少年野球における野球肘障害の予防 肩肘検診の全国展開・野球指導者・保護者講習会の実施・各種野球団体の連携・野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての啓発活動
今回は『少年野球における野球肘障害の予防』について共有していきます!
成長期野球肘の特徴
- 成長期の肘関節の特徴は、骨化進展過程の骨端を有することである
- この骨端部は脆弱である
- そのため、成長期野球肘は骨端の障害が中心となる
- 成長期の骨端は6つある
- 上腕骨内側上顆
- 上腕骨小頭
- 滑車
- 橈骨頭
- 肘頭
- 上腕骨外側上顆
- このうち、滑車・肘頭・橈骨頭は比較的まれな障害である
- 特に重要なものは上腕骨小頭障害(離断性骨軟骨炎)と内側上顆障害である
- 上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎の発生頻度は約1.6%である
- 内側上顆障害は17.6%と頻度は圧倒的に高い
- 発生頻度は内側上顆障害が多いが、検診では離断性骨軟骨炎を確実に診断することが重要である
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の病態からみた検診の必要性
沈黙の傷害
内側上顆障害
- 内側上顆障害は発生初期から痛みを自覚することが多い
- 通常は3ヶ月以内で痛みは沈静化する
- 痛みを我慢して投げ続けると悪化することがあるが、内側上顆は痛みに敏感で疼痛が出てからでも十分に対応可能で手遅れになることは少ない
離断性骨軟骨炎
- 離断性骨軟骨炎は初期では疼痛や可動域制限が出現することはない
- 疼痛が出現した時にはすでに分離機に進んでいることがほとんどで、その後は遊離期へと悪化することが多い
- 分離期になると保存療法で治癒することは少なく、手術が必要になることが多い
- さらに悪化した場合は遊離体や関節症の進行により著しい可動域制限をきたし、野球のみならず日常生活にも支障をきたすようになる
- 関節の破壊と変形が進むと手術をしても元通りにすることはできない
1次予防できない障害
内側上顆障害
- 投球障害では加速器と減速期に、肘に強いメカニカルストレスがかかる
- 特に内側支持機構に対しては加速期で強い牽引力がかかり、内側上顆障害を引き起こす
- 成長期は体幹を中心とした筋力が弱く、身体機能が未熟である
- 投球フォームも稚拙であり、肘にかかる外反ストレスがさらに増える
- 投球数が増えるほど牽引ストレスが重責され、障害発生率が上がる
- 従って、投球フォームや身体機能の改善、投球数の制限といったものは内側上顆障害の1次予防となる
離断性骨軟骨炎
- 離断性骨軟骨炎はその発生メカニズムはいまだに十分に解明されていない
- 外的要因と内的要因が報告されている
- しかし、投球過多により相当のメカニカルストレスが加わっていると推測される例でも小頭には異常が見られないことが多い
- 肘のストレスが少ない少年サッカー選手における検診でも離断性骨軟骨炎の発生が報告されている
- これらの事実からも発生については内的要因が大きく関与すると考えざるを得ない
- 初期例での保存療法では投球を完全に制限した群としなかった群では治癒率に明らかな差がある
- 投球は発生因子とはいえないが、増悪因子であることは確かで、治療に際して投球中止は必須である
- 1次予防が不可能なため、2次予防が重要であり、このために検診が必要である
野球肩・肘の予防を目指した環境整備
肩・肘検診の全国展開
- 現在では「運動器の10年・日本協会」による成長期スポーツ障害予防委員会の啓発活動の一環として、全国への少年野球検診への普及活動が行われている
- 検診は特定の疾患の早期発見、早期治療が第一義である
- 検診結果にかかわらず、「自分の身体を知る」、「障害について知る」という機会としての意義もある
野球指導者・保護者講習会の実施
http://teraodai.boy.jp/tombillington/pdf/seicyo-leaflet.pdf
- 選手、保護者、指導者に野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての基本的医学知識を理解してもらう
- 整形外科医と共通認識を持つことは、野球肘予防の礎となる
- 野球肘の病態、予防法、治療法などに関する講義と、理学療法士によるウォーミングアップ、クールダウン、ストレッチに関する実践的講義からなる
- 選手に対し、成長期の野球障害に関するハンドアウトを作成配布し、野球肩・肘に対する啓発を促し、障害をセルフチェックする習慣を指導している
各種野球団体の連携
- 小学生、中学生野球選手が属する野球競技団体は個々に選手の健康管理の規定を設け活動している
- 少年野球投手の障害要望を目的に小学生全国軟式野球連盟に続いて硬式の少年野球各種団体も2015年度から公式試合で投球回数制限を導入した
野球肘の要因・予防対策
野球肘、上腕骨離断性骨軟骨炎についての啓発活動
- 野球肘予防という1つの目標に取り組む環境を作ること、また選手が「肘が痛い」と普通に訴えることが可能で、かつ投球休止を普通に行えるスポーツ環境を作り、整備することが最重要と考える
投球数
- 日本臨床スポーツ医学会学術委員会により青少年の野球障害に対する提言が行われている
小学生
- 1日50球以内
- 試合を含めて週200球を超えないこと
中学生
- 1日70球以内
- 週350球を超えないこと
高校生
- 1日100球以内
- 週500球を超えないこと
- 1日2試合の登板は禁止すべき
ポジション
- ポジション別における骨。軟骨障害との関係を調査した
- 投手 38.4%
- 捕手 32.2%
- 内野手12.9%
- 外野手 8.3%
- 投球機会の多い選手に多発していた結果であった
- 日本臨床スポーツ医学会の提言は、各チームには投手と捕手をそれぞれ2名以上育成しておくのが望ましいと述べている
- アメリカ整形外科スポーツ医学界における投球障害予防の提言においても、投手以外の他ポジションへのローテートプレーを推奨している
練習日数・時間
日本臨床スポーツ医学会の提言
- 小学生では、週3日以内、1日2時間を超えないこと
- 中学生・高校生では週1日以上の休養日をとること
- 個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい
アメリカ整形外科スポーツ医学会における投球障害防止の提言
- 1年のうち少なくとも2~3ヶ月はあらゆるオーバーヘッド投球動作はしない、4ヶ月間は競技的投球をしないこと
- 暦年における試合において100イニング以上の投球禁止
- overlapping seasonに多チームをかけもちして投球してはいけない
- 連日登板させてはいけない
球種
アメリカ整形外科スポーツ医学会における投球障害防止の提言
- 変化球を習得する以前にまず直球を習得する
- 次にチェンジアップを習得するよう推奨している
- 9から14歳の投手を調査を行った結果、スライダーの投球は肘関節痛の発症に優位に関与していたことを報告した
ウォーミングアップ・ストレッチ
- ウォーミングアップのスポーツ外傷・障害発生の危険性を減少するエビデンスを報告する
- 投球動作は全身の運動連鎖を必要とする動作であり、下肢・体幹(肩甲帯)の機能障害は代償的に上肢関節に過剰な負担を強いる可能性が生ずる
- 39名の中学生野球選手における検診について、野球プレシーズン早期の下肢筋のタイトネスとシーズン中の大腿四頭筋、ハムストリングスの柔軟性の低下と選手の肘関節痛発症との関連を報告した
- 肩関節後方タイトネスと野球肩・肘障害の関連が報告されている
- 296名のメジャー・マイナーリーグの投手を対象にした調査の結果、非投球側に対して投球側の総回旋角度が5°以上減少を認める投手は、優位に肘障害を認めたことを報告した
クーリング
- 投球後のクーリングと肩関節可動域訓練は肩関節可動域、腱板筋力の回復と疼痛軽減に有効であり、選手のコンディショニングに有用と報告した
検診の実際
検診の全体像
- 1981年、徳島大学整形外科教室が主体となり、県下の小学校野球全選手を対象とした野球肘検診が開始した
超音波検査の意義と方法
- 超音波検査を導入したことにより、自覚症状も理学所見もない初期例を発見できるようになった
- 近年、超音波検査は解像度が飛躍的に向上し、軟骨下骨のわずかな不整もとらえることが可能となった
- そのため、見逃しが減り、障害を発見される選手が2~3倍に増えた
- 方法としては、プローブを前方・後方両方から当て、それぞれの短軸像・長軸像を評価する
- 特に後方検査の短軸像で発生初期の特徴である外側の病変が内果を注意深く観察する
2次検診の重要性
- 1次検診で異常を発見した場合、専門病院で詳しく評価し、治療を早期に開始する必要がある
検診に対する今後の課題
- 野球肘検診を全国で継続的に行うためにはマンパワーと経済的な基盤が必要である
- 検診は現行の法律では保険外診療となるので、受益者負担もやむを得ない
参考文献
成長期のスポーツ外傷・障害予防 (関節外科 Vol.33 No.11 2014 田鹿毅)
少年野球においてなぜ野球肘検診が必要か (関節外科 Vol.33 No.11 2014 宮武和馬)