- 脊柱安定性に関わる体幹筋の役割
- 体幹筋の分類
- コアスタビリティートレーニングの考え方
- 筋活動の様式から見た基本的な体幹筋機能
- 3種類の腹筋群活動様式
- ローカル筋のモーターコントロールエクササイズ
- ブリッジエクササイズ
- 筋筋膜経線に沿った体幹筋トレーニング
- 体幹筋機能は運動パフォーマンスを向上させるか?
- 参考文献
脊柱安定性に関わる体幹筋の役割
- 脊椎の機能は、身体部位の運動を可能にすること、負荷を担うこと、そして脊髄と神経根を保護することである
- そのためには、脊椎のオートマティックな安定性が必要である
- それを賄う3つのシステムがあるとしている
- 他動サブシステム
- 自動サブシステム
- 神経コントロールサブシステム
- これら3つのシステムは互いに補完し合えるとして、筋の制御作用が存在することを示唆している
他動サブシステム
- 他動サブシステムは椎骨、椎間関節面、椎間板、脊柱の靭帯、関節包からなる
- 最終可動域の付近で機能し、ニュートラルポジション近傍では制動性をあまり持たず、代わりに脊椎の状況のセンサーとして働く
自動サブシステム
- 自動サブシステムは脊柱に連なる筋と腱からなる
- それぞれの状況において安定性に必要とされる力を発揮する
神経コントロールサブシステム
- 神経コントロールサブシステムは固有受容器と中枢神経系および末梢神経系からなる
- 固有受容器からの情報を受信し安定性に必要な力を決定するとともに、自動サブシステムの筋がそれぞれの能力に応じた力を発揮するためのコントロールを行う
体幹の安定性に関連する筋群
- 安定性に関連する筋をローカルマッスルとグローバルマッスルに分類した
- ローカルマッスルは深層で持久的に働く
- 椎骨に直接付くため、脊椎分節の安定性に作用し、腰椎に制御と剛性を与える
- グローバルマッスルは浅層に位置し、相動性で骨盤と胸郭を結び、体幹の運動を司る
体幹筋の分類
- 体幹筋は腰椎安定化作用における機能の違いから、ローカル筋とグローバル筋の2つに分類される
ローカル筋
- 腹横筋
- 内腹斜筋(胸腰筋膜付着線維)
- 腰方形筋の内側線維
- 多裂筋
- 胸最長筋の腰部
- 腰腸肋筋の腰部
- 横突間筋
- 棘間筋
- 大腰筋
- ローカル筋は起始もしくは停止が腰椎に直接付着する筋と定義される
- 体幹深部に位置し、腰椎の分節的安定性を制御している
- 関節に適度な緊張を与え、安定性を高める働きをしている
グローバル筋
- 腹直筋
- 外腹斜筋
- 内腹斜筋
- 胸最長筋の胸部
- 腰腸肋筋の胸部
- 脊柱に直接付着しない多分節間を横断する表在筋である
- 脊椎運動時のトルクを発生し、運動方向をコントロールしている
- 多分節間を横断していることから張り網のように作用し、侠客から骨盤に力を伝達する役割を有している
- この2つの筋システムが相互に作用することにより、腰椎の安定化が増加し、体幹の剛性が高まる
コアスタビリティートレーニングの考え方
リチャードソンらの提唱
- モーターコントロールの不良が組織の微細損傷を生じ、その累積が腰痛の発症を招くとした
- 腹横筋や多裂筋など特定のローカルマッスルを活性化させることで脊椎の支持性を高める「分節安定化トレーニング」を提案した
- 体重支持時の機能から筋を体重支持筋と非体重支持筋に分類した
- 体重負荷時には体重支持筋である単関節筋(ローカルマッスル)が動員されるため閉鎖運動連鎖や抗重力姿勢で作用する
- 免荷状態では筋断面積が減少し易疲労性で遅筋から速筋へと変化するとしている
- 非体重支持筋は多関節・多機能筋群であり、開放運動連鎖やバリステッィク運動など主として非体重支持運動で動員され、免荷時でもその断面積や繊維の性質は影響を受けないとしている
Stage1:ローカル分節コントロール
- グローバルマッスルから分離したローカルマッスルの同時収縮を再確立する
- 体重支持機能に負荷を加えないことで分離を促し、過活動なグローバルマッスルを抑制する
Stage2:閉鎖運動連鎖分節コントロール
- 体重支持閉鎖運動連鎖エクササイズを用いて負荷刺激を徐々に漸増させることでローカルマッスルと体重支持筋の統合を図る
- 座位における脊柱中間位での負荷から開始し、不安定な支持面でのエクササイズに移行することで、体重支持筋の機能をさらに促通する
Stage3:開放運動連鎖分節コントロール
- 隣接する分節の開放性の運動中に腰椎骨盤領域の代償運動を抑制する
- 体幹の筋力および持久力の低下を治療する
- 高負荷・高速度の体幹運動を含む開放および閉鎖運動連鎖が組み合わさったスポーツなどの機能的活動へと進める
- ローカル分節のコントロールは維持する
マクギルの提唱
- コアの剛性と安定性は疼痛管理、パフォーマンス向上、損傷からの回復に不可欠な要素であるとしている
- 十分な安定性の確保に必要な筋の活動量は人と作業によって異なり、すべての筋が重要である
- 腹横筋のような単独の筋に注目しても安定性は向上しないとする
- 安定化筋をローカルとグローバルとに区別することに否定的な見解をしている
- エクササイズを行う上では無痛性で脊柱中間位を維持し、持久力を強調することが大切である
- ビック3エクササイズとして、カールアップ、サイドブリッジ、バードドッグを推奨している
- これらのエクササイズは脊柱への高負荷を避け、十分に筋を刺激し、安定性を得るものである
- 日常生活の中で腰部を健全に保つためにはStage3までで強度が十分である
- スポーツなどハイパフォーマンスを望む場合、Stage4・5が適応となる
Stage1:質の高い動作の記憶を確立する
- 痛みなく日常活動を行うため、ヒップヒンジスクワット、ランジ、回線制御の習得から開始する
- 動きのパターンは腹壁の軽度の収縮を維持しながら行う
Stage2:全身および関節の安定性を構築する
- ビック3エクササイズを開始し、安定した動きのパターンを習得する
- 適切な姿勢および筋の活性化パターンを確実にするために日常的な活動を繰り返し学習する
Stage3:持久力を向上させる
- 安定した筋活動のパターンを維持するために持久力を高める
- 持久力を向上させるには疲労を生じない段階から開始する
- 短い保持時間(7~8秒)でセット数を繰り返す
- セット数の設定ではセット毎に反復回数を減らしていく逆ピラミッドを用いることで良い技術が促進される
Stage4:筋力を高める
- ビック3エクササイズによりコアの剛性を高め、押す・引く・持ち上げる・スクワット・ランジ・運搬などの動作や回線の制御により、段階的に負荷を増やしていく
Stage5:スピードやパワー、アジリティーを向上させる
- Stage4までで構築した基礎に基づき、最高どおパフォーマンスを作り上げる
- コアの剛性を高めて股関節、肩関節、遠位時関節の運動能力を発揮させ、競技に特化したトレーニングを行う
筋活動の様式から見た基本的な体幹筋機能
Early activity
- 1990年代からローカル筋機能の重要性を報告した研究が多く発表されるようになった
- その代表的発表が、四肢運動時の腹横筋フィードフォワード作用である
- 上肢挙上時に腹横筋は三角筋か(主動作筋)に先行して活動し、体幹筋の中で最も早く活動を開始する
- 同様の結果が下肢の運動でも確認されている
- 例えば、ジャンプ動作jに腹横筋は外腹斜筋や腹直筋よりも優位に早く活動し、蹴り出し期にて大きな地面反力を受ける準備段階として働くことを報告している
- 以上の通り、腹横筋は「Early activity」によって、四肢への力の伝達や円滑な運動制御をしている
Tonic activity
- ローカル筋は歩行などの負荷の低い反復運動や姿勢制御を行う際には、低い筋活動量を保ちながら持続的に活動する「Tonic activity」を有する
- 遅い歩行速度ではグローバル筋(腹直筋)は活動していないのに対し、ローカル筋(腹横筋や内腹斜筋)は歩行周期全体を通じて活動している
Phasic activity
- ランニングなど負荷の高い運動ではローカル筋とグローバル筋は共同収縮を示す相かつ筋活動量が著名に低い層の両者が混在する「Phasic activity」を呈する
- ジャンプ動作時の腹筋群においても、地面反力を強く受ける蹴り出し期では、全ての腹筋群が活動量が共同収縮を示すが、空中では筋活動量が一気に低下するオン/オフのある筋活動様式を示した
3種類の腹筋群活動様式
ドローイン
- ドローインは腹横筋の選択的収縮を促通する手法である
- 運動方法は、内腹斜筋の収縮(膨隆)を感じない時点まで、ゆっくり下腹部を引き込ませる
- 効果は、腹横筋の神経筋反応の改善である
サブマキシマル ドローイン
サブマキシマル ドローインは腹横筋と内腹斜筋の収縮を促通する方法である
- 運動方法は、最大限下腹部を引き込ませると内腹斜筋の収縮(膨隆)を触知できる
- 効果は、腹横筋と内腹斜筋の筋力増強である
- ドローインよりも収縮強度が上がる
ブレーシング
- ブレーシングは腹筋群の共同収縮である
- 運動方法は、腹部を膨らませ、体幹筋すべてに力を入れる
- 効果は、体幹の合成の向上である
ローカル筋のモーターコントロールエクササイズ
腹横筋
- 背臥位で下腹部のみを引き込ませることが腹横筋下部および中部繊維の促通に有効である
- 片側性に腹横筋を促通する場合、促通する側を下にした側臥位にてドローインを行うサイドドローインが有効である
多裂筋
- 腹臥位や四つ這い姿勢でゆっくり骨盤の前傾を促すよう運動させる
- この際、表層脊柱起立筋の過剰収縮を認めず、下位腰椎の多裂筋の収縮が起きていることを触診にて確認する
ブリッジエクササイズ
- ローカル筋機能を向上させた後、機能的な体幹の剛性を高めるためにブリッジエクササイズが行われる
- 肘-爪先ブリッジでは腹筋群の共同収縮が特異的に大きかった
- バックブリッジは背筋群の共同収縮が特異的に大きかった
- 掌-膝ブリッジでは30~40%MVCの腹筋・背筋群の共同収縮を示した
- サイドブリッジでは支持側の外腹斜筋の活動量が特異的に大きかった
- ローかつ筋機能に焦点を当てた体幹安定性向上を目的としたトレーニングでは肘-膝や掌-膝などに一側四肢挙上を伴わせる特異的なトレーニングが有用となる
筋筋膜経線に沿った体幹筋トレーニング
- より機能的な体幹筋機能を作るため、筋筋膜経線を意識した体幹筋トレーニングを実施する
- 人体の筋肉は筋膜で連結されており、あらゆる動作において共同的に活動することで体幹安定性を高める
- 体幹全面では、一側の外腹斜筋が反対側の内転筋へと前斜走スリングによって連結されている
- 前斜走スリングを促通するには、サイドブリッジ姿勢を上側の下肢で支持し、下側の腹斜筋群と上側の内転筋群の共同収縮を促通する
- 背面の筋群では、一側の広背筋から腰背筋膜を介して反対側の大殿筋へと後斜走スリングによって連結されている
- 後斜走スリングを促通するには促通するには背筋運動に体側の肩関節伸展と股関節伸展を伴うクロスモーション背筋が有効である
体幹筋機能は運動パフォーマンスを向上させるか?
- 垂直跳び、アジリティー、スプリント能力に弱~中程度の相関を示している
参考文献
体幹筋機能のエビデンスとアスレティックトレーニング (日本アスレティックトレーニング学会誌 第5巻 第1号 3-11 2019 大久保雄)
スポーツ理学療法におけるコアスタビリティートレーニング活用の考え方 (理学療法 34巻11号 2017 原清和)