膝前十字靭帯損傷②

f:id:sakuraiku:20210701094258p:plain


                

 

 

 

 

 

 

前十字靭帯損傷のメカニズム

  • 近年、前十字靭帯損傷の予防に注目が集まっているが、その発生メカニズムは明らかとはなっていない

 

  • 現在は、膝関節運動と前十字靭帯負荷(張力や歪み)との関連を調べた研究や、前十字靭帯損傷の発生に関する疫学的研究により、前十字靭帯損傷の発生に影響が大きい因子については明らかになりつつある

 

  • 前十字靭帯損傷の発生メカニズムには以下の3つの因子が考えられる

 

  1. 前十字靭帯損傷の受傷リスクが高い膝関節運動が生じやすい人(個人因子)
  2. 競技特性や疲労により競技中に受傷リスクを高める因子が加わる場合(トレーニング因子や環境因子)
  3. 素早く速度が変化する動作、片脚動作、膝の軽度屈曲位など、前十字靭帯への力学的な負荷が高まる場面で、受傷リスクの高い膝の姿勢で動作を行う場合(競技スキルやパフォーマンスの因子)

 

力学的要因

  • 前十字靭帯は、脛骨の前方剪断力に加え内旋トルクや外反トルクに抗して緊張が高まり、前十字靭帯自然長からの伸び率を表す指標である歪みが大きくなる

 

  • さらに、屈曲角度が浅い肢位で膝関節に力やトルクが加わった場合、屈曲角度が深い肢位の場合より大きな歪みが生じやすい

 

  • 日常生活レベルの運動における前十字靭帯の歪みを以下に示す

f:id:sakuraiku:20210701100351p:plain

 

  • 動作の種類からみると、膝関節が伸展位に近い動作で前十字靭帯の歪みが大きく、40~50°を超えて屈曲角度が大きくなる動作では歪みは小さくなる

 

疫学的な調査から

  • 前十字靭帯損傷の発生型は、およそ70%が他者とのコンタクトを伴わない非接触型損傷によって生じ、急激な減速動作や方向転換、ジャンプ後の着地動作など、瞬間的に大きな力が加わる動作で発生する

 

  • 受傷時の特徴的な姿勢として、膝の軽度屈曲および外反姿勢、片脚での着地などが挙げられている

 

  • 前十字靭帯損傷者の多くは、受傷時だけでなく、通常の着地動作やスクワットなどの荷重動作中に膝k何背う外反角度が大きくなる傾向がみられ、外反トルクも大きな値を示す

 

  • 臨床的には、膝関節の外反運動には股関節の内旋・内転運動が関連する

 

  • 片脚の動作では、骨盤の回旋運動を伴う膝関節の内方移動や、前足部荷重時の急激な足部回内運動を伴う下腿の内方への傾斜などが膝関節外反に関連する

 

  • 動作中の外反トルク値は、疲労時、リアクションを伴う動作時、上肢の運動を伴う動作時に大きくなることがわかっている

 

前十字靭帯再建術後の影響

再建グラフトの組織学的治癒と力学的強度の経時的変化

  • 再建グラフトの用いられているのは、半腱様筋県や薄筋腱や骨付き膝蓋腱などの腱組織である

 

  • 腱組織は靭帯組織より総コラーゲン量は多いが、Ⅲ型コラーゲン線維やプロテオグリガン含有量は少ない

 

  • 本来の靭帯と組織特性が異なるグラフトは、再建術後に組織壊死に引き続き、術後3週間から血管の湿潤が開始され、線維芽細胞の増殖と成長因子の放散、Ⅲ型コラーゲン線維の賛成を導く

 

  • 術後6ヶ月以降からグラフトに占めるコラーゲン線維の比率が増加し、術後約1年で正常前十字靭帯に近い組織となる

 

  • この一連のプロセスは靭帯化と呼ばれるが、線維径短いなど、正常前十字靭帯とまったく同様の組織特性にはならないと考えられている

 

  • 再建グラフトは骨孔内で骨と強固に結合し、再建靭帯としての機能を果たす

 

  • 結合様式には2種類あり、線維軟骨からなる4層構造を有する direct type と、骨に線維に垂直に走るⅢ型コラーゲン線維によって結合する indirect type とがある

 

  • 正常前十字靭帯や膝蓋腱は direct type であり、薄筋腱は indirect type である

 

  • 骨孔内における治癒過程が異なり、半腱様筋では結合が強固になるのが12週程度なのに対し、膝蓋腱では6~12週であり、組織学的治癒の観点からは膝蓋腱が有利と考えられる

 

前十字靭帯再建術が膝関節の機能や運動に及ぼす影響

  • 前十字靭帯再建術後の膝関節機能の問題として以下の3点がある
  1. 侵襲による炎症症状
  2. 術総部の瘢痕化と周囲組織との癒着
  3. 関節可動域制限

 

炎症症状
  • 初期の炎症症状は侵襲による術創部や関節内の炎症が中心である

 

  • 術後2週間以上経過した膝の炎症症状が残存する場合は、膝関節機能に見合わず運動処方がカフカになっていることや、歩容に異常パターンを抱えたまま過度に移動動作を行っていることが背景にある

 

  • 術後の炎症症状は、運動処方が機能回復に即した適切な内容であるか否かを判断できる判断できる重要な指標である

 

  • 炎症症状が長引くと、関節鏡刺入部の線維化が生じ、anterior interval (膝蓋腱や膝蓋支帯、膝蓋下脂肪体、前方滑膜や滑液包)の癒着が起こりやすくなる

 

  • 加えて、内側広筋が底緊張となることで、膝蓋骨の最大挙上を十分に行えない状態となる

 

  • 前十字靭帯再建膝の膝蓋骨トラッキングは、正常膝や前十字靭帯不全膝と比較し、膝関節屈曲0~30°において外方傾斜、外方偏位、valgus rotation (膝蓋骨下極の外側への回旋)が増大する

 

  • anterior interval の癒着と筋機能の低下が慢性化することで、屈曲・伸展運動の可動域制限を生じる悪循環となり、膝前面痛の原因ともなる

 

術創部の瘢痕化と癒着
  •  膝蓋腱を用いた再建術後の合併症として、膝前面痛や伸展筋力の低下が挙げられる

 

  • 膝蓋腱再建では anterior interval への直接侵襲が大きく、癒着が比較的多くみられ膝前面痛が比較的起こりやすいが、kneeling の痛みを除けば長期的には差がなくなってくる

 

  • 薄筋を用いた術式においても、膝前面痛は一定数存在する病態であることから、原因が膝蓋腱採取のみではないことを意識しておく必要がある

 

  • 膝蓋腱再建術後の伸展筋力は、術後4~8ヶ月の段階では薄筋腱を用いた再建の場合より筋力低下が大きいが、術後1年でほぼ同程度にまで回復する

 

再建術後の歩容

  • 再建術後の歩容は、正常歩行と比較して、立脚中期から終期にかけて伸展角度が減少し、遊脚初期から遊脚中期にかけて屈曲角度が減少する

 

  • 股関節では、初期接地から立脚期にかけて屈曲角度が増加する

 

  • 臨床的には、立脚終期から遊脚前期にかけて、骨盤の同側回旋がみられる場合が多い

 

  • 術後早期では、内側広筋の荷重応答での活動が十分ではなく、大腿二頭筋は遊脚前期に過活動を起こす

 

  • 異常パターンでの歩容を繰り返す期間が長ければ、機能回復に時間がかかることが多い

 

 

 

 前十字靭帯損傷時の病態や理学療法のポイントについて復習したい方はこちら

 

 

 

参考文献

膝前十字靭帯損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法 (理学療法 29巻2号 2012年2月 鈴川仁人)