野球肘発生メカニズムの捉え方 不良な投球フォーム・TER・single plane と double palane・フォームとエネルギー伝達効率との関係性
野球肘とは?
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野球肘発生メカニズムの捉え方 throwing plane concept
7つの不良な投球フォーム
①pie thrower type
- 機能的な double palane で、手掌を上に向け肘を伸展させた横振りのフォーム
- 当動作が未熟な学童期の選手
②dart type
- 加速期で投球側の肘を前に突き出すフォーム
- 小学校高学年から高校生くらいまでの肘障害の選手
③stiff type
- 器質的にTotal External Rotation が不足した double palane で大胸筋に依存した横振りのフォーム
- アマチュアで身体の固い選手に多いが、大胸筋の筋力次第でパフォーマンスは高くなる
④hook type
- 機能的な double palane であるが加速しながら single plane に変化するフォーム
⑤side bend type
- 機能的な double palane で、胸椎・胸郭が伸展する前に左側屈して胸椎・胸郭の伸展が制限されているフォーム
⑥stick type
- 機能的な double palane で、体幹をまっすぐに力んだ状態で、肩のみで外旋するフォーム
⑦loose type
- single plane であるが、GH関節包の緩みのために過剰な水平外転、前方不安定性を引きおこすフォーム
- 高い競技レベルで弛緩性が高い選手
TER (Total External Rotation)
- TERは上腕骨長軸を回転軸とした加速方向に対する前腕の角度として定量される
- late cooking から加速期にかけての投球側の肩の外旋は肩甲上腕関節のみでされているのではなく、股関節を中心とした下肢と脊椎、胸郭、肩甲胸郭関節を含めた運動の総和である
- 肩甲上腕関節の外旋と区別するために、この運動の総和をTERと称した
- TERが同じでも、寄与する関節の割合が選手により異なり、フォームの違いや個性となっている
single plane と double palane
- 肩関節最大外旋位とTERの違いから、加速期のスローイングプレーンは、single plane と double palane の2つに大きく分けられる
- single plane は、ショルダープレーンとボールプレーンが重なり、1つのプレーンのように見えるものと定義される
- double palane は、ショルダープレーンとボールプレーンが重ならず、2つのプレーンがあるように見えるものと定義される
- ショルダープレーンとは投球側上腕の長軸および延長線が描く軌道のことをいう
- ボールプレーンとは、ボールと投球肩を結ぶ線分が描く軌道のことをいう
- エルボープレーンとは、肘の屈伸に伴う前腕長軸および延長線が描く軌道のことである
- single plane は、「しなやか」で十分な「しなり」のある怪我をしにくいフォームである
- double palane は、「しなり」が不足した「肘下がり」や「体が開く」フォームとなり、けがをしやすいフォームと言える
- single plane は、TERが180°に近く、回転軸周りのモーメントアームは「0」となり、理論的には上腕骨軸にトルクは発生しないことになる
- double palane は、器質的・機能的にTERが180°に満たないため、上腕骨軸周りにモーメントが発生し、上肢全体には後下方への応力が加わる
- 肩の外旋応力や、上肢の後下方への応力に拮抗するため、大円筋や大胸筋が加速初期から作用し、上腕骨には前方剪断力と内旋力が加わる
- さらに、上肢全体の加速が加わることで前腕への力積が大きくなり、肘の外反応力が大きくなる
- TERの観点から言えば、single plane では、肘はTERの構成要素として組み込まれないが、double palane では加速初期に lagging back が肘で生じることになり、肘の外反がTERの構成要素として組み込まれることになる
フォームとエネルギー伝達効率との関係性
- single plane は、エネルギー伝達効率の点で有利である
- 上肢の加速方向と肘の伸展方向が一致(ショルダープレーンとエルボープレーンが一致)しており、肘をヒンジとした近位と遠位の2つの剛体により二重振り子運動を可能としている
- それにより、大きくゆっくりとした下半身・体幹・上腕のエネルギーを効率的に小さく素早い前腕・手の運動に変換することがsingle plane では可能である
- そのため、single plane は鞭のような動きとなる
- double palane では、上肢の加速方向と肘の伸展方向が一致しておらず、効率的な二重振り子運動を実現できていないため、エネルギー伝達効率が低くなる
参考文献
野球肘の理学療法における臨床推論 (理学療法 33巻8号 2016年8月 大熊昌)