アキレス腱断裂 受傷メカニズム・リスクファクター・診断・治癒過程・ケーラー脂肪体・怪我の予防・日頃のケア・体の使い方

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今回は、アキレス腱断裂について解説していきます。

 

野球選手ではそれほど多くありませんが、過去には前田智則選手(カープ)、西岡剛選手(ロッテ)、最近では野上亮磨選手(ジャイアンツ)がアキレス腱断裂の怪我をしています。

 

怪我をしてしまった場合、復帰まで長期間を要するうえ、復帰後のパフォーマンスが戻らないと選手生命をも左右する大怪我です。

 

アキレス腱にまつわる知識を深めケガを予防できるよう役立ててもらえると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

アキレス腱断裂の病態

アキレス腱の受傷メカニズム

  •  足関節背屈しながら、下腿三頭筋が急激に収縮した時や伸張された時が多いとされています。

 

  • 具体的には全力ダッシュで踏ん張った時や、ジャンプの着地で受傷することがあります。

 

 

リスクファクター

  • 30~40歳台でアキレス腱の退行変性がある場合、リスクが高くなります。

 

  • スポーツ選手でアキレス腱に対して繰り返されるメカニカルストレスがある場合、腱が肥厚しリスクが高くなります。

 

  • 既往歴に糖尿病・痛風・腎不全・リウマチがある、カルシウム拮抗薬・ニューロキノロン系拮抗薬・ステロイドの内服歴がある場合、受傷の頻度が多くなる傾向があります。

 

  • 男女比は、5~6:1。

 

 

 

アキレス腱断裂の診断

アキレス腱部の陥没

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好発部位

  1. アキレス腱付着部から2~6㎝上方 この部位はアキレス腱への血流部位が少ないため、損傷が起こりやすいとされています。怪我全体の70~80%に当たります。
  2. 筋腱移行部
  3. 踵骨付着部 踵骨剥離骨折を伴う場合があります。

 

 

トンプソンテスト

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  • 膝を直角に曲げた状態で腓腹筋をつまみます

 

  • 正常であれば足関節が底屈します。断裂している場合は底屈しません。

 

 

レントゲン

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  •  K:Kager's triangl アキレス腱の前縁、踵骨の上縁および足趾屈筋県の後縁で結ばれた脂肪組織で満たされている三角形の部分。

 

  • K(+):Kager's sign 陽性 シャープな輪郭が焼失し範囲が狭くなり不明瞭となる。

 

  • T:Toygar's angle 後方の皮膚表面のカーブが150°以下で異常

 

  • A:Arner's sign 陽性 アキレス腱踵骨付着部周囲は断裂した腱が踵骨より遠ざかるカーブを描き、その近位では前方へと移動し、腱と皮膚線とが平行に見えない状態。

 

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MRI

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片足ヒールレイズ

  • 断裂している場合、片足での爪先立ちができません。

 

 

アキレス腱の治癒過程

  • 約3週:繊維組織の形成

 

  • 約4~5週:瘢痕組織の再形成(リモデリング)、筋収縮に耐えうる強度の獲得

 

  • 約6~7週:見かけ上の腱癒合と腱鞘様組織の再生

 

  • 膠原組織を中心とした結合組織の増殖反応で、あくまでも瘢痕組織による治癒のため、本来の強度を取り戻すためには相当な期間が必要となります。

 

  • 陥没部の消失は、受傷後平均3週±1.3週。

 

  • 受傷後6ヶ月で左右差が残存するものが29%、8ヶ月で7%。

 

  • 断端部にアキレス腱下脂肪体や主張したパラテノンなど介在物が存在しない場合にはアキレス腱修復率は6週で平均75%、10週で85%。

 

 

 

予後として…

  1. 足関節の可動域異常が保存例に多い(受傷1年後)
  2. 腓腹筋の萎縮が保存例に多い(1年後)
  3. 最終筋力は健側の89%(手術群、保存群ともに)
  4. 走行異常が保存例に多い

 

 

 

アキレス腱の解剖学

  • 腓腹筋とヒラメ筋の合同腱

 

  • 腱鞘はなく、パラテノン(アキレス腱周囲膜)で覆われる

 

  • Kager's fat pad(ケーラー脂肪体)がアキレス腱へ血液供給を行う

 

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ケーラー脂肪体の解剖学

部位

  1. アキレス腱深部
  2. 長母指屈筋の表層
  3. 踵骨近位部の隙間

 

 

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役割

  • アキレス腱、長母指屈筋の滑走性維持

 

  • アキレス腱下、アキレス腱付着部の圧縮力軽減

 

  • 後踵骨滑液包の摩擦軽減と内圧調整

 

  • 後脛骨動静脈と脛骨神経の保護

 

 

 

脂肪体が硬くなる原因

  • 足関節捻挫

 

  • 外傷後のギプス固定

 

  • アキレス腱炎

 

 

 

硬くなることで生じる影響

  • アキレス腱、下腿三頭筋、長母指屈筋の滑走性低下

 

  • アキレス腱付着部へのストレス増大

 

  • アキレス腱の痛み

 

  • 後踵骨滑液包の炎症

 

 

 

怪我の予防

  • アキレス腱断裂は、トレーニングによるメカニカルストレスが繰り返されることで腱が肥厚し、その状態に瞬間的な力が加わることで発症します

 

  • 怪我を予防するためには2つのポイントがあります。

 

 

 

日頃のケア

  • アキレス腱や脂肪体、アキレス腱と連結している腓腹筋・ヒラメ筋、その周囲の腓骨筋や後脛骨筋の柔軟性を保つことが重要になります

 

  • トレーニングをして体が疲労することで筋肉や腱は柔軟性を失います

 

  • 何も対処せず放置してしまうと、その硬さはどんどん強くなってしまう可能性があります

 

  • 練習後、特にアキレス腱やふくらはぎに疲労感や違和感を感じるのであれば、ケアが必要です

 

  • 温めたりストレッチ・マッサージなどを行い、柔軟性の改善に努めましょう。

 

 

 

アキレス腱に負荷をかけ過ぎない体の使い方

  • トレーニング後、アキレス腱やふくらはぎに疲労感や違和感を感じる頻度が多い選手は、体の使い方を工夫する余地があります

 

  • 動作の中で、腓腹筋やヒラメ筋を酷使している使い方になっています

 

  • 逆に、ハムストリングスや大殿筋を使えていない状態だと思われます

 

  • ハムストリングや大殿筋の筋力はありますか?股関節の柔軟性はありますか?

 

  • 体全体の筋肉をバランスよく使えるようになることで、1ヵ所に負担がかかることが少なくなります。