体力のトレーニング 行動体力・防衛体力・トレーニングの原理(オーバーロード・特異性・可逆性・適時性)・トレーニングの原則(全面性・意識性・漸進性・個別性・反復性)
1.体力の概念
- 体力は『行動体力』と『防衛体力』に分けることができる
- 行動体力とは、スポーツ活動などの行動を起こす能力、持続させるための能力、そして行動をコントロールする能力である
- これらは「作業能力」、「活動能力」にあたる
- 防衛体力とは、健康や基本的な生命活動を維持するための身体諸器官の構造と機能、さまざまな精神的ストレスや身体的ストレスに対する抵抗力や免疫、体温調節などの恒常性維持機能が含まれる
- 防衛体力は、いわば「生存能力」にあたる
2.行動体力の分類
- 行動体力は大きく「形態」と「機能」にわけることができる
①形態
- 形態には、一般的な身長や体重だけではなく、身体各部の大きさやそれらの比率、そして体脂肪率や除脂肪体重などの身体組成も含まれる
- 急激な身体の移動や方向転換が要求されるスポーツや、衝突や接触があるコンタクトスポーツなどでは、物理的な量としての形態が大きいことがそのパフォーマンスに影響する
- したがって、体重のコントロールや筋肉量を増やすことがトレーニングにおいて重要な課題となることがある
②機能
- 機能には、筋力、スピード、持久力といったエネルギー系の要素と、平衡性、巧緻性、柔軟性などの神経系の要素がある
- これらの要素は個別に測定することが可能であり、それぞれがスポーツパフォーマンスのさまざまな側面に影響を与えている
- しかし、これらの要素は個別的ではなく、相互に関係しあって総合的に機能することが多い
3.行動体力の種類と特性
①筋力とパワー
- 自分の身体や相手の身体、あるいはボールやバットなどの対象物を移動させるとき、発揮した筋力と移動距離の積は仕事量として表される
- この仕事量を仕事に費やした時間で除した値がパワーである
- すなわち、パワーは単位時間当たりの仕事量である
- パワーには、筋力の要素とスピードの要素の両方が含まれていると言われる
②パワーの大きさと運動時間
- 筋中にあるATP(アデノシン三リン酸)がADP(アデノシン二リン酸)に分解されるときに生じるエネルギーが筋活動の直接的エネルギーとなる
- ATPはその容量に限度があるため、運動を継続するためには分解されたADPが再びATPへ再合成される必要がある
- 再合成には、クレアチンリン酸や乳酸の分解、および有酸素的過程から産生されるエネルギーが必要とされる
- その機構は、運動を継続できる時間の長さと発揮されるパワーの大きさによって、大きく3つに分けることができる
ハイパワー
スポーツの種類
- 砲丸投げ
- 100m走
- 野球の盗塁
- ゴルフ
- テニス
運動時間
- 30秒以下
エネルギー獲得機能
- 非乳酸制機構 (ATP-CP系)
ローパワー
スポーツの種類
- 1500m競泳
- スピードスケート (10000m)
- クロススキーカントリー
- マラソン
- ジョギング
運動時間
- 3分以上
エネルギー獲得機能
- 有酸素性機構
ミドルパワー
スポーツの種類
- 200m、400m走
- スピードスケート (500m、1000m)
- 100m競泳
- 800m走
- 体操競技
- ボクシング (1ラウンド)
運動時間
- 30秒~1分30秒間
- 1分30秒~3分間
エネルギー獲得機能
- 非乳酸性機構 + 乳酸性機構
- 乳酸性機構 + 有酸素性機構
筋力を動かすエネルギーについて復習したい方はコチラ
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③持久力
- 持久力は、力の持久力、スピードの持久力、パワーの持久力に分類できる
- さらに、持久力を滑動している筋への酸素や栄養を送り続ける能力である全身持久力と、ひとつの筋肉が長時間あるいは何回も反復して力を発揮し続ける能力を意味する局所の筋持久力に分類できる
④調整力
- 調整力とは、協調性とか協応能力というコントロール系の機能を意味する
- 神経系とのかかわりが深く、スポーツの技能の習熟に強い影響を及ぼす
- 調整力はいくつかに分類され、すばやく動くための敏捷性、巧みに動くための巧緻性、姿勢をうまく整えるための平衡性がある
神経系の発達、スキャモンの発育曲線について復習したい方はコチラ
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⑤柔軟性
- 柔軟性は、動的なものと静的なものに分類される
- 静的柔軟性は、静止した状態での個々の関節の可動範囲を意味している
- 動的柔軟性は、動きの中でいかに広い関節可動範囲にわたって身体をコントロールできるかという身体の柔らかさを意味する
4.体力トレーニングの原理・原則
トレーニングの原理
①オーバーロード
- トレーニング効果を得るためには、既に持っている能力を刺激する負荷が必要である
- つまり、日常生活で身体にかかる以上の負荷や、あるレベル以上の負荷を課すこと(過負荷)によって効果が期待できる
②特異性
- トレーニングによる生理学的適応には、トレーニングの種類による特異性が認められる
- たとえば、ウエイトトレーニングでは筋力を高めることはできるが、心肺機能の向上は望めない
- また、同じウエイトトレーニングでも低強度かつ高回数で行うと最大筋力ではなく筋持久力の改善が主たる効果になる
- そればかりか持久力の向上ばかりを重点的に行うと、元々備わっているスピードが落ちてしまうこともある
- したがって、目的に応じてトレーニングの種類・強度・量・頻度を選択する必要がある
③可逆性
- ある一定期間トレーニングを実施して効果が得られても、トレーニングを止めるとまた元に戻ってしまう
- これを可逆性という
- その内容はパフォーマンスが低下するだけでなく、生理・生化学的にも変化をもたらす
④適時性
- トレーニングの効果は各年代を通して、いつも同じように得られるものではない
- 特に発達発育期においては年齢に応じて体力要素ごとに異なる発達経緯をたどることが分かっている
- このような発達のスパート期をうまく捉えてトレーニングすると効果が大きい
- つまり、体力要素が伸びる時期に合わせてトレーニングすると効率的である
トレーニングの5つの原則
①全面性
- 体力の諸要素を隔たることなく高めるとともに、それぞれの種目に必要な専門的な体力をバランスよく向上させることが大切である
- 種目ごとに特に必要な体力要素をあるにしても、基礎的な体力を高めるために、身体をバランスよくトレーニングし、強さ、粘り強さ、速さなどの諸要素をオールラウンドに鍛える必要がある
- 特に発達発育期にはひとつの種目に偏ることなく、さまざまな運動に取り組むことによって、将来の選択範囲を広げつつ、スケールの大きいアスリートに育つように仕向けるようにする
②意識性
- トレーニングを行ううえで、強制されて行うのではなく自分の意志による方がより効果的である
- トレーニングの目的をしっかり理解し、「自分のレベルアップに何が、どのように必要なのか」ということを自覚しながら行え効果は大きくなる
- コーチは、一方的にトレーニング指示するのではなく、アスリート自身もその意味を理解しながらトレーニングを進めるように方向づけるべきである
③漸進性
- ある一定の負荷でトレーニングを続けた場合には、ある一定の水準に達すると、それ以上のトレーニング効果が得られにくくなる
- 体力の向上に伴い、トレーニングの負荷も漸進的に増やしていく必要がある
- つまり、強くなったら強くなったなりの負荷が必要だということである
- また、能力以上の強い負荷を一気に課すと障害を引き起こす可能性もあるので、徐々に強度を増していくことが大切である
④個別性
- 各アスリートの年齢、体格、性別、体力水準、トレーニング経験、技術水準などの特性を配慮して、個人に応じたトレーニング負荷を与える必要がある
- あるいは、個人競技では戦い方に個人の特徴があり、団体競技ではポジションなどの役割にも差がある
- 個人を伸ばすためには、このような個別性の問題を考慮しながら必要な負荷を与えるようなコーチングを心がける
⑤反復性
- トレーニング効果を上げるためには、反復して行う必要がある
- 特に体力の場合は一夜漬けで目覚ましく向上することはありえない
- 体力は繰り返し、コツコツと反復を重ねて初めて向上することを認識してトレーニングを行う必要がある