筋力トレーニングの基礎知識③ 筋線維の組成 遅筋線維・速筋線維・運動強度とエネルギー回路・運動強度と栄養素・筋肉を動かすエネルギー
『筋トレをしているんだけど、なかなか筋力がついてこない…』
『ある程度の筋肉はついてきたんだけど、そこから先が筋力が強くならない…』
ってことありませんか?
そこで、今回は筋力をつけるためのヒントを紹介していきます!
筋力を決定する要素
筋力を決定する要素には以下の6つがあります。
- 筋断面積
- 神経系の要因
- 筋繊維の組成
- 筋繊維の解剖学的な要因
- 関節の角度
- 心理的な要因
今回は、『3.筋繊維の組成』について解説していきます。
筋力と筋繊維の組成の関係
速筋繊維は、強い筋力と速い収縮速度を兼ね備えています。
遅筋繊維は、ある一定の筋力を長時間持続して発揮することができます。
まずは、筋繊維の組成の特徴から種類分けをしていきましょう。
筋肉は筋繊維の単収縮の性質と、代謝の相違によって大まかに3つに分類することができます。
①Type Ⅰ
遅筋繊維(Slow twitch oxidative fiber、以下S型)
②Type Ⅱa
速筋繊維(Fast twitch Oxidative Glycolytic fiber、以下FOG型)
③Type Ⅱb
速筋繊維(Fast twitch Glycolytic fiber、以下FG型)
筋線維の分類と特徴
それぞれの特徴を以下にまとめます。
Type Ⅰ(S型)
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Type Ⅱa(FOG型)
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Type Ⅱb(FG型)
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収縮速度 | 遅 | 速 | 速 |
疲労 | 遅 | 中間 | 速 |
筋張力 | 小さい | 中間 | 大きい |
筋繊維径 | 小さい | 中間 | 大きい |
色調 | 赤 | 赤 | 白 |
ミトコンドリア量 | 多 | 多 | 少 |
ミオグロビン量 | 高 | 高 | 低 |
グリコーゲン含有量 | 低 | 中間 | 高 |
解糖系酵素活性 | 低 | 中間 | 高 |
毛細管 | 密 | 密 | 粗 |
ATP供給 | 酸化的リン酸化 | 酸化的リン酸化 | 解糖 |
ミオシンATPase活性 | 低 | 高 | 高 |
活動参加順序 | 1 | 2 | 3 |
速筋繊維の中でもType Ⅱbはグリコーゲン含有量が多く、解糖系酵素活性が高いため、瞬発的に大きな筋力を出すことに長けています。
遅筋繊維はミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化によりATPを供給するため、中等度の負荷で持久的な運動に長けています。
では、それらの代謝の違いは、どのように筋力に影響するのでしょうか?
筋力を動かすエネルギー
筋肉を動かすためにはエネルギーが必要です。
そのエネルギーの元となるものは、『ATP(アデノシン三リン酸)』です。ATPを分解する過程でできるエネルギーを利用します。
ATP + H₂O + = ADP + H₃PO₄ + エネルギー
ADP(アデノシン二リン酸)を更に分解することで再びエネルギーを得ることができます。
ADP + H₂O + = AMP + H₃PO₄ + エネルギー
では、エネルギーの元となるものは体内にどのくらい蓄えられているのでしょうか?
エネルギーを熱量として換算すると、体内には、約180,000kcalのエネルギーが蓄えられています。
蓄えられているエネルギーを栄養素で分類すると、脂質77%、蛋白質22%、糖質1%、になります。
運動強度と栄養素
運動強度により、使われる栄養素が変化していきます。
弱い運動強度では、多くは脂質を利用します。
中等度からやや強い運動強度では、主に糖質を利用します。
強い運動強度では、ほぼ糖質だけになります。
糖質はすぐに分解されるため、エネルギーになる効率が速いです。
一方で、蛋白質は体を作ることが主な役割のため、エネルギーになる効率が遅いです。
脂質は糖質ほどエネルギーになる効率が速いわけではありません。
よって、すぐさま多くのエネルギーを必要とする強い運動強度では、糖質が利用されますよね。
弱い運動強度では、脂質を利用するのが向いているということですね。
この特徴より、グリコーゲン(糖質が体内で合成されたもの)含有量が多い速筋繊維は、強度の強い運動に向いているということですね。
次に、運動強度によってエネルギー回路がどのように変わるのかを解説していきます。
運動強度とエネルギー回路
運動強度によって、適切なエネルギー回路が使われる仕組みになっています。
嫌気的条件下では、解糖系が使われ、好気的条件下では、クエン酸回路・電子伝達系が使われます。
ちなみに、嫌気的条件下は、酸素がない状態のことで、運動強度の強い『無酸素運動』のことをいいます。
好気的条件下とは、酸素がある状態のことで、運動強度の緩やかな『有酸素運動』のことをいいます。
解糖系の特徴
- 原料は糖質
- 代謝開始が速い
- 副産物は乳酸
- 代謝の場所は細胞質基質
クエン酸回路・電子伝達系の特徴
- 原料は脂質・ピルビン酸(糖代謝物)
- 代謝開始が遅い
- 副産物は水素
- 代謝の場所はミトコンドリア内
引用:https://sgs.liranet.jp/download/pdf/sample/text_kisoeiyougaku.pdf#page=1
以上より、解糖系酵素活性が高い速筋は、強い筋力を出すことができます。
また、ミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化(水素イオンの濃度勾配を利用し、ADPをリン酸に結合させATPを生成すること)によりATP供給を行う遅筋は、中等度の負荷で持久的な運動に向いているということになります。
まとめ
・速筋は、力強い筋力と速い収縮速度を兼ね備えている
・遅筋は、一定の筋力を長時間持続して発揮することができる
・速筋は、グリコーゲン含有量が多く、解糖系酵素活性が強い
・遅筋は、ミトコンドリア量が多く、酸化的リン酸化によりATPを供給する
・弱い運動強度では脂質を、強い運動強度では糖質を利用する
・弱い運動強度ではクエン酸回路・電子伝達系が使われ、強い運動強度では解糖系が使われる
参考文献
筋力トレーニングの基礎知識 -筋力に影響する要因と筋力増強のメカニズム- (京都大学医療技術短期大学部紀要別冊 健康人間学 第9号 市橋則明)
筋力トレーニングについて (運動生理 1994 9:131‐138 幸田利敬)
基礎運動学 (医歯薬出版株式会社 2003 200‐201項 中村隆一)