梨状筋症候群 発症メカニズム・梨状筋・坐骨神経・椎間関節・仙腸関節・理学療法評価

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梨状筋症候群とは

  • 梨状筋症候群とは、坐骨神経が骨盤出口部で何らかの原因によって梨状筋から圧迫や刺激を受けて臀部や坐骨神経支配域に疼痛を惹起する症候群である

 

  • 狭義の解釈においては、梨状筋の肥大や瘢痕化、解剖学的破格など梨状筋そのものによる坐骨神経の圧迫が原因である

 

  • 広義に解釈すると、梨状筋だけでなく双子筋や内閉鎖筋による坐骨神経の絞扼、腫瘍病変、異常血管、人工股関節置換術後など、さまざまな病態がある

 

 

梨状筋症候群の発症メカニズム

  • 梨状筋を含む外旋筋のスパズムを次の3つに分ける

 

  1. 梨状筋周囲の解剖学的破格の問題
  2. 椎間関節の問題
  3. 仙腸関節の問題

 

 

梨状筋周囲の解剖学的破格の問題

梨状筋と坐骨神経の解剖学的破格がある場合
  • 坐骨神経は通常、梨状筋の下方を通過するがその位置関係を6つに分類している

 

  1. 坐骨神経は梨状筋下を走行
  2. 頭側の坐骨神経成分が梨状筋間を走行
  3. 頭側の坐骨神経成分が梨状筋上を走行
  4. 坐骨神経が梨状筋間を走行
  5. 頭側の坐骨神経成分が梨状筋上を、尾側の坐骨神経成分が梨状筋間を走行
  6. 坐骨神経が梨状筋上を走行

 

 

  • 坐骨神経の貫通例では、股関節内旋により梨状筋が伸張されることで坐骨神経が圧迫・障害される

 

  • 逆に、股関節外旋により、その絞扼が解除される

 

 

梨状筋と坐骨神経の解剖学的破格がない場合
  • 坐骨神経と梨状筋の位置関係に破格が存在しない場合、次の2つの例がある

 

  1. 上双子筋が通常よりも頭側の大坐骨孔に付着し、梨状筋と同じ高さで併走することにより両筋の隙間が狭くなる場合
  2. 坐骨孔の形態が円形ではなく楕円で小さく、相対的に梨状筋が大きいために大坐骨孔を占拠している場合

 

 

  • 股関節屈曲・内転・内旋によって症状の再現を認めることがほとんどである

 

  • 慢性的圧迫よりも動的因子が関与している

 

 

椎間関節の問題

  • 椎間関節は脊髄神経後枝内側枝により支配されている

 

  • 内側枝の第1枝は隣接する椎間関節包の下部を支配している

 

  • 第2枝は多裂筋を支配している

 

  • 第3枝は1つ下位の椎間関節包の上部を支配している

 

  • L4、L5から分枝する脊髄神経後枝内側枝に支配されているL5/Sの椎間関節に侵害刺激が生じると求心性インパルスが亢進し、内側枝を介して外旋筋にスパズムを生じさせ得る

 


仙腸関節の問題

  • 仙腸関節の前方はL4、L5、S1神経前枝が支配している

 

  • 仙腸関節の後方はL5、S1、S2神経後枝外側枝が支配している

 

  • 仙腸関節下1/3では、腰神経叢が仙骨と接しており、ここに骨棘があると坐骨神経は直接圧迫されるが、仙腸関節に侵害刺激が生じることでも、L5、S1、S2神経を介して梨状筋を含む外旋筋群にスパズムを生じさせて症状を呈し得る

 

 

 

梨状筋症候群の評価

問診

  • スポーツでの臀部打撲など外傷の有無
  • 日常生活での長時間の座位、または重労働の有無
  • 腰部疾患の既往
  • 出産歴
  • 症状が臀部のみか腰痛や下肢痛を伴うか

 

 

画像所見

  • MRI、CTで梨状筋肥大を確認する
  • 臼蓋形成不全があれば、臼蓋の代償として骨盤前傾・傾斜が起こり、梨状筋や椎間関節、仙腸関節への負担が増大する

 

 

圧痛

  • 梨状筋に加え、仙腸関節や椎間関節の圧痛の有無も確認し、腰部への影響を把握する

 

 

疼痛誘発テスト

  • 腹臥位で股関節中間位、膝90°屈曲位から股関節を内旋させ、疼痛が誘発されれば陽性

 

 

SLRテスト

  • 重度陽性なら腰椎椎間板ヘルニアの合併が示唆される
  • 股関節外旋位SLRと、内旋位SLRでの臀部圧迫による坐骨神経滑走性の変化を確認する

 

 

仙腸関節ストレステスト

  • 次の1~4のテストのうち2つ、あるいは1~5のテストのうち3つが陽性であれば、仙腸関節原性の可能性が高い

 

  1. 離開テスト
  2. 大腿スラストテスト
  3. 圧縮テスト
  4. 仙骨圧迫テスト
  5. ゲンスレンテスト

 

 

関節可動域・タイトネス

  • 股関節可動域制限
  • 腸腰筋や大腿筋膜張筋、腸脛靭帯

 

 

脊柱可動性

  • 前後屈、側屈、回旋、またこれらの組み合わせで椎間板や椎間関節へ負荷をかけ、疼痛と可動域制限を確認する

 

 

筋力・感覚

  • 大殿筋、外旋筋、中殿筋は短縮位での筋出力を確認する
  • 前脛骨筋、長母趾伸筋の筋出力を確認する
  • 感覚ではL5、S1領域が障害されやすい

 

 

アライメント

静的アライメント

  • L5/S1レベルでの前腕増強の有無

 

 

片脚立位

  • 骨盤傾斜により股関節が内転するか内旋するか
  • ニーインに関わる大腿骨前捻角、足部過回内、内反拘縮

 

 

動的アライメント

  • ローディングレスポンスでの股関節内転・内旋や、対側骨盤下制、腰部過前弯の有無

 

 

 

梨状筋症候群の理学療法

梨状筋周囲へのアプローチ

  •  梨状筋のスパズムを取り除くことが中心となる

 

  • 梨状筋や双子筋の外旋筋リラクセーションを行う

 

  • 股関節外旋筋の軽い収縮・弛緩を繰り返す

 

  • 症状増悪のない範囲で坐骨神経と外旋筋の間の滑走性改善を図る

 

  • 疼痛コントロールが可能になったらセルフストレッチングに移行する

 

  • ストレッチの肢位は股関節深屈曲・外旋位とする

 

 

椎間関節・仙腸関節へのアプローチ

椎間関節
  • 多裂筋リラクセーションや腸腰筋ストレッチング、腹横筋を意識した体幹エクササイズを実施する

 

 

仙腸関節

  • 多裂筋リラクセーションに加え、徒手的操作、ハムストリングスなどのストレッチ、腹横筋のエクササイズ、寛骨前方回旋に関わる腸骨筋のリリースやエクササイズなどを実施する

 

 

動作修正のアプローチ

  • 動作上で梨状筋周囲の負荷が予測されるニーインや、仙腸関節または椎間関節に影響する骨盤傾斜や腰椎過前弯などを修正していくことが重要である

 

  • 股関節周囲筋や腹横筋などの単独のエクササイズをはじめ、スクワットやランジなどのスポーツ動作に近い動作で脊柱・四肢を分節的かつ協調的に動かすことを目指す

 

 

 

参考文献

梨状筋症候群の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 金子雅志)