不良姿勢による身体への影響
今回は『不良姿勢による体への影響』について共有していきます!
機械的ストレス
椎間円板の特徴
- 膠原繊維と線維軟骨からなる外層の線維輪と、中央のゼリー状の髄核からなる
- 線維輪の膠原繊維の走行は層ごとに交互パターンをなし、剪断力や捻力の方向に対応する膠原繊維のみが緊張し、他の線維は弛緩する
椎間円板へのストレス
- 姿勢の変化により腰椎椎間板にかかる負荷は正常な立位姿勢に比べると、体幹を前屈するほど下部腰椎に加わる負荷が増大する
- これは、前方へ加わる体幹重量を、腰部脊柱起立筋で保持する負荷が増え、両者による荷重が椎間板に加わるためである
- 体重70~80㎏の人の第3/4腰椎椎間板内圧の変化は、立位を100%とすると、背臥位で25%、立位体幹前傾位で150%、椅子座位体幹前傾位で185%、背臥位からの膝屈曲位からの起き上がりで210%、と体位によって変化する
- これは胸椎においても同様である
- 胸椎後弯が増大するほど胸部脊柱起立筋で保持する負荷が増え、中部胸椎に加わる負荷は増大する
姿勢矯正をする際の注意点
- 腰椎屈曲時の変化は5つある
- 神経組織圧迫方向への髄核の後方移動
- 椎間孔の拡大
- 椎間関節から椎間板への負担
- 黄色・棘間・棘上・後縦靭帯、椎間関節包と線維輪後縁の張力増大
- 線維輪前方部の圧迫
- 腰椎伸展時の変化は5つある
- 神経組織から離れる方向への髄核の前方移動
- 椎間孔の径の縮小
- 椎間板から椎間関節への負担
- 後方結合組織と線維輪後縁の張力減少
- 線維輪前方部の伸張
- よって、椎間板ヘルニアの場合、腹筋群の強化のため、背臥位からの腰椎屈曲による起き上がり運動は髄核の後方移動を防止できないため実施すべきではない
- 一方、脊柱管狭窄症の場合、椎間孔径が縮小する腰椎伸展運動は実施すべきではない
筋膜の影響
- 筋のインバランスに加え、静止張力下における筋膜配列に伴うインバランスや、筋の硬さが慢性化した場合の筋膜の高密度化も考慮するならば、筋膜に焦点を絞ったアプローチも必要である
筋膜の特徴
- 筋膜とは、筋膜区画で筋を囲み、筋間中隔でそれらを分離し、関節を超えて連続する筋膜配列でそれらを連結して、支帯によってそれらを同期させる線維性結合組織膜である
- 筋膜は次の5つからなる
- 浅筋膜
- 深筋膜
- 筋外膜
- 筋周膜
- 筋内膜
- 筋膜は基質の中に波状コラーゲン線維とわずかなエラスチン線維とが存在する
- ただし、筋内膜だけはコラーゲン線維のみである
- 筋膜組織は、局所的な緊張の要求によってその組織の配列と密度を適応させる1つの相互接続したネットワークといえる
姿勢の調整と筋膜の張力
- 静的姿勢は筋膜配列による筋膜の基底張力によって保持されている
- 静的立位姿勢では意識的な姿勢制御は要求されず、筋膜の張力が立位での身体の保持に役立つ
- 姿勢のアライメント不良で動揺が増加し、立位の基底面の周辺に重心が偏位すると、筋膜の張力が筋膜単位の筋紡錘の刺激を引き起こし、適切な筋収縮が引き起こされる
過用による筋膜の変化
- 正常な筋外膜であれば、筋膜と筋の間のインターフェース構造はヒアルロン酸内張りの保持を含めて保存されている
- しかし、筋外膜が破壊されると、インターフェース構造は消し去られてしまう
- 過用などでヒアルロン酸が凝集すると、筋膜の粘弾性が増大し、筋膜の高密度化の原因になる
- 手術の際の筋外膜への侵襲が、術後の筋の機能に与える影響は大きい
- 不良姿勢や異常運動パターンによって、深筋膜が高密度化をきたして疼痛を生じると、静的姿勢あるいは動的活動において疼痛を回避するために姿勢の代償が生じる
- 例えば、大腿筋膜張筋がその牽引力を増加させた場合、同じ配列の遠位の長趾伸筋で反対方向の牽引力が誘導される
- 以上のことより、筋のインバランスだけでなく、筋膜の視点からも姿勢を評価する必要がある
- 痛みを伴う運動と既往歴を踏まえて、前額面・矢状面・水平面それぞれの面で運動を検証し、筋まkの異常をきたした協調中心を触診検証し、筋膜の関与を評価する
筋膜への治療
- 治療としては痛みの起源の協調中心に対して行う
- 筋膜リリースや筋膜マニピュレーションを行う
- これらは、基質に異常な流動性を回復し、筋膜の順応性を活用することによってコラーゲン線維の間の癒着を除去する
参考文献
姿勢の評価と治療アプローチ (脊髄外科 Vol.27 No.2 2013年8月 竹井仁)
発育期の肘内側障害
今回は『発育期の肘内側障害』について共有していきます!
概要
診断
- 小学生時代の肘内側障害の初期の圧痛は内側上顆下端であり、多くは1~2週で疼痛が消失するが、疼痛の記憶がない例も多い
- X線検査は必ず両肘の正・側2方向撮影に加え、患側の45°屈曲位正面撮影を行う
- 超音波検査も有用である
治療
- 小学4、5年生が多い疼痛初発時の治療が問題である
- 屈曲位正面45°の撮影で剥離骨片を認めれば約2ヶ月投球を控えるよう指示し、ストレッチ、投球フォームの指導などを行う
- 疼痛がなくなればX線像で骨癒合が得られなくても制限しながらでも野球を許可する
- この治療により、1年で76%に骨癒合がみられた
- 非癒合例では肘関節痛を残した例が多かったとする報告がある
- 最近は基本的には骨癒合が得られるまで投球を制限して平均44ヶ月時点で78%に骨癒合が得られた報告がある
- 癒合しなかった例では64%にパフォーマンスの低下がみられていた
- 剥離骨片が癒合せず、遺残骨片となった場合の処置に関する論文は少ない
- 内側上顆骨端線癒合以前でも、大きな遺残骨片とのギャップが4mm以上で、疼痛が持続する例では積極的に肘頭からの骨移植、tesion band wiring で再接合を行い、好成績を得ている
参考文献
発育期の肘内側障害 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 伊藤恵康)
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の治療
今回は『上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の治療』について共有していきます!
治療方針
- 小頭骨離断性骨軟骨炎の治療は保存療法に始まり、鏡視下廓清術、骨軟骨片固定術、骨軟骨移植術、骨切り術とさまざまな方法がある
- 最も治療成績が良いのは保存的に修復した症例である
- 症状発現後に来院する一般外来では進行した例が多く、無症状か軽微な初期に発見するには、発症する小学生での検診が有効である
- 保存療法の適応は、骨端線残存例の透亮期、分離期前期であるといわれる
- 保存療法か手術療法かの境界となる骨端線開存例の分離期では保存療法を選択し、その臨床経過から囲碁の治療法を選択している
病期、病型による治療法の選択
- 病巣の位置と大きさで治療成績に差がある
- 外側広範型は中央型に比べて橈骨頭肥大や亜脱臼を認める症例が多く、遊離骨片切除や骨軟骨移植などの術後生成績が安定せず、関節症変化が進行するといわれる
- 腕橈関節外側部の適合不良に伴う橈骨頭の支持性低下により、微小な関節動揺性が生じ、関節全体に及ぶ関節症性変化が惹起される
- 一般的な小頭骨離断性骨軟骨炎は小頭の外側に透亮化が起こり、骨吸収、骨新生を繰り返しながら病巣の中心が外側から中央に移動していく
- 外側型、広範型、中央型という病変部からの分類は病型の違いでなく、同一の小頭骨離断性骨軟骨炎の病期による様相の違いである
- 臨床上、外側広範型で発見された例が保存療法で、外側から修復し中央型となる例を多く経験する
- 中央型の鏡視下廓清術の成績が安定していることから、外側が修復する時期の保存療法はより重要である
- 骨端線開存例の透亮期、分離期では保存療法を第一選択としているが、3~6ヶ月の保存療法で改善が見込まれないときは修復機転の停止が予想され、手術療法が選択される
- 骨端線開存例の遊離期、骨端性閉鎖の分離期、遊離期でも手術療法が選択される
ICRS分類による手術法の選択
- 手術法は病巣の肉眼所見で決定している
- 肉眼病期分類にはICRSの関節鏡分類が使用される
- ICRS分類Ⅰは、柔らかい部分があるが連続性で安定した病変
- ICRS分類Ⅱは、部分的に不連続性であるが安定した病変
- ICRS分類Ⅲは、完全に不連続性だが転位していない病変
- ICRS分類Ⅳは、転位した骨軟骨片や遊離体がある骨軟骨欠損
ICRS分類Ⅰ、Ⅱの場合
- 基本的に保存療法であることが多い
- 経過、画像所見から手術と判断した場合は、drilling、骨軟骨片固定術(骨釘、吸収ピン)を行っている
- 病巣部の除圧と血流改善を目的に上腕骨外側顆楔状骨切り術の報告もある
ICRS分類Ⅲ、Ⅳの場合
- 外側広範型では病巣廓清のみでは関節不安定性が増強し、関節症性変化や橈骨頭肥大、亜脱臼をきたす可能性が高いことから、骨軟骨移植術を行っている
- 中央型では腕頭関節の適合性、橈骨頭の支持性は保たれ、肘関節の動揺性は認められないため、鏡視下廓清術を行っている
- 病巣が大きく、外側壁の破壊が心配な例や、体操などで腕頭関節に過負荷が加わることが予想される症例には、骨軟骨移植術を行っている
- 外側の広範な骨軟骨欠損に対して肋骨肋軟骨移植術の報告もみられる
参考文献
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の治療 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 石田康行)
野球肘の画像診断
今回は『野球肘の画像診断』について共有していきます!
野球肘の分類
- 野球肘における病態は大きく3つに分けられる
- 内側障害
- 後方障害
- 外側障害
- 投球動作では外反ストレスが生じる
- 内側には屈曲回内屈筋群・内側側副靭帯により牽引力が生じる
- 後方には肘頭と肘頭窩でのインピンジメントが生じる
- 外側には圧迫・剪断・回旋力が生じる
- 頻度としては内側障害が圧倒的に多いが、手術適応になるのは外側障害である
病態
内側障害
- 内側上顆では分離、分節、裂離、肥大および骨端線離開などが生じる
- いずれも単純X線像で診断可能である
- 内側上顆の病変は遠位の前方下端に位置している
- 単純X線は肘関節45°屈曲位撮像が必須である
- 投球側、非投球側を比較することも診断に役立つ
- 骨端線離開では45°屈曲位撮像よりも通常の伸展位での撮像のほうがわかりやすい
- 初診時、分離・分節・裂離した骨片と母床間に硬化を伴う境界が鮮明であったものが、数週間の経過で境界が不鮮明になることも多い
- 境界が不鮮明になれば安定性が得られてきたと考えられる
- 非修復例では骨片と内側上顆下端との間の境界が明瞭となり、癒合傾向が完全に停止してしまう
- いずれの内側障害も、基本的に改善していく
- 分離・分節・裂離が残存しても手術に至ることは少ない
- 修復が得られず境界が残存し、内側側副靭帯の機能不全による疼痛が残存する場合は手術を考慮する
後方障害
- 後方障害の代表的なものは肘頭の骨端線閉鎖不全である
- 単純X線側面像の健側・患側の比較により、診断は比較的容易である
- 保存療法が基本であるが、手術が必要かどうかの判断が重要である
- 骨硬化像があり、健側の骨端線が完全に閉鎖し、病変部の骨硬化像と透亮部の幅が3mm以上の症例は保存療法では癒合しない要素として挙げ、手術を考慮すべきである
外側障害
- 外側障害の代表的疾患は上腕骨小頭離断性骨軟骨炎である
- 病期を把握し、修復していくのか、あるいはすでに手術適応なのかを判別するのが日常の診療では最も重要である
- 病変の骨軟骨片の不安定性があり、修復・癒合が期待できない進行期は手術適応である
- 関節内に病変があると関節症変化が生じ、野球のみならず日常生活にも将来的には支障をきたすからである
- 画像診断のポイントは病変部の不安定性の程度把握することにある
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の画像診断
単純X線像
- 三浪の分類、岩瀬の分類が用いられる
- 岩瀬の分類定義
透亮期 外側型:小頭外側にもうろう像と周辺部の軽度の骨化像
〃 中央型:新生骨形成あるいは石灰化を思わせる線状、斑点状の陰影を伴って中央部へ広がる透亮欠損像
分離期 前期型:透亮像内に明らかな島状分離した小骨片像と反応性骨化像との間が明瞭になり、いわゆるクレーター所見で代表される分離像
〃 後期型:修復傾向を示さない分離骨片が軟骨に膨化、文屑、亀裂などの変化を認める像
遊離体期巣内型:遊離寸前ないし完全な遊離体を呈しているもの
〃 巣外型:遊離体遊出後
- 透亮期は小頭骨端線が閉鎖する前で、外側上顆骨端核が出現する前に多い
- 透亮期外側型は優位に低年齢で、全例初診時骨端線は開存している
CTおよびMRIによる不安定性の評価
- 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病因の1つに骨軟骨移行部に損傷が生ずることによる軟骨の骨化障害説がある
- 骨化障害過程をきたした軟骨には肥厚が生じ、石灰化や遅延した骨化が加わる
- 手術が必要になるのはこの骨化障害を生じた骨軟骨片が不安定になった場合である
- 従って、骨化障害を生じた骨軟骨部の評価が治療方針に重要となる
- CTでは3D構築により視覚的立体に病変部の把握が可能で、イメージがつかみやすい
- 実際の骨軟骨部の不安定性を把握するのは、まずCT矢状断像にて骨欠損部(骨化障害部位)を確認する
- 軟骨下骨の陥凹などがあれば不安定性が強いことを示唆する
- 続いてMRI矢状断像で同部位の骨欠損部を確認する
- 不安定性の評価はCTでの骨欠損部に一致した部位の表面輪郭の不整、辺縁の陥凹、骨軟骨片と母床間の高信号の介在、関節軟骨を貫通する高信号で判断する
参考文献
野球肘の画像診断 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 西中直也)
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病期、臨床症状、理学所見
今回は『上腕骨離断性骨軟骨炎の病期、臨床症状、理学所見』について共有していきます!
病期分類の歴史的変遷
- 1979年、三浪らが単純X線像にて透亮期、分離期、遊離期の3期に分けた
- 1988年、岩瀬らが単純X線像にて三浪分類の分離期をさらに前期と後期および巣内遊離期と詳細に定義した(X線撮影方法を肘45°屈曲正面像に標準化)
- 1990年代、離断性骨軟骨炎における骨軟骨片の不安定性有無をMRIの脂肪抑制T2強調矢状断像にて判別する試みがなされた
- Takaharaらは骨軟骨片と母床との間の高信号の介在、関節軟骨を貫通する高信号ならびに関節面の局所的欠損が小頭離断性骨軟骨炎の不安定性を示す所見であり、高信号は関節液を反映していると述べた
- 病巣部がMRIのT1およびT2強調像で共に均一で低信号を示す場合は、早期の病変を示し、elbow at disc の状態と表現している
- 木田は、小頭離断性骨軟骨炎の分離期において、母床と分節部の間の帯状の領域を分界層とし、この部位が修復に向かうか、離断に向かうかの鍵を握り、分離前期以降の不安定な時期を分界層の改変期と呼称した
- この改変期を最も鋭敏に詳細にとらえることのできる画像検査はMRIであり、軟骨の亀裂から分界層への関節液の流入が1つのポイントであるとしている
- 2000年、最も一般的に普及しているICRS分類が提示された
病期分類のグローバルスタンダード「ICRS分類」
関節鏡あるいは関節切開による肉眼所見による分類であり、手術適応を決めるための画像診断ではない
- ICRS Grade1:正常軟骨で覆われた軟らかい部分があるが、連続性で安定した病変
- ICRS Grade2:部分的には不連続性であるが、プロービングでは安定した病変
- ICRS Grade3:完全に不連続性だが、まだ転位していない病変
- ICRS Grade4:転位した骨軟骨片や遊離体がある骨軟骨欠損
各病気における臨床症状および理学所見
参考文献
上腕骨離断性骨軟骨炎の病期、臨床症状、理学所見 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 山崎哲也)
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病因と病態 発生頻度・発生時期・発生部位・発生要因・炎症の関与・外力の関与・局所血流の関与
今回は『上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病因と病態』について共有していきます!
発生頻度
- 10~12歳の小学生選手で2.1%
- 12~18歳の中・高校生選手で3.4%
病因
発生時期
- 9歳以上でみられた
- 8歳以下は皆無であった
- 本障害は単純X線像にて透亮像の初期、離断像の進行期、遊離体を有する終末期の3期に分けることができる
- 自験例では、初期で11歳、進行期で13歳、終末期で14歳にピークがある
- 初期例の大半が10~12歳に集中していた
- 成長期では同じ暦年齢でも骨年齢は様々である
- 病因、病態を探るうえでは骨年齢による検討を要する
- 小頭骨年齢を5段階に分けて評価する
- 骨端核が固有形
- 骨端線が癒合開始
- 癒合中
- ほぼ閉鎖
- 閉鎖
- 初期例の大半は骨端核が固有形から骨端線癒合開始の時期に集中している
- 本障害は小頭骨端線の癒合開始後に発生するものと推測される
発生部位
- 初期病変の大半が小頭の前外側に発生する
- そのため、X線で検出しようとすると肘伸展位より、45°屈曲位が適している
- 超音波検査では、初期病変では軟骨下骨に不整像がみられるが、軟骨には明らかな損傷を認めない
- すなわち、障害は小頭前外側の軟骨下骨に発生する
発生要因
- 肘離断性骨軟骨炎の成因については、持続外傷説、血行障害説などが唱えられてきた
- 臨床的には野球や体操の選手に多くみられることから、持続的な微小外力説が最も有力とされてきた
- 投球動作では外反ストレスにより腕頭関節に圧迫・剪断力が加わり、小頭の前外側に発生すると考えられている
- CTで投手経験者、野手経験者、投球競技未経験者の上腕骨遠位関節面における軟骨下骨の骨密度分布を解析し、投手では小頭前方への応力集中が生じていることを報告している
- 小頭の骨端核は1歳前後に出現し、12~14歳で骨端線が閉鎖する
- 骨端核出現から閉鎖までの期間が他の骨端核よりも長く、この間、小頭の骨端核は後方からの1~2本の動脈のみで栄養されている
- 小頭局所は虚血性変化をきたしやすいと考えられ、血行障害が病院の1つとして挙げられる所以となっている
病態
炎症の関与
- 病理組織像で炎症所見の欠如を指摘して以来、炎症所見が主体であるとの考え方は否定的となっている
外力の関与
- 野球や体操の選手に多いことから持続的な微力外力が病態に関与していることは事実である
- 特に障害の増悪には深く関与していると思われる
- 検診にて初期で発見された症例が、投球中止の勧めに応じず継続した結果、翌年には増悪しているケースを経験している
- 自験例で、初期で投球中止した群では初期、進行期共に投球続行群よりも高い修復率が得られている
- 持続的な外力を除去することで病巣修復へと導きやすいといえる
局所血流の関与
- 初期で投球を中止したとしても全例で修復が得られるわけではない
- 投球を継続しても修復する症例があることから、他の要因の関与が示唆される
- X線像の修復過程をみてみると、典型例では小頭の外側にみられた透亮像が徐々に中央にまで拡大する
- 次いで、島状の骨陰影が出現する
- 外側上顆や小頭の骨化進展とともに、外側より島状の骨陰影と母床との間に新たな骨陰影がみられるようになる
- この骨陰影は徐々に中央に進み、同時に島状の骨陰影の厚さも増して修復が進み、虚血性病変の修復過程と考えて矛盾しない
- 障害が発生し、修復あるいは終末期に至る時期は小頭骨端線が癒合する過程に重なっている
- この時期、小頭の骨端核は後方からの1~2本の動脈で栄養されている
- この栄養血管や栄養血管が小頭に流入した後の髄内血行が病巣修復に関与していることが示唆される
参考文献
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病因と病態について (関節外科 Vol.33 No.11 2014 松浦哲也)
少年野球における野球肘障害の予防 肩肘検診の全国展開・野球指導者・保護者講習会の実施・各種野球団体の連携・野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての啓発活動
今回は『少年野球における野球肘障害の予防』について共有していきます!
成長期野球肘の特徴
- 成長期の肘関節の特徴は、骨化進展過程の骨端を有することである
- この骨端部は脆弱である
- そのため、成長期野球肘は骨端の障害が中心となる
- 成長期の骨端は6つある
- 上腕骨内側上顆
- 上腕骨小頭
- 滑車
- 橈骨頭
- 肘頭
- 上腕骨外側上顆
- このうち、滑車・肘頭・橈骨頭は比較的まれな障害である
- 特に重要なものは上腕骨小頭障害(離断性骨軟骨炎)と内側上顆障害である
- 上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎の発生頻度は約1.6%である
- 内側上顆障害は17.6%と頻度は圧倒的に高い
- 発生頻度は内側上顆障害が多いが、検診では離断性骨軟骨炎を確実に診断することが重要である
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病態からみた検診の必要性
沈黙の傷害
内側上顆障害
- 内側上顆障害は発生初期から痛みを自覚することが多い
- 通常は3ヶ月以内で痛みは沈静化する
- 痛みを我慢して投げ続けると悪化することがあるが、内側上顆は痛みに敏感で疼痛が出てからでも十分に対応可能で手遅れになることは少ない
離断性骨軟骨炎
- 離断性骨軟骨炎は初期では疼痛や可動域制限が出現することはない
- 疼痛が出現した時にはすでに分離機に進んでいることがほとんどで、その後は遊離期へと悪化することが多い
- 分離期になると保存療法で治癒することは少なく、手術が必要になることが多い
- さらに悪化した場合は遊離体や関節症の進行により著しい可動域制限をきたし、野球のみならず日常生活にも支障をきたすようになる
- 関節の破壊と変形が進むと手術をしても元通りにすることはできない
1次予防できない障害
内側上顆障害
- 投球障害では加速器と減速期に、肘に強いメカニカルストレスがかかる
- 特に内側支持機構に対しては加速期で強い牽引力がかかり、内側上顆障害を引き起こす
- 成長期は体幹を中心とした筋力が弱く、身体機能が未熟である
- 投球フォームも稚拙であり、肘にかかる外反ストレスがさらに増える
- 投球数が増えるほど牽引ストレスが重責され、障害発生率が上がる
- 従って、投球フォームや身体機能の改善、投球数の制限といったものは内側上顆障害の1次予防となる
離断性骨軟骨炎
- 離断性骨軟骨炎はその発生メカニズムはいまだに十分に解明されていない
- 外的要因と内的要因が報告されている
- しかし、投球過多により相当のメカニカルストレスが加わっていると推測される例でも小頭には異常が見られないことが多い
- 肘のストレスが少ない少年サッカー選手における検診でも離断性骨軟骨炎の発生が報告されている
- これらの事実からも発生については内的要因が大きく関与すると考えざるを得ない
- 初期例での保存療法では投球を完全に制限した群としなかった群では治癒率に明らかな差がある
- 投球は発生因子とはいえないが、増悪因子であることは確かで、治療に際して投球中止は必須である
- 1次予防が不可能なため、2次予防が重要であり、このために検診が必要である
野球肩・肘の予防を目指した環境整備
肩・肘検診の全国展開
- 現在では「運動器の10年・日本協会」による成長期スポーツ障害予防委員会の啓発活動の一環として、全国への少年野球検診への普及活動が行われている
- 検診は特定の疾患の早期発見、早期治療が第一義である
- 検診結果にかかわらず、「自分の身体を知る」、「障害について知る」という機会としての意義もある
野球指導者・保護者講習会の実施
http://teraodai.boy.jp/tombillington/pdf/seicyo-leaflet.pdf
- 選手、保護者、指導者に野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての基本的医学知識を理解してもらう
- 整形外科医と共通認識を持つことは、野球肘予防の礎となる
- 野球肘の病態、予防法、治療法などに関する講義と、理学療法士によるウォーミングアップ、クールダウン、ストレッチに関する実践的講義からなる
- 選手に対し、成長期の野球障害に関するハンドアウトを作成配布し、野球肩・肘に対する啓発を促し、障害をセルフチェックする習慣を指導している
各種野球団体の連携
- 小学生、中学生野球選手が属する野球競技団体は個々に選手の健康管理の規定を設け活動している
- 少年野球投手の障害要望を目的に小学生全国軟式野球連盟に続いて硬式の少年野球各種団体も2015年度から公式試合で投球回数制限を導入した
野球肘の要因・予防対策
野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての啓発活動
- 野球肘予防という1つの目標に取り組む環境を作ること、また選手が「肘が痛い」と普通に訴えることが可能で、かつ投球休止を普通に行えるスポーツ環境を作り、整備することが最重要と考える
投球数
- 日本臨床スポーツ医学会学術委員会により青少年の野球障害に対する提言が行われている
小学生
- 1日50球以内
- 試合を含めて週200球を超えないこと
中学生
- 1日70球以内
- 週350球を超えないこと
高校生
- 1日100球以内
- 週500球を超えないこと
- 1日2試合の登板は禁止すべき
ポジション
- ポジション別における骨。軟骨障害との関係を調査した
- 投手 38.4%
- 捕手 32.2%
- 内野手12.9%
- 外野手 8.3%
- 投球機会の多い選手に多発していた結果であった
- 日本臨床スポーツ医学会の提言は、各チームには投手と捕手をそれぞれ2名以上育成しておくのが望ましいと述べている
- アメリカ整形外科スポーツ医学界における投球障害予防の提言においても、投手以外の他ポジションへのローテートプレーを推奨している
練習日数・時間
日本臨床スポーツ医学会の提言
- 小学生では、週3日以内、1日2時間を超えないこと
- 中学生・高校生では週1日以上の休養日をとること
- 個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい
アメリカ整形外科スポーツ医学会における投球障害防止の提言
- 1年のうち少なくとも2~3ヶ月はあらゆるオーバーヘッド投球動作はしない、4ヶ月間は競技的投球をしないこと
- 暦年における試合において100イニング以上の投球禁止
- overlapping seasonに多チームをかけもちして投球してはいけない
- 連日登板させてはいけない
球種
アメリカ整形外科スポーツ医学会における投球障害防止の提言
- 変化球を習得する以前にまず直球を習得する
- 次にチェンジアップを習得するよう推奨している
- 9から14歳の投手を調査を行った結果、スライダーの投球は肘関節痛の発症に優位に関与していたことを報告した
ウォーミングアップ・ストレッチ
- ウォーミングアップのスポーツ外傷・障害発生の危険性を減少するエビデンスを報告する
- 投球動作は全身の運動連鎖を必要とする動作であり、下肢・体幹(肩甲帯)の機能障害は代償的に上肢関節に過剰な負担を強いる可能性が生ずる
- 39名の中学生野球選手における検診について、野球プレシーズン早期の下肢筋のタイトネスとシーズン中の大腿四頭筋、ハムストリングスの柔軟性の低下と選手の肘関節痛発症との関連を報告した
- 肩関節後方タイトネスと野球肩・肘障害の関連が報告されている
- 296名のメジャー・マイナーリーグの投手を対象にした調査の結果、非投球側に対して投球側の総回旋角度が5°以上減少を認める投手は、優位に肘障害を認めたことを報告した
クーリング
- 投球後のクーリングと肩関節可動域訓練は肩関節可動域、腱板筋力の回復と疼痛軽減に有効であり、選手のコンディショニングに有用と報告した
検診の実際
検診の全体像
- 1981年、徳島大学整形外科教室が主体となり、県下の小学校野球全選手を対象とした野球肘検診が開始した
超音波検査の意義と方法
- 超音波検査を導入したことにより、自覚症状も理学所見もない初期例を発見できるようになった
- 近年、超音波検査は解像度が飛躍的に向上し、軟骨下骨のわずかな不整もとらえることが可能となった
- そのため、見逃しが減り、障害を発見される選手が2~3倍に増えた
- 方法としては、プローブを前方・後方両方から当て、それぞれの短軸像・長軸像を評価する
- 特に後方検査の短軸像で発生初期の特徴である外側の病変が内果を注意深く観察する
2次検診の重要性
- 1次検診で異常を発見した場合、専門病院で詳しく評価し、治療を早期に開始する必要がある
検診に対する今後の課題
- 野球肘検診を全国で継続的に行うためにはマンパワーと経済的な基盤が必要である
- 検診は現行の法律では保険外診療となるので、受益者負担もやむを得ない
参考文献
成長期のスポーツ外傷・障害予防 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 田鹿毅)
少年野球においてなぜ野球肘検診が必要か (関節外科 Vol.33 No.11 2014 宮武和馬)
肋椎関節と胸郭の運動
野球選手のための解剖学シリーズ!今回は『肋椎関節と胸郭の運動』について共有していきます。
肋椎関節と肋骨の運動軸
a:上位肋骨の運動軸 b:下位肋骨の運動軸
- 肋骨運動の軸は肋骨頸と平行である
- 上位肋骨の運動軸は冠状面(前頭面)に近いが、下位肋骨では矢状面に近くなる
- このため、肋骨運動は胸郭上部の主に胸郭矢状径を増大させ、胸郭下部では横径を増大させる
肋骨呼吸あるいは胸式呼吸における胸郭の運動
- 呼吸は胸郭内の体積変化に依存する
- 胸郭の体積が増えると吸気が必要であるが、それは次の2つの方法による
- 横隔膜を下げることによる(肋横隔膜呼吸あるいは腹式呼吸)
- 肋骨を下げることによる(肋骨呼吸あるいは胸式呼吸)
- 安静時の呼吸はその大部分が腹式呼吸である
- 努力性呼吸の場合は肋間筋やそのほかの呼吸補助筋による胸式呼吸量が増大する
- 胸郭量の増減は冠状面と矢状面の双方における体積の増減による
肋椎関節の靭帯
a:第1肋骨 b:第2肋骨 c:第5肋骨 d:第11肋骨
- 肋椎関節は肋骨と椎間骨の関節であり、2つの関節がある
- すなわち肋骨頭関節と肋横突関節である
- これらの2つの関節は形態学的には明瞭に区別されるが、機能的には相互に関係し合っている
肋骨頭関節
- この関節は2つの関節面をもつ
- 肋骨頭の関節面
- 椎体の肋骨窩
- 第2~10肋骨頭の関節面は隣り合う上下の椎体の上肋骨窩、下肋骨窩によってできる窩とその間の椎間円板に関節する
- 関節内靭帯は肋骨頭稜と椎間円板の間に張られていて、第2~10肋骨頭の関節腔を2つの部分に分ける
- これとは対照的に、第1、11、12肋骨の肋骨頭はそれぞれ1個の胸椎体と関節を作る
- すべての肋骨頭関節では、関節包は放線状の靭帯によって補強されている
肋横突関節
- 第1~10肋骨の肋横突関節では、肋骨結節の関節面は対応する胸椎横突起の横突肋骨窩と関節する
- 第11、12肋骨は対応する胸椎横突起に関節窩がないため、肋横突関節を作らない
- 肋横突関節は次の3つの靭帯によって安定し、その関節包は補強される
- 外側肋横突靭帯(横突起の先端から起こり肋骨結節に付着する)
- 肋横突靭帯(肋骨頸と横突起の間)
- 上肋横突靭帯(肋骨頸と1つ上位の椎骨横突間の間)
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
胸骨と肋骨
野球選手のための解剖学シリーズ!今回は『胸骨と肋骨』について共有していきます。
胸骨
- 胸骨は扁平骨で、わずかに前方に凸であり外側縁には複数のくぼみがある(肋骨切痕)
- 成人の胸骨は3つの骨部から成る
- 胸骨柄
- 胸骨体
- 剣状突起
- 胸骨柄、胸骨体、剣状突起は思春期から若い成人の期間では互いに軟骨性に結合している(胸骨柄結合、胸骨剣結合)
- 加齢とともに骨性結合になっていく
- 胸骨柄の上縁のくぼみ(頸切痕)は経皮的にはっきりと触知でき、頸静脈窩の下縁となる
- 頸切痕の左右には鎖骨が関節するくぼみがある(鎖骨切痕)
- そのすぐ下にある浅いくぼみ(第1肋骨切痕)に第1肋骨が軟骨性に結合する
- 胸骨柄と胸骨体の接合部には第2肋骨の関節面がある(第2肋骨切痕)
- この結合部では多くの場合、胸骨柄が胸骨体に対してわずかに後屈している(胸骨角)
- 胸骨体の外側縁にはさらに複数の肋骨切痕があり第3~7肋軟骨が関節するが、第6~7肋軟骨が付く切痕は非常に接近している
- 剣状突起は時として二分してたり穴が開いてたりする
- 剣状突起自体が肋骨と関節することはなく、その形態は変異に富む
- 剣状突起は成人でも軟骨性の場合がある
胸肋関節
- 第1~7肋軟骨と胸骨の肋骨切痕との結合は、軟骨性結合の部分と、真の関節の部分がある
- 関節腔は第2~5肋骨においてのみみられる
- 第1、6、7肋骨は胸骨と直接結合する軟骨結合となる
- 胸肋関節では軟骨結合の場合も含めて、靭帯が肋軟骨の軟骨膜から反対側の胸骨にまで放線状に広がり(放線状胸肋靭帯)、胸骨骨膜と交錯しながら厚い線維膜を作る(胸骨膜)
肋骨の大きさと形の変異
a:第1肋骨 b:第2肋骨 c:第5肋骨 d:第11肋骨
- 肋骨頸は肋骨頭から肋骨結節までをさす
- 第1肋骨を除いて、肋骨頸はシャープな上縁をもつ(肋骨頸稜)
- 肋骨結節より外側は肋骨体となり、前方へ曲がり肋骨角を作る
- 第2~12肋骨は不規則な弯曲を示し、また長軸方向に対してねじれを有する
- このねじれのために、肋骨の外面は後端でやや下方を向き、前端ではやや上方を向く
- 第1、12肋骨が最も短く、第7肋骨が最も長い
- 肋軟骨は第1肋骨から第7肋骨へとしだいに長くなり、第8肋骨以降はしだいに短くなる
- 第1、11、12肋骨を除き、それぞれの肋骨は下縁に沿って溝がある(肋骨溝)
- そこを通る肋間動脈・静脈と肋間神経を保護している
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
腰椎椎間板ヘルニア
野球選手のための解剖学シリーズ!
今回は『腰椎椎間板ヘルニア』について共有していきます。
脊柱下部の正中矢状断面
- 脊髄の下端は脊髄円錐と呼ばれ、第1あるいは第2腰椎の高さで終わる
- 脊髄と脊柱管は胎生期12週までほぼ同じ高さのため、左右それぞれの脊髄神経は脊髄から分岐した高さと同じ高さで椎間孔から現れる
- しかし、成長すると脊柱管は脊髄よりも早く成長するため、脊髄円錐の位置はより頭側へと変移する
- 出生時、脊髄円錐はすでに第3腰椎の高さにまで達している
- さらに10歳前後まで脊髄円錐は頭側へ変移し続ける
- このような脊柱管と脊髄の異なった成長率によって、脊髄神経根は分岐部位から該当する椎間孔まで斜め下方に降りる
- 脊髄下端よりも下部を降りる脊髄神経根はひとまとめに馬尾と呼ばれる
- 脊髄を包む膜(髄膜)は仙骨管内まで達しているので、脳脊髄液の検査の際、脊髄円錐よりも下部では脊髄を傷つけることなく、クモ膜下腔まで安全に針を入れることができる(腰椎穿刺)
腰椎における椎間円板の後方ヘルニア
- 腰椎、正中矢状面でのT2強調MRI
- 画像は、第3・4腰椎の高さでの椎間円板の背側への顕著なヘルニアを示す
- ヘルニアは硬膜に深く貫入している
腰部の椎間板ヘルニア
a:後外側ヘルニア
b:後ヘルニア
c:後外側ヘルニア
- 加齢とともに椎間円板は退行性変性を起し、円板内の水分は減少し、円板は扁平化する
- その結果、円板が薄くなり、しばしば運動領域における安定性の低下を招く
- 線維輪の圧抵抗力も加齢とともに減少し、圧がかかった際、中心部にある髄核組織が抵抗力の低下した部分から外に漏れだすことが起こりうる
- この変性過程の第1段階は円板がはみ出すことである
- 最終的に線維輪の輪が断裂すると、その断裂部分を通って髄核が漏出し、ヘルニアあるいははみ出し円板となる
- ヘルニアを起こした組織は椎間孔にあるもの(神経根と血管)を圧迫する
- 後外側ヘルニアは一般にその下にある神経根を圧迫する
- その圧迫された神経が支配する皮膚分節と筋に痛みと麻痺をもたらす
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
椎間関節
野球選手のための解剖学シリーズ!
今回は『椎間関節』について共有していきます。
- 椎間関節
- 関節包
- 胸椎からみた関節運動部の構造と負荷量
- 頚椎の可動域
- 胸椎・腰椎の可動域
- 各脊椎における平均可動域
- ショーバー法とオット法による胸椎と腰椎の屈曲範囲の計測
- 野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
椎間関節
a:頚椎 b:胸椎 c:腰椎
- 椎間関節は椎弓の関節突起間に両側性に存在する滑膜性の連結である
- 関節の表面、すなわち関節面は、椎体各部で水平面に対してそれぞれ異なった傾斜度を示している
- 頚椎は45°
- 胸椎は80°
- 腰椎は90°
- そのため、運動の方向と範囲は部位によって特殊化している
関節包
第3~5頚椎の椎間関節面
- 関節包は関節面の辺縁まで入り込み、しばしば黄色靭帯と固く結合する
- 関節包は頚椎では広く弛緩した状態である
- 胸椎と腰椎部では非常に狭く、きつい
- ほとんどの椎間関節は、関節包内面から関節腔に突出する三日月形の滑膜ヒダを有する
- この滑膜ヒダはわずかに疎性性結合組織を含むが、多くは血管に富む密性結合組織から成る
- 滑膜ヒダの役割は関節面辺縁の腔を満たすことである
胸椎からみた関節運動部の構造と負荷量
- 関節運動部とは、上下に重なった2つの椎骨間における関節性および筋性連結に対して使われる言葉である
- つまり、椎間円板、椎間関節と関連する靭帯および筋を含んでいる
- 臨床的には関節運動部は、椎間孔を通る神経と血管および脊柱管の内容を含むと考えられる
- 脊柱には総計25個の関節運動部が含まれ、明瞭に区別される機能的・形態的単位を構成する
- これらの単位は相互依存性があるため、脊柱のある部分での異常は別の部分における関節運動部にも影響を及ぼす可能性がある
頚椎の可動域
- 側屈:35°
- 屈曲:65°
- 伸展:40°
- 回旋:50°
胸椎・腰椎の可動域
- 側屈:40°
- 屈曲:85°
- 伸展:60°
- 回旋:40°
各脊椎における平均可動域
ショーバー法とオット法による胸椎と腰椎の屈曲範囲の計測
ショーバー法
- 腰椎の棘突起の可動域を測定する方法
- 検査者はまっすぐ立った被検者の第1仙椎の棘突起とそこから10㎝上の点に印をつける
- 被検者が可能な限り前屈した時、2点間の距離は伸びて、約15(10+5)㎝になり、腰椎の棘突起の可動域となる
オット法
- 胸椎の可動域を測定する方法
- 検査者はまっすぐ立った被検者の第7頚椎の棘突起とそこから30㎝下の点に印をつける
- 被検者が前屈した時、2点間の距離は約8㎝増加する
- 別法として、膝を伸ばした状態で前屈した時の指と地面との間の最小距離を測る方法がある
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
脊柱の靭帯
野球選手のための解剖学シリーズ!
今回は『脊柱の靭帯』について共有していきます。
脊柱の靭帯
- 脊柱の靭帯は椎骨同士をしっかりとつなぎ、機械的な負荷やさまざまな圧に抗することを可能にしている
- 靭帯は椎体靭帯と椎弓靭帯に分けることができる
椎体靭帯と椎弓靭帯の模式図
椎体靭帯
- 前縦靭帯
- 後縦靭帯
椎弓靭帯
- 黄色靭帯
- 棘間靭帯
- 棘上靭帯
- 横突間靭帯
- 項靭帯
前縦靭帯
- 前縦靭帯は椎体の前面を広く覆いながら頭蓋底から仙骨まで走る
- その深層部繊維は椎体をつないでいるが、浅層部にはさまざまな長さの線維が走る
- 前縦靭帯中の膠原繊維は椎体と固く結合するが、椎間円板にはわずかに結合するのみである
- 前、後縦靭帯は正常な脊柱彎曲の維持に関与している
後縦靭帯
- 後縦靭帯は前縦靭帯より薄い靭帯である
- 斜台から椎体の後面を下行し、仙骨管内まで達する
- 椎体部分では細く椎体上縁と下縁に結合する
- 椎間円板内のところでは横に広がり、しだいに細くなりながら円板と固く結合する
- この靭帯は椎間円板の線維輪と結合するが、椎間円板の大部分、特に外側部は靭帯性に補強されていない
- したがって、外側へのヘルニアが起こりやすい
- 前、後縦靭帯は正常な脊柱彎曲の維持に関与している
黄色靭帯・横突間靭帯
- 黄色靭帯は、その主な構成成分が弾性線維であるため、特徴的な黄色を呈する
- 黄色靭帯は厚く、強靭な靭帯である
- 上下隣り合う椎弓板をつなぎ、椎間孔よりも後方の脊柱管の壁を補強する
- 脊柱が起立しているとき、黄色靭帯は緊張状態にあり、矢状方向に脊柱を安定に保つ背筋群を補助する
- 脊柱を前方に曲げる際、黄色靭帯は過屈曲することを防ぐ
- したがって黄色靭帯は前方に屈曲した脊柱をその位置で保持することにも貢献している
- 横突起の先端は左右それぞれ横突間靭帯によってつながれている
- ある椎骨の揺れが別の椎骨に波及することを防ぐ
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
椎間板
野球選手のための解剖学シリーズ!
今回は『椎間板』について共有していきます。
椎間円板の構造
- 椎間円板は外側の繊維状の輪、すなわち繊維輪とゼラチン状の中心部、髄核と呼ばれる部分からなる
- 繊維輪の外側部は繊維状の鞘から成り、強い張力を有し、タイプⅠコラーゲン繊維から同心円状の層板構造を成す
- その繊維束は斜めに走るさまざまな繊維によって十字に交差しており、隣接する椎骨間に張っている
- 繊維輪の内側部への移行部分では繊維輪外側部の堅い線維組織が線維軟骨性組織と混ざっている
- その線維軟骨性組織に含まれるタイプⅡコラーゲン線維は、椎体の硝子軟骨性関節面に付着している
繊維輪の外側部
- 線維輪の外側部の結合組織線維束はさまざまな角度で互いに交差しており、上下の椎体の骨性辺縁隆起間をつないでいる
椎体部における椎間円板の位置
- 椎間円板はその上下で椎体関節面を覆う硝子軟骨層と接している
- 軟骨の下にある関節面の骨部(椎間面)は緻密骨(緻密質)から成り、無数の小さな穴が存在する
- その穴を通して椎体の骨髄に存在する血管が円盤組織に栄養を供給する
加重による椎間円板内の水分移動
- 髄核は椎間円板の軸方向にかかる圧を吸収する含水性緩衝装置(クッション)として働く
- 機械的には椎間円板は流体静力学系としての機能を持ち、圧に対して弾力性をもつ
- 椎間円板は張力抵抗性を示す部分(線維輪)と水圧で圧縮不能な芯の部分、すなわち髄核から成る
- 髄核の80~85%は水であり、その水分によって無細胞性、ゼラチン性、酸性ムコ多糖類性組織を可逆的に結合させることが可能となる
- 重力やほかの力がかかる時、髄核は非常に強い流体静力学的圧を受けている
- この圧力は軟骨性の椎体関節面と線維輪によって吸収される
- このようにして、髄核は椎体間で含水性緩衝装置(クッション)あるいは、水圧プレスとして機能する
- 髄核は線維輪とともに衝撃吸収装置として効果的に働き、圧を椎体の関節面に均等に分散させる
- 加重により持続的に圧力の負荷がかかると、椎間円板からの水分の流出が起こる
- 一過性の圧力負荷は髄核と線維輪の衝撃吸収装置によって緩衝される
- 持続性の圧力負荷はゆっくりではあるが、長期にわたって椎間円板から水分流出を起こす原因となる
- 水分の流出によって椎間円板の膨らみと高さが減少すると、軟骨性関節面、ひいては椎体自体が互いに接近するようになる
- 非荷重により圧力負荷が減少すると、椎間円板への水分の流入が起こる
- 椎間円板への圧が軽減された時には円板の高さは増す
- 円板の増大は軟骨下の髄腔に由来する栄養血管から水分を供給されることで起こる
- 椎間円板での圧に依存するこのような水分の流れによって、身長は1日のうちで約1%(1.5~2㎝)減少する
野球選手が解剖学を学んでおいた方がよい2つの理由
仙骨と尾骨
野球選手のための解剖学シリーズ!
今回は『仙骨と尾骨』について共有していきます。
仙骨と尾骨の前面
- 仙骨は出生時には5個の分離した仙椎から成っている
- 出征後、それらの椎骨は癒合し、1個の骨を形成する
- 癒合してできた仙骨は前後方向に平たく、前方からみると三角形をしている
- 仙骨底、すなわち仙骨の最も上部は、楔形の椎間板を介して第5腰椎の椎体と関節している
- 仙骨尖は仙骨の下端に位置し、尾骨と関節する
- 仙骨の前面は矢状方向にも水平方向にも凹面を成している
- 左右の前仙骨孔の間には4本の横に走る隆起(横線)が観察される
- これは5個の仙椎の癒合痕である
- 尾骨は3または4個の椎骨の遺残である
- 第1尾椎のみが椎骨本来の形態的特徴の一部を留めている
- 第1尾椎は、上関節突起に相当する2個の小さな尾骨角と、2個の瘢痕的な横突起を有する
- 軟骨性の円盤は、一般的には尾骨底と仙骨尖を結合する(仙尾関節)
- この関節では尾骨は前後方向に可動性を持ち、出産時には前後方向の骨盤出口径を広くする
仙骨と尾骨の後面
仙骨の側面
仙骨の横断面