腸脛靭帯炎 発生機序・整形外科的評価・ファンクショナルテスト・動作分析
腸脛靭帯炎とは
- 腸脛靭帯炎は膝関節側面に生じる最も一般的な障害である
- 腸脛靭帯炎は、走り始めでなく、ランニングおよびサイクリングの距離の増加とともに出現し、膝関節屈伸時に膝関節外側に刺すような痛みが生じる
- 局所所見として、大腿骨外側上顆顆上の腸脛靭帯に圧痛、軽度の腫脹、屈伸に伴う轢音が認められる
- 性別の発症率は、男性が女性の2~9倍であった
腸脛靭帯の解剖学
『腸脛靭帯』について復習したい方はこちら
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腸脛靭帯炎の発生機序
- 腸脛靭帯は、膝関節伸展時に大腿骨外側上顆の前方に位置しており、膝関節の屈曲に伴い後方に移動し、大腿骨外側上顆を乗り越える
- この時の膝関節屈曲角度は20~30°である
- この乗り越えの際に腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との間に摩擦が頻発することで腸脛靭帯炎が発症する
- 腸脛靭帯炎を有する患者のMRIについて、腸脛靭帯には炎症所見を認めず、腸脛靭帯の深部に存在する脂肪組織に高信号所見を認めた
- これは、腸脛靭帯の下部にある脂肪組織が腸脛靭帯炎に関連することを示唆している
腸脛靭帯炎の発生要因
- 発生要因については次の3つがある
- 個体要因
- 環境要因
- トレーニング要因
- 3つの要因の背景には、絶対要因として、重力、重心移動、移動方向が関わってくることを考慮しなければならない
①個体要因
- 腸脛靭帯や大腿筋膜張筋の固さ
- 膝関節内反
- 距骨下関節過回外
- 股関節外転筋の筋力低下
②環境要因
- 未舗装の路面
- アスファルトなどの固い路面
- 靴などの用具
③トレーニング要因
- ランニング時間の増加
- ランニング距離の延長
- 低速でのランニング
- 同方向のコーナー走
腸脛靭帯炎の評価
問診
- 疼痛の部位
- どの動きでいつ疼痛が生じるか
- スポーツの種目
- 練習時間
- 競技レベル
- どのような動作が多いのか
理学療法評価
次の3つに分ける
- 整形外科的評価
- ファンクショナルテスト
- 動作分析
①整形外科的評価
スタティックアライメントテスト
- 膝関節内反
- 距骨下関節過回外
疼痛検査
- grasping test :腸脛靭帯を外側上顆で押さえ、膝関節屈伸運動を他動的に行い、疼痛を誘発する検査
- ober test :患側下肢を上にした側臥位をとり、股関節外転・膝関節90°屈曲の状態から股関節内転を他動的に行い、大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の短縮の程度を確認する検査
徒手筋力検査
- 股関節周囲筋(特に外転筋)
関節可動域測定
- 股関節
②ファンクショナルテスト
- スクワッティングテストを用い、疼痛や機能不全の有無を確認する
- スクワッティングテストとは、検査側の下肢を半歩前に出し、足部が向く方向を変化させて荷重した状態とし、外力を加えるテストである
- このテストでダイナミックアライメントに変化を生じさせ、症状の再現を図り、問題点を推察する
- 腸脛靭帯炎の対象者は、膝が外側を向き爪先が内側を向くニーアウト・トゥイン肢位で症状が再現される
③動作分析
- 疼痛が生じるスポーツ動作を中心に行う
- 患部である膝関節に限らず、体幹や骨盤、足部などについても動作分析を行う
- 中でも、腸脛靭帯炎が生じやすいといわれるるん認ぐ動作の例を3つ紹介する
①フットストライク~ミッドサポート
- フットストライク~ミッドサポートの間に対側への骨盤の側方傾斜が生じる例
- これは、中殿筋の機能不全のため、支持側での反対側骨盤の引き上げが十分にできないことが問題となる
- 骨盤の側方傾斜は、テイクオフからフォロースルーにかけて支持側股関節の内転・内旋位を助長する
- これは、股関節殿筋群の弱化と股関節屈曲位で伸展作用に働く大内転筋の影響が考えられる
- 大殿筋が機能不全に陥ると、大内転筋による股関節伸展が優位となるため、股関節内転・内旋位での蹴り出しとなる
- それにより腸脛靭帯の硬度を高め圧迫負荷が強まる
②フォロースルー~フォワードスイング
フォロースルー~フォワードスイングの間に骨盤の回旋・前傾不足が生じる例
- 骨盤が後方に残っていると股関節内転・内旋と重心線の膝関節内側通過が予想され、ニーアウトを助長する可能性がある
- それにより腸脛靭帯に伸張ストレスが加わることが考えられる
- この動きが生じる原因として、同側の内腹斜筋、反対側の外腹斜筋の筋持久力低下や体幹・股関節の可動域制限が考えられる
③フットストライク
- フットストライクで生じる距骨下関節の過回外と、それ伴うミッドサポートでの膝関節に対する下腿内旋の例
- この現象により小趾荷重となり、ニーアウト肢位が強制されて膝関節外側部に伸張ストレスが加わる
腸脛靭帯炎の理学療法
- 急性期では、抗炎症薬や鎮痛剤は一定の効果がある
- 初期治療のあと、整形外科的評価から得られた関節可動域制限、マルアライメント、筋力低下などの問題点に対して、改善を図っていく
- 問題点が解決したあと、実際に疼痛が出現するスポーツ動作を想定したトレーニングや、荷重位でのダイナミックアライメントの修正を行う必要がある
参考文献
腸脛靭帯炎の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 尾崎勝博)