筋力トレーニングの基礎知識⑥ 心理的な要因 筋力と心理的要因の関係・生理的限界と心理的限界・かけ声
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋肉はついてきたけど、そこから先がなかなか筋力がついてこない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要素
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、『6.心理的な要因』について解説していきます。
筋力と心理的要因の関係
筋力は心理的な影響により最大随意収縮より20~30%強くなることがわかっています。
具体的には、筋力の向上、筋パワーの向上、反応時間の短縮、運動パフォーマンスの向上などに変化が表れます。
では、なぜ心理的な要因が筋力に影響を与えるのか考えていきましょう。
生理的限界と心理的限界
筋力には、生理的限界と心理的限界があります。
生理的限界とは、『解剖学的構造とこれに由来する生理的条件に規定される能力』のことをいいます。
わかりやすくいうと、肉体の限界能力を表しています。
心理的限界とは、『大脳皮質や中枢神経系の興奮水準の程度による心理適条件に規定される能力』のことをいいます。
最大努力で筋力を発揮したつもりでも、常に予備力を残している状態です。
常に肉体の限界能力で筋力を発揮していると、ケガのリスクが非常に高まります。
そういう理由もあり、普段では筋力にリミッターがかかった状態になっています。
しかし、時には普段以上の力が出てほしい場面があります。
スポーツで例えると、ここ一番での勝負所や、窮地に追い込まれた時などです。
ここぞという場面で筋力を最大限に発揮するためには、どうしたらいいのでしょうか?
自発的なかけ声
答えは、『かけ声』です。
スポーツ選手のかけ声で印象的なのは、陸上の室伏広治選手や、テニスのマリア・シャラポア選手ですね。
室伏選手は、ハンマーを投げ終わった後に叫ぶ姿が印象的です。
【陸上】スポーツマンなら知らなきゃ損なシャウト効果【空耳】投擲種目の叫び声集
シャラポア選手は、ストロークするごとに声を出すプレーが印象的です。
ただ、叫び声が大き過ぎて、対戦相手からクレームを出されたこともありますが…(笑)
【速報】全豪オープン セリーナ・ウィリアムズ vsシャラポワに勝利 2016
かけ声により筋力が強くなる理由
かけ声によって筋力が強くなるメカニズムは、大脳内に生じた旧皮質の賦活作用が、間接的に大脳皮質の興奮性を高め、大脳に生じた内制止を制止すること、つまり脱制止することで心理的限界から一時的に生理的限界へ高められるとしています。
自発的なかけ声を伴う筋力発揮は、中枢神経系を興奮させ、主動作筋および共同筋の運動ニューロンの動員数が増加し、最大随意筋力を増大させます。
具体的にどれぐらい能力が変化するのか、例をあげていきます。
瞬発力を必要とするパワー系のスポーツにおいて、無発声に対しシャウトでは…
筋パワー 14.6%アップ
最大筋収縮速度 9%アップ
さらには、通常時よりも、疲労している時の方が、シャウトの効果が優位に大きくなることがわかっています。
約2秒に1回の割合で50回全力でシャウトなしの握力を、51回目にシャウトありの握力を測定しました。その結果…
シャウトにより、51回目の握力は優位に向上しました。
引用:http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hue/file/12429/20190819101435/kenkyu2019420103.pdf
疲労には、中枢神経系の要因が関与し、筋力発揮の継続によって生じうる障害などを防ぐために、筋力発揮にかかわる中枢からの運動指令の出力が非随意的に抑制されている可能性があると考えられています。
このように、疲労に伴う筋の発揮力の低下は、末梢性疲労のみならず、中枢性疲労が関与していると考えられ、通常時と同じメカニズムでシャウトにより筋力は増加すると考えられます。
まとめ
・筋力は、心理的な影響により、最大随意収縮より20~30%強くなる
・筋力には、生理的限界と心理的限界がある
・自発的なかけ声を伴う筋力発揮は、中枢神経系を興奮させ、主動作筋および共同筋の
運動ニューロンの動員数が増加し、最大随意筋力を増大させる
・疲労している時の方が、シャウトの効果が優位に大きくなる
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識 -筋力に影響する要因と筋力増強のメカニズム-
(京都大学医療技術短期大学紀要別冊 健康人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーニングについて
(運動生理 1994 9:131-138 幸田利敬)
シャウトによる筋力増強効果 -疲労時の有無に着目して-
(広島経済大学研究論集 第42巻第1号 柳川和優・磨井祥夫)
筋力トレーニングの基礎知識⑤ 関節の角度 筋力と関節角度の関係
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋肉はついてきたけど、そこから先が筋力が強くならない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要素
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、『5.関節の角度』について解説していきます。
筋力と関節の角度の関係
今までは、筋肉や神経系など解剖学的な面から筋力を解説してきました。
今回は、骨や関節など運動学的な面にも目を向けていきます。
例えば…
股関節が屈曲する時、作用する筋肉は、腸腰筋・大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋・内転筋群・中殿筋前部があります。
また、屈曲筋が働く可動域は110°(屈曲90°~伸展20°の合計)あります。
それぞれの筋は、どの角度でどれくらい筋力を発揮するかわかりますか?
関節角度が変化することで、筋の作用線と関節中心の位置関係も変化し、モーメントアームが変化していきます。
それにより、筋の作用が変化し、極端な場合は作用が逆転する場合もあります。
例えば…
内転筋群は伸展位では屈曲トルクを発揮しますが屈曲位では伸展トルクを発揮します。
また、関節角度の変化により、筋繊維長も変化することで、筋力も変化します。
筋繊維長は至適筋長に近いほど1番強い力を発揮します。
逆に、筋長が短すぎる、もしくは、長すぎると筋力が弱くなります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=3
股関節屈曲筋と発揮トルク
主動作筋:腸腰筋 補助筋:大腿直筋
縫工筋
大腿筋膜張筋
内転筋群
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=4
腸腰筋は、全可動域で1番強い屈曲トルクを発揮していています。
大腿直筋は、屈曲約20°でピークに達しその前後の可動域では弱くなります。
股関節伸展筋と発揮トルク
主動作筋:大殿筋 補助筋:ハムストリングス
大内転筋
中殿筋
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=4
伸展位では、大殿筋下部が1番強い筋力を発揮しています。
ハムストリングス(特に内側)は、屈曲位で強い筋力を発揮しています。
さらに、屈曲角度が大きくなるほど、筋力も強くなります。
股関節内転筋と発揮トルク
主動作筋:大内転筋 補助筋:恥骨筋
短内転筋 薄筋
長内転筋 外閉鎖筋
大殿筋
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=4
長内転筋は、伸展位・屈曲位ともに屈曲トルクを発揮しています。
大内転筋後部は、屈曲位では1番強い伸展トルクを、伸展位でも1番強い屈曲トルクを発揮し、相反する作用を持ち合わせています。
その他の内転筋群は、同じような傾向になっています。
股関節外転筋と発揮トルク
主動作筋:中殿筋 補助筋:小殿筋
大腿筋膜張筋
縫工筋
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=5
中殿筋後部は、屈曲・伸展可動域ともに唯一伸展トルクを発揮しています。
他の筋は、同じような程度で屈曲トルクを発揮していますが、大腿筋膜張筋が屈曲約35°で1番強くなっています。
全屈曲トルクと全伸展トルク
屈曲、伸展、内転、外転筋それぞれの屈曲・伸展トルクを合わせたものが下の図になります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/38/2/38_KJ00007176631/_pdf/-char/ja#page=5
屈曲トルクは約20°前後で最大の力を発揮しています。
伸展トルクは屈曲角度が強くなればなるほど力が強くなっています。
まとめ
・関節角度が変化することで、筋の作用線と関節中心の位置関係も変化し、モーメント
アームが変化する
・筋繊維は至適筋長に近いほど、1番強い力を発揮する
・屈曲トルクは、約20°前後で最大の力を発揮している
・伸展トルクは、屈曲角度が強くなればなるほど力が強くなる
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識 -筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム-
(京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 県人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーニングについて
(運動生理 1994 9:131‐138 幸田利敬)
関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮筋力の変化 -数学的モデルを用いた解析-
(理学療法学 第38巻第2号 97~104項 2011年 小栢進也ら)
筋力トレーニングの基礎知識④ 筋線維の解剖学的な要因 平行筋と羽状筋・力学的特徴・筋線維長と筋線維数・生理学的断面積と解剖学的断面積
4
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋肉はついてきたんだけど、そこから先が筋力が強くならない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要素
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、『4.筋繊維の解剖学的な要因』について解説していきます。
筋力と筋繊維の解剖学的な要因の関係
結論から言うと…
羽状筋は筋力が強く、平行筋は筋力が弱い、ということです。
平行筋と羽状筋
まずは筋繊維の解剖学的な特徴を説明していきます。
筋構築についてです。
筋構築とは、『力の作用軸に対する筋繊維の配列』として定義されています。
その配列より、2つに分類されます。
①平行筋
- 力の作用軸と筋繊維の走行が平行
- 屈筋に多い
②羽状筋
- 力の作用軸と筋繊維の走行が異なる
- 伸筋に多い
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/1/18_1_49/_pdf/-char/en#page=4
力学的特徴
次に力学的な特徴についてみていきます。
平行筋は、力の作用軸と筋繊維走行が一緒のため、筋力が全て腱に伝わります。
羽状筋は、筋力が全て腱に伝わるわけでなく、その一部のみが伝わります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/1/18_1_49/_pdf/-char/en#page=4
力の作用軸と筋繊維の走行のなす角度(羽状角)が30°だったとします。
その場合、cos30°≒0.86 のため、筋力の86%が腱に伝わります。
残りの14%はエネルギーロスしていることになりますね…。
では、ロスしているにも関わらず、羽状筋の方が筋力が強いのはなぜでしょう?
筋線維長と筋線維数
体積と長さの同じ筋肉を比較した場合、
平行筋では、筋繊維長が長く、筋繊維数が少なくなります。
羽状筋では、筋繊維長が短く、筋繊維数が多くなります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/18/1/18_1_49/_pdf/-char/en#page=4
筋繊維の中にある筋節に注目していきます。
1個の筋節がエンジンだと思ってください。
引用:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/49548/1/9_33.pdf#page=4
平行筋の場合、エンジンが直列に連結されているため、結果的に1個のエンジンの力と変わりません。
羽状筋の場合、エンジンが並列に連結されているため、個々のエンジンの力が加算され、1個のエンジンの力よりも大きくなります。
引用:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/49548/1/9_33.pdf#page=4
そのため、羽状筋の方が筋力が強くなります。
次に、筋肉が収縮する速度で考えてみます。
平行筋では筋節が全て直列に配列しているため、全体の短縮量が加算され、速い速度で筋肉を縮めることに優れています。
生理学的断面積と解剖学的断面積
羽状筋は平行筋と比べ、生理学的断面積が大きくなるため、筋力も強くなります。
生理学的断面積(Physiologic Cross Sectional Area 以下、PCSA)とは、
『1つの筋肉に存在する全ても筋繊維の断面積の総和』のことをいいます。
PCSAは機能的な断面積であり、筋出力と比例するといわれています。
また、解剖学的断面積(Anatomical Cross Sectional Area 以下、ACSA)とは、
『力の作用軸に対して垂直な断面積』のことをいいます。
引用:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/49548/1/9_33.pdf#page=3
平行筋では、PCSA = ACSA となりますが、
羽状筋では、PCSA > ACSA となります。
以下の図は、下肢筋のPCSAと筋繊維を表しています。
引用:https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/49548/1/9_33.pdf#page=5
大腿四頭筋は、PCSAが大きく、筋力に優れた筋肉ですね。
逆に、縫工筋や薄筋は収縮速度に優れた筋肉ですね。
ということは、トレーニングでは、
平行筋は、低重量・高回数で、
羽状筋は、高重量・低回数で行うことが、
筋肉の特徴を最大限に生かすことができます。
まとめ
・平行筋は収縮速度に優れた筋肉である
・羽状筋は筋力に優れた筋肉である
・トレーニングでは、平行筋は低重量・高回数で、羽状筋は高重量・低回数で行うと
効率が良い
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識-筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム-
(京都大学医療技術短期大学紀要別冊 健康人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーニングについて
(運動生理 1994 9:131‐138 幸田利敬)
骨格筋の構造
(理学療法科学 18(1):49‐53,2003 斎藤明彦)
筋力トレーニングの基礎知識③ 筋線維の組成 遅筋線維・速筋線維・運動強度とエネルギー回路・運動強度と栄養素・筋肉を動かすエネルギー
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋肉はついてきたんだけど、そこから先が筋力が強くならない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要素
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、『3.筋繊維の組成』について解説していきます。
筋力と筋繊維の組成の関係
速筋繊維は、強い筋力と速い収縮速度を兼ね備えています。
遅筋繊維は、ある一定の筋力を長時間持続して発揮することができます。
まずは、筋繊維の組成の特徴から種類分けをしていきましょう。
筋肉は筋繊維の単収縮の性質と、代謝の相違によって大まかに3つに分類することができます。
①Type Ⅰ
遅筋繊維(Slow twitch oxidative fiber、以下S型)
②Type Ⅱa
速筋繊維(Fast twitch Oxidative Glycolytic fiber、以下FOG型)
③Type Ⅱb
速筋繊維(Fast twitch Glycolytic fiber、以下FG型)
筋線維の分類と特徴
それぞれの特徴を以下にまとめます。
Type Ⅰ(S型)
|
Type Ⅱa(FOG型)
|
Type Ⅱb(FG型)
|
|
収縮速度 | 遅 | 速 | 速 |
疲労 | 遅 | 中間 | 速 |
筋張力 | 小さい | 中間 | 大きい |
筋繊維径 | 小さい | 中間 | 大きい |
色調 | 赤 | 赤 | 白 |
ミトコンドリア量 | 多 | 多 | 少 |
ミオグロビン量 | 高 | 高 | 低 |
グリコーゲン含有量 | 低 | 中間 | 高 |
解糖系酵素活性 | 低 | 中間 | 高 |
毛細管 | 密 | 密 | 粗 |
ATP供給 | 酸化的リン酸化 | 酸化的リン酸化 | 解糖 |
ミオシンATPase活性 | 低 | 高 | 高 |
活動参加順序 | 1 | 2 | 3 |
速筋繊維の中でもType Ⅱbはグリコーゲン含有量が多く、解糖系酵素活性が高いため、瞬発的に大きな筋力を出すことに長けています。
遅筋繊維はミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化によりATPを供給するため、中等度の負荷で持久的な運動に長けています。
では、それらの代謝の違いは、どのように筋力に影響するのでしょうか?
筋力を動かすエネルギー
筋肉を動かすためにはエネルギーが必要です。
そのエネルギーの元となるものは、『ATP(アデノシン三リン酸)』です。ATPを分解する過程でできるエネルギーを利用します。
ATP + H₂O + = ADP + H₃PO₄ + エネルギー
ADP(アデノシン二リン酸)を更に分解することで再びエネルギーを得ることができます。
ADP + H₂O + = AMP + H₃PO₄ + エネルギー
では、エネルギーの元となるものは体内にどのくらい蓄えられているのでしょうか?
エネルギーを熱量として換算すると、体内には、約180,000kcalのエネルギーが蓄えられています。
蓄えられているエネルギーを栄養素で分類すると、脂質77%、蛋白質22%、糖質1%、になります。
運動強度と栄養素
運動強度により、使われる栄養素が変化していきます。
弱い運動強度では、多くは脂質を利用します。
中等度からやや強い運動強度では、主に糖質を利用します。
強い運動強度では、ほぼ糖質だけになります。
糖質はすぐに分解されるため、エネルギーになる効率が速いです。
一方で、蛋白質は体を作ることが主な役割のため、エネルギーになる効率が遅いです。
脂質は糖質ほどエネルギーになる効率が速いわけではありません。
よって、すぐさま多くのエネルギーを必要とする強い運動強度では、糖質が利用されますよね。
弱い運動強度では、脂質を利用するのが向いているということですね。
この特徴より、グリコーゲン(糖質が体内で合成されたもの)含有量が多い速筋繊維は、強度の強い運動に向いているということですね。
次に、運動強度によってエネルギー回路がどのように変わるのかを解説していきます。
運動強度とエネルギー回路
運動強度によって、適切なエネルギー回路が使われる仕組みになっています。
嫌気的条件下では、解糖系が使われ、好気的条件下では、クエン酸回路・電子伝達系が使われます。
ちなみに、嫌気的条件下は、酸素がない状態のことで、運動強度の強い『無酸素運動』のことをいいます。
好気的条件下とは、酸素がある状態のことで、運動強度の緩やかな『有酸素運動』のことをいいます。
解糖系の特徴
- 原料は糖質
- 代謝開始が速い
- 副産物は乳酸
- 代謝の場所は細胞質基質
クエン酸回路・電子伝達系の特徴
- 原料は脂質・ピルビン酸(糖代謝物)
- 代謝開始が遅い
- 副産物は水素
- 代謝の場所はミトコンドリア内
引用:https://sgs.liranet.jp/download/pdf/sample/text_kisoeiyougaku.pdf#page=1
以上より、解糖系酵素活性が高い速筋は、強い筋力を出すことができます。
また、ミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化(水素イオンの濃度勾配を利用し、ADPをリン酸に結合させATPを生成すること)によりATP供給を行う遅筋は、中等度の負荷で持久的な運動に向いているということになります。
まとめ
・速筋は、力強い筋力と速い収縮速度を兼ね備えている
・遅筋は、一定の筋力を長時間持続して発揮することができる
・速筋は、グリコーゲン含有量が多く、解糖系酵素活性が強い
・遅筋は、ミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化によりATPを供給する
・弱い運動強度では脂質を、強い運動強度では糖質を利用する
・弱い運動強度ではクエン酸回路・電子伝達系が使われ、強い運動強度では解糖系が使われる
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識 -筋力に影響する要因と筋力増強のメカニズム- (京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 健康人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーニングについて (運動生理 1994 9:131‐138 幸田利敬)
基礎運動学 (医歯薬出版株式会社 2003 200‐201項 中村隆一)
筋力トレーニングの基礎知識② 神経系の要因 リクルートメント・レートコーディング・シンクロナイゼーション
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋力はついてきたけど、そこから先が筋力が強くならない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要因
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
-
筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、「2.神経系の要因」について解説していきます。
筋力と神経系の要因の関係
筋力トレーニングをするとなぜ筋力が強くなるのか?
それには、『神経系』と『筋肥大』の二つが関係しています。
引用:http://www.ipec-pub.co.jp/ipec/pdf/spts-rin-sample.pdf#page=23
筋力トレーニングを始めてから、筋力が強くなるまでを時系列で表すと…
引用:https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00011372.pdf#page=1
トレーニングを開始して20週目までは主に神経系の要因により、
さらに、10週目以降は筋肥大の要因も加わり、筋力が強くなります。
神経系の要因は20週目以降では頭打ちになりますが、逆に言えば、
何かしらトレーニングをすれば20週目までは必ず筋力は強くなる、
ということですね。
それ以降で筋力を強くできるかどうかは、どれだけ筋肥大を起こせるか
にかかっているということですね。
では、神経系の要因とは具体的にどういうことでしょうか?
リクルートメント
リクルートメントについて解説していきます。
リクルートメントとは、
『動員する運動単位の種類と総数による調節』のことです。
まずは、言葉の説明から。
運動単位とは、
『1個の運動ニューロンとそれに支配される筋繊維群』の
ことです。
1個の運動ニューロンが支配する筋繊維は約20~1000本といわれています。
手など滑らかな動きが要求される筋肉は支配される神経の数が多くなります。
下肢・体幹など力強さを要求される筋肉は支配される神経の数が少ないです。
筋 | 筋繊維数 | 運動単位数 | 運動単位当り筋繊維数 |
広頚筋 | 27,100 | 1,096 | 25 |
第一背側骨間筋 | 40,500 | 119 | 340 |
第一虫様筋 | 10,038 | 93 | 108 |
前脛骨筋 | 250,200 | 445 | 562 |
腓腹筋(内側) | 11,200,000 | 579 | 19343 |
引用: https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00011372.pdf#page=1
また、運動単位にはいくつかの種類があります。
引用:http://www.ipec-pub.co.jp/ipec/pdf/spts-rin-sample.pdf#page=4
レートコーディング
シンクロナイゼーション
まとめ
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識① 筋断面積 筋断面積と筋力の関係・筋肉の体積・
筋力を決定する要素
筋力を決める要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、「1.筋断面積」 について解説していきます。
筋断面積と筋力の関係
筋断面積と筋力は高い相関を示す研究が数多くあります。
引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/12/3/12_KJ00000971268/_pdf#page=1
すなわち、大きい筋肉ほど筋力も強いということですね。
それでは、筋肉が大きくなる仕組みはどのようになっているのでしょうか?
大きい筋肉とは
筋肉の大きさは筋原線維数 × 筋繊維断面積で表すことができます。
繊維の数が多く、繊維1本当たりの面積が大きければ、大きい筋肉ということですね。
引用:https://changebodycomposition.blogspot.com/2019/09/blog-post.html
トレーニングにより、筋原線維は最大で直径1.1μmまで太くなります。
引用:
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00011372.pdf#page=1
そして、ある一定の太さを超えると繊維は分裂して、数が増えると考えられています!
引用:
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00011372.pdf#page=1
分裂の機序として、アクチンフィラメントがZ膜に対して、90度の角度で、斜め方向に強い張力が加わることでZ膜を引き裂き、分裂を起こすとされています。
そのため、ずっと同じ負荷でのトレーニングでは、筋力はそれ以上強くなる可能性が低くなります。
強い負荷をかけていくことが筋肉を大きくしていくポイントになります。
また、大きな筋肉にターゲットを絞ることで、さらなる筋力アップにつなげることができますね。
では、からだの中で1番大きな筋肉はどれかわかりますか?
大きい筋肉ランキング
1位 大腿四頭筋 1900㎤
2位 下腿三頭筋 900㎤
3位 ハムストリングス 880㎤
4位 大殿筋 860㎤
5位 三角筋 800㎤
6位 大胸筋 680㎤
7位 上腕三頭筋 620㎤
8位 広背筋 550㎤
9位 僧帽筋 460㎤
10位 上腕二頭筋 370㎤
11位 腹直筋 170㎤
下肢の役割は体重を支えることなので、体積が多くなるのも納得ですね。
逆に、上肢の役割は物を操作するなど繊細に動くことなので、下肢と比べて体積が大きい必要はありません。
個人的に意外なのは下腿三頭筋の体積がハムストリングスや大殿筋よりも大きいこと。
見た目はお尻の筋肉の方が大きく見えますが…また、三角筋や上腕三頭筋の体積が、背中の筋肉より大きいこと。
ここで大事なことは、体積に見合った筋力がしっかり出せているかどうか。
体積と筋力のバランスが崩れていると、それが姿勢の崩れや動作のアンバランスにつながり、結果としてパフォーマンスの低下や痛みの原因になる可能性があります。
まとめ
・筋断面積と筋力は高い相関があり、大きい筋肉ほど筋力が強い
・筋肉に強い負荷を加えることで筋原線維が太くなり、分裂を引き起こし、
筋肉が大きくなる
・からだの中で1番大きな筋肉は大腿四頭筋
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識 -筋力に影響する要因と筋力増加のメカニズム- (京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 健康人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーイングについて (運動生理 1994 9:131-138 幸田利敬)
トレーニングと筋の肥大を考えよう (体育学研究室 松永智)