発育発達期の心理的特徴 幼児期・児童期・青年期・自信を育てる・才能の発達と指導・適切な褒め方と叱り方
発育発達期の心理的特徴
1.心理的特徴
(1)幼児期の特徴
- 好奇心旺盛な時期であると同時に自我が芽生え発達する時期である
- 幼児期の思考は他人の視点に立って対象を客観的にとらえることができず、自己中心性に基づいていることが特徴である
- 幼児は仲間との遊びやケンカといった相互作用をとおして社会性を身に着けていく
(2)児童期の特徴
- 児童期は平穏な成長を遂げる時期であり、論理的思考が発達し、道徳意義に目覚める時期である
- この時期に獲得される重要な知的技能の1つに、読み書きができる能力がある
- 様々な情報に接し、子供の知識はより広く、深くなっていく
- 家庭でのタテの人間関係から、学校という新しい社会の中でヨコの人間関係が中心となっていく
(3)青年期の特徴
- 青年期とは子供から大人への過渡期である
- 身体的な発達に変化があり、こうした体への関心をきっかけに、自己の内面への関心も高まり、内省的な傾向が強まる
2.心理的側面に配慮した指導
(1)子供の自信を育てる
- 自信に近い概念を心理学では『自己効力感』と呼んでいる
- 自己効力感とは、ある具体的な状況において目標とする課題に対する「できる」という見込み感のことである
- 自己効力感が高まることで課題の達成が実現しやすくなり、そして、成功体験を伴ってさらに高い目標へと挑戦しようとする感情が高まる
- バンデューラは自己効力感を生み出す要素について、以下の4つをあげている
- 達成体験:自分で実際にやってみて、直接体験してみること
- 代理体験:他人の成功や失敗の様子を観察することによって、大理性の経験をもつこと
- 言語的説得:自分にはやればできる能力があるのだということを他者から言葉で説得されたり、またはその他の方法で社会的な影響を受けること
- 情動的喚起:自分自身の有能さや、調書・欠点などを判断していくためのよりどころとなるような、生理的変化の体験を自覚すること
- 簡単にまとめると、自己効力感を生み出すためには、
①自分で実際に体験し、
②他者の成功・失敗の様子を観察し自分に置き換え、
③自分にはできる能力があることを他者に説得されながら、
④苦手だと感じていた場面でも上手くできたことを実感すること
と言える
- ここで興味深いことは、自信を生み出すためには自分自身のみでそれを作り出すのではなく、他人の行動から学んだり他者の言葉から影響を受けたりしながら、最終的に自分の肯定的な変化に気づき、自己効力感が形成されることである
(2)才能の発達と指導
- 近年の研究から才能は発達することがわかってきた
- 例えば、テニスではどのようにして選手の才能を発達・開花させるかを組織的かつ科学的に進め、世界レベルの選手を育てるために必要な3段階の育成方針となる要素が明確に定義されている
〇第1段階 “導入/基礎の段階”
- 第1段階では、ゲームに対する愛着を持ったりゲームを楽しんだりすることが特徴だが、選手の発達に極めて重要な目標を『基礎の習得』に置いている
- それはコンスタントにショットを打ったり、相手のボールを返球したりできなければ、ゲームを楽しんだり、好きになったりできないからである
- そして、発達の初期段階であっても技術面だけでなく、心理面にも習得させるべき課題が明確に示されている
- それが「自己肯定感」である
- この感情は自分に対する肯定的な評価であり、「僕はできる」といった気持ちのことである
- この感情が高まらなければ、次の段階でやる気の低下、不安の増大、自身の喪失などに結び付いてしまう
〇第2段階 “洗練/移行の段階”
- 第2段階では、基礎に磨きをかけ、専門的な技術を習得し、ポジティブで優れた選手になるためには何をすべきかを学ぶ
- そのためには正しい目標設定が不可欠だが、それは単なる夢や希望ではなく、「より具体的で挑戦できる目標」であることが重要である
- さらに、激しい練習や試合から生じるプレッシャーにうまく対処できるようストレスマネジメントや集中力を高めるスキルを身につける必要性が強調されている
〇第3段階 “世界クラスのパフォーマンスの段階”
- 第3段階では、ハイレベルな大会に出場する一方で、より専門的な技能の獲得や人格形成に多くの時間が費やされる
- この段階になるとパフォーマンスの向上は緩やかになるため、選手は絶えず自分自身にやる気を持たせ、それを維持する方法を見出さなくてはならなくなる
- そして、コート内外で気を散らすものへの対処や注意が途切れないようにする自己調整スキルの向上が求められる
- この段階でもコーチの存在は必要だが、選手は自分自身で意思決定し、これからますます複雑化する物理的・社会的環境をマネジメントできる能力を開発しなければならない
(3)適切なほめ方、𠮟り方
「ほめ育てる」指導の誤解
- 日本の子供や若者は自己肯定感が低いため、もっとほめて自信をつけさせないといけない
- このような声が1990年代に教育界にも親の間にも広まった
- しかし、そのような考え方が広まり、むしろ傷つきやすくてキレやすい若者、すぐに落ち込む若者が増えていることが指摘されている
- 人生は思い通りにならないことの連続なのだから、逆境に負けない力、落ち込むようなことがあってもすぐに立ち直る力を高めることの重要性が強調されている
- それを高めるためには、適度な挫折を繰り返し経験することが必要で、そうした負荷がかかることで、心が鍛えられていく
能力ではなく努力をほめる
- ほめることは重要だが、その使い方を間違えるとかえってマイナスを与えることがある
- 例えば、
①易しすぎる課題ができたことをほめられる、
②明確な根拠なしにほめられる、
③過剰で大げさにほめられる、
④相手に都合がよくなるようにほめられる、
このような場合にはほめられることで逆にやる気を低下させることが教育心理学の研究から証明されている
- 「頭の良さ=能力」をほめると、自分の能力の高さに対する期待を裏切りたくないという思いに縛られ、失敗を恐れて難しいことにチャレンジしにくくなる
- それに対して、「頑張り=努力」をほめると、努力する人間であるという期待を裏切りたくないという思いに駆られ、チャレンジしがいのある難しい課題に取り組もうとするモチベーションが湧いてくるわけだ
人間性でなく行動を叱る
- 次に、叱り方のポイントは、「人間性を叱らず、行動を叱る」ことにある
- 例えば、危険なラフプレイがあったとする、この行為は反則行為であるため指導者はしっかりと叱る必要がある
- けれど、行為の所在を個人の人間性や人格と結び付けることは避けるべきだ
- なぜなら、人間性や人格はすぐに変わることができないため、素直に受容できないからだ
- そこで、変化しやすい行動に着目して叱ることがポイントである
- 行動自体を叱り、同時に今後取るべき適正な行為を明確にさせる必要がある
- そして、行動を叱る背景には、選手に対する普遍的な信頼感が根本にあることが肝心なのだ
- これによって、誤った行動を変えていこうとする気持ちが強化されていく