膝関節の機能解剖 骨性構造・靭帯構造・半月の構造・関節包・運動生理学・歩行時の機能

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膝関節の静的安定化機構

膝関節の基本構造

  • 膝関節の4つの構造について理解する必要がある

 

  1. 骨性構造
  2. 靭帯構造
  3. 半月の構造
  4. 関節包

 

 

骨性構造
  • 膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨組織からなる

 

  • 内側・外側大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節の3つの関節から構成されている

 

  • 大腿骨下部は大腿骨頚部との間に約18°の内捻角を形成する

 

  • よって、大腿骨遠位で約18°の大腿骨内捻を認める

 

  • 大腿骨遠位部での両下部は非対称である

 

  • 大腿骨下部と脛骨下部の軸は外側へお互いに約5°開いた形状をなしているため、脛骨は大腿骨に対して約5°外旋する構造になっている

 

 

靭帯性構造
  • 膝関節は靭帯支持機構により、安定性と運動性が相反する機構をなしている

 

  • 前十字靭帯と後十字靭帯が膝関節の中心軸を支持する役割を担っている

 

  • 矢状面では相対的な変位の制御、前額面では膝の安定性、そして水平面では内旋の制御に関わる構造をなしている

 

 

半月の構造
  • 脛骨の関節面にC字状の内側半月と、環状に近い形状の外側半月がある

 

  • 両半月とも脛骨の課間隆起に付着部があり、前角は横靭帯に結合している

 

  • 内側半月は、外周縁が冠状靱帯により脛骨外縁部に固定されているため、膝関節の屈曲伸展時の可動性は少ない

 

  • 一方、外側半月は、中節から後節にかけて脛骨外周縁に固定されていないため可動性が大きく、1cm程前後に移動できるようになっている

 

 

関節包
  • 関節包は膝関節の全周囲を覆っている

 

  • 内、外側前方1/3は内・外側支帯、内側中央1/3は内側側副靭帯の深層前縦走部、内側後方1/3は後縦走靭帯、外側中央1/3は外側側副靭帯、外側後方1/3は弓状靭帯が主な構成要素である

 

  • 関節包は、そのものを靭帯とみなした関節包靭帯とも言われ、他の軟部組織とともに膝関節の安定化に携わっている

 

 

膝関節のアライメント

  • 日本人の下肢アライメントの計測結果は、大腿骨軸傾斜角81°、脛骨軸傾斜角85°、下肢機能軸傾斜角86°、大腿骨脛骨角176°、下肢機能軸通過点59%となっている

 

  • 以上の結果から、一般的な下肢機能靭帯は膝関節の内側を通過し、荷重は内側によりかかること、正常ではややX脚を示すこと、下腿は立位時に地面に対して約5°外側に傾斜していることが解明された

 

  • これが膝の生理的外反と呼ばれるものである

 

 

安定化機構 局所解剖と役割

内側部
  • 内側側副靭帯が最も大きく寄与する

 

  • この靭帯は内側部のほぼ中央の浅層に位置し、一部は内側半月と結合している

 

  • 内側側副靭帯は膝関節屈曲約25°の位置において外反に対する制御が78%と最大となる

 

  • 残りの制御は、前十字靭帯や後十字靭帯に加え、内側の深層にある前内側関節包靭帯、中央部関節包靭帯、後斜走靭帯などが担っている

 

 

外側部
  • 外側側副靭帯と腸脛靭帯が安定性に寄与する

 

  • 外側側副靭帯は膝関節屈曲約25°の位置において内反に対する制御が69%と最大となる

 

  • 残りの制御は、前十字靭帯や後十字靭帯、関節包靭帯が担っている

 

 

膝窩部
  • 膝窩筋、弓状靭帯、斜膝窩靭帯など後方の安定性を制御する組織が存在する

 

  • これらの組織は、膝後内側と後外側の回旋不安定性に対する安定化機構としても作用している

 

 

内部
  • 内・外側半月、前十字靭帯、後十字靭帯がある

 

  • 半月の役割として、近年は膝関節自体の安定化機構が追加されている

 

  • とくに前額面での半月の関節適合の静的役割は大きく、立位や歩行などの荷重下ではさらに増大する

 

  • 前十字靭帯のうち前内側線維束と後外側線維束が重要な働きを有する

 

  • 膝伸展位では前十字靭帯は垂直化して顆間窩の頂点と接触し、両線維束とも緊張する

 

  • 膝関節の過度の屈曲位でも両線維束が緊張を増していく

 

  • 下腿内旋位でも前十字靭帯自体が捻じれるため緊張が高まる

 

  • 後十字靭帯は下腿回旋運動において線維自体が回転するため、緊張はほとんど一定である

 

  • こうして、前十字靭帯と後十字靭帯は互いの機構で膝関節の中心軸を構成し、水平面内での軸回旋運動に寄与する

 

 

膝関節の運動生理学

屈曲・伸展
  • 屈曲・伸展運動は滑り(グライディング)と転がり(ローリング)という2種類の運動を伴っている

 

  • 転がりの単独運動では大腿骨の脛骨に対する後方脱臼は生じないが、脛骨関節面後方と大腿こち後面との間で機械的な制御が働いて屈曲角度が制限される

 

  • 滑りの単独運動では、屈曲運動は十分になされるものの、脛骨に対する大腿骨の後方亜脱臼が誘起される

 

  • よって、この2種類の運動が互いに効率良く機能することで、安定した大きな屈曲角度を可能としている

 

 

軸回旋運動
  • 軸回旋運動は、直線的な運動と回転運動が組み合わさったものである

 

  • 膝約30°屈曲での膝関節回旋運動の自由度は、徒手的に30°近くといわれている

 

  • 膝屈曲位から伸展していくと最終伸展位では下腿は大腿に対して約15°外旋する

 

  • これはスクリューホームムーブメントと呼ばれる

 

  • 大腿骨と脛骨関節面の性状、靭帯支持機構、膝関節周囲筋の共同運動によって生じ、歩行様式にとって重要な機構となっている

 

 

 

動的安定化機構

前・後方制御機構(伸展機構)

  • 伸展機構に最も寄与するのが膝蓋大腿関節の機能である

 

  • 膝蓋大腿関節は、膝蓋骨の内外側関節面と、それに適合した大腿骨顆間窩、および膝蓋骨を取り巻く膝蓋支帯とこれらの原動力となる大腿四頭筋から形成されている

 

 

膝蓋骨の役割
  • 膝蓋骨は逆三角形をした骨組織であり、膝蓋大腿関節の前方に位置する

 

  • 大腿四頭筋腱内の種子骨である

 

  • その後面は正中隆起によって内側と外側に分けられる

 

  • 外側関節面は内側関節面よりも大きく傾斜が少ない

 

  • 内側関節面は長軸方向に凹状となっており、最も内側には細長い第3関節面を形成する

 

  • 膝蓋骨の下方は、強靭な膝蓋靭帯により脛骨粗面に固着されている

 

  • 膝蓋骨上部の膝蓋骨底には大腿四頭筋が付着している

 

  • 外側には外側膝蓋支帯と腸脛靭帯線維の一部があり、膝蓋骨の内方への転位を抑制するとともに、外側広筋が動的に牽引されるのを強めている

 

  • 膝蓋骨の運動学的機能は次の3つがある
  1. 膝関節屈曲・伸展運動におけるモーメントアームの増加による膝伸展機能の増大
  2. 大腿四頭筋をひとつにまとめ膝蓋支帯へ効率よく筋力を伝達する機構
  3. 膝関節の保護機能

 

 

膝蓋大腿関節の運動生理学

 膝蓋大腿関節面

  • 膝関節が屈曲するにつれて接触面が上方へと移動するとされた

 

  • 最初の屈曲30°で膝蓋骨の関節面下方1/3の部分が大腿骨膝蓋面と接触する

 

  • 屈曲30°~60°までの間では、膝蓋大腿接触面は膝蓋骨中央1/3に移動する

 

  • 屈曲90°ではさらに膝蓋骨上方1/3に移動していく

 

  • 90°以上では、膝蓋骨は大腿骨顆間窩に沈み込み、大腿四頭筋腱が大腿骨関節面と接触し始める

 

 

矢状面における膝蓋大腿関節

  • 膝関節屈曲に伴い膝蓋骨は下降して大腿骨膝蓋面に対して傾斜する

 

  • 膝蓋腱が垂直線となす角度は膝伸展位では前方に15°である

 

  • 膝屈曲60°では垂直、120°では後方へ20°傾斜する

 

  • この傾斜は屈曲30°で生じ始め、膝蓋骨の傾斜と低位下により関節面の接触領域はさらに増大する

 

  • 膝蓋骨は、膝屈曲とともに半径が膝蓋腱の長さに等しい円運動を行いながら脛骨粗面に対して徐々に後退する

 

 

前額面における膝蓋大腿関節

  • 膝伸展位では膝蓋骨は滑車上窩の側縁で安定しているが、屈曲開始とともに内下方へ移動する

 

  • 屈曲が進むと膝蓋骨は滑車溝に導かれ、垂直方向へ移動しながら外側へ移動する

 

 

水平面における膝蓋大腿関節

  • 膝伸展時に膝蓋骨は水平面上で大腿四頭筋の緊張により移動は少ない

 

  • 屈曲時には縦軸に対して傾斜し、屈曲が進むにつれて膝蓋骨外側縁は前方へ、内縁は外方へ傾斜する

 

 

大腿四頭筋の役割
  • 大腿四頭筋は膝蓋骨を近位へ牽引して膝関節の伸展機構に寄与している

 

 

内・外側制御機構

  • 大腿後部に存在する筋組織は、膝関節の内側と外側の筋機構を構成し、膝関節の屈筋であるとともに下腿の回旋筋でもあるという二面性を有している

 

  • 膝関節の側方関節包や靭帯支持組織を保護し、下腿の回旋応力を統制して安定化に寄与している

 

 

内側の筋性制御機構
  • 鵞足と半膜様筋が中心となる

 

  • 鵞足に停止する3つの筋は膝関節の屈筋と同時に、内旋筋の作用を有する

 

  • 半膜様筋は膝関節の屈曲と下腿の内旋運動に寄与するが、下腿外旋の制動と安定化にも寄与している

 

 

外側の筋性制御機構
  • 大腿筋膜張筋と大腿二頭筋が中心となる

 

  • 膝窩筋が外側の制御機構に含まれ、下腿外旋を制御しながら膝関節の中心軸を安定化させる役割を担う

 

  • 大腿筋膜張筋は片脚支持の膝伸展時には外側膝蓋支帯とともに内反力を制御する

 

  • 屈曲時には脛骨外旋筋として作用し、荷重時の脛骨内旋を制御している

 

  • 大腿二頭筋も屈曲60°以上では外旋筋として機能し、外反・外旋位に固定する

 

  • また、大腿四頭筋の脛骨に対する前方引き出しに拮抗して前十字靭帯を保護する役割を有している

 

 

歩行時の膝関節の機能

  • 歩行は遊脚相と立脚相から成り立っている

 

  • 立脚相はさらに両脚支持相と片脚支持相に分けられる

 

  • その相においても膝関節の機能は重要であるが、歩行中に膝は完全伸展位になる時期はなく、絶えず屈曲位で機能している

 

 

歩行中の重心の位置

  • 立位時には身体の重心は第2仙椎前方に位置し、歩行中はその位置から離れると言われている

 

  • これは矢状面と水平面のみに認められ、それぞれの重心は正弦曲線を描く

 

  • 歩行時には重心と基底面の平衡は容易に崩れる

 

  • 歩行動作は平衡の消失と回復の繰り返し動作である

 

  • とくに膝関節はこの平衡の安定化に寄与することが知られている

 

  • 歩行時に推進力を足部に与えるとともに、重心の移動を制御して下肢の動的適合と平衡とを確保している

 

 

立脚相における膝関節の役割

  • 片脚支持相で重心移動に平行な運動エネルギーを転換、つまり重心の上下移動で得られた位置エネルギーを運動エネルギーに転換して、体幹の前方推進力を発生させる

 

  • 水平面において、膝関節は下腿内旋の緩衝作用を担う

 

  • すなわち、大腿骨の外旋を促しながら中心軸を固定している

 

  • 矢状面では、大腿骨顆部が前方へ強く押し出される方向に働くため、膝関節は慶脛骨に後方引き出しの応力が生じる機構となっている

 

  • これには、膝関節の伸筋と屈筋の総合作用に加え、関節内靭帯などの軟部組織の関与も大きい

 

  • 前額面では、重心が外側へ移動する力が働くため、膝関節では大腿筋膜張筋が主体となってこの応力を制御している 

 

 

遊脚相における膝関節の役割

  • この相においては膝関節は大きな応力はもたらされず、強力な安定化機構は要求されない

 

  • 水平面では大腿骨内旋と中心軸の安定化解除、それと大腿脛骨関節の離開を促す作用が生じ、膝関節それ自体が立脚相への準備として、大腿四頭筋による膝伸展運動の制御機構が主となり、歩行時におけるダブルニーアクションの一部となる

 

  • 矢状面と前額面でも同様に、筋機構の制御を得ながら、下肢の推進作用を担う

 

 

 

参考文献

膝関節の機能解剖学的理解のポイント (理学療法 29巻2号 2012年2月 松本尚)