大殿筋・中殿筋と骨盤の関係 筋機能・発火パターン・胸腰筋膜・筋力検査

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大殿筋の解剖学

起始

  • 腸骨の外表面(後殿筋線の後方)と腸骨の上および後ろの部分
  • 仙骨および尾骨の隣接する後面
  • 仙結節靭帯
  • 脊柱起立筋の腱膜

 

 

 

停止

  • 遠位部の深部線維:大腿骨の殿筋結節
  • 残りの線維   :大腿筋膜の腸脛靭帯

 

 

 

作用

  • 上部線維:①股関節外旋 ②股関節外転

 

  • 下部線維:①股関節伸展 ②股関節外旋

 

 

 

支配神経

  • 下殿神経 (L5、S1・2)

 

 

 

『大殿筋の起始停止や神経支配』について復習したい方はコチラ

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大殿筋の機能

  • 機能的な観点から、大殿筋は骨盤、体幹、大腿骨の間の関係を制御するいくつかの重要な役割を果たす

 

  • この筋肉は股関節を外転・外旋させることができ、膝のアライメントを制御するのに役立つ

 

  • 例えば、階段昇降において、大殿筋は股関節を外転・外旋させて下肢を最適な位置に保つと同時に、身体を次の段に運ぶために股関節を伸展させる

 

  • 大殿筋が弱い、もしくは誤った発火をする場合、膝が内側にずれるようにみえることがあり、骨盤も外側に飛び出るように観察されることもある

 

  • 大殿筋は仙腸関節の安定化にも重要な役割を果たし、強力な閉鎖筋として説明されている

 

  • 大殿筋線維のいくつかは、仙結節靭帯と胸腰筋膜に直接接続しており、これらは接続している筋肉の活動により緊張している非収縮性の結合組織である

 

  • この筋膜への接続のひとつは広背筋であり、大殿筋は対側の広背筋と胸腰筋膜を介してパートナーシップを形成する

 

  • このパートナーシップ接続は後斜走スリングと呼ばれる

 

  • このスリングは、歩行もしくは歩行周期における単脚支持期における仙腸関節への圧縮力を増加させる

 

  • 大殿筋の誤った発火もしくは弱化は、後斜走スリングの効果を低下させ、仙腸関節障害を引き起こしやすい

 

  • 身体は次に反対側の広背筋の活動を増加させることにより胸腰筋膜を介して緊張を増加させ、この弱さを補うように努める

 

  • いずれの代償メカニズムと同様に、構造は機能に影響し、機能は構造に影響する

 

  • 例えば、広背筋が上腕骨と肩甲骨に付着するため、肩関節の力学は変更される

 

  • 代償のために広背筋が特に活動的である場合、これは段差昇降やランジ動作のような動きの間、一方の肩が他方の肩よりも低いように観察される

 

  • 大殿筋はハムストリングスと連携して歩行サイクルに重要な役割を果たすからである

 

  • 踵接地の直前にハムスリングスが活動し、仙結節靭帯の付着を介して仙腸関節の緊張を増加させる

 

  • また、この後斜走スリングは体重を支えるサイクルのための仙腸関節のセルフロックを機構を支援する

 

  • 踵接地から立脚中期までの歩行周期は、仙結節靭帯の弛緩や寛骨の自然な前方回旋によってハムストリングスの緊張は減少する期間である

 

  • 股関節伸展活動が開始するためにハムストリングスの活動が減少し、大殿筋の活動性が増加する

 

  • 大殿筋は後斜走スリングの付着を介して立脚初期~中期において、仙腸関節の安定性を優位に増加させる

 

  • 大殿筋の誤った発火は仙腸関節の安定性や骨盤の位置を維持するために、歩行周期の間、ハムストリングスを活動状態のままにしてしまう

 

  • その結果として生じたハムストリングスの過活動は、継続的かつ異常な緊張状態に陥ることになる

 

  • 段階的に作用するこの筋は拮抗筋が短縮もしくは緊張した場合、あるいは骨盤のマルアライメントが存在する場合に弱くなる傾向がある

 

  • しかし、大殿筋は支配神経であるL5およびS1神経根に影響を及ぼすヘルニアなどの神経学的障害がある場合にも弱いと判断される

 

  • また、その他さまざまな種類の股関節の病気(関節唇損傷や関節包炎)によっても大殿筋の弱化が生じる

 

  • 大殿筋の弱化を潜在的に引き起こし得る主要な筋肉は大殿筋の股関節伸展作用に対する拮抗する股関節屈筋として分類される腸腰筋、大腿直筋、内転筋群である

 

 

 

大殿筋の評価

股関節伸展の正しい発火パターン

  • 通常の筋活動は下記の順序で起こる

 

  1. 大殿筋
  2. ハムストリングス
  3. 対側の腰椎伸展筋
  4. 同側の腰椎伸展筋
  5. 対側の胸腰椎伸展筋
  6. 同側の胸腰椎伸展筋

 

 

  • 誤った発火の機能異常が修正されないと身体が壊れ始め、機能異常の代償パターンが作られてしまう

 

  • 例えば、ハムストリングスと同側の脊柱起立筋は最初に収縮し、大殿筋は4番目に収縮した場合、骨盤の過前傾を引き起こし、結果として脊柱の過度な前腕を伴い、下部腰椎の椎間関節の炎症を引き起こす可能性がある

 

 

 

歩行サイクルは継続した

  • 大殿筋の弱化もしくは誤った発火により、いくつかの代償パターンが形成される可能性がある

 

  • まず、腸腰筋・大腿直筋・内転筋の拮抗的な緊張が生じ、相反抑制として一般的に知られている衰弱抑制によって徐々に引き起こされた大殿筋の弱化を抱える患者の例を見てみよう

 

  • 前面の筋肉の緊張は、歩行周期中の股関節伸展を抑制する

 

  • 代償反応として寛骨が前方の位置により回旋することを強いられ、対側の寛骨は後方の位置にさらに回旋するように強いられる

 

  • ハムストリングス(特に大腿二頭筋)は大殿筋の弱さの結果として、寛骨の前方回旋の増加を助けることにより代償パターンの一部となる

 

  • ハムストリングスが大殿筋の阻害のために支配的である場合、腹臥位で下肢を伸展させると転子部の前部に触診できることが示唆される

 

  • すなわち、仙骨は寛骨の回旋増加により通常よりも少し多めに回旋し、側方に曲げなければならない

 

  • 仙骨は捻転を一方向に増加させる(片方を回旋させ、側方に曲げる)ことによって、代償する必要がある

 

  • 仙骨左捻転左傾斜軸もしくは、右捻転右傾斜軸のようになる

 

  • また、腰椎は仙骨とは反対方向に少し多めに逆回旋する可能性があり、脊柱として代償することがある

 

  • 歩行周期中には、仙骨および腰椎の自然な回旋が生じる

 

  • しかし、寛骨回旋が増加するためには仙骨と腰椎は同様に代償するしかない

 

 

 

胸腰筋膜と大殿筋・骨盤の関係

  • 胸腰筋膜は、体幹・股関節・肩の筋群を結合してそれを覆う靭帯型の結合組織の厚く、強いシートである

 

  • 大殿筋の通常の機能は筋膜に伸張作用を及ぼしその下端部を引っ張ることである

 

  • 胸腰筋膜の後部層により大殿筋と反対側の広背筋との間に関連があることが分かる

 

  • これらの2つの筋肉は歩行周期中に後斜走スリングを介して対側に力を伝道し、その後、胸腰筋膜を介して張力を増加させる

 

  • この機能は、体幹の回旋および下部腰椎・仙腸関節の閉鎖安定化のために非常に重要である

 

  • 腹横筋と多裂筋など、腰部の安定性にかかわる深部筋の同時収縮も影響を及ぼす

 

  • 腹横筋と多裂筋がすべて仙腸関節の閉鎖力を補助する骨盤の仙結節靭帯との関連性を持っているため、腹横筋と多裂筋が大殿筋の収縮に確実に反応する



 

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中殿筋の解剖学

起始

  • 腸骨の外表面 (腸骨稜の下:前殿筋線と後殿筋線の間)

 

 

 

停止

  • 大腿骨大転子の外側表面上の斜走隆線

 

 

 

作用

  • 上部線維:①股関節外旋 ②股関節外転の補助

 

  • 中部線維:①股関節内旋 ②股関節屈曲の補助

 

  • 下部線維:①股関節外旋 ②股関節伸展

 

 

 

支配神経

  • 上殿神経 (L4、L5、S1)

 

 

 

『中殿筋の起始停止や神経支配』について復習したい方はコチラ

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中殿筋の機能

  • 片脚立位を行うとき、外側スリング機構を活性化させる

 

  • この機構は同側の中殿筋、小殿筋、内転筋群と対側の腰方形筋で構成されている

 

  • 中殿筋の潜在的な弱化は、おそらく代償による他の筋の過活動が生じている

 

  • 特に、中殿筋の後部線維が弱化している患者は、内転筋群と大腿筋膜張筋と接続している腸脛靭帯が過活動している傾向にある

 

  • また、中殿筋後部線維が弱いことが示唆されている場合は、梨状筋は過活動的となる

 

  • 中殿筋は、骨盤の動的安定性にとって重要な筋の考えられている

 

  • 例えば、中殿筋の弱さのために骨盤帯の動的安定性が悪くなっている患者は、ストライド長を短くする傾向がある

 

  • これは、患部をより引きずっているようなパターンを採用することによって、踵接地時の床反力を低減し、骨盤姿勢を維持するために必要な筋肉制御量を減少させている

 

 

 

中殿筋の評価

評価の必要性

  • 膝関節や下部腰椎、骨盤に疼痛を有している患者を診る時は、評価の過程の一部として殿筋群(特に中殿筋)の強さを確認する

 

  • 中殿筋と大殿筋の機能的役割と骨盤帯との関係の説明だけでなく、股関節外転筋群や股関節伸筋群の正確な発火順序を決定するために使用される、股関節外転・伸展発火パターン検査についても含める

 

  • 中殿筋および大殿筋は、腰椎・骨盤帯・下肢・上肢の領域に疼痛を認める患者やアスリートに対して評価される必要がある

 

  • ランニングに関する下肢ならびに体幹のオーバーユース障害を抱えるアスリートは多く、それらの大半は中殿筋または大殿筋(もしくは両方)機能が不良である

 

  • 特に、ランニングのようなスポーツにおいて、中殿筋や大殿筋の強さと制御が生体力学的に効率的なパターンを達成するうえで、おそらくもっとも重要な要素である

 

 

 

解剖学的構造について

  • 中殿筋は腸骨稜の全長、腸骨外側(後殿筋線と前殿筋線の間)、殿筋筋膜、大腿筋膜張筋の後部境界、上層の腸脛靭帯に付着する

 

  • 中殿筋は3つの部分(前部・中部・後部)にはっきりと分割されており、集合的に大腿骨の大転子に巻き込みながら入り込み、広い結合腱を形成する

 

  • 中殿筋のより垂直な前部および中間部分は、より水平な後部部分よりも股関節を外転するためにより良い位置にあるようにみえる

 

  • 中殿筋はその構造の中に前部線維と後部線維を含んでいるが、後部線維は大殿筋と連携して働き、特にこれらの2つの筋は股関節位置を外旋位に制御し、歩行が開始されると股関節・膝関節・足関節を整列させるのに役立つ

 

  • 歩行を観察すると、初期接地における左下肢への荷重時に、中殿筋は下肢に作用する安定機構に部分的に関与し、下肢の全体的なアライメント調整を助ける

 

  • 立脚期における左中殿筋の収縮は、部分的に股関節外転を許容する原因となる

 

  • 左の中殿筋が収縮しているのにもかかわらず、右股関節におけるヒッチングタイプと考えてほしい

 

  • 股関節の右側は、左側より少し上に持ち上がるように見える

 

  • このプロセスは、右足が床から少し離れて持ち上げることを可能にし、歩行周期の遊脚期の間に右脚のスイング運動を自然に許容するので、非常に重要である

 

  • 左の中殿筋に何らかの弱さがある場合、身体は歩行サイクルの間に2つの方法のうち1つで応答する

 

  • 1つは立脚側の反対側の骨盤が下降するトレンデレンブルグ歩行、もしくは代償性トレンデレンブルグ歩行となり、体幹全体を過度に弱い股関節側にシフトさせることが観察される

 

 

 

 

 

  • 中殿筋の弱化は骨盤帯と腰椎の全体的な安定性に影響を与えるだけでなく、踵接地から立脚中期までの運動連鎖全体に影響を与える

 

 

 

中殿筋の弱化による影響

  • 中殿筋の弱化によって次のようなことが引き起こされる

 

  1. トレンデレンブルグ歩行
  2. 腰椎の症状と仙骨の捻転
  3. 対側腰方形筋の過緊張
  4. 同側の梨状筋、大腿筋膜張筋、腸脛靭帯の過緊張
  5. 大腿骨の過度の内転および内旋
  6. 膝の外反もしくは内反位への逃避
  7. 膝蓋骨のマルトラッキング症候群
  8. 足部の位置に対する脛骨の内旋
  9. 脚の内側への体重移動の増加
  10. 距骨下関節の過度な回内

 

 

  • 上記の中殿筋の機能弱化の結果によるリストから分かるように、アスリートもしくは患者は、潜在的なトレンデレンブルグ歩行による腰椎の側屈もしくは回旋尾増加によって、何かしらの形で引き起こされるスポーツに関連した障害の継続的なリスクがある

 

  • さらに、運動連鎖による他の生体力学的作用によっても影響を受ける

 

  • 腰椎の回旋を伴った側屈運動が増加すると、その後、仙骨を回旋させ、腰椎の運動を反対側に側屈する

 

  • その結果、前方仙骨捻転が存在する可能性がある

 

  • 中殿筋の弱化は、膝蓋大腿痛症候群、シンスプリント、足底筋膜炎、アキレス腱炎などの状態に至り、さらには距骨下関節の長期間の過回内も引き起こす可能性がある

 

 

 

股関節外転筋群発火パターン検査

  • ここでは中殿筋、大腿筋膜張筋、腰方形筋を検査する

 

  • 施術者は腰方形筋、中殿筋、大腿筋膜張筋を触診する

 

  • 患者は外転運動を行い、このとき、代償動作を確認する

 

 

正しい発火手順

  1. 中殿筋
  2. 大腿筋膜張筋
  3. 腰方形筋

 

 

  • 代償があった場合、適切な対応としては、ひとまず中殿筋の強化は見合わせて、まず大腿筋膜張筋や腰方形筋、股関節内転筋群の短縮もしくは緊張した組織に焦点を当てる

 

  • マッスルエナジーテクニックにより緊張した組織を長くすることによって、緩んで弱くなった組織がより緊張を取り戻し、自動的にその強度を回復する

 

  • 2週間後、中殿筋の筋力が回復しなかった場合、この筋肉の特異的および機能的な強化運動を加えることができる

 

 

 

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中殿筋前方線維筋力検査

  • 左中殿筋の前方線維を検査するために、右側臥位となる

 

  • 股関節を外転させ、この位置で保持するように指示し、膝の近くに手を置き、下方に圧力を加える

 

  • これに抗することができれば、中殿筋の前方線維は正常と判断される

 

 

 

中殿筋後方線維筋力検査

  • 左側の検査では、中殿筋の後部線維をより重視するために、患者の左股関節伸展と外旋にわずかに制御する

 

  • 下方に圧力をかけ、この外力に抵抗することができる場合、中殿筋の後方線維は正常と判断される

 

 

 

 

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参考文献

骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)