非レギュラー選手のほうが長かったという
- これは、レギュラー選手のほうがフォワードスイングを開始する時に軸足が使える状態にあったことを示唆している
- 直球とカーブを打った時に地面を押す力、そのうち左右方向(投捕方向)への力を眺めてみる
打者の左右方向力曲線
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 直球を打った時が実線で、カーブが破線、踏み出し足を地面から離す時点で両方の力の線を一致させているのだが、ステップの後半になると直球とカーブとで押す力の様子が違っている
- 画像の数値の意味は「0」が両方ともインパクト、一致させた マイナス0.48 は直球でのステップ開始がインパクトの0.48秒前、マイナス0.56 はカーブでのステップ開始がインパクトでの0.56秒前という意味である
- その後、それぞれインパクトの0.24秒前と0.30秒前にステップを終え、0.16秒前にフォワードスイングを開始していた
- カーブのほうがボールスピードが遅い分、捕手側へ押す力が長く続いているのがわかる
- どこかの時点で打者はボールの速さの違い、軌道の違いに気づいてステップ後半には身体の移動を調節していることになる
軸足の内側でタイミングをとる
- 足裏のどの部分で押すのかが測れるセンサーをシューズの中に入れてバッティングしてもらった
- すると、ステップの局面では軸足裏の前側で押す力が大きくなり、それが同じ前側でも外側から内側へと移っていった
- そして、フォワードスイング局面になると軸足の母趾球で押す力が大きくなって、インパクトに向けてはそれが小さくなった
- 踏み出し足裏はというと、ステップ着地後、大きな押す力が母趾球から外側全体へと移っていった
- この様子から、軸足裏の内側で投手側への身体の移動を調節し強く打つために母趾球を働かせ、その勢いを踏み出し足裏の外側で受け止めていることがわかった
流し打ち
流し打ちでは肘を伸ばさず、手首を速めに効かせる
- 最初に調べられたのは、内外角のコースに対する打撃ではなく、引っ張り内と流し打ちの動作の違いだった
- どちらにするかをあらかじめ指示してピッチングマシーンからのボール、つまり同じようなコースのボールを打ってもらい、その動作の違いが調べられた
- 打者の動作を上から撮影して、右打者の左肩・左ひじ・左手首・左中指、そして「バットの先端の動きが比べられたのである
- その結果、流し打ちのほうが肘を伸ばす量が少なく、手首を早めに聞かせることでインパクトでの適切なバットの角度をつくっていたという
- そのおかげで、インパクトは捕手よりになり、スイング時間は短かったものの、バットスピード自体は引っ張り打ちと変わらなかったという
- 同じようなコースのボールであれば、スイング軌道やスイング時間が短くても流し打ちのバットスピードを引っ張り打ちと同じように早くできる、ということである
- 引っ張り打ちのほうが身体の回転を使えるし、ヘッドも効かせられるので、バットスピードを速くできると思いがちであるが、腕を動かす向きと手首を使うタイミングによって流し打ちでも同じようなバットスピードをつくれる、ということである
流し打ちでは肩や腰の回転が少ない
- 次に、ティーを置いて打たせると、どのような動作になるか調査した結果がある
- 外角流し打ちでは、スイング開始以降インパクトまでの時間が短かったという
- 打球スピードに内外角で大きな差はなかったという
- 動作については、外角流し打ちでは、踏み出した足が地面に着いて以降の肩の回転が小さく、スイング開始以降の腰の回転も小さかったという
- これは、肩や腰の回転を抑えて、身体の向きを流し打ちの向きにしたからである
- スイングでは、左肘をより大きく伸ばして、インパクトでは左脇の開き(左肩の外転)が小さかったという
- これは、外角のポイントが身体の前方向(腹方向)遠くにあるから、バットをそこへ運ぶために肘を大きく伸ばしたし、脇をしめておいたのである
- 一方、内角引っ張り打ちでは、踏み出した足先が地面に着いて以降の肩の回転が大きく、スイング中には踏み出した足首が伸びて、インパクトになると肩と腰の回転が大きく、踏み出した足首と膝の伸びも大きかったという
- これは、内角のインパクト位置へバットを出すために、肩を回してそして踏み出した足を延ばして身体を後ろに下げたためである
流し打ちでは押し腕の脇が絞られ、グリップが走る
- その次には、試合での外角のコースを流し打ちした動作、しかもヘッドスピードを速くするための動作が調べられた
- ヘッドスピードの速い打者の特徴は、時間経過とともに以下のように記されている
- 踏み出し脚の着地において、身体重心を左右の足にバランスよく乗せ、懐の深い姿勢をとっていた
- 右わきを閉めたままスイングを行っていた
- スイング中、バットが水平、後向きになった時、投手方向へのグリップ速度を大きくしていた
- インパクトに向けて、軸足の蹴り(足底屈)と肩の回転を大きくしていた
バットヘッドを下げて、バットの上にボールを当てる
- 最後に、流し打ちをするときのバットの動きを確認する
- どうして流し打ちが可能になるかを調査した報告がある
- インパクト時に水平面内のバット角度が流す方向に向いていることだけでなく、鉛直面内のバット角度(ヘッドの下がり具合)とボールが当たる位置によっても流す方向は影響を受けていたという
- ホームベース中心から18.9㎝外角のボールを大学生選手に流し打ってもらった
- そのうち飛距離が40m以上、右中間からファールライン付近の範囲に打球が放たれた場合のバットの動きが調べられた
- インパクト時の水平面内のバット角度、鉛直面内のバット角度(ヘッドの下がり具合)、バットの上下方向についてのボールが当たる位置を計測した
- すると、大半の流し打ちではインパクト時の水平面内のバット角度はマイナス、つまり流す方向に向いていたのだが、引っ張り方向に向いている場合もあったという
- 一方、鉛直面内のバット角度はすべてプラス、つまりグリップよりヘッドが下がった状態でインパクトしていた
- このうち、水平面内のバット角度が引っ張り方向に向いている場合は、この下がり具合が大きく、バットの上のほうにボールが当たっていたという
- 見方を変えると、バットのヘッドがやや大きく下がって、バットの上のほうにボールが当たれば、バットが引っ張り方向に向いていても流し打ち方向に打球はいくということである
- ただし、その場合の打球の強さについては明らかではない
- こうしてみてくると、流し打ちの場合、まず肩と腰の回転を流す向きへ調節して、それぞれの脇を締めて腕を流す方向に動かし、手首を早めに効かせて、バットを流す向きに走らせるということになる
バットの動き
バットの動きをつくってから振り始める
- スイング開始でのバットの動きを観察すると、2つのパターンに大別される
- 1つは、振り出しの際に肩の後ろで小さな回転をともなって出てくるパターン
- もう1つは、動き始めるとすぐにバットの重心が下へ動き出すパターンである
- 静止させたままのバットを振り出すことには無理があるため、何らかのきっかけを使ってバットの動きをつくってから振り始める
- 前者では、バットを加速する時間が長くなるのでバットのスピードは出しやすいが、いろいろな投球に対応するのは難しいかもしれない
- 後者のように余分な動きを少なくすればきっかけを得難いので振り始めるためには工夫がなされるだろうともいう
- あるキューバの打者では、振り始める前に一旦ホームベース方向に傾けられたと見られるバットヘッドが元に戻る過程でバットが振り出されていた
- いわゆる「バットのヘッドを入れる」という動きである
- この前後へのわずかなコック(ピクッという動き)もその工夫の1つの例という
- 指導ではバットの振り出しで刻苦するのは悪いとされているが、それは大きくコックすると身体やバットの動きがバラついてしまうためだし、その間に速球に差し込まれてしまうためである
- 動き出しのきっかけをつくるのであれば、わずかなコックは問題ないのだろう
曲面を描くようにバットは振り下ろす
- その後の動きを観察すると、局面を描くようにバットは振り下ろされてくる
- 「インパクトまで最短距離でバットを運べ」とよく指導されるが、最短距離で、つまり直線的にバットは動いていない
- 直線的にバットを動かすと、グリップを引き抜くようになってしまって、ヘッドは走らない
- 引き抜いてからヘッドを走らすために回すのでは時間もかかってしまう
- 指導で言われる「最短距離」とは、「できるだけ短い時間でバットを運べ」という意味である
- その最短時間を与えるバットの軌道は、サイクロイド曲線になる、という
- サイクロイド曲線とは、滑らずに直線上を回転する円の円周上の定点によって描かれる曲線である
- 振り出しの位置とインパクト位置を直線でつなぎ、その上を3次元的に回転する円周上の定点をバットの重心がたどれば良い、ということである
- 「螺旋が徐々にほぐれるように」とイメージしてもそう間違いではないだろう
- その結果は、画像でのバットの動きに似ている
日本人選手とキューバ人選手が各方向へ長打を打った際のインパクトまでのスイング起動 (画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- その振り出しは、ここでのキューバ選手のバットの動きに近いが、キューバ選手は振り出した後にヘッドが下がって遠回りしているように見える
- 一方、日本選手のバットの動きは、ヘッドこそ下がらないが、振り出して少し遠回りしているようにみえる
バットは少しアッパースイングにする
- こうした違いはあるにせよ、遠くに飛ばすためには、インパクト直前で投球されたボールとバットヘッドの軌道が横から見て平行になるようなスイング角度でインパクトすることが重要である
- 投球されたボールは、少し落ちてきているので、バットは少しアッパースイングにしろということである
- 打球に角度を出すためには、ボール中心の2.6㎝下を、上方へ10°のアッパースイングでインパクトすることが計算上では最も打球を遠くに飛ばすことができる
- こうしてみると、「ボールを上から叩け」という指導は、振り出しでバットヘッドが下がることを戒める言葉といえよう
ボールと打撃面が直角に当たるように押し手を使う
- 一方、水平面でみて、投球されたボールをバットでこすると打球はスライスして飛ばない
- 良い当たりだなと思っても外野で打球が失速するのは経験するところである
- こすれてスライスする原因には以下の3つが挙げられる
- 投球されたボールの動き
- スイングするバットの動き
- インパクトでのバットの動き
- 外角へ逃げるボールであればスライスするし、そもそも回転しているバットの動きはスライスを生む
- 円運動しているということは、バットはグリップの向きに加速しているからである
- そして、インパクトでバットヘッドがまだ捕手側に向いていればスライスする
- こうした原因を取り除くには、投球されたボールとバットの打撃面が直角に当たるように押し手(右打者の右手)を使ってスイングすることが必要である
- 指導では、「引っかけるな」とよく言われるが、引っかけるぐらいの意識でスイングしないと打球はスライスしてしまう
- プロ野球をみていると、ホームランを打った時にはバットのグリップよりもヘッドのほうが前に出ているように見えることがある
インパクト近くでバットを並進させる利点もある
- 日本人の大学選手、熟練者と未熟練者でバットの動きを比べてみた
スイング中の重心並進速度と回転速度
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- バットの動きは並進運動と回転運動に分けて示す
- 動きが分かりやすくなるし、動きの原因を特定しやすくなるからである
- 横軸は時間で左から右に流れていき、踏み出し脚着地時とインパクト時の上から見た打撃姿勢が描かれている
- 一方、縦軸は水平面内でみたばっとの並進速度と回転速度がとってある
- 熟練者と未熟練者でバットの回転速度に違いはなかったが、並進速度には違いがあった
- 未熟練者は踏み出し脚を着地した後、並進運動を徐々に高めていたが、熟練者は並進運動を急増させてインパクト時には未熟練者の速度を凌いでいた
- こうすれば正確に当てる確率は高くなる
- 押し腕がよく効いていたということである
腕の動き
両腕と体幹でできる三角形を保つ
- 足で地面を押した力の反作用(地面反力)を受けて腰や肩を回転させた勢いは、腕を介してバットに伝えられる
- ボールを打つ能力と引き腕を持ち上げる肩の力(屈曲力)との相関が高いことや、引き腕の上腕三頭筋を強化すればバットに大きな力を加えられる、という報告からすると、バットを振るために引き腕の果たす役割は大きい
- 「両腕と体幹でできる三角形を保て」と指導されて、保てない打者はゴムチューブなどを利用して保たせるドリルが行われる
- 三角形を保つ意味は何なのだろうか?
- 好打者と未熟な打者を上方から見た時の模式図を描いたところ、確かに未熟な打者は三角形がつぶれているように見えた
- 画像では腰の中点を1点に集めて、腰と引き腕の上腕をつないで、さらに前腕、バットとつないでいる
打者を上方から見た時の模式図
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 未熟な打者のように三角形がつぶれてしまうと引き腕の力が使えずに腰が開いてしまい、腰の回転がバットの回転に伝わっていないようにみえる
- さらに、これでは内角球もうまく打てそうにない
引き腕を伸ばせば三角形はつぶれやすい
- メジャーリーグの打者の打撃動作を分析した報告によると、共通した5つの力学的な特性があるという
- スイング中に身体の重心は水平に移動する
- ボールをよく、長くみられるように投球ごとに頭の位置を調整する
- 引き腕はバットスピードを大きくするために伸ばす
- ステップの長さは投球によらず一定
- インパクト後、上半身は投球方向に向けて、体重を前足に乗せる
- このようにバットのヘッドスピードを大きくするためには引き腕を伸ばすこととあった
- 引き腕の肩あるいは体幹からバットのヘッドまでの距離、回転半径を長くしてヘッドスピードを速くしようという力学的な考え方である
- しかし、引き腕を伸ばせば三角形はつぶれて引き腕の力を使い難くなる
- また、バットがそのまま遠回りすればドアスイングになって内角球も打てなくなる
- メジャーリーグ打者のように腕力が強ければ再び三角形を作れるのだろうか?
- さらに、日本のプロ野球一流打者でもスイング開始前に引き腕の肘は真っ直ぐ伸ばされている
プロ野球一流打者に観察されるテイクバック時の引き腕の肘伸展動作
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- このように肘を伸ばしてスイングすると体幹を回転させ難くなるので地面反力を大きくできる効果が期待できて、結果として身体の回転の勢いに貢献する
- 引き腕の力を使わないのであれば良いかもしれないが、引き腕の果たす役割は大きいはずである
引き腕の力を使えるようにする
- 自分の背中にあるものを自分の前に腕で引っ張ってくる牽引力を測ると、肩の近くを通すように引っ張ったほうが大きな力が出る
- 肩から遠く離れれば、腕の力は使い難い
- バッティングで引き腕の肘を伸ばしてしまうと同じように腕の力は使い難くなると考えられる
- ティーバッティングにおける腕の動きを詳細に分析した報告によると、それほど大きな動きはないが、引き腕の肩では一度三角形がつぶれて(水平屈曲して)から再び三角形がつくられて(水平伸展して)いるという
- 引き腕の力が使われているということである
- そして、バットのヘッドスピードが速い打者は引き腕の肩の内転と水平伸展が大きかった
- すなわち「脇をしめる」ようにしていたという
- この動きは両腕による三角形をつくることに貢献するだろう
- 引き腕の肩や肘の角度を調整あるいは維持することによって、身体の近くにバットを留めて操作しやすくする、いう言い方もされている
インパクト近くで押し腕を急激に伸ばす
- 一方の押し腕の動きは、引き腕の動きよりも大きい
- フォワードスイングに入ると肘を伸ばしながら前腕を回外して(掌を上に向けて)、手首は小指側に曲げる(尺屈する)、という
- 柱に刺した水平な釘を金槌で打つ動きである
- 指導現場では「パワーの源は引き腕」といわれることがあるが、フォワードスイングの開始ではそうであったとしても、釘打ちの動きからしてインパクト近くになったら押し腕のパワーは重要となるはずである
- 押し腕の肘を伸ばしながらと書いたが、角度でみると45~90°からインパクトに向けて急激に伸びる
- それに対して、引き腕では90~135°という鈍角から緩やかに伸びていく
- この肘の伸ばし方、押し腕では急激に、引き腕では緩やかにというのが重要なポイントである
- このスピード差があるからバットを回転させる力(トルク)を生む出せるのである
- バットを引き抜いてくるというイメージが強いので引き腕を働かせてバットを引っ張ってきたくなるが、それではヘッドは走らない
- 極端に言うと、押し腕では投手側へ押し、引き腕では捕手側へ引くのでバットは回転してヘッドが走る
- ただし、タイミングが早ければ押すことになるが、普通は両腕とも肘じゃ完全に伸びきっていないところでインパクトを迎える
腰の回転
踏み出し足側を軸に腰を回転させる
- 足踏みをする中で投手側へ身体を移動させるし、フォワードスイングのために鉛直軸回りに身体を回転もさせる
- これらは主に脚の筋肉の働きである
- それを脚の動きでみると、軸足では横向きのまま投手側へ腰を押していき、脚を内向きに捩り込みながら(内旋しながら)伸ばして軸足側の腰を押す
- ステップして投手側へ身体を一息に押すのではなく、軸足に余力を残して押すのだった
- 余力を残しておかないと投球スピードの違いに対応できないからである
- 一方の踏み出し足では、ステップして着地した後、脚を外向きに開いて(外旋して)踏み出し足側の腰の回転をリードする
- 腰といっしょに外向きに開くのではなく、腰よりも先に開いてリードする
- それぞれの脚をこのように使うと、腰の中心を軸にではなく、投手側に身体が移動していくので踏み出し足側を軸に腰を回転させることになる
- ゴルフスイングでよく言われる「左半身で壁をつくる」という動きである
- そのほうが腰の回転半径を長くできて、ひいてはバットのヘッドスピードも速くできる
- この腰の回転がスイングスピードを速くするために最も重要な動きで、体幹の捩りを戻す回転がその次に重要という
- 続いて腰や肩の回転、体幹の捩りを眺めてみる
- バッティングの構えでは「腰を捩っておくように」と指導され、バックスイングの向きに腰を少し回しておく
- これは腰を回す範囲を広げてエネルギーを多く発揮しようとしているのである
- 一方で、「バックスイングでは肩をあまり大きく回さないように」と指摘される
- 投球を見難くなるし、大きく捩るとすぐに戻りやすくなるという理由からである
腰が先に回って、肩は後から追いかける
メジャーリーグの打者
- メジャーリーグ打者7名のティーバッティングでの動作を解析した報告がある
- 踏み出し脚を上げる時に腰は18°、肩は30°バックスイングの向きに回していた
- それがステップ着地時になると腰はフォワードスイングの向きに4°、肩はバックスイングの向きに29°になっていたという
- 画像では左から右に時間が流れて、●が腰、〇肩の水平内転の角度である
野球の打撃中の腰部と肩部の回転角度
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 縦軸の0°は投手に対して打者の肩や腰が横向き、プラスはバックスイングの向き、マイナスはフォワードスイングの向きである
- アメリカの打者にありがちだが、ステップしている間、腰よりも肩をバックスイングの向きに大きく回しているのがわかる
- そして、腰から先にフォワードスイングの向きに回し始めて、肩はその後から回している
- 腰の角度と肩の角度の違いを「体幹の捩り」とするならば、このメジャーリーグの打者は腰をフォワードスイングの向きに回しつつ、肩をバックスイングの向きに回して体幹の捩りを大きくしていた
- 最大で30°程度になっていた
- その後は肩の回転のほうが速いので、インパクトになると角度差が小さくなっていた、つまり捩りが戻ってきていた
日本の打者
- 日本を代表する2人の左打者のフリーバッティングを撮影して、メジャーリーグの打者と同じように水平面内の腰、肩、バットの角度を求めてみた
野球のバッティング中の腰、肩、バットの角度変化
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 180°を投捕方向(横向き)としているので、90°で投手と正対することになる
- バットが回転し始める前をみると、両打者ともにバックスイング向きに腰を20°、肩を40°回していた
- つまり、体幹を20°程度捩っていたことになる
- 両者ともに腰よりも肩を大きく回していたが、打者 Y.T. はメジャーリーグ打者のように肩をさらにバックスイングの向きに回していた
- そして、両者ともに腰から先にフォワードスイングの向きに回していたが、回すパターンは少し違っていた
- 打者 H.M. は腰を速く回して、インパクト前にはその回転を終えていた
- 肩も早い時期から加速させて腰とともに回していくパターンであった
- 一方、打者 Y.T. はインパクトまで一定の速度で腰を回していた
- 肩の角度を維持して捩りを一旦大きくし、その後、肩を加速させるパターンであった
- 両者ともにインパクト前に捩りが戻っていた点はメジャーリーグ打者の報告とは異なっていた
- つまり、肩の回転が腰の回転を追い越していたのである
体幹をすばやく捩ってすばやく戻す
肩を残して腰を回す
- ティーバッティングでこの体幹の捩りを詳しく検討した報告によると、捩りの大きさとバットのヘッドスピードとは関係なかったが、すばやく捩りをつくる打者ほどバットのヘッドスピードは大きかったという
- しかも、そういう打者はすばやく捩りを戻す傾向にもあったという
- 体幹の捩りは大きさだけでなく、すばやく捩ってすばやく戻すことがバットのヘッドスピードに貢献するという話である
- 体幹をすばやく捩るというとバックスイングの向きに腰を回して捩ると思いがちであるが、そうではない
- 肩を残して腰を先に回すから捩りができるのである
- この腰を先に回すのをすばやく、ということである
SSC
- 筋肉の使い方に伸展-短縮サイクル(SSC:Stretch-Shortening Cycle)という使い方がある
- 通常、筋肉は短くなって力を発揮するが、短くなる前に一度伸ばすという使い方である
- こうすると、短くなる時に大きな力を発揮できるし、エネルギーを節約できて運動を長続きさせることもできる
- ただし、こうした効果を得るためには条件がある
- それは、使う筋肉を一度伸ばす局面で活動させておくことと、伸ばしてから短くする切り替えをすばやくすることである
- 野球のバッティングで体幹をすばやく捩ってすばやく戻すのはこうしたSSCの効果を狙っているのである
- 現に、野球選手の外腹斜筋の厚さを測ってみると、体幹の捩りを戻す側、右打者でいえば左側の筋肉のほうが厚いという
- 筋肉が太くなるためには強い力を出さなくてはならず、使う筋肉を一度伸ばす局面で活動させておく(伸張性筋活動)ことを繰り返すとよく見られる効果である
身体を回転させるのではなく、バットを回転させる
- 体幹と腕の回転がバットのヘッドスピードにどう貢献するのかをみた報告によると、フォワードスイング前半では体幹の回転、後半では手首の回転がバットのヘッドスピードの大部分を生じさせているという
- 踏み出し脚を着地する時には肩の開きを抑えて、また、バットのヘッドスピードの増加もできるだけ抑えて、インパクトまで加速させるための距離を保つ
- そして、フォワードスイング前半、腰の回転に遅れないように胸部を回転させることで体幹としての回転に勢いをつけ、バットのヘッドスピードを急増させることが重要という
- こうして腰の回転と体幹の捩りを戻す回転によって身体全体としての回転の勢い(角運動量)は大きくなるが、インパクトまでその勢いを続けるわけではない
- フォワードスイング後半にはバットの回転の勢いに移していくことになる
- バットの回転に移せば、その反作用を受けて身体の回転の勢いは弱まる
- 野球のバッティングでは身体を回転させるのが目的ではなく、バットを回転させるのが目的である
参考文献
科学する野球 バッティング&ベースランニング (ベースボールマガジン 2016年12月25日 平野裕一)