仙腸関節機能障害の病態 組織損傷・症状・運動機能障害・防御反応・骨盤輪不安定症・鼡径部痛症候群

f:id:sakuraiku:20210602204820p:plain

 
                                     

 

 

 

 

仙腸関節機能障害の病態

  • マルアライメントがもたらす応力集中の結果として生じる症状または病態を『結果因子』と呼ぶ

 

  • 結果因子には以下の4つが含まれる
  1. 組織損傷
  2. 症状
  3. 運動機能障害
  4. 防御反応

 

組織損傷

  • 組織損傷には、組織断裂、微細断裂、瘢痕化、阻血性壊死などが含まれる

 

  • マルアライメントの存在により、力学的ストレスが組織に繰り返し加わり、組織の損傷やそれに伴う炎症症状が発生する可能性がある

 

  • 仙腸関節では、この関節をまたぐ筋・腱・靭帯の炎症、関節軟骨損傷または編成などがある

 

症状

  • 症状の中には、炎症症状、疼痛、神経学的異常感覚などが含まれる

 

  • 仙腸関節周囲の疼痛として、上後腸骨棘、長後仙腸靭帯、仙結節靭帯、多裂筋などが代表的である

 

  • 仙腸関節の痛みを反映する特徴的な圧痛点は、上後腸骨棘、長後仙腸靭帯、仙結節靭帯、腸骨筋にみられる

 

運動機能障害

  • 運動機能障害には、可動域制限、筋力低下、動作障害などが含まれる

 

  • これらの組織損傷と、その結果生じた疼痛の症状によって引き起こされる

 

  • 仙腸関節の場合、この関節の安定性に関与する大殿筋や多裂筋の機能低下が生じることがある

 

  • 荷重伝達障害と呼ばれる立位での運動機能の低下が引き起こされることもある

 

防御反応

  • 強い疼痛や不安定性などが引き起こす刺激に対して、中枢神経が関与して発生する筋の過緊張状態を筋スパズムという

 

  • 筋スパズムは急性外傷によって起こり、慢性外傷では疼痛が長期間持続した場合や疼痛があるにも関わらずスポーツ活動など、無理な運動を行うことで出現する

 

  • 仙腸関節の場合、関節の離開に対して、多裂筋や梨状筋がスパズムを起し、強い運動痛が生じることがある

 

仙腸関節機能不全により生じる病態

  • 仙腸関節機能不全による生じる病態には以下の2つがある
  1. 骨盤輪不安定症
  2. 鼡径部痛症候群

 

骨盤輪不安定症

  • 骨盤輪不安定症は、仙腸関節や恥骨結合に異常可動性が生じ、骨盤輪が不安定になる病態である

 

  • 骨盤輪不安定症は以下の5項目のうち、4つを満たすものと定義される
  1. 腰仙部あるいは恥骨結合の疼痛を有すること
  2. 仙腸関節や恥骨結合部に圧痛を有すること
  3. 仙腸関節や恥骨結合部へのブロック注射により症状が改善すること
  4. 骨盤疼痛誘発テストが陽性であること
  5. 片脚立位時のX線像で恥骨結合部に異常可動性がみられること

 

鼡径部痛症候群

  • 鼡径部痛症候群は、サッカー、ラグビー、ホッケー、野球、バスケットボール、長距離走などに多発する

 

  • 鼡径部痛の原因となるものには、主に3つの病変がある
  1. 鼡径管の病変
  2. 恥骨結合の病変
  3. 内転筋機能不全

 

鼡径管の病変
  • 外腹斜筋腱膜や結合腱で構成される鼡径管前壁が、断裂や離開を起すことで疼痛が出現する

 

  • 浅鼡径輪の圧痛、内転筋から会陰に広がる疼痛、動作時痛(スプリントやキック、咳払いなどの腹圧が高まる動作)などがみられる

 

  • 鼡径管後壁の破綻では、横筋筋膜の弱化や欠損によってヘルニア様症状がみられ、鼠径部周辺の圧痛と動作時痛に疼痛が出現する

 

  • くしゃみなど腹腔内圧が高まる動作や身体活動の増加に伴い、疼痛が出現する

 

恥骨結合の病変
  • 恥骨結合の病変には、恥骨結合炎、恥骨間円板の変性、恥骨結合不安定症・疲労骨折がある

 

  • 発生機序として、恥骨結合部の剪断力の増加や、長内転筋と腹直筋の収縮による反復的ストレスがある

 

  • 鼡径部痛誘発テストで疼痛が増悪すれば恥骨結合炎の可能性あり
  1. 片脚内転テスト
  2. Squeezeテスト
  3. 両脚内転テスト

 

  • 恥骨間円板の変性は、MRIやCTで関節面の不整や狭小化、骨硬化を認めることがある

 

  • 恥骨結合不安定症は、片脚立位で左右の恥骨が2㎜以上偏位したものを陽性とする

 

  • 疲労骨折が起こっている場合、片脚立位時の不快感、運動時痛、恥骨の圧痛を認める

 

内転筋機能不全
  • 内転筋腱損傷・機能不全は、長内転筋に最も損傷が起こりやすく、しばしば恥骨結合炎と併発する

 

  • 身体所見として、内転筋の抵抗時痛と伸張痛、内転筋付着部の圧痛、キック動作でその部位の痛みが増悪する

 

 病態分析・評価

①問診

  • 自然経過の推測
  • 受傷原因およびそのメカニズム
  • 重症度
  • 身体機能の発達
  • 身体活動(スポーツや肉体労働)
  • 下肢疾患
  • 肋骨骨折
  • 尾骨、骨盤の打撲を伴う転倒事故
  • 妊娠、出産経験
  • 骨盤内臓疾患
  • 胃疾患

 

②姿勢・移動動作観察

矢状面

  • 脊柱のカーブ
  • 骨盤傾斜角
  • 肩甲骨のアライメント

 

前額面

  • 機能的脚長差による脊柱の代償
  • 骨盤の側方傾斜
  • 水平面での脊柱、骨盤回旋

 

移動動作観察

  • 疼痛が強く、恐怖感が大きいと動作は伸張でゆっくりとなる
  • 歩行中の跛行は下肢疾患または、一側の仙腸関節における荷重時痛、荷重伝達障害を示唆する
  • 歩行中の側屈は仙腸関節痛から回避するための異常運動である可能性あり

 

③疼痛検査

  • 安静時痛
  • 圧痛
  • 動作時痛

 

④基本動作による疼痛誘発テスト

  • 立位における体幹の前屈、後屈、回旋、側屈
  • 体幹伸展位での回旋運動
  • 椅子座位で前屈、後屈

 

⑤疼痛誘発テスト

  • Newtonテスト変法
  • Gaenslenテスト
  • Patrickテスト (FABERテスト)
  • Yeomanテスト
  • 大腿スラストテスト
  • 圧迫テスト
  • 離開テスト
  • Gilletテスト

 

参考文献

仙腸関節機能障害の病態 (Sportsmedicine 2017 NO.189 坂本飛鳥)