頚部と体幹機能に対するアプローチ 頭部と胸郭の位置関係・内腹斜筋による下部腹直筋の安定化・外腹斜筋による上部腹直筋の安定化・腹横筋による腹直筋の安定化
頚部と体幹機能に対するアプローチ
1.頚部と胸郭の位置関係
- 頚部は最上部に頭部があり、7つの頚椎から構成されている
- 頚椎の運動には屈曲、伸展、側屈、回旋があり、それぞれの動きに対し複数の関節が関与する
- 関節モビライゼーション個々の脊椎の可動性を評価することが可能であり、脊椎の可動性低下または過可動性について把握し疼痛との関連性について推察できる
- 頚椎以下には胸椎があり、肋骨とともに胸郭を形成している
- よって、頭頚部の運動の土台として胸郭が存在している
- そのため、胸郭の位置によって頚部の運動は影響されることになる
- 胸郭の真上に頭部が位置していない状態では、頭部と胸郭を連結しなければならず、必然的に頭部周囲筋の筋緊張は更新するか、もしくは頚椎の弯曲を強める結果となる
2.脊柱起立筋による胸郭の運動制御に対するアプローチ
- 頚部の運動機能に胸郭の位置関係が影響することから、頚部の運動機能を考える時には胸郭の運動制御機能を評価しなければならない
- 骨盤上にある脊椎および胸郭は、主に脊柱起立筋によって制御されている
- 胸郭を制動背うる脊柱起立筋は、最長筋であることから各部位の制御に対し最適な脊柱起立筋を選択し、制御できるか否かが重要になってくる
3.頚部周囲筋に対するアプローチ
- 頚部固有受容器は上部頚椎の頚部背側の高重力筋に多く存在し、特に頭板状筋、大後頭直筋、頭最長筋、頭半棘筋に集中している
- これらの筋の固有受容器からの情報は、主に脊髄網様体を経由し、前庭神経核にフィードバックされ、頭部運動の間、前庭神経核にインパルスを発射している
- そのため、頚部筋や関節の障害により、頚部固有受容器に異常興奮が生じた場合、前庭神経に病的な影響を与えることで、めまいを引き起こすと考えられる
- 頚部軟部組織の固有受容器より発生した求心性インパルスの異常興奮は、上行性ん脊髄網様体を経由して脳幹に伝達され平衡機能異常を発生し、この機能異常は下降性に内側縦束や網様体脊髄路を通じて、眼や四肢、体幹の筋肉に伝達され、それらの器官に機能失調を引き起こすと説明している
体幹機能に対するアプローチ
1.骨盤の安定化
- 座位姿勢や立位姿勢での体幹に関連する垂直連結の関節は、仙腸関節、肩甲上腕関節が挙げられる
- これらの関節に荷重量を増大させることで、横方向に跨ぐ筋の筋活動が増大し、関節を安定化させることができる
2.腹筋群による胸郭制御に対するアプローチ
①内腹斜筋による下部腹直筋の安定化
- 立位にて骨盤を前方に移動させる
- その状態から元の立位の状態に戻させる
- この時、体幹を屈曲させて元の状態に戻すが、内腹斜筋の筋活動を増大させながら腹直筋が求心性収縮することで元の状態に戻すことができる
- 内腹斜筋と腹直筋を触診し、筋緊張が増加することを確認する
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② 外腹斜筋による上部腹直筋の安定化
- 座位や立位にて両側上肢の挙上させていく
- この時、外腹斜筋の筋活動が増大する
- 物を持たせて同様の動作を行わせることで外腹斜筋と腹直筋の筋緊張が増大することを確認する
- 外腹斜筋の働きで腹直筋鞘を側方に引っ張ることで、上部腹直筋を安定させることができる
- これにより、腹直筋による胸郭の伸展方向の制御が可能になる
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③腹横筋による腹直筋の安定化
- 立位にて骨盤を前方に移動させながら同時に上肢も挙上させる
- その状態から元の状態に戻させる
- 内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋の筋緊張が増大するが、側腹部においても強い筋緊張の増加が確認できる
3.胸郭と肩甲骨の安定化に対するアプローチ
①胸郭上での肩甲骨安定化に対するアプローチ
- 肩関節屈曲では、三角筋前部線維による肩甲骨と上腕骨の連結が生じ、矢状面では肩甲骨の前傾モーメントを生じることになる
- 僧帽筋上部線維は肩甲骨の内側下部を覆っていることから、肩甲骨の前傾モーメントを制御し、安定させる機能面を有している
- 肩関節外転運動では、三角筋中部線維による肩甲骨と上腕骨の連結が生じ、前額面では肩甲骨の下方回旋が生ずることになる
- 僧帽筋中部線維は肩甲棘上に付着していることから僧帽筋中部線維と下部線維によって、この下方回旋を制御し、安定させることになる
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②胸郭上での肩甲骨の運動に対するアプローチ
- 肩甲骨は内側縁において前鋸筋と菱形筋で連結している
- よって、肩甲骨内側縁を介して外転方向には前鋸筋、内転方向には菱形筋において制御されている
- 肩甲骨が上方回旋する時、前鋸筋の求心性収縮が必要になるが、このとき反対の作用を持つ菱形筋は伸張しなければならず、両者がそのような関係にあるとき、肩甲骨の上方回旋が可能になる
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③上肢運動時の体幹安定化に対するアプローチ
- 前鋸筋の起始部が肋骨外側面であることから、前鋸筋の求心性収縮のみ生じた場合、肋骨外側面を肩甲骨内側縁に引きつける力が生じ、結果として反対側への体幹回旋が生じてしまう
- よって、肩甲骨上方回旋するために前鋸筋が求心性収縮する際、体幹が反対側に回旋しないよう同側外腹斜筋の等尺性収縮が必要になる
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)