発育発達期の身体的特徴 身長・骨格・体重・スキャモンの発育曲線・神経系・筋コントロール・エネルギー代謝量・最大酸素摂取量
発育発達期の身体的特徴
1.身長の発育
- 発育とは、身長や体重、姿勢などの身体の形態的な変化を指す
- 身長の発育速度は、生まれてから成人(発育速度が1㎝/年 以下)になるまで、2回の急進期がある
- 第1の発育急進期は誕生から乳幼児までで、第2は小学校高学年から中学校期の第2次性徴期にみられる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- この第2の急進期は、身長発育速度ピーク年齢(PHV年齢)と呼ばれ、その量は年間平均で男子約7.4㎝、女子約6.7㎝となる
- 子の発育のスパートは、その後の成人期の伸張と高い相関があるが、その量や時期を捉えることは成長以上の早期発見につなげることもできる
- スポーツ指導者として注意すべきは、PHV年齢に性差がみられることの理解で、男子が11~13歳時、女子が9~11歳時であり、女子の方が男子よりも約2年早く発現する
- 近年の栄養を含む生活環境の変化から、男女ともにより早く成熟し、PHV年齢が早くなる傾向にあると指摘されている
- ただ、この発現年齢や量に個人差が大きいことも留意しなくてはならない
2.骨格の発育
- 骨格はジュニア期において急激に発育する
- 手根骨のX線写真による化骨状況から推定する生物学的な骨年齢は、同じ暦年齢でも男女とも3~4年の差が生じる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 骨の成長には、栄養状況や睡眠を含む生活様式のほか、運動による骨への刺激が大きく関わる
- 適切な運動は、特に横軸方向への骨の発育に影響し、骨膜下膜性骨化によりその厚みを増加させる効果がある
- 言い換えれば、この期の運動の量や質が不足することは、加齢による長軸方向への発育に留まり細長い長管骨となることで、骨折のリスクを高める可能性がある
- 骨格の発育には、運動による刺激は必要な要因となるが、一方でそれが過度になるもしくは偏ることは障害の危険度を高める
- 特に身長が急激に伸びる第2次成長期の骨端部には、成長軟骨層という比較的弱い部分があり、連続する高強度運動による刺激が加わることで様々な障害を誘発することを留意しなくてはならない
3.体重の発育
- 体重は、身長や胸囲とあわせて体格を構成し、骨格、筋肉、脂肪、内臓、血液、水分などの重量を捉え、それらの総合的な評価として用いられる
- 体重の発育は、身長に類似したパターンを示す
- 男子はPHV年齢に一致し急激に発育するが、女子ではPHV年齢より約1年遅れ、比較的緩やかに発育する傾向がある
- それぞれのピーク期の発育量は、年間平均で男子約5.7㎏、女子約4.9㎏となる
- 体重の変化には筋肉や骨の発育量が関わり、それらに対しホルモンの働きが大きな影響を及ぼす
- ホルモンは主に内分泌腺で作られ、血液などの体液を介して作用する液性の情報伝達物質である
- 筋や骨の発育や発達には、下垂体前葉からの成長ホルモンに加えて、生ホルモンの分泌が重要とされ、10歳くらいまでは男女とも同程度分泌される
- また、男性ホルモン(アンドロゲン)は、タンパク質同化作用があり、骨や骨格筋の成長を促進する
- これらは筋肉質な身体を形成するだけでなくパフォーマンス向上にも期待できる
- 一方、近年成長過程にある子供において、肥満による健康障害が増加しており、それを知る手立ての切り口として適切な肥満度の判定が求められる
4.スキャモンの発育曲線
- 発育は、身体の形態的な変化を指す
- 発達は、筋力や巧緻性などの身体の機能的な変化を指す
- ジュニア期における身体や諸機能の発育と発達は、一様でないことが明らかとなっている
- スキャモンは、主要な臓器や機関の重量を成人レベルの増加量に対する割合として経年変化を示した
- 発達の様式やタイミングはそれぞれ異なり、それらは4パターンに分類される
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 一般形には、身長などの体格、呼吸器などの臓器、筋肉、血液量などがあり、生後および中学校において顕著に増加する
- リンパ系型は、胸腺、リンパ腺などがあり、11歳時に成人の2倍近くとなり感染症への免疫力を高めることに繋がる
- 生殖型は、精巣や前立腺(男子)、卵巣や子宮(女子)などがあり、第2次性成長期以降に成人レベルまでに増加する
- 神経型は、脳、脊髄、眼球、頭部の上部などが含まれ、7歳までに成人の90%までに達する
5.神経系の発達
- ヒトはほとんど動けない状態で誕生し、歩き始めるまで姿勢や移動に関わる発達が急速におこる
- これは生後1~2年で顕著にみられ、スキャモンの発育曲線の神経型が示すように、神経系機能の急激な発達が要因としてあげられる
- 神経系の機能は、他の機能に比べて先んじて発達し、10歳時には成人レベルに近似することから、乳幼児期からの発達の特徴を理解することは、動きの獲得と習熟を考えるうえで重要となる
- 動きを形成する筋肉には神経が繋がっており、脳、脊髄などからの命令を神経線維にて伝えることで動きを発生し調整する
- 発育期、特に幼少年期の脳内の神経は、あらゆる刺激に対し随時適応的に変化し発達する
- この時期は、神経細胞や回路は過剰に作られる(神経過増殖)が、一時的であり、次第に合理的効率的な神経カロへと整えられ、余分な神経細胞や神経線維は退化し消失する
- 神経細胞の刺激による神経の過増殖と消失は、中枢神経系の一般的な発達の特徴であり、神経回路(シナプス活動)は、使われれば強化され、使わなければ退化が生じると言える
- ジュニア期は神経回路の形成が盛んであり、特に能動的に自ら発した運動が刺激となり感覚系のフィードバックを通して運動回路の強化がより促される
6.神経・筋コントロール
- 運動やスポーツにおける高度な動作や身のこなしは、乳幼児からの間隔の発達や神経・筋コントロールの向上が深く関わる
- 感覚には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、皮膚感覚といった五感の他に、姿勢や身体の移動に関わる深部感覚(位置感覚、運動感覚、振動感覚、重量感覚など)があり、運動に直接的・間接的に関わる重要な機能であり、10歳までに急速に発達する
- 多くの運動やスポーツで重要となる反応時間は、6歳から12歳にかけて短縮する
- ボールなどの重さを感じ取る重要弁別能力については9歳までの発達が著しく、この程度はボールだけでなくラケットなど他の道具を用いるスポーツのスキル習得に影響を与える
- 神経・筋コントロール能力の発達は、外部刺激への適応性が高いこの時期が好機であり、各能力の適時性にも留意する必要がある
- 動作の獲得と習熟が、反射や原始的な動きを土台として、環境に適応しながら段階的にすすむ構造が下の図である
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 1~7歳の基本的動作獲得期は、様々な動きへとつながる基本的な動作を獲得し、適応動作期はそこで得られた基礎がそれぞれの場面に適応しうる多彩な動作パターンに習熟する
- さらに熟練動作期は、それらが熟練した動作の獲得へと移行し、環境的な制限かにおいても高度なスキルを習得していく
- 神経機能の発達が著しく適応性が高い幼少年期こそ、多様な動きを経験する場の提供が重要であり、その後の生涯にわたる運動との関わり方に影響を及ぼすとも考えられる
7.筋と筋力の発達
- 身体の発育に伴う筋力の発達期は神経系と異なり、最大発達年齢(握力)について言えば、男子12.6歳、女子が10.6歳との報告がある
- 男女で異なるが、PHV年齢と照らし合わせるといずれもその約1年後と言える
- 筋力の発達は主に筋肉量の増加によるが、筋肉を構成する筋線維の本数は変わらないことから、各筋線維が肥大すること、長くなることを要因として筋力の発達が生じる
- この筋線維はその性質から2種類に大別される
- 筋線維は、その収縮速度、発揮パワーと収縮時間によって、速筋線維(FT線維)と遅筋線維(ST線維)に区別される
- 速筋線維は、収縮速度が速く発揮される筋パワーも大きいが、疲労しやすくその持続時間が短く、タイプⅡ線維や白筋とも呼ばれる
- 遅筋線維は、収縮速度が遅く発揮される筋パワーも少ないが、疲労しにくくその持続時間が長く、タイプⅠ線維や赤筋とも呼ばれる
- 瞬発力を必要とする運動では速筋線維、持続的な運動や姿勢保持には遅筋線維が働くことにより動きが成り立っている
- この2種類の筋線維の発達時期は異なり、速筋線維はPHV年齢以前では目立った発達はみられない
- 中学高校以降に急激な筋力の増加が特に男子にみられる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- これは遅筋線維の発達に加え速筋線維の発達が急激に生じたためで、この時期から素早い瞬発力を求めるような場面での運動能力の向上が見込める
8.エネルギー代謝量と最大酸素摂取量の発達
- ヒトにおいてエネルギーは、筋肉の収縮だけでなく、生きるための体温保持、筋を含む組織の維持・合成などにも利用されている
- これは運動時に必要とされるエネルギー代謝量とは異なり基礎代謝量と呼ばれる
- 基礎代謝量は体重や筋量に関係し、女子よりも男子が高く、1~2歳では700kcal/日(男子)、660kcal/日(女子)であるが、PHV年齢を過ぎるまで急激に増加する
- 男子では15~17歳で1610kcal/日で、女子では12~14歳で1410kcal/日とピークを迎えるが、体重あたりに換算すると乳児期が最も高く、約60kcal/㎏/日となっている
- 身体活動レベルが高くなるとエネルギー代謝量も高くなる
- 持続的な運動においてその強度が高まると、呼吸数とともに体内で消費される酸素量は漸増するが、その限界である最大値を最大酸素摂取量という
- これは、呼吸や循環に関わる器官の機能を評価できることから、有酸素性能力(持久力)の指標として活用されている
- 以下の図は、酸素摂取量の追跡的測定結果を、運動習慣やトレーニングの異なる群ごとに示している
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト