仙腸の運動 ニューテーション・カウンターニューテーション・左捻転左傾斜軸・右捻転右傾斜軸・左捻転右傾斜軸・右捻転左傾斜軸

f:id:sakuraiku:20210607154855p:plain


                                    

 

 

 

 

 

骨盤の運動

基本的に、骨盤帯には3つの主要な運動がある

 

  1. 寛骨上での仙骨の運動からなる仙腸運動
  2. 仙骨上での寛骨の運動からなる腸仙運動
  3. 対側の恥骨に対する一側恥骨の運動である恥骨結合運動

 

 

仙腸運動

  • 仙腸運動には、2つの主要な運動様式がある

 

  1. ニューテーション(仙骨屈曲)
  2. カウンターニューテーション(仙骨伸展)

 

  • この仙骨の双方向性の運動は、体幹の前屈・後屈とともに生じる

 

  • 仙骨の片側性運動は、歩行初期および歩行周期などに、股関節と下肢の屈曲・伸展とともに生じる

 

 

ニューテーション
  • ニューテーションは、仙骨底(仙骨の上面)は前下方に向き、同時に仙骨尖(仙骨の下部)および尾骨は寛骨に対して後上方へ動く

 

  • ニューテーション中において、仙骨はL字型の関節面の短腕を下方へ、長腕に沿って後方に滑ると考えられている

 

  • 仙骨の楔型の形状は、関節面の稜や溝と同様にニューテーションを制限している

 

  • さらに、骨間仙腸靭帯や仙結節靭帯、仙棘靭帯はニューテーションの位置で緊張が高まると同時にこの動きを制限するが、この位置は最も安定した位置と考えられる

 

  • ニューテーションは仙腸関節靭帯の大部分、そのなかでも広い骨間仙腸靭帯や後仙腸靭帯(長後仙腸靭帯を除く)を緊張させる代表的な運動であり、これは骨盤に生じる強い負荷を準備していると考えられる

 

 

カウンターニューテーション
  • カウンターニューテーションでは仙骨底は後上方へ移動し、同時に仙骨尖および尾骨は寛骨に対して前下方へ働く

 

  • この運動が生じる間、仙骨はL字型の関節面の長腕に沿って前方へ、短腕を上方へ滑らせると考えられる

 

  • 長後仙腸靭帯は、カウンターニューテーションのこの特有の運動を制限する

 

  • カウンターニューテーションでは、骨間仙腸靭帯と仙結節靭帯が弛緩するため、仙骨は不安定になると考えられる

 

 

腸仙運動

  • 腸仙運動には、2つの主要な運動様式がある

 

  1. 前方回旋
  2. 後方回旋

 

  • 両側の寛骨に生じる運動は、体幹の前屈・後屈とともに生じる
  • 一方で、寛骨の片側の運動は、歩行周期など股関節と下肢の屈曲・伸展とともに生じる(仙骨の片側の運動と類似している)

 

 

前方回旋運動
  • 股関節や下肢が伸展されると、寛骨はL字型の関節面の短腕を下方へ、長腕に沿って後方へ滑りながら、同時に前方へ回旋する

 

  • この前方回旋運動は、仙骨のカウンターニューテーションと関連する

 

 

後方回旋運動
  • 股関節と下肢の屈曲されると、寛骨はL字型の関節面の長腕に沿って後方へ、短腕を上方へ滑られながらあ、同時に後方へ回旋する

 

  • この後方回旋の動きは、仙骨のニューテーションを誘導する

 

 

恥骨結合運動

  • 前方では2つの寛骨が結合し、恥骨結合として知られる連結を形成する

 

  • 正常歩行時恥骨結合関節は2つの寛骨による運動のための回旋軸として機能する

 

  • 恥骨結合における運動は可能だが通常は上下の強靭な靭帯により制限されている

 

  • この恥骨結合運動は主に歩行周期中で生じるが、片脚立位でバランスを保持しているときにも、この関節でも運動が起こる

 

  • 恥骨結合異常 (SPD:Symphysis Pubis Dysfunction) は上部の恥骨結合、あるいは下部の恥骨結合のどちらが固定されているか、その位置により分類される

 

 

仙腸運動と腸仙運動の組み合わせ

  • 骨盤帯、つまり2つの寛骨および仙骨が、股関節においてひとつのユニットとして回旋する場合、この運動は骨盤の前傾、あるいは後傾として知られている

 

 

両側の運動 前屈

  • 体幹の屈曲の初期においては、バランスを保つために重心をコントロールする目的で、骨盤帯は後方へシフトする

 

  • 仙骨はニューテーションの位置にあり、前関節可動域を通してそこに留まる

 

  • 左右の寛骨は大腿骨上を左右対称に前方回旋(骨盤前傾)し、第5腰椎が仙骨上で屈曲するにつれて、上後腸骨棘は頭側(上方)へ対照的に動いていく

 

  • 体幹が前屈するにつれ、仙結節靭帯、大腿二頭筋、胸腰筋膜の緊張が高まるポイントに到達し、仙骨のニューテーションが終了する

 

  • この時点で寛骨は前方回旋を続けるが、たとえ仙骨がニューテーションの位置にあるように見えたとしても、体幹の最終屈曲位では、軟部組織、とくにハムストリングスの緊張の増大により、仙骨は相対的カウンターニューテーションの位置にあると考えられる

 

 

両側の運動 後屈

  • 後屈の初期において骨盤帯は前方へシフトするが、同時に寛骨は大腿骨上で左右対称的に後方へ回旋(骨盤後傾)し、第5腰椎が仙骨上で伸展するまで胸腰椎の伸展が続く一方で、同時に上後腸骨棘が尾骨方向(下方)へ回旋していく

 

  • 仙骨は後屈を通じてニューテーションの位置で留まり、この位置は仙腸関節の圧迫により最も安定すると考えられる

 

 

仙骨の片側(一側)の運動

  • 歩行・歩行周期において、仙骨は両側性の運動ではなく、特異的な片側性の運動様式となる

 

  • つまり、歩行する場合、仙骨の片側をニューテーション方向へ前方に運動させる必要があり、一方で同時期に対側はカウンターニューテーション方向へ後方に運動させるのである

 

  • 仙骨が回旋する場合、側屈とともに複合運動が生じる

 

  • 仙骨の左側がニューテーションに向かって前方へ動くと、仙骨は右側へ回旋し、左側へ側屈する

 

  • 仙骨の右側は、同様に右側へ回旋するが、仙骨底はカウンターニューテーションの位置にある

 

  • 一側への回旋と対側への側屈は仙骨捻転として知られており、この特異的な仙骨の運動は、傾斜軸上で生じると考えられる

 

 

仙骨軸

  • 6タイプの仙骨軸が存在する

 

 

f:id:sakuraiku:20210609053929p:plain

画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)

 

 

傾斜軸

  • 左傾斜軸は、左仙骨底から右の下外側角を通過する

 

  • 右傾斜軸は、右仙骨底から左の下外側角を通過する

 

  • 自然な生理学的運動が2つある
  1. 仙骨左捻転左傾斜軸
  2. 仙骨右捻転右傾斜軸

 

  • 非生理学的運動が2つある
  1. 仙骨左捻転右傾斜軸
  2. 仙骨右捻転左傾斜軸

 

 

生理学的運動 (前方運動固定/ニューテーション)

仙骨左捻転左傾斜軸
  • この運動は仙骨が左回旋する場合に特有の動きであり、仙骨溝(仙骨底と腸骨との結合により自然に形成される)は右側の深部で触察できる

 

  • 下外側角は仙骨溝と同様に左側の後部で(浅部)で触察できる

 

  • それは、右側の仙骨が左前方へニューテーションしていることを示している

 

 

仙骨右捻転右傾斜軸
  •  この運動は仙骨が右回旋する場合に特有の動きであり、仙骨溝(仙骨底と腸骨との結合により自然に形成される)は左側の深部で触察できる

 

  • 下外側角は仙骨溝と同様に右側の後部で(浅部)で触察できる

 

  • それは、左側の仙骨が右前方へニューテーションしていることを示している

 

 

生理学的運動のまとめ
  • 仙骨左捻転左傾斜軸と仙骨右捻転右傾斜軸は、仙骨上の自然発生的運動である

 

  • 仙骨左捻転左傾斜軸の状態にある場合、仙骨の左側はニューテーションで固定されるため、カウンターニューテーションが不可能であり、仙骨右捻転右傾斜軸は起こらない

 

  • 歩行周期を通じて正常な歩行を可能とするために、仙骨左捻転左傾斜軸と仙骨右捻転右傾斜軸による仙骨の運動を保つ必要がある

 

  • 仙骨がこれらの自然発生的な仙骨捻転運動をできない場合、結果的に機能異常が生じることになる

 

 

非生理学的運動 (後方運動固定/カウンターニューテーション)

  • 仙骨の非生理学的運動は、仙骨の傾斜軸上で生じる異常な運動である

 

  • これは、回旋運動を伴った屈曲増強(強制屈曲)の姿勢、例えば、床から重いものを拾うための回旋運動による腰椎および体幹によって引き起こされている傾向がある

 

 

仙骨左捻転右傾斜軸
  • 仙骨左捻転右傾斜軸における仙骨捻転は、右斜軸上の左回旋と関連し、仙骨が左回旋する場合に特有である

 

  • しかし、仙骨の左側の後方回旋により、仙骨溝と下外側角は左側の後方(浅部)で触察される

 

  • これは、仙骨の左側がカウンターニューテーションしていることを表している

 

 

仙骨右捻転左傾斜軸
  • 仙骨右捻転左傾斜軸における仙骨捻転は、仙骨左捻転右傾斜軸と正反対の運動ということになる

 

  • したがって、仙骨捻転は左傾斜軸上での右回旋と関連しており、これは右側へ回旋している仙骨に特有である

 

  • 仙骨の右側の後方運動により仙骨溝と下外側角は右側の後方(浅部)で触察される

 

  • これは仙骨の右側がカウンターニューテーションしていることを表している

 

 

生理学的運動のまとめ
  • 仙骨左捻転右傾斜軸と仙骨右捻転左傾斜軸は仙骨の不自然な運動であり、ゆえにそれらは非生理学的とされる

 

  • これらの特異的な運動は、カウンターニューテーションあるいは後方ねじれの位置で固定されることがある

 

  • 例えば、仙骨左捻転右傾斜軸の機能異常的位置にある場合、仙骨の左側が固定されニューテーションを行えないために、仙骨は仙骨左捻転左傾斜軸あるいは仙骨右捻転右傾斜軸といった、正常な生理学的運動をはたすことができない

 

  • これについてもう一つの考え方は、仙骨がカウンターニューテーションの固定された位置の後方へ保持されるため、仙骨の左側は前ニューテーションが行えない、あるいは単純に左側での前方移動ができない、ということである

 

 

仙骨捻転のまとめ

仙骨左捻転左傾斜軸 ニューテーション

深部の仙骨溝   :右側

浅部の仙骨溝   :左側

下外側角後方   :左側

L5回旋      :右側

座位屈曲検査   :右側

腰椎スプリング検査:陰性

スフィンクス検査 :仙骨溝レベル

腰椎の負荷    :増強

内果(脚長)     :左側が短い

 

 

仙骨右捻転右傾斜軸 ニューテーション

深部の仙骨溝   :左側

浅部の仙骨溝   :右側

下外側角後方   :右側

L5回旋      :左側

座位屈曲検査   :左側

腰椎スプリング検査:陰性

スフィンクス検査 :仙骨溝レベル

腰椎の負荷    :増強

内果(脚長)     :右側が短い

 

 

仙骨左捻転右傾斜軸 カウンターニューテーション

深部の仙骨溝   :右側

浅部の仙骨溝   :左側

下外側角後方   :左側

L5回旋      :右側

座位屈曲検査   :左側

腰椎スプリング検査:陽性

スフィンクス検査 :左仙骨溝浅部(右仙骨溝深部)

腰椎の負荷    :減少

内果(脚長)     :左側が短い

 

 

仙骨右捻転左傾斜軸 カウンターニューテーション

深部の仙骨溝   :左側

浅部の仙骨溝   :右側

下外側角後方   :右側

L5回旋      :左側

座位屈曲検査   :右側

腰椎スプリング検査:陽性

スフィンクス検査 :右仙骨溝浅部(左仙骨溝深部)

腰椎の負荷    :減少

内果(脚長)     :右側が短い

 

 

 

参考文献

骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)