慢性腰痛症における体幹機能とアプローチ 内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ・骨盤変位とアプローチ
腰痛症における体幹機能のアプローチ
- 腰痛症には器質的要因、機能的要因がある
- いずれの場合も体幹筋、股関節周囲筋の機能低下が予測される
- 疼痛が認められる場合、筋は疼痛に適応するといわれている
- 疼痛のある筋が求心性収縮する時、その収縮力を低下させ、筋録を十分発揮させないことで損傷部位を保護する
- これらの適応によって異なる損傷部位へのストレスを軽減させる
- その結果として、疼痛筋の筋力低下や疼痛部位の関節可動域制限を来し、二次的問題を抱えることになる
- ここでは、内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ、骨盤変位とアプローチについて述べる
内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ
- 仙腸関節は、中央にある仙骨を左右の寛骨で挟んでいる構造である
- 仙腸関節の関節面が平坦であることから、立位姿勢で一側下肢への荷重の増大により剪断力が増大する
- 内腹斜筋は骨盤内で水平方向の筋線維を有しており、この剪断力に対し側方から圧縮させる力にて骨盤を安定させる作用がある
- そのため、荷重時に内腹斜筋の筋活動が低下し、骨盤に不安定性がある場合には、内腹斜筋の骨盤安定化機能を向上させることが重要である
- 腰痛症患者では、内腹斜筋に機能低下を呈することが多く、仙腸関節が不安定になりやすい
- 結果として、仙腸関節の偏位をきたすことになる
- 反対に、仙腸関節の偏位が内腹斜筋の機能低下をきたすことも考えられる
- したがって、徒手的療法評価によって仙腸関節に偏位があったとしても、内腹斜筋の機能が低下していればモビライゼーション実施による改善が困難になり、慢性化しやすくなる
- 臨床的には、骨盤前傾または後退の偏位がある場合、荷重時の内腹斜筋の筋活動が低下しやすく、荷重時における仙腸関節安定化機能が低下している場合が多い
- その際、骨盤前傾の要因が腸腰筋の短縮である場合、骨盤モビライゼーションと腸腰筋のストレッチを併用した治療を選択する
- 骨盤前傾に対するアプローチおよび荷重時の内腹斜筋機能が改善したときに、骨盤安定化を図ったことになる
- このように、仙腸関節の偏位、内腹斜筋の機能、股関節や骨盤のアライメントなどを関連させながら治療法を展開していく
①立位での体重移動による内腹斜筋の促通
②座位における内腹斜筋の促通
③立位での一側下肢の前方ステップ
骨盤変位とそのアプローチ
- 骨盤は中央の仙骨と両側の寛骨から構成されており、寛骨は坐骨・恥骨からなる
- 骨盤に付着している筋の緊張程度や直接受けた衝撃などにより骨盤変位が生じる
- 体表上から触診可能な部位はASIS、PSIS、恥骨、坐骨である
- これらを触診することで左右の寛骨の位置関係を立体的にイメージする
- 仙骨は両側から梨状筋をはじめとする股関節外旋筋の起始部になっていることから、これらの筋緊張亢進がある場合、仙骨下部が側方に偏位しやすい
- さらに、仙骨は矢状面において前傾・後傾するが、これらの運動に支障がある時、体幹前傾や後傾において痛みが生ずることになる
- よって、仙骨の偏位についても評価・治療が必要になる時もある
アプローチ
①骨盤前傾に対するモビライゼーション
対象:骨盤の前傾
肢位:治療側を上にした側臥位
方法:
- 治療側の股関節・膝関節を屈曲させる。
- 非治療側上肢を軽く牽引して、体幹回旋位とする。
- 治療側の膝関節を治療者の両大腿にて挟み、両手にて対象の骨盤を把持する。
- 治療者の下肢の動きにより対象の股関節を屈曲し、それに伴い骨盤後傾のモビライゼーションを行う。
②骨盤後傾に対するモビライゼーション
対象:骨盤の後傾
肢位:治療側を上にした側臥位
方法:
- 治療側の股関節・膝関節を屈曲させる。
- 非治療側上肢を軽く牽引して、体幹回旋位とする。
- 治療側の膝関節を治療者の両大腿にて挟み、両手にて対象の骨盤を把持する。
- 治療者の下肢の動きにより対象の股関節を伸展し、それに伴い骨盤前傾のモビライゼーションを行う。
③恥骨前方変位に対するモビライゼーション
対象:恥骨前方変位
肢位:背臥位
方法:
- 治療側の恥骨上に治療者の手を添える。
- 非治療側の股関節、膝関節を屈曲させる。
- 非治療側の股関節・膝関節の屈曲に伴い骨盤後傾が生ずるが、この時、治療側の骨盤後傾によって恥骨が前方に挙上する。
- それに対し、治療者の恥骨上に置かれた手において、恥骨前方への動きを制限する。
④腸骨後方変位に対するモビライゼーション
対象:腸骨後方変位
肢位:背臥位
方法:
- 両股関節・膝関節を屈曲させ、治療者の大腿の上に患者の大腿下面をのせる。
- 治療側のPSISの下に治療者の手を入れ、非治療側のASISに他方の手を添えておく。
- 患者の下肢を治療側に倒すことで骨盤を治療側に回旋させる。
- このとき、治療側PSISを介して治療者の手にかかる圧が増大する。
- それに伴い、非治療側に添えた手で骨盤回旋により生ずるASISの前方の動きに制限を加える。
- 結果として、治療側骨盤の前方への動き、非治療側骨盤の後方への動きを同時に入れ、モビライゼーションを実施する。
⑤仙骨前傾に対するモビライゼーション
対象:仙骨前傾
肢位:腹臥位
方法:
- 仙骨下部に両手を重ねて添えておく。
- 患者側にゆっくりと体重をかけていく。
- それと同時に仙骨が後傾するよう力を加えていく。数回繰り返す。
⑥仙骨後傾に対するモビライゼーション
対象:仙骨後傾
肢位:腹臥位
方法:
- 仙骨下部に両手を重ねて添えておく。
- 患者側にゆっくりと体重をかけていく。
- それと同時に仙骨が後傾するよう力を加えていく。数回繰り返す。
⑦仙骨側方変位に対するモビライゼーション
対象:仙骨側方変位
肢位:腹臥位
方法:
- 偏位している側の仙骨側面に両側の母指を添えておく。
- 仙骨を正中方向にゆっくりと圧を加えていく。
- 数回繰り返す。
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)