肘関節の機能解剖 腕尺関節・腕橈関節・近位橈尺関節・内側側副靭帯・外側側副靭帯複合体・橈骨神経・尺骨神経・滑液包・斜索

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肘の骨・関節の構造とその機能

  • 肘は上腕骨、尺骨、橈骨により、腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節という3つの関節を構成する複合体である

 

  • 構造と機能というポイントとして、次の4つがある
  1. 肘屈曲ー伸展と前腕回内ー回外という2方向の運動を担う
  2. 肘屈曲ー伸展には腕尺関節が大きく寄与する
  3. 腕橈関節は関節面が狭い構造から自由度が高い
  4. 近位橈尺関節は前腕回内ー回外に寄与する

 

腕尺関節

  • 腕尺関節は、上腕骨と尺骨の間に存在する一軸性のらせん関節である

 

  • 上腕骨滑車と尺骨の滑車切痕によって構成されている

 

  • 上腕骨の前面の内側には鈎突窩と言われる凹みが存在し、肘屈曲時に尺骨の鈎状突起が滑り込み、屈曲可動域を確保している

 

  • 後面には肘頭窩があり、肘伸展時に尺骨の肘頭突起が滑り込み、伸展時の安定性に寄与している

 

  • 上腕骨遠位は上腕骨体に対して40~45°前方へ傾斜している

 

  • これに対して尺骨の滑車切痕も約45°傾斜しており、この形状から肘屈曲の可動範囲145°を確保することができる

 

  • 肘伸展位において、前腕が上腕に対して外側に偏位している角度を生理的外反角もしくは運搬角という

 

  • 運搬角を形成する要素として、次の4つが挙げられる
  1. 前額面上の回転軸が、上腕骨長軸と直交する線に対して2.5°下方に傾斜
  2. 上腕骨滑車後面の滑車中心溝が、上腕骨長軸に対してやや外反に偏位
  3. 尺骨滑車切痕を縦走する峰状隆起の方向に対して尺骨近位の骨軸が外反方向に偏位
  4. 尺骨近位骨軸に対して尺骨遠位骨軸が再び内方に偏位

 

  • 肘屈伸運動時の屈伸軸は上腕骨滑車と小頭中心を通っており、肘の屈曲角度によって上腕骨滑車側の軸はあまり変化しないが、小頭側の軸は半円を描くように移動する

 

  • これは関節構造上、腕尺関節の適合性が橈尺関節よりも優れていることから、滑車側の軸がずれにくいものと考えられる

 

腕橈関節

  • 腕橈関節は多軸性の球関節である

 

  • 橈骨頭上面は浅く凹んだ関節面を有しており、上腕骨小頭と対抗している

 

  • 球関節という自由度が高い関節構造となっているため、これが小頭側の屈伸軸が変化する一因とも考えられ、橈骨頭は回内方向(内旋位)に可動性がある

 

  • このような橈骨頭の回内状態は、肘屈曲時の運搬角を内反へ誘導する要因にもなると考えられる

 

  • 肘屈曲時、橈骨頭は上腕骨の小頭滑車溝を滑り、屈曲最終域で上腕骨の橈骨窩に入り込み、可動性を獲得している

 

  • 橈骨頭遠位の橈骨頚には橈骨粗面が存在し、ここに上腕二頭筋が付着する

 

近位橈尺関節

  • 近位橈尺関節は一軸性の車軸関節であり、橈骨頭を軸に前腕の回内ー回外を行う

 

  • この関節は、凸面の橈骨頭とわずかに凹面となっている尺骨の橈骨切痕から構成されており、輪状靭帯や外側側副靭帯、斜索、方形靭帯によって補強されている

 

  • 前腕回外時には橈骨と尺骨は平行に並んでいるが、回内時には橈骨は尺骨と交差する構造となっており、このメカニズムをクロスパラレルメカニズムという

 

  • 回外時には、橈骨と尺骨が平行になることによりさらに運動連鎖で肩関節が外旋することにより体側に上腕があり、押し動作や荷物を持つ動作を行いやすくなる

 

  • つまり、回外時には安定性や固定性が高く、筋力を発揮しやすい肢位になるといえる

 

  • 一方、回内時では橈骨と尺骨が交差することから力の伝達能力は劣るものの、手の巧緻性求められる作業の場合には有利となる

 

肘の軟部組織の構造と機能

内側側副靭帯

  • 内側側副靭帯は上腕骨内側上顆から前方は尺骨鈎状突起へ、後方は肘頭突起にかけて存在しており、その走行方向から、前斜走線維、後斜走線維、横走線維という3つの線維から構成されている

 

  • この靭帯の機能は前腕の外側変位を制限して過度の外反力を抑制することである

 

  • 肘屈曲60~70°では前斜走線維が外反を制限しており、肘屈曲70°以上では後斜走線維が伸張される傾向にある

 

  • さらに前腕回線の影響として、前腕中間位で外反角度が増大し、回内位で外反角度が最小となる

 

  • 肘外反ストレスに対する制動の貢献度の割合は、肘伸展位では内側側副靭帯、骨・関節構造、関節包・軟部組織のいずれも同程度である

 

 

 

外側側副靭帯複合体

  • 外側側副靭帯複合体は、扇状・Y字形に広がる構造をしている

 

  • この靭帯複合体には、外側側副靭帯、外側尺骨側副靭帯、輪状靭帯、副靭帯が存在する

 

  • 外側側副靭帯の機能としては、過度の内反力に対抗して肘関節を安定させるとともに、腕尺関節の亜脱臼を防止する

 

  • さらには、尺骨に対して橈骨頭を固定している輪状靭帯を補助し、腕橈関節を安定させる

 

  • 内反ストレスに対するこれらの靭帯の張力は、肘屈曲30~40°で発生し、50~60°で最大となる

 

  • 輪状靭帯は、前腕回内時に橈骨頭が尺骨の周りを回転する際、緊張を高めて筋位橈尺関節の安定化に寄与している

 

  • また、方形靭帯も補助的に近位橈尺関節の安定化に作用している

 

 

 

 

 

橈骨神経

  • 橈骨神経は、上腕三頭筋外側頭の下を出て橈骨神経溝を下行し、上腕筋と腕橈骨筋の間を走行して肘関節に至る

 

  • 腕橈関節前方で浅枝(知覚枝)と深枝(運動枝)に分かれ、深枝は回外筋の腱弓の下を通って前腕伸筋側に出る

 

  • この腱弓は Frohse のアーケードと呼ばれ、回外筋症候群の好発部位である

 

尺骨神経

  • 尺骨神経は上腕内側から筋間中隔後面に達するが、ここに Struthers のアーケードと呼ばれる腱弓がある

 

  • これは弓状靭帯とともに肘部管を形成する

 

  • 弓状靭帯は尺骨神経の圧迫障害をもたらしやすい

 

関節包

  • 関節包は、腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節という3つの関節を含んでいる

 

  • その強度は、靭帯によって補強されている

 

  • 前後面は関節運動を許すために比較的薄くて緩く、内外側は安定性を確保するために内側側副靭帯および外側側副靭帯に付着している

 

滑液包

  • 前方の滑液包は4つ存在する
  1. 腕橈滑液包
  2. 回外筋包
  3. 上腕二頭筋腱橈骨滑液包
  4. 肘部骨間滑液包

 

  • 後方の滑液包は8つ存在する
  1. 上腕三頭筋腱下包
  2. 尺骨神経包
  3. 内側上顆滑液包
  4. 上腕三頭筋腱内包
  5. 肘頭滑液包
  6. 外側上顆包
  7. 肘筋下包
  8. 腕橈滑液包

 

  • 滑液包は、骨への衝撃を吸収する作用や、筋・腱や骨との摩擦を軽減する作用を有する

 

  • 表在性のものとして肘頭滑液包や内側上顆滑液包があり、これらは炎症を起こしやすい

 

斜索

  • 斜索は前腕腹側に存在し、尺骨の橈骨切痕内側面から橈骨結節まで走行する平らな筋膜の帯である

 

  • 骨間膜は橈骨と尺骨を連結する膜であり、棚上構造を有する

 

  • 斜索と直交して走行している

 

  • いずれも最大回外時に緊張して橈尺関節の安定性をもたらしており、重い荷物を運ぶとき、体重を支えるときに作用する

 

参考文献

肘関節の機能解剖学的離開のポイント (理学療法 29巻11号 2012年11月 横山茂樹)