骨盤マルアライメント 寛骨対称性の評価・仙骨マルアライメント・大殿筋と胸腰筋膜・解剖学的因子・不安定性と関節弛緩性・滑走不全・筋機能不全・マルユース・仙腸関節障害の治療
骨盤マルアライメント
- 骨盤マルアライメントとは、『骨盤の歪み』として表現される
- 骨盤マルアライメントは、腰痛を主とする骨盤周囲の痛みの原因や、ランナーがしばしば訴える「荷重がかけにくい=荷重伝達機能障害」といったスポーツパフォーマンス低下を招く場合がある
- しかし、骨盤マルアライメントと症状との関連性について、医学的根拠はほとんどない
- 骨盤の歪みとは、具体的に以下の3つがある
- 骨盤帯全体としてのマルアライメント
- 寛骨と仙骨の位置関係が崩れたマルアライメント
- 股関節マルアライメント
①骨盤マルアライメントの影響
- 骨盤は身体の中心に位置し、菓子からの荷重伝達や体幹部の土台としての役割をはたす
- 骨盤に非対称性がみられる選手では、「蹴りにくい」、「荷重が乗せにくい」といった骨盤荷重伝達障害が起こりやすい
- 骨盤マルアライメントは脊椎運動に影響を及ぼす
- 骨盤の歪みがあると脊椎の土台である仙骨に傾斜や回旋が生じ、下位腰椎を介して脊椎にも傾斜や回旋が起こる
- 臨床において、腰痛などを主訴とするスポーツ選手の骨盤を評価すると、骨盤の非対称性を持った症例がよく存在する
②寛骨対称性の評価
- 骨盤の可動性に関与するのは左右の寛骨と仙骨であり、左右の仙腸関節と恥骨結合の3つの可動関節を有している
- 骨盤の非対称アライメント評価として、立位または背臥位での上前腸骨棘(ASIS
)、下後腸骨棘(PSIS)を触診により判断する
- 寛骨のマルアライメントに伴って、恥骨結合のずれが伴う場合がある
- その場合、股関節周囲の筋緊張の左右差が生じる
- 両股関節を開排位とした場合、可動域の左右差や筋緊張の左右差を感じることがある
③仙骨マルアライメント
- 寛骨マルアライメントの有無に関わらず、仙骨マルアライメントが生じる場合がある
- これは、仙骨の前額面上の傾斜や、水平面上の回旋という形で現れる
- その場合、寛骨の仙腸関節面に対して、仙骨の仙腸関節面がずれた状態となっていると推測される
- これにより、仙腸関節をまたぐ靭帯や筋が伸張されるため、仙腸関節部や梨状筋、多裂筋などに疼痛をきたしやすくなり、しばしば大殿筋の機能低下を伴う
- 仙骨マルアライメント評価として、立位または腹臥位にてPSIS間の垂直二等分線と、仙骨の長軸との位置関係を確認する
- 仙骨の長軸がPSISを結ぶ垂直二等分線上に位置するのを正常とする
- それに対して、尾骨が左右いずれかに偏位している状態を異常とする
- 仙骨アライメントに異常がみられる場合、左右のいずれか、または両側の仙腸関節の不安定性の存在が考えられる
- 逆に、両側の仙腸関節がしっかりと噛み合った状態では、関節面はずれにくく、安定した状態となる
- このことをフォームクロージャーという
④大殿筋・胸腰筋膜によるフォースクロージャー
- 正常な仙骨アライメントにおいて、大殿筋の張力は仙骨を介し、反対側の胸腰筋膜に伝達されることにより仙腸関節の安定性に関与すると考えられる
- 筋活動と筋膜の緊張により発揮される張力によって関節の安定性を向上させる仕組みをフォースクロージャーと呼ぶ
- 大殿筋の張力に左右差がある場合、仙骨は左右いずれかへと傾き、大殿筋の張力伝達パターンに変化が起こる
- 代表的な異常パターンとして以下の2つがある
- 大殿筋の張力が同側の広背筋に優位に伝達される
- 大殿筋の張力が臀部外側の筋を介して同側の股関節屈筋群へ伝達される
- いじれの異常伝達パターンも、歩行周期の立脚初期から中期の荷重期において、仙腸関節の安定性を損ねる原因となる
- その原因としては以下の2つがある
- 大殿筋の筋力の左右差
- 大殿筋自体が十分に伸張・収縮できないような、大殿筋とその周囲の軟部組織の滑走不全
- 後者では、深筋膜における大殿筋と皮下脂肪との滑走不全や、皮下帯膜における滑走不全、さらには大殿筋の深層における滑走不全などによって、大殿筋自体が十分に収縮できなくなってしまう
⑤股関節の可動性制限とマルアライメント
- 股関節の可動域制限は、骨盤・腰椎の代償動作を助長させ、腰痛やパフォーマンスの低下を招く可能性がある
- 股関節の可動域制限に左右差がある場合、寛骨の非対称アライメントを招きやすくなり、腰椎だけでなく、仙腸関節にもストレスが加わりやすくなる
マルアライメントと原因因子
- 蒲田が提唱する関節疾患後の治療理論であるリアライン・コンセプトではすべての関節疾患において理想的なアライメントの再獲得を追求し、マルアライメントを形成する原因と結果を区別して評価、治療を進めていく
- 関節疾患に対して、再発予防を含めた根本的な症状の改善を得るためには、マルアライメントをつくった原因となる印紙を見つけることが望まれる
- マルアライメントをつくる原因因子には以下の5つがある
- 解剖学的因子
- 不安定性・関節弛緩性
- 滑走不全
- 筋機能不全
- マルユース
①解剖学的因子
- 解剖学的因子とは、先天的に備わった解剖学的特徴である
- 具体的には、骨の形状、軟部組織の付着部の位置などが含まれる
- これらを保存療法で変化させるのは難しく、必要に応じて補助具などを利用する
②不安定性・関節弛緩性
- 関節包や靭帯の伸張による不安定性に対して、安定性改善を期待して筋力トレーニングを実施する場合もある
- しかし、損傷した靭帯を元通りに戻すことは不可能であり、完全に関節運動を制御することはできない
- したがって、重度の不安定性に対しては補助具の着用が必須になる
- 骨盤において、仙腸関節不安定性に対して、骨盤ベルトによって骨盤輪を圧迫して安定性向上を図る場合がある
③滑走不全
- 身体内にある各軟部組織間には滑走性が存在し、相互の位置関係や緊張を保持していると考えられている
- しかし、長時間の圧迫や炎症、外傷などにより子の滑走性は容易に失われる
- 滑走性の失われた軟部組織間の周囲では緊張の亢進がみられるとともに伸張性が低下し、マルアライメントの原因となる
- 例えば、長時間の椅子座位による圧迫は、臀部周囲の軟部組織間の滑走不全を招き、股関節屈曲制限や大殿筋の機能低下の原因となることが推測される
④筋機能不全
- リアライン・コンセプトでは、筋機能不全を『関節の正常なアライメントを保持する役割を十分に発揮できない状態に陥った筋活動パターン』と定義している
- 例えば、大殿筋の機能低下は仙腸関節の安定性低下や仙骨のマルアライメントを招く
- ただし、筋機能不全の背景には前述した滑走不全の存在もあることから、筋機能改善の前に、周辺組織の滑走性を得ることが前提となる
⑤マルユース
- マルユースとは、身体の使い方が理にかなっていない誤った使い方を意味する
- 歩行やスポーツ動作にマルユースが観察された場合は、動作の修正が必要になる
仙腸関節障害の治療の進め方
- 骨盤マルアライメントを伴う仙腸関節障害の治療を、次の3相にて行う
- リアライン相 :骨盤のアライメント修正する
- スタビライズ相 :得られた良好なアライメントを保つための筋機能向上を図る
- コーディネート相:骨盤マルアライメントを再発させる動作を修正する
- この治療法を『リアライン・コンセプト』と名づけ、あらゆる関節疾患の治療に用いられる基本的な治療の設計図と位置づけている
①リアライン相
- リアライン相では、骨盤のアライメントをできる限り理想の状態に近づけることを行う
- 理想の状態とは、左右対称に近いこと、両PSISが接近して仙腸関節が離開していないこと、前屈・後屈・回旋などの基本動作において上記の良好なアライメントを保持できることを意味する
- 理想のアライメントの獲得を目指すには、骨盤のアライメントを崩す原因(原因因子)を同定し、それを解決しなければならない
- 原因因子に対する治療を進めた結果、少なくとも前屈・後屈・回旋・歩行・ランニング・片脚ジャンプなど治療室内でできる基本動作時の疼痛が消失するか、動作に影響しない程度にまで疼痛が減弱したことを確認して、次のスタビライズ相に進む
- 理想的なアライメントが得られても痛みが残る場合がある
- 患部周辺の癒着リリースが必要になる場合
- 仙腸関節周囲の痛みに対して、腰椎由来の疼痛である場合
②スタビライズ相
- スタビライズ相では、リアライン相で得た理想的な骨盤アライメントを保つための筋機能向上トレーニングを行う
- 患者に十分な知識とトレーニング方法を教えたうえで、患者自身に努力してもらう
- その結果、数週間にわたってマルアライメントと症状を再発させないような筋機能獲得を到達目標とする
- 仙腸関節の安定性を高めるうえで、とくに大殿筋と胸腰筋膜への緊張伝達機能、そして多裂筋による仙腸関節圧縮機能が重要となる
- 腹横筋は、前額面で腸骨稜を近づける安定化機能があるが、水平面では寛骨内旋筋でもあるため仙腸関節後部を離開させる作用をもつと推測される
- また、骨盤底筋群は尾骨を前方に引き、仙骨の起き上がり運動を促すため、骨盤輪の安定性の低下するルーズパックポジションに導いてしまうと推測される
- 以上より、大殿筋と多裂筋の機能が十分に向上し、仙腸関節の安定性が獲得された後、これらの筋機能向上のためのトレーニングを行うことが望ましい
③コーディネート相
- コーディネート相は、競技復帰後にマルアライメントが再発しないような動作パターンを構築することを目的とする
- 特に下肢アライメントの非対称性、下肢の動的アライメントの異常があると骨盤は非対称な運動を余儀なくされ、容易に元のマルアライメントが再発してしまう
- コーディネート相において修正すべき動作はスポーツ動作全般におよぶ
- 骨盤の異常運動に着目した動作分析を行い、わずかな骨盤の異常運動を見逃さないことが重要
治療技術
- 骨盤マルアライメントの治療は以下の5つの方法を行う
- 組織間リリース
- 補装具療法
- 運動療法
- 筋機能向上トレーニング
- 動作修正
①組織間リリース
- 組織間リリースは、組織間に介在する疎性結合組織を筋膜や骨膜等から切離することを意図して行われる
- 具体例として、大殿筋の深層で、大転子や大腿方形筋との滑走を改善させる技術がある
- 一方の手指で大殿筋の下縁をめくるように頭部方向に引き上げる
- 反対の手の母指の末節骨先端部掌側を大腿方形筋の深筋膜に密着させて、その表面を擦る
- 擦っていく動きが組織の抵抗によって止まったら、そこから先が滑走不全に陥っていると判断する
- 滑走不全による抵抗に対して、約1㎜移動範囲でさらに奥に向かって擦る
- その位置に母指を保持しておくと、3秒程度で抵抗が急激に小さくなり、最終的には抵抗が消失する
②補装具療法
- 補装具療法は、原則として不安定性に対して使用する
- 骨盤の場合、仙腸関節不安定性症に対して、骨盤ベルトでその安定化を図る場合がある
- 長時間、長期間の使用により、圧迫されている組織の滑走不全を生じさせる危険性があるため注意が必要である
③運動療法
- リアライン相で行う運動療法は、あくまでもアライメント修正のために必要な筋活動に絞って実施される
- 例えば、左右の寛骨が矢状面で前後傾の回転がある場合、前傾側の大殿筋、後傾側の股関節屈筋のエクササイズを行う
④筋機能向上トレーニング
- 筋機能向上トレーニングはスタビライズ相で行うトレーニングを指している
- これは、負か強度の高いトレーニングにおいても良好なアライメントを崩すことなく反復できるような筋活動パターンの構築を目的としている
- スクワットにおいて、寛骨の前傾後傾や下方回旋、内旋を招かないような大殿筋や多裂筋の協調した筋活動パターンを獲得しておくことが必要である
- そのうえで、PSIS間の距離が開大しないことを確認しながら、徐々にスクワットにおける負荷を強くしていく
⑤動作修正
- 動作修正は、マルアライメントの再発を予防することを主たる目的として実施される
- 動作学習の基本的な流れとして、ゆっくりと正確な動作の反復、その正確な動作のスピードの上昇、そして試合形式などの動作に意識を置くことのできないような練習、という流れで進めることが望ましい
『仙腸関節機能障害の病態』について知りたい方はこちら
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参考文献
骨盤マルアライメントと原因因子の臨床評価 (Sportsmedicine 2017 NO.189 杉野信治)