ピッチング ボールスピン リリース位置・回転軸と回転数・純粋なバックスピン
ボールの回転軸の向きと回転数
5つの要素が球筋を決める
- 同じ 140㎞/h のボールを投げても打たれる投手と打たれない投手がいる
- 投げられたボールの出どころ(リリース位置)
- 投げ出す角度(投射角)
- ボールスピード
- ボールスピン
- 縫い目の向き
によっておよそ決まる
- これらのうち、リリース位置、ボールスピード、ボールスピンによって投射角はおよそ決まる
- リリース位置は重要で、左投手、長身投手、アンダーハンド投手が好投するのは打者がリリース位置や球筋に慣れていないこともある
- プロ野球左投手のリリース位置を調べたところ、ピッチャーズプレートの中心から50㎝程打者から見て右側、160~170㎝打者寄りだった
- これは、球筋にするとプレートの真ん中からボールが来るよりも角度にして2°ほど右側からボールが来ることになる
- 右投手も同じようなリリース位置とすると、左右で4°ほど違う球筋になる
- 単純な対応策は、左投手の時に左打者は4°オープンスタンスにすればよいということになる
- ボールスピンについて、打者にわからないように投手は微妙に握りやスピンのかけ方を変えている
- プロのスコアラーでさえ球種の区別には苦労している
- ボールスピンといった時には、回転軸の向きと回転数を考える
- さらに、回転軸の向きは空間的にみなければならないので、ボールを投げる向き(進行方向)に対してどのくらい傾いているのか(方位角)、そして上下(鉛直方向)にそれがどのくらい傾いているのか(仰角)を考える
回転軸と回転数の影響
- ハイスピードビデオの性能が良くなったおかげでボールスピンについてよく調べられている
- プロ野球投手と大学一流投手の直球のスピンを分析した調査がある
- 回転軸の向きはプロと大学で差はなく、進行方向に直角とは19°傾き、鉛直方向には-32°傾いていた
- これは、上から見ると、回転軸は3塁側より19°前に傾いている、投手から見ると、回転軸は3塁側より32°下に傾いている、ということである
直球スピンにおける大学生投手とプロ野球投手の比較
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- ごく稀に進行方向にほとんど直角な回転軸をもつ投手もいたが、鉛直方向では20°より小さい、つまり回転軸が水平に近い投手はいなかったことがわかる
- この調査では、プロと大学を平均するとボールスピードは37.7m/秒(136㎞/h)、回転数は34.4回転/秒 であったという
- プレートからホームベースまでは18.44mなので、そのスピードであれば、0.49秒でホームベースまで到達する
- その間にボールは16.8回転することになる
- 20回転/秒のボールをバットの芯でとらえたとするとそれが40回転/秒のボールになると、かろうじて掠めるくらいにバットの上部を通過することになるという
純粋なバックスピンのためには前腕と掌を進行方向に向ける
- このボールスピンの結果として 、球筋は以下の画像のようになる
大学生投手の直球の投球軌道の一例
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- スピンがない場合には細線のようにボールは進むが、スピンのおかげで〇太線のようにずれる
- ずれるのは空気からの力(マグナス力)を受けるからである
- ここでは右投手なので、リリース位置は打者から見てホームベースより左になっていて、⊿x だけ横へずれてほぼ真ん中に入ってくる球筋になっている
- このずれが小さいと「ボールがお辞儀する」、「ボールが垂れる」とか言われることになる
- 逆に「浮き上がるボール」とは、このずれが大きいボールである
- このような回転軸の向きのおかげで直球は必ずシュートする
- 手指からの力の向きが回転軸の向きを決めるので、リリース直前の手の動きがシュートさせることになる
- 前腕を回内する動きで進行方向に対する傾きを、スナップの親指側から小指側へへ掌を振る動きで鉛直方向に対する傾きをつくることになる
- したがって、進行方向と直角で水平な回転軸、純粋なバックスピンにするためには前腕および掌を進行方向に向けることが求められる
- 純粋なバックスピンにできれば空気から受ける浮き上がり力(揚力)は最大になる
- プロの投手になると純粋なバックスピンに近くなるという報告もある
- 前腕および掌の向きと直交するように回転軸があるとすれば、オーバーハンドであれば純粋なバックスピンのような横の回転軸となり得るが、スリークォーター、サイドハンドと腕が下がってくると回転軸は縦になってくるはずである
ボールスピンによって球筋がずれる
- 2008年、北京オリンピックへ向けた女子ソフトボールに対する国立スポーツ科学センターでの医・科学サポートがあった
- 日本の打者がアメリカの左投手を打てないということで、同じようにボールスピンによる球筋のずれを調べた
- その結果、1人の左投手のライズボールは30㎝上へ、ドロップは30㎝下へ球筋がずれることがわかった
- ボールの端を押せばスピンが多くなるが、スピンのおかげで押す位置が動いてしまって大きな力で押せずにスピードは出なくなる
- したがって、スピードとスピンは相反すると思いがちである
- しかし、スピードとスピン関係を調べた結果によると、スピードの速い投手はスピンも多いという
- それは、そもそも押す力が大きければ、そのうちのスピンを生む分、つまり回転力も大きくなるからである
- ボールの端を押せばスピンが多くなるとすれば、スピンを少なくしたい、なくしたいとすればボールの中心を押せばよい
- フォークボールやナックルボールでは中心を押すことになる
カーブでは手背屈を小さく、回外を大きくする
- 直球とカーブのボールスピンを比較した報告によると、カーブ(スピードは27.2m/秒)の回転軸は、進行方向に対して-48.3°、上から見て3塁側より後ろに傾き、鉛直方向に対して-27°、投手からみて3塁側より下に傾いていたという
- カーブの握りや軌道を想像すればその回転軸の向きは納得できる
- そして、回転数は31回転/秒であった
- 回転させて球筋を変えようとしているのに、直球より回転が速いというわけではない
- カーブでは指先ではなく指の腹でボールを押すので、それ程早くならないのかもしれない
- カーブであることを打者に見破られないようにするために、直球を投げる時との動作の違いは、ボールリリース前に手首をあまり後ろに反らさず(手背屈が小さい)、肘から先の部分を大きく内側に回す(大きく回内する)程度にとどめる
- それでこの回転軸と回転数の違いを生むのである
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参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)