投球障害肩のリハビリテーション 投球障害肩の病態・オーバーヘッドスポーツスコア・投球再開に向けて

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今回は、投球障害肩のリハビリテーションについて共有していきます!

オーバーヘッドスポーツスコアとつながる内容です!

 

 

 

 

 

 

 投球障害肩の病態について

 1.筋肉の消耗(疲労)の考え方

  • 投げ過ぎ、ストレッチ不足、下肢と上肢の機能バランスの不良などで投球障害肩が生じることが分かってきている

 

  • 回旋腱板筋群や肩甲骨周囲筋の筋力が弱く、この両者の機能的なインバランスによって生じる

 

  • 投球動作でのボールリリースからフォロースルーにかけて、外旋筋が遠心性の収縮を求められ、牽引による微細損傷が生じるという考えもある

 

  • その影響により棘下筋が萎縮していて、外見上左右差がみられることも多い

 

 

2.運動連鎖からみた病態

  • 投球動作では下肢から体幹へ、体幹から上肢へ、そしてボールへとエネルギーが伝わっていく過程を運動連鎖としてみる

 

  • 投球動作の中で、身体のどこかの分節から次の分節にエネルギーの受け渡しが上手くいかない場合、他の分節がそれを補うことで、その分節の傷害につながる

 

  • 症状が生じている場所が本当の原因の場所でなく、他のどこかに原因があるかもしれない

 

 

3.関節唇損傷が原因とする考え方

  • 投球時、肩甲骨臼蓋の上部の関節唇が臼蓋から剥離して損傷し、上腕骨頭と臼蓋に挟まれて症状が生じるとした

 

 

4.関節唇と腱板関節面が投球時接触し損傷する internal impingment の考え方

  • 投球時の late coking phase に腱板関節面と後上方部関節唇が衝突することで、両者の損傷が生じる考え方は、多くの治療家に支持されている

 

 

5.肩峰下インピンジメント症候群

  •  投球時に腱板や大結節が肩峰下面を通過するときに、両者が衝突して腱板や滑液包に炎症が生じ、発症する

 

  • 全身の関節の不安定性とルーズショルダーがあり、回旋腱板筋の筋力が低下し、肩関節の不安定症が生じた状態で投球を繰り返すと、この病態が発生しやすくなる

 

  • このメカニズムを考慮すると、炎症を抑えながら回旋腱板筋機能を向上させ、関節不安定性を改善させるリハビリテーション方針がわかってくる

 

 

 投球障害肩の診察の手順

1.下肢と体幹の診察

① 下肢伸展挙上テスト

  • 仰臥位で下肢伸展で床から持ち上げ、70°以下の場合は股関節回旋制限で異常と判断する

 

 

②立位前屈の指床間距離

  • 指が床につかない場合は下半身の回旋制限で異常と判断する

 

 

③踵臀部間距離

  • 腹臥位で膝関節を屈曲させて踵と臀部つかない場合は異常と判断する

 

 

④股関節の内旋角度

  • 股関節内旋が10°以下の場合は異常と判断し、30°を目標とする

 

 

2.全身の関節の柔軟性評価

  • 全身の関節の不安定性を評価しなければならない

 

  • 5項目中3項目以上認められた場合、全身の関節不安定性と評価する

 

  • 肩以外の関節の柔軟性を診察する意味で、1つの関節が柔らかければ他の関節も柔軟性を有している可能性がある

 

  • 一般にアスリートの関節は柔軟性があるはずだと仮定して診察を進める

 

 

3.肩関節の診察

 

 

4.X線検査

  • 一般撮影の肩関節前後、軸写、scapula-Y、肩前ロポジションを撮影し診断評価する

 

 

5.超音波検査

  • 正常の肩峰下滑液包は、三角筋と腱板の境界が線状の高エコーとして描出される

 

  • 低エコーの場合、浮腫の状態と判断し、肩峰下滑液包炎とする

 

  • 腱板が底エコーの場合、腱板炎と評価する

 

  • 投球障害肩に炎症所見が関与していることを評価できる検査として有用である

 

 

6.MRI検査

  • T2冠状断で関節唇断裂、腱板関節面断裂、肩峰下滑液包炎を評価できる

 

  • T2かT2水平断で関節唇の後上方断裂や関節唇の変性や形態変化を評価できる

 

  • 腱板関節面断裂と後上方関節唇損傷が外転外旋位のABER肢位で接触している現象を描出できる

 

 

保存的療法

  • 理学療法が主体で腱板機能の再教育とその反復練習を行うことである

 

  • 炎症所見がある場合、等尺性の訓練を行う

 

  • 炎症が続く場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)投与やヒアルロン酸の関節内注射を行う

 

  • この間に、下肢や体幹の筋肉の強化とストレッチを行う

 

  • 関節包や筋肉の拘縮に対しては、ほとおぱっくや超音波治療器などの物理療法と併用し、痛みのない範囲で徐々に可動域を拡大する

 

  • 炎症が焼失した時期から個々の機能の再獲得を図っていく

 

  • 炎症の改善後はチューブによる腱板機能訓練を行う

 

 

投球再開に向けて

  • 投球を再開する目安として以下のものがある

 

  1. 肩関節に関して疼痛の再現性テストの正常化を含めて、理学的所見の11項目中9項目状の正常化
  2. 炎症所見の正常化
  3. ラセーグ角が70°以上
  4. 踵臀部間距離が5㎝以下

 

 

  • 肩と肘に負担のかからないフォーム(下半身の重心移動を教育して)を重点的に考えて、1週間に10mずつ距離を伸ばしていく

 

  • 40mまでは山なりボールで投球する

 

 

 参考文献

投球障害肩のリハビリテーション治療 (Jpn J Rehabil Med 2018;55:495-501 原正文)