肘内側側副靭帯損傷 保存的治療法・観血的治療法・病態とバイオメカニクス・理学療法

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肘内側側副靭帯損傷の概要

  • 肘内側側副靭帯損傷は、肘関節脱臼や脱臼骨折などの外傷に伴う急性損傷と、投球に代表される繰り返し牽引力が加わり微細損傷が蓄積される慢性損傷に大別される

 

  • 野球選手の場合は、微細損傷の蓄積によって内側側副靭帯機能不全が起こり、肘関節不安定症を呈することが問題となる

 

  • 20世紀末から21世紀初頭にかけての10年間で高校生の内側側副靭帯再建術が増加しており、そのうち85%がオーバーユースであった

 

  • この増加の背景には、内側側副靭帯損傷の診断法および観血的治療法の確立、学童期からの単一競技の専門化や練習過多、ジュニア選手育成指導上の問題点などがあると考えられている

 

 

 

肘内側側副靭帯損傷の保存的治療法と観血的治療法

保存的治療法

  • 通常、スポーツ選手が抱える慢性疼痛の治療は、まず保存的治療法から開始されることが多い

 

  • 3ヶ月間の理学療法で48%が復帰可能であったとの報告がある

 

  • 保存的治療法に対抗する因子として、剥離骨片が残存する内側側副靭帯損傷、投球時の尺骨神経障害、投球時のら患期間が挙げられる

 

  • 保存的治療法に抵抗性の尺骨神経障害は、Struthers’ arcade や内側側副靭帯の機能不全により尺骨神経が過伸張となるものが多く、時に胸郭出口症候群によってもたらされることもある

 

 

観血的治療法

  • 観血的治療法は、トミージョン手術が有名である

 

  • これは長掌筋腱を用いて内側側副靭帯を再建する方法である

 

  • 近年では、復帰率が高く完全復帰が可能となっている

 

  • しかし、付随する症状として尺骨神経症障害が6%に認められたとの報告もある

 

  • 観血的治療法で問題となる尺骨神経障害は、尺骨神経移行や手術操作によって生じることが多く、保存的治療法の病態とは異なる

 

  • 手術操作に起因する一過性の尺骨神経障害は術後1〜2日で改善することが多い

 

 

 

肘内側痛の病態と病態把握

肘内側側副靭帯損傷

病態とバイオメカニクス
  • 内側側副靭帯は内側上顆下端前方から起始し、尺骨鈎状突起内側面に付着している最も強固な前斜走靭帯と、伸展性に富む後斜走靭帯、さらに、肘頭尖端内側と鈎状結節後部を結ぶ発達の悪い横走靭帯からなる

 

  • 前斜走靭帯は幅約10mm、厚さ2〜3mで、肘関節外反ストレスに対する最も強固な支持機構であり、肘関節の安定性保持に重要なものである

 

  • 肘関節の外反安定化には、屈曲20°以下と120°以上では肘頭や上腕骨滑車の骨構造が寄与する

 

  • 屈曲20°〜120°までは前斜走靭帯が第一の安定化機構となる

 

  • 前斜走靭帯の起始範囲は狭く、付着範囲は広く、その形状は円錐状である

 

  • そのため、前斜走靭帯への伸張ストレスは横断面積の狭い起始部に集中しやすく、損傷も同部に頻発する

 

 

病態把握
  • 内側側副靭帯損傷は限局した疼痛が誘発されるため、圧痛を確認する

 

 

milking テスト

  • 前斜走靭帯の後部線維の伸張テスト
  • 肘関節最大屈曲位で肘関節外反を強制し、疼痛があれば陽性

 

 

moving valgus stress テスト

  • 肩関節外転90°最大外旋位として肘関節に外反ストレスを加えた状態で、最大屈曲位から屈曲30°まで伸展させる
  • その際、アーリーアクセレーションを疑似した屈曲70°からレイトコッキングを疑似した120°の間で疼痛が誘発されれば内側側副靭帯損傷の可能性が大きいとされる

 

 

尺骨神経障害

病態とバイオメカニクス
  • 尺骨神経は、上腕内側遠位1/3で内側上腕筋間中隔の後方を通り、内側上顆と肘頭の間で緊張している滑車上肘靭帯から肘部管に入り、尺側手根屈筋腱膜を通過して肘部管を出る

 

  • 尺骨神経障害は、上腕内側遠位1/3を中心とした Struthers’ arcade と肘部管で頻発する

 

  • Struthers’ arcade とは内側上腕筋間中隔、上腕三頭筋内側頭副起始、発達した上腕三頭筋、肥厚した深筋膜により尺骨神経が圧迫される構造である

 

  • 肘部管の解剖学的構造に起因する病態として、内側上顆や滑車上肘靭帯の低形成による尺骨神経脱臼、骨棘が肘頭後内側や滑車内側に形成されることによる肘部管の断面積縮小などがある

 

 

病態把握
  • 尺骨神経の圧痛は上腕内側中央から肘部管にまで及ぶ

 

  • いわゆる Struthers’ arcade を構成する内側上腕筋間中隔に圧痛を認めることが多く、また、肥厚を認めることも多いため、健側も評価する

 

  • 肘部管については、圧痛とともに尺骨神経の脱臼・亜脱臼も評価する

 

  • 圧痛は肘部管に限局されるため、判断は容易である

 

  • 脱臼・亜脱臼は肘関節を屈伸させて検査するが、静的には内側上顆の低形成や肘頭および滑車内側の骨棘形成により、動的には発達した上腕三頭筋により生じている場合があることを念頭に置いて行う

 

 

後内側インピンジメント

  • 後内側インピンジメントとは、肘頭と肘頭窩が接触することを意味する

 

  • 正常の状態でも接触し、肘関節外反安定化に貢献している

 

  • しかし、内側側副靭帯損傷によって肘関節外反不安定性を呈すると、その接触圧が増大すると考えられている

 

 

 

理学療法

筋力増強運動

  • 肘関節外反ストレスを制御する力があると報告されている筋は、尺側手根屈筋と浅指屈筋である

 

  • これらの筋はリストカールによって筋力増強を行うことができる

 

  • その際、握りを太くすることで浅指屈筋の筋活動も上昇し、同時に筋力増強もできる

 

  • 上腕三頭筋外側頭や上腕筋、肘筋も肘関節外反ストレスを制御すると奉公されている

 

 

ストレッチ

  •  内側側副靭帯機能不全の野球選手と無症状の野球選手の可動域を比較すると、内側側副靭帯機能不全で優位に肩関節内旋が減少していた

 

  • 胸郭や脊柱(特に胸椎)の柔軟性低下は、コッキングフェーズ以降の胸椎伸展と肩甲骨後傾を制限し、代償的に肩関節外旋と肘関節外反を増加させると考えられる

 

 

 

参考文献

野球肘の機能解剖学的病態把握と理学療法 ー肘内側側副靭帯損傷ー (理学療法 29巻11号 2012年11月 宮本梓)