肘離断性骨軟骨炎と理学療法 病態・観血療法・保存療法・病期分類・病巣部位・理学療法
肘離断性骨軟骨炎の病態
機能解剖の観点より
- 腕橈関節は上腕骨小頭と橈骨頭で構成されており、橈骨頭は肘外反ストレスの制動に関与する
- 腕橈関節内の軟骨に圧を加えて合成を測定したところ、橈骨頭中央と比較して、上腕骨小頭内側では有意差がみられなかったものの、小頭外側では有意差がみられた
- 透亮期の病変が外側にあるものと中央にあるものを比較し、病変が外側にあるものは優位に低年齢であり、いずれも骨端線閉鎖前であった
- これらのことから、肘離断性骨軟骨炎が上腕骨小頭側に生じる要因として、橈骨頭と上腕骨小頭外側の軟骨との剛性の差が考えられ、その差は骨端線閉鎖前の小頭外側から生じ始める可能性がある
運動学の観点より
- 肘関節の屈伸運動は腕橈関節と腕尺関節の複合運動である
- 肘関節は伸展に伴って生理的に外反し、その際、橈骨頭は上腕骨小頭上を後方に滑る
- 肘関節の回内外運動は橈骨頭と尺骨頭結んだラインを軸とし、橈骨頭は最大回外から最大回内の運動中に、正常の場合でも前方に約2㎜偏位すると言われている
- 一方、肘離断性骨軟骨炎患者は、その多くが肘過外反・前腕回内アライメントを呈している
- 術中所見として橈骨頭の適合性不良が観察されるだけでなく、臨床所見として肘伸展時と前腕回内時に橈骨頭の異常運動が観察される
- 超音波を用い、前腕回外位から回内運動中の橈骨頭を掌側より観察すると、肘離断性骨軟骨炎の患側では健側に比べ、橈骨頭が掌側に大きく偏位している
- 橈骨頭の掌側への運動は上腕孤島小頭への圧を上昇させることが示されている
- 肘関節伸展位で前腕の肢位を変えながら軸圧下での腕橈関節の接触圧を測定し、回外位よりも回内位で接触圧が増大する
- 以上のことから、肘離断性骨軟骨炎患者で観察される、橈骨頭が前方に課題に偏位している場合は、橈骨頭が正常な位置にある場合と比較して、上腕骨小頭への剪断力を増大させる
投球動作時のバイオメカニクスの観点より
- 肘離断性骨軟骨炎患者では、ボールリリース前後に痛みを訴える割合が非常に高かった
- 肘離断性骨軟骨炎患者25例では、アームコッキング相が28%、アームアクセレーション相からアームデセラレーション相が64%、フォロースルー相が8%
- アームアクセレーション相からアームデセラレーション相にかけて肘関節は急激に伸展し、リリース直後に前腕回内運動が増加する
- 腕橈関節の圧力は肘関節伸展・前腕回内で強くなること
- 外反トルクが加わる中で、リリース付近で急激な肘関節伸展と前腕回内運動を行うことが肘離断性骨軟骨炎発症をもたらす可能性がある
観血療法と保存療法の選択
- 肘離断性骨軟骨炎は病期や病巣部位、肉眼所見による分類がなされている
- 保存療法か観血療法かの治療方針の決定には、その正確な理解が必要となる
病期分類
- 病気は透亮期、分離期、遊離体期に分類される
- 遊離体期では手術療法になる場合が多い
- 分離期は、軟骨面の連続性があり病巣が安定している前期と、軟骨面に亀裂を有し連続性を失っている後期とに分けられる
- 現在では、MRIのT2協調脂肪抑制画像における高信号領域が「上腕骨小頭内に関節内から連続している場合」、あるいは「連続していなくても線状である場合」に分離後期以降と診断され、手術適応となることが多い
病巣部位による分類
- 病巣部位が小頭中央部に限定されている中央型と、外側辺縁にまで達し上腕骨小頭外側骨皮質の欠損および破壊を伴っている外側型とに大別される
- 病巣部位によって治療成績に影響が出る
- 外側型で、橈骨頭関節面の1/3以上に病巣がわたるものを広範囲型とし、治療成績に影響を及ぼす腕橈関節の関節症変化や橈骨頭の前方亜脱臼、内反肘などを呈す場合が多い
肉眼所見による分類
- 国際的にはICRS分類が使用され、4段階に分けられる
stageⅠ:特に所見がないもの
stageⅡ:軟骨に亀裂があるが病巣は安定しているもの
stageⅢ:骨片が部分的に剥がれて不安定となっているもの
stageⅣ:骨片が完全に遊離しているもの
肘離断性骨軟骨炎に対する理学療法
肘関節の炎症症状への対応
- 肘離断性骨軟骨炎では、肘関節全体に腫脹が及んでいることが多い
- 肘関節内の腫脹は肘頭外側に観察される
- これに対しては、腕橈関節に微弱の電流をかけながらアイシングを行い、腫脹の軽減を図る
肘関節のアライメントおよび可動域への対応
- 肘過外反アライメントの修正(腕橈関節の圧の軽減)と橈骨頭前方偏位の改善(腕橈関節の適合性獲得)を行うことで、肘関節伸展・屈曲可動域の改善を図る
- 腕橈関節の圧の軽減と適合性獲得は、上腕骨小頭に対する剪断ストレスを減弱させ、関節運動時の疼痛も減弱させる
- 肘過外反アライメントを修正するには、橈側に付着する筋(腕橈骨筋)の柔軟性を獲得させる
- 次に、近位橈尺関節のモビライゼーションを行い、橈骨頭の後方可動性を改善させる
- その際、遠位橈尺関節の可動性改善も同時に考慮することが重要である
- 遠位橈尺関節の可動性低下は、近位橈尺関節(橈骨頭)の異常運動を引きおこし、適合性を低下させる
- 遠位橈尺関節のモビライゼーションや長母指屈筋のストレッチを行い、完全な前腕回外可動域獲得を目指す
- 橈尺関節の可動性が改善したのち、肘関節の内反ストレッチを行い、さらに肘関節(腕尺関節)のアライメントを改善させる
- また、橈骨の運動を誘導しながら肘関節屈曲伸展運動を行い、肘関節の正常な屈曲伸展可動域を獲得する
前腕橈側のセルフストレッチ
- 上腕二頭筋ー腕橈骨筋間に指を入れ、肘関節の屈曲伸展を繰り返す
『上腕二頭筋の起始・停止』などを復習したい方はこちら
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近位橈尺関節のモビライゼーション
- 肘頭を内側より把持し、尺骨を前方に引き出しながら対側母指で橈骨頭やや内側を後外方に押す
- セルフで行う場合、橈骨頭を後方に押し込みながら、前腕の回内外を繰り返す
遠位橈尺関節のモビライゼーション
- 橈骨1/2(腕橈骨筋の筋腱移行部周囲)を把持し、対側で尺骨茎状突起を包むように把持する
- 橈骨を近位に押し込み、尺骨を遠位に牽引する
- 肘の過度な外反が生じないように留意する
- セルフでは手関節背屈位にて、母指MP関節を伸展方向に引っ張り、長母指屈筋をストレッチする
肘内反ストレッチ
- 肘関節内側を把持し、対側で母指球から橈骨茎状突起を把持する
- 橈骨を近位に押し込みながら内反方向に牽引し、肘外側をストレッチする
肘関節屈曲伸展時の橈骨頭の可動性の改善
- 橈骨頭を外側より把持し、対側手掌を母指球に合わせる
- 橈骨頭を後方に引っ張りながら、対側の手掌で橈骨を軸圧方向に押しつつ、肘を屈曲伸展させる
- セルフでは橈骨頭前方に指を入れ、前腕を回外させ、小指側を上にしながら、肘関節を屈曲伸展させる
肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の機能への対応
- 肘関節伸展可動域制限と投球動作の繰り返しは、胸椎後弯・肩関節伸展位・肘関節屈曲位の姿勢を取りやすくなる
- それにより、肩甲骨は下制・下方回旋し、それに伴い上腕骨頭を前方偏位アライメントとなる
- 上腕骨頭の前方偏位は、上腕二頭筋長頭腱を伸張させ、さらに腕橈関節の可動性を阻害する
- この一連のアライメント不良パターンのため、一時的に肘関節のみ可動域が改善しても、上腕二頭筋の過緊張が生じ、また肘関節の可動域制限が起こる悪循環から抜け出せない
- 胸郭を拡張し、肩甲骨の可動性を改善させ、上腕二頭筋や肩後方のストレッチを行うことで上腕骨頭のアライメントの改善を図る
- 肩後方のタイトネスを改善することは、正常な肩関節内旋可動域を獲得し、代償的に生じる投球時の過剰な前腕回内運動を抑制するためにも重要である
肘周囲筋機能への対応
- 上腕三頭筋・尺側手根屈筋・浅指屈筋は肘外反制動機能を有するため、これらのトレーニングを行うことは重要である
- とくに肘離断性骨軟骨炎患者では、肘関節の腫脹や伸展制限に起因する上腕三頭筋機能低下を認める場合が多い
- 腕橈関節への圧に留意するため、腹臥位にてベッド端に前腕を垂らし、前腕回外位での肘関節伸展抵抗運動を行う
参考文献
野球肘の機能解剖学的病態把握と理学療法 ー肘離断性骨軟骨炎ー (理学療法 29巻11号 2012年11月 鈴川仁人)