発育発達期の身体的特徴 身長・骨格・体重・スキャモンの発育曲線・神経系・筋コントロール・エネルギー代謝量・最大酸素摂取量
発育発達期の身体的特徴
1.身長の発育
- 発育とは、身長や体重、姿勢などの身体の形態的な変化を指す
- 身長の発育速度は、生まれてから成人(発育速度が1㎝/年 以下)になるまで、2回の急進期がある
- 第1の発育急進期は誕生から乳幼児までで、第2は小学校高学年から中学校期の第2次性徴期にみられる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- この第2の急進期は、身長発育速度ピーク年齢(PHV年齢)と呼ばれ、その量は年間平均で男子約7.4㎝、女子約6.7㎝となる
- 子の発育のスパートは、その後の成人期の伸張と高い相関があるが、その量や時期を捉えることは成長以上の早期発見につなげることもできる
- スポーツ指導者として注意すべきは、PHV年齢に性差がみられることの理解で、男子が11~13歳時、女子が9~11歳時であり、女子の方が男子よりも約2年早く発現する
- 近年の栄養を含む生活環境の変化から、男女ともにより早く成熟し、PHV年齢が早くなる傾向にあると指摘されている
- ただ、この発現年齢や量に個人差が大きいことも留意しなくてはならない
2.骨格の発育
- 骨格はジュニア期において急激に発育する
- 手根骨のX線写真による化骨状況から推定する生物学的な骨年齢は、同じ暦年齢でも男女とも3~4年の差が生じる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 骨の成長には、栄養状況や睡眠を含む生活様式のほか、運動による骨への刺激が大きく関わる
- 適切な運動は、特に横軸方向への骨の発育に影響し、骨膜下膜性骨化によりその厚みを増加させる効果がある
- 言い換えれば、この期の運動の量や質が不足することは、加齢による長軸方向への発育に留まり細長い長管骨となることで、骨折のリスクを高める可能性がある
- 骨格の発育には、運動による刺激は必要な要因となるが、一方でそれが過度になるもしくは偏ることは障害の危険度を高める
- 特に身長が急激に伸びる第2次成長期の骨端部には、成長軟骨層という比較的弱い部分があり、連続する高強度運動による刺激が加わることで様々な障害を誘発することを留意しなくてはならない
3.体重の発育
- 体重は、身長や胸囲とあわせて体格を構成し、骨格、筋肉、脂肪、内臓、血液、水分などの重量を捉え、それらの総合的な評価として用いられる
- 体重の発育は、身長に類似したパターンを示す
- 男子はPHV年齢に一致し急激に発育するが、女子ではPHV年齢より約1年遅れ、比較的緩やかに発育する傾向がある
- それぞれのピーク期の発育量は、年間平均で男子約5.7㎏、女子約4.9㎏となる
- 体重の変化には筋肉や骨の発育量が関わり、それらに対しホルモンの働きが大きな影響を及ぼす
- ホルモンは主に内分泌腺で作られ、血液などの体液を介して作用する液性の情報伝達物質である
- 筋や骨の発育や発達には、下垂体前葉からの成長ホルモンに加えて、生ホルモンの分泌が重要とされ、10歳くらいまでは男女とも同程度分泌される
- また、男性ホルモン(アンドロゲン)は、タンパク質同化作用があり、骨や骨格筋の成長を促進する
- これらは筋肉質な身体を形成するだけでなくパフォーマンス向上にも期待できる
- 一方、近年成長過程にある子供において、肥満による健康障害が増加しており、それを知る手立ての切り口として適切な肥満度の判定が求められる
4.スキャモンの発育曲線
- 発育は、身体の形態的な変化を指す
- 発達は、筋力や巧緻性などの身体の機能的な変化を指す
- ジュニア期における身体や諸機能の発育と発達は、一様でないことが明らかとなっている
- スキャモンは、主要な臓器や機関の重量を成人レベルの増加量に対する割合として経年変化を示した
- 発達の様式やタイミングはそれぞれ異なり、それらは4パターンに分類される
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 一般形には、身長などの体格、呼吸器などの臓器、筋肉、血液量などがあり、生後および中学校において顕著に増加する
- リンパ系型は、胸腺、リンパ腺などがあり、11歳時に成人の2倍近くとなり感染症への免疫力を高めることに繋がる
- 生殖型は、精巣や前立腺(男子)、卵巣や子宮(女子)などがあり、第2次性成長期以降に成人レベルまでに増加する
- 神経型は、脳、脊髄、眼球、頭部の上部などが含まれ、7歳までに成人の90%までに達する
5.神経系の発達
- ヒトはほとんど動けない状態で誕生し、歩き始めるまで姿勢や移動に関わる発達が急速におこる
- これは生後1~2年で顕著にみられ、スキャモンの発育曲線の神経型が示すように、神経系機能の急激な発達が要因としてあげられる
- 神経系の機能は、他の機能に比べて先んじて発達し、10歳時には成人レベルに近似することから、乳幼児期からの発達の特徴を理解することは、動きの獲得と習熟を考えるうえで重要となる
- 動きを形成する筋肉には神経が繋がっており、脳、脊髄などからの命令を神経線維にて伝えることで動きを発生し調整する
- 発育期、特に幼少年期の脳内の神経は、あらゆる刺激に対し随時適応的に変化し発達する
- この時期は、神経細胞や回路は過剰に作られる(神経過増殖)が、一時的であり、次第に合理的効率的な神経カロへと整えられ、余分な神経細胞や神経線維は退化し消失する
- 神経細胞の刺激による神経の過増殖と消失は、中枢神経系の一般的な発達の特徴であり、神経回路(シナプス活動)は、使われれば強化され、使わなければ退化が生じると言える
- ジュニア期は神経回路の形成が盛んであり、特に能動的に自ら発した運動が刺激となり感覚系のフィードバックを通して運動回路の強化がより促される
6.神経・筋コントロール
- 運動やスポーツにおける高度な動作や身のこなしは、乳幼児からの間隔の発達や神経・筋コントロールの向上が深く関わる
- 感覚には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、皮膚感覚といった五感の他に、姿勢や身体の移動に関わる深部感覚(位置感覚、運動感覚、振動感覚、重量感覚など)があり、運動に直接的・間接的に関わる重要な機能であり、10歳までに急速に発達する
- 多くの運動やスポーツで重要となる反応時間は、6歳から12歳にかけて短縮する
- ボールなどの重さを感じ取る重要弁別能力については9歳までの発達が著しく、この程度はボールだけでなくラケットなど他の道具を用いるスポーツのスキル習得に影響を与える
- 神経・筋コントロール能力の発達は、外部刺激への適応性が高いこの時期が好機であり、各能力の適時性にも留意する必要がある
- 動作の獲得と習熟が、反射や原始的な動きを土台として、環境に適応しながら段階的にすすむ構造が下の図である
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- 1~7歳の基本的動作獲得期は、様々な動きへとつながる基本的な動作を獲得し、適応動作期はそこで得られた基礎がそれぞれの場面に適応しうる多彩な動作パターンに習熟する
- さらに熟練動作期は、それらが熟練した動作の獲得へと移行し、環境的な制限かにおいても高度なスキルを習得していく
- 神経機能の発達が著しく適応性が高い幼少年期こそ、多様な動きを経験する場の提供が重要であり、その後の生涯にわたる運動との関わり方に影響を及ぼすとも考えられる
7.筋と筋力の発達
- 身体の発育に伴う筋力の発達期は神経系と異なり、最大発達年齢(握力)について言えば、男子12.6歳、女子が10.6歳との報告がある
- 男女で異なるが、PHV年齢と照らし合わせるといずれもその約1年後と言える
- 筋力の発達は主に筋肉量の増加によるが、筋肉を構成する筋線維の本数は変わらないことから、各筋線維が肥大すること、長くなることを要因として筋力の発達が生じる
- この筋線維はその性質から2種類に大別される
- 筋線維は、その収縮速度、発揮パワーと収縮時間によって、速筋線維(FT線維)と遅筋線維(ST線維)に区別される
- 速筋線維は、収縮速度が速く発揮される筋パワーも大きいが、疲労しやすくその持続時間が短く、タイプⅡ線維や白筋とも呼ばれる
- 遅筋線維は、収縮速度が遅く発揮される筋パワーも少ないが、疲労しにくくその持続時間が長く、タイプⅠ線維や赤筋とも呼ばれる
- 瞬発力を必要とする運動では速筋線維、持続的な運動や姿勢保持には遅筋線維が働くことにより動きが成り立っている
- この2種類の筋線維の発達時期は異なり、速筋線維はPHV年齢以前では目立った発達はみられない
- 中学高校以降に急激な筋力の増加が特に男子にみられる
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
- これは遅筋線維の発達に加え速筋線維の発達が急激に生じたためで、この時期から素早い瞬発力を求めるような場面での運動能力の向上が見込める
8.エネルギー代謝量と最大酸素摂取量の発達
- ヒトにおいてエネルギーは、筋肉の収縮だけでなく、生きるための体温保持、筋を含む組織の維持・合成などにも利用されている
- これは運動時に必要とされるエネルギー代謝量とは異なり基礎代謝量と呼ばれる
- 基礎代謝量は体重や筋量に関係し、女子よりも男子が高く、1~2歳では700kcal/日(男子)、660kcal/日(女子)であるが、PHV年齢を過ぎるまで急激に増加する
- 男子では15~17歳で1610kcal/日で、女子では12~14歳で1410kcal/日とピークを迎えるが、体重あたりに換算すると乳児期が最も高く、約60kcal/㎏/日となっている
- 身体活動レベルが高くなるとエネルギー代謝量も高くなる
- 持続的な運動においてその強度が高まると、呼吸数とともに体内で消費される酸素量は漸増するが、その限界である最大値を最大酸素摂取量という
- これは、呼吸や循環に関わる器官の機能を評価できることから、有酸素性能力(持久力)の指標として活用されている
- 以下の図は、酸素摂取量の追跡的測定結果を、運動習慣やトレーニングの異なる群ごとに示している
画像引用:公認スタートコーチ(スポーツ少年団) 専門科目テキスト
野球選手のための書籍紹介② 科学する野球
科学する野球
トレーニングの項目で紹介している参考文献になります。
一番の特徴としては、野球という複雑な動きを科学的に説明している点です!
技術や動作を指導する際には、どうしても感覚的や抽象的な言葉になってしまいがちです。
動作を科学的に検証し、データで把握したことを感覚的なものとすり合わせ、パフォーマンスアップにつなげることができます!
マッスルエナジーテクニック治療 筋緊張・筋力低下・関節可動性・等尺性収縮後弛緩・相反抑制・最終域感・PIRとRI
マッスルエナジーテクニックとは?
- マッスルエナジーテクニックは、正確に制御された位置から、特定の方向に、遠位に加えられた圧力に対して、患者の筋が必要に応じて積極的に使用される、オステオパシーの診断および治療の一形態である
- マッスルエナジーテクニックは患者が最初に労力を提供し、施術者はプロセスを促進するだけであり、その適用方法は独特である
- 主要な力は患者の筋の収縮を用いて、そのときにある筋骨格機能異常を矯正するために利用される
- マッスルエナジーテクニックにおける筋収縮は制御された位置で行われ、施術者によって遠位に加えられた患者の筋収縮に対する反力である
- そのため、この治療法は一般的に間接法でなく直接法テクニックとして分類される
マッスルエナジーテクニックの利点
- マッスルエナジーテクニックの利点のひとつは可動域を正常化することである
- 患者が頚椎を右に回旋できず、左に回旋できる限り、患者は頚椎の右回旋制限を有しているということである
- 頚椎の正常な回旋可動域は80°だが、患者は70°しか右回旋できないとする
- ここがマッスルエナジーテクニックを用いる部位である
- 硬くて制限のある筋にマッスルエナジーテクニックを使用した後、80°まで回旋できるようになるだろう
- 使用されるマッスルエナジーテクニックのタイプおよび状況に応じて、この治療の目的は以下を含むことができる
- 過緊張な筋における正常な筋緊張への回復
- 弱い筋の強化
- その後のストレッチのための筋の準備
- 関節可動性の改善
過緊張な筋における正常な筋緊張への回復
- マッスルエナジーテクニックの簡単なプロセスを通して、過緊張で短縮した筋を弛緩させようと試みる
- もし関節可動域が制限されていると考えると、過緊張な組織の最初の評価を通じて、組織を正常化させるためにテクニックを使用できる
- 特定のタイプのマッサージ療法はこのリラクゼーション効果を達成するのにも役立ち、また一般的にマッスルエナジーテクニックはマッサージ療法と併用できる
筋力低下がある筋の強化
- 患者は筋の伸張家庭の前に収縮するよう指示されることがあり、マッスルエナジーテクニックは弱い筋または弛緩した筋の強化に使用することができる
- 筋力低下している筋を収縮するよう患者に指示することで、マッスルエナジーテクニックを調整する
- マッスルエナジーテクニックでは、治療家によって加えられた抵抗に対して、筋を収縮させるタイミングは変えることができる
- 例えば、最大能力の約20~30%を5~15秒発揮する抵抗運動するよう患者に指示する
- その後、反復の間に10~15秒休息しその過程を5~8回繰り返すように指示する
- この過程により、患者のパフォーマンスは時間とともに顕著に改善される
その後のストレッチのための筋の準備
- 患者の柔軟性を正常よりも改善させたい場合は、より積極的なマッスルエナジーテクニックアプローチが必要となる
- 実際には、患者の筋の能力の標準的な10~20%よりも少し強く収縮するよう指示する形で達成される
- 例えば、私たちは40~70%の筋力を発揮して収縮するよう患者に指示する
- この強い収縮は、ゴルジ腱器官への刺激を増加させ、より多くの運動単位を発火させる
- これは筋をよりリラックスさせる効果を持ちさらに伸張させることを可能にする
関節可動性の改善
- マッスルエナジーテクニックを正しく用いた時、最初は筋をリラックスさせることが、関節の可動性を改善するための最良の手段の一つとなる
- マッスルエナジーテクニックの重要なポイントは患者に筋を収縮させることである
- その後、弛緩期間が生じ、特定の関節内でより大きな関節可動域を達成することが可能になる
マッスルエナジーテクニックの生理作用
- マッスルエナジーテクニックには2つの主な効果があり、これらを2つの異なる生理学的プロセスに基づいて説明する
等尺性収縮後弛緩 (PIR:Post Isometric Relaxation)
相反抑制 (RI:Reciprocal Inhabition)
- PIRおよびRIの主要な過程について議論する前に、ストレッチ反射に関与する2種類の受容体について検討する必要がある
筋線維の長さにおける、変化および変化の速度に敏感である筋紡錘
長時間の張力の変化を検出するゴルジ腱器官
- 筋をストレッチすることは、筋紡錘から脊髄後角細胞に伝達されるインパルスの増加を引き起こす
- 次に、前角細胞は筋線維への運動インパルスの増加を伝達し、伸張に抵抗するための保護的な緊張を生成する
- しかし、数秒後に増加した伸張はゴルジ腱器官内で感知され、後角細胞にインパルスを伝える
- これらのインパルスは、前角細胞における運動刺激の増改に対する抑制効果を有する
- この抑制効果は、運動インパルスの減少および結果としてリラクゼーションを引き起こす
- これは、ゴルジ腱器官の保護的な弛緩が筋紡錘による保護的な収縮を無効にするため、筋の長時間の伸張が伸張能力を増加させることを意味する
- しかし、筋紡錘の速い伸張は筋の収縮を即自的に引き起こし、持続しないため、抑制作用はない
- これは基本的な反射弓として知られている
伸張反射弓:筋紡錘を活性化するため素早い手による伸張
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
- PIRは、等尺性収縮が持続されたとき、脊髄を介して筋自体への神経学的フィードバックから生じ、そして収縮した筋の緊張低下を引き起こす
- この緊張の減少はおよそ20~25秒続き、この弛緩期間の間に組織を新しい安静時長までより容易に動かすことができるため、関節可動域を改善させる完璧な機会を得ることができる
- RIを使用するとき、緊張の減少は筋の収縮に対する拮抗筋の生理学的抑制効果に依存する
- 主動作筋を収縮させる運動ニューロンが求心性経路から興奮性インパルスを受ける時、反対の拮抗筋の運動ニューロンは同時に抑制インパルスを受け、拮抗筋の収縮を妨げる
- つまり、主動作筋の収縮または伸張は、拮抗筋を弛緩または抑制を誘発しなければならないことになる
- しかしながら、主動作筋の素早い伸張は同じ主動作筋の収縮を促進する
等尺性収縮後弛緩
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
- マッスルエナジーテクニックのほとんどの応用において、最終域感を感じる位置、または、その位置のわずか手前はマッスルエナジーテクニックを実行するのに望ましいポジションである
- 明らかに、マッスルエナジーテクニック他のテクニックと比較して非常に軽いストレッチなので、その使用はリハビリてーよんにおいてより適切である
- また、筋の短縮を伴うほとんどの問題は姿勢筋におこることに留意すべきである
- これらの筋は主に遅筋線維で構成されているので、より軽いストレッチの形態が適切である
マッスルエナジーテクニック治療
- 患者の手足の抵抗が感じられる点、すなわち最終域感を感じる位置まで動かす
- それは、治療しようとしている患部における最終域感を感じるわずか手前の位置まで柔らかくする場合、特にこれらの組織が慢性期にある場合、患者にとってより快適な状態にすることができる
- 施術者によって加えられる抵抗に対しておよそ10~20%の筋力を発揮して、治療すべき筋または拮抗筋を等尺性収縮するよう指示する
- アプローチの方法が等尺性収縮後弛緩(PIR)である場合、患者は主動作筋を使用する
- そして、硬くて短縮した組織を直接リリースする
マッスルエナジーテクニックの相反抑制(RI)を用いる場合、患者には拮抗筋を等尺性収縮するよう指示する
- これは硬くて短縮した組織として分類された拮抗筋とは反対の筋群(主動作筋)において市観光課を発揮する
- 等尺性収縮をゆっくり行い、10~12秒間持続させ、治療されている部位の疼痛が生じないように指示する
- この収縮は、筋紡錘から錘内線維に影響を与え、ゴルジ腱器官に負荷を与えるために必要な時間である
- これは、筋紡錘からの影響を無効にする効果があり、筋緊張を抑制する
- これにより施術者は最小限の労力で患部を新しい位置へ持っていけるようになる
- 収縮により不快感や緊張を引き起こさないようにすべきである
- 深呼吸して完全にリラックスするように指示し、施術者は過緊張の筋を伸張する特定の関節を新しい位置に他動的に動かし、関節可動域を正常化する
- 等尺性収縮後弛緩を誘発する等尺性収縮後、15~30秒の弛緩期間がある
- この期間は組織を新しい安静時長に伸張するのに最適な期間になる
- それ以上進行しなくなるまでこの過程を繰り返し(通常3~4回)、最後の静止位置にておよそ25~30秒保持する
- 25~30秒の期間は神経系がこの新しい静止位置にロックするのに十分な時間であると考えらえる
- このタイプのテクニックは、硬く短縮した軟部組織において緊張を緩和し、弛緩させるのに優れている
- 相反抑制により、約20秒の不応期(安静時上体の回復に必要な短い期間)が生じる
- しかしながら、相反抑制は等尺性収縮後弛緩よりも万能でも強力ではないと考えられている
- 主動作筋の使用は痛みまたは損傷のために、時には不適切となるため、施術者は両方のアプローチを使い分ける必要がある
- マッスルエナジーテクニックで使用される力は最小限なので、障害または組織損傷の危険性が軽減される
マッスルエナジーテクニック治療の方法
最終域感を感じる位置(制限バリア)
- 最終域感のポイントまたは制限バリアは、施術者の触診する手や手指によって抵抗が最初に感じられたときに生じる
- 繰り返し練習して経験を積むことにより、施術者は患部が緩やかに最終域感を感じる位置まで、軟部組織の抵抗を触知することができる
- この最終域感を感じる位置は伸張の位置ではなく、伸張の直前の位置である
- 施術者はストレッチが生じたと感じる時に、その違いを感じるべきで、患者からの反応を待つべきである
急性期および慢性期
- マッスルエナジーテクニックで治療される軟部組織の状態は、一般的に急性期または慢性期のいずれかに分類され、何らかの形の緊張または外傷を有する組織に関連する傾向がある
- マッスルエナジーテクニックは急性期および慢性期の両方において使用することができる
- 急性期とは、痛みやスパズムあるいは3~4週間以内に生じた深刻な症状を含む
- マッスルエナジーテクニックのどの方法が適しているかは、病期で判断する
- 発症から時間が経過し、明らかに急性期でないものを慢性期とみなす
- 提示された状態が比較的急性期であると感じるならば、等尺性収縮は最終域感を感じる位置で行う
- 患者に筋を10秒間等尺性収縮させた後、施術者は新しく最終域感を感じる位置を常に意識して患部を進めていく
- 慢性期の状態では、等尺性収縮は最終域感を感じる位置の直前の位置から始める
- 患者に筋を10秒間等尺性収縮させた後、施術者は最終域感を感じる位置を通り、特定の部位を新しい位置まで進めることを奨励される
PIRとRIの比較
- 患者にどのくらいの痛みがあるのかによって、一般的にどの方法を最初に適用するかを決定する
- 等尺性収縮後弛緩法は通常、短縮し硬いと分類される筋のために選択されるテクニックである
- これらの筋は、リリースと弛緩の過程で最初に収縮するからだ
- しかしながら、しばしば患者は主動作筋すなわち短縮した組織が収縮した時に不快感を覚えることがある
- この場合、反対の拮抗筋を収縮させるほうがより適切であるように考えられる
- それは、患者の痛みの近くを低下させ、痛みを伴う組織を弛緩させるからである
- したがって、通常は痛みがない拮抗筋を使用した相反抑制の使用は、主に短縮した組織に痛みが増強される場合に第一選択となる
- 患者の初期の痛みが適切な治療によって軽減したとき、等尺性収縮後弛緩法を組み込むことができる
- 等尺性収縮後弛緩法は相反抑制と対照的に、硬く短縮した組織の等尺性収縮を用いる
- 最良のアプローチを決定する主な要因は、敏感である組織が急性期か慢性期どうかによる
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
野球ギア紹介⑧ スピンチェッカー
スピンチェッカーとは?
- 両サイドがカットされているので、ボールを中心で握る習慣が身につきます
- 少しの乱回転でも大きく目に見えて変化するため、視覚確認も容易です
- 横回転などクセのある回転を改善したいプレイヤーに最適です
スピンチェッカーで練習するメリット
- ボールの回転軸を確認することができる
- 回転軸の確認により、腕をどのように振っているのがわかる
- 回転軸を修正することでキレのあるボールを投げられるようになる
『野球ギア紹介シリーズ』の復習をしたい方はコチラ
⇩⇩⇩
野球ギア紹介⑦ キレダス
キレダスとは?
- 視覚的な投球改善を可能にしたKIREDASならボールを前で離す感覚が驚くほど掴める!効果が1日で分かる!投球指導に最適なアイテム!
- 投手はキレが出て低めも伸びる球に!
- 野手は正確なスローイングで矢の様な送球に!
- 全ての選手が怪我をしにくい投げ方に!
- 正しくボールを押し出すことができれば綺麗にキレダスを投げれます!
キレダスはこんな方に使って頂きたい!
- 子供に正しい投球フォームを教えたい親や指導者
- 更なる球速や制球力UPをしたい方
- 長年野球をしてきたが、新たな気づきを欲してる方
- スポーツの基本の投げる動作を指導する学校の指導者
キレダスが選ばれる理由
- ボールを押し出す感覚が身に付く!リリース時の微妙な指の感覚が明確に感じ取れ、キレのある球の習得に!
- 1日で効果が分かる!投球を視覚的に改善できる投球改善アイテム!
- 投げるという原点の楽しさを味わえる!キレダスを使用し、1日で小学生達が遠投で5m〜20m伸びたといったお声も頂きます。
キレダスはどうやって使うの?
キレダスで練習するメリット
- リリースポイントをつかむことができる
- コントロールが良くなる
- ボールを押し出す感覚をつかめる
- ボールの回転が良くなる
- 身体全体を使って投げることができる
- 球のスピードが速くなる
- 遠投の距離が長くなる
脚長差と骨盤 脚長差の種類・脚長差の評価・脚長差と中殿筋の関係・脚長差と体幹頭部の関係
脚長差の定義
- 脚長差は、一側の脚が他側より短い状態である
- その脚長差は実際の海保学的な差なのか、見せかけの差なのかどうか決定しなければならない
- その状態と様々な歩行パターンや走行力学の機能異常に結び付けて評価する
- 脚長差は側弯症、腰痛、仙腸関節機能異常、脊柱や股関節、膝関節における骨関節炎と同様に、姿勢機能異常に関連付けられる
- さらに、股関節、脊椎、下肢の疲労骨折でさえ脚長変化と関連が認められる
脚長差のタイプ
1.構造的
- これは骨格系の実際の短縮である
- 一般的に以下の4つのうちのひとつに起因する
- 先天欠損 (先天性股関節形成不全関節など)
- 手術 (人工股関節全置換術など)
- 外傷 (大腿骨または脛骨の骨折など)
- 疾病の作用 (腫瘍、骨関節炎、オスグット病など)
2.機能的
- これは足関節と足部の過回内や過回外、骨盤の傾斜、マッスルインバランス(例えば中殿筋や腹筋の弱化、もしくは股関節内転筋群や屈筋群のタイトネス)、股関節や膝関節の機能異常などのような、下半身における生体力学的な変更により生じる
3.特発的
- 明らかな所見が問診や評価プロセスのなかに存在しない場合、特発性に分類するだろう
- それは何かしらの状態に起因するものでなく、単独に生じていることを意味する
脚長差の評価
立位バランス検査
- 患者に片脚立位となり反対側の膝を腰の高さまで上げるように指示する
- この時、治療家は体重を支持した片脚に移していく際の上後腸骨棘レベルを観察する必要がある
- 本来は、支持脚の中殿筋による良好な筋制御により支持脚上に体重を移すことができる
- しかし、左脚の上後腸骨棘が下がる場合、左側は水平な状態よりも引き上げられている
- これは右側の中殿筋における制御がうまくできないと見なされる
- 彼らは歩行周期において、歩行の変更されたパターンを同様に生じることがある
- この歩行パターンはトレンデレンブルグ歩行と呼ばれ、弱化した中殿筋として示される
- この歩行機能異常が長期間にわたって存在する場合、代償性のトレンデレンブルグ歩行に発展する可能性がある
- これが生じる原因は非常に多い
- しかし、原因のひとつは一側の内転筋の短縮によるためであり、内転させられたポジションを維持される可能性がある
- この変更されたパターンは、拮抗筋に対し相互制御の結果をもたらす
- 中殿筋が股関節外転筋である観点から、脚は延長した状態を維持され中殿筋が弱化するような要素を作る
立位バランステスト正常
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
立位バランステスト陽性-右中殿筋の弱化、左上後腸骨棘の下降
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
トレンデレンブルグ歩行-左中殿筋の弱化
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
脚長差と中殿筋の関係
- 脚長差はどのように殿筋に影響を及ぼすのだろうか
- 代償パターンを持っている時、大腿骨は水平面上で回転する代償だけでなく、前額面における内転や外転の代償性メカニズムを経験する
- 下肢は内転したポジションを維持されるかもしれない
- したがって、外転筋群は伸張されることを強制され、その後、弱化される位置となる
- その間に、内転筋群は短縮された位置となり、その後、固まった肢位となる
- 外転した位置が保持される場合には、状況は逆転する
内転筋群と腰方形筋の短縮と硬結に伴う中殿筋と大腿筋膜張筋の伸張弱化
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
内転筋群と腰方形筋の伸張弱化に伴う中殿筋と大腿筋膜張筋の短縮と硬結
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
脚長差と体幹頭部の関係
機能的脊柱側弯症
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
- 高位の寛骨側である左肩が低いポジションにあることは、代償性の機能的脊柱側弯症において一般的にみられる
- 一部の研究者は、『利き手傾向のパターン』の結果として考慮している
- 腸骨稜と肩ポジションが非対称的な位置にある場合、ある形の脊柱側弯症が存在する
機能的脊柱側彎症-左腰方形筋は短く硬い
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
- 上行性機能的脊柱側彎症の結果、左側の肩はより高くなる
- そして、頚椎のより短いCカーブについて同様に気付くかもしれない
- これは、おそらく右側の斜角筋、胸鎖乳突筋、上部僧帽筋と肩甲挙筋の短縮が原因で、その後、固まった肢位となったのであろう
- このマッスルインバランスによる典型的適応は、視線レベルで真っ直ぐな頭のポジションを維持するのを助ける
- 環椎後頭関節のポジションを自然に適応させることを通じて、身体は常に水平を維持する
- そして、これを達成するためにはあらゆる身体的変更が行われ、平行の維持と永続的な痛みにより耐え難い苦しみとなる
- 一般的に、頭痛、活発なトリガーポイント、耳鳴り、顎関節症、眼や顔の痛みの病態を呈することがある
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
歩行と骨盤の関係 歩行周期・踵接地・筋膜連結
歩行周期
- 歩行周期は立脚相と遊脚相に分けられる
- 各歩行周期は立脚期における先行する脚の踵接地から始まり、遊脚期を経て、同じ側の脚の次の地面との接触で終了する
- 立脚期はさらに踵接地、立脚中期、推進期に分けられる
- 人間の歩行は非常に複雑で、調整された一連の運動である
- 歩行周期を簡単に捉えるには、相に分けて考えることである
- 立脚期は各歩行周期における体重を支える部分であり、踵接地で始まり、同側の踵離地で終わる
- 立脚期は一歩行周期の約60%を占め遊脚期は約40%を占めると推定されている
踵接地
- 踵接地において、右足部が地面に接地する直前の身体の位置を考えると、右股関節は伸展位、右足関節は背屈し、足部は回外位となっている
- 前脛骨筋は後脛骨筋をサポートし、足関節と足部の背屈と内返し位を維持する働きをする
- 歩行では、踵接地の始まりにおいて約2°回外位で地面に接地する
- 正常な足部では、距骨下関節が約5~6°回内位から約3~4°回内位に動き、これが足部の「可動アダプター」として機能する
筋膜連結
- 踵接地で関節と足部が背屈および回外位になったとき、前脛骨筋は、筋膜スリングのリンクシステムの一部となっている
- このスリングは、前脛骨筋の起始から始まり長腓骨筋の停止部を経由し、長腓骨筋の起始でもある腓骨頭に終わる
- この骨性ランドマークは大腿二頭筋の停止でもある
- スリングは大腿二頭筋として坐骨結節に向かい、坐骨結節を経由し、仙結節靭帯に付着する
- 大腿二頭筋はしばしば坐骨結節というよりも仙結節靭帯に直接付着し、30%以上の大腿二頭筋は仙骨下外側角に直接付着いていた、という報告もある
- このスリングは仙結節靭帯に続き、仙骨の下方に位置する下外側角に筋膜接続し、反対側の多裂筋および後頭骨につながる脊柱起立筋に接続する
- この筋膜スリングは後縦走スリングとして知られている
- 踵接地期では、踵接地する直前にも関わらず、足関節背屈によって大腿二頭筋と長腓骨筋の収縮が同時に誘発される
- 大腿二頭筋の収縮は腓骨等に付着する長腓骨筋と連携しており、大腿二頭筋の収縮力の約18%の力が長腓骨筋に伝達される、という報告もある
- この同時収縮は、胸腰筋膜を巻き上げ、下肢の安定化を図るための機構とされているが、結果としては、続く推進期で解放される必要な運動エネルギーの充填を行っている
- 筋膜が伸張された後縦走スリングによって増加した伸張は大腿二頭筋を経由し、仙結節靭帯に集中する
- この結合は仙腸関節の動的安定化機構を補助する
- 歩行周期における荷重期のための仙腸関節のセルフロッキングと骨盤の安定化を図っている
- 遊脚期の間に右腸骨が後方回旋し、仙結節靭帯が伸張されることによって仙腸関節のフォースクロージャーが働いていることがわかる
- 右寛骨後傾運動と同様に大腿二頭筋の収縮によって右の仙結節靭帯が伸張される
- 同時に左寛骨は前方回旋し、仙骨は左傾斜軸上で左捻転、つまり前方回旋する
- この腰椎骨盤複合体の特殊な動きは、右踵接地のたびに必ず起こる
- 踵接地の直前では股関節屈曲、膝関節伸展、足関節背屈し、足部は回外する
- 前脛骨筋および後脛骨筋は足関節と足部のこの位置を維持し、さらにこれらの2つの筋は接地の際、遠心性収縮によって距骨下関節の回内速度を制御する役割を果たしている
- 右足の踵接地から足趾離地までの間、骨盤が右にシフトすることによって、重心が右足に移動する
- この動きは足趾離地まで続き、この間、右寛骨は前方回旋、左寛骨は後方回旋し始める
- 立脚中期では、骨盤の自然な前傾と仙結節靭帯の緩みによって、ハムストリングスの緊張を緩めるところである
- この時点でのフォームクロージャーは、立脚後期で徐々に失われるため、ここでの安定性は主にフォースクロージャーによって維持されている
- これは立脚中期のポイントで、右側の大殿筋は左側の広背筋と協力し、右下肢の継続的な伸展運動の役割を果たしている
- これら2つの筋の自動収縮は胸腰筋膜の張力を高め(後斜走スリング)、それによって右立脚中期の間の右仙腸関節に必要なフォースクロージャーにを提供している
- 立脚中期で大殿筋の位相性の収縮が起こると、反対側の広背筋の収縮が同時に起こる
- 広背筋は上肢を伸展させることにより、逆回転を通して推進力を助ける
- 結合組織の膜である胸腰筋膜は、大殿筋と反対側の広背筋の間に位置し、この膜構造は大殿筋と広背筋の収縮によって張力が高められている
- この増加した張力は、フォースクロージャーにによって、立脚期の仙腸関節の安定化に役立っている
- 踵接地は歩行の推進期への移行を意味し、このときの大殿筋の収縮は、ハムストリングスの収縮に重ね合わされる
- 大殿筋の活性化は脚を推進しながら肩を伸展している反対側の広背筋の収縮と強調して起こる
- 相乗的な大殿筋および反対側の広背筋の収縮は、胸腰筋膜の緊張を作り出し、その解放が歩行に使われるか筋力の補助となる
- 胸腰筋膜に蓄積されたエネルギーは歩行周期のエネルギー消費を低減させるのに役立つ
- 大殿筋に連続する下肢を含む後斜走スリングは、腸脛靭帯の張力の増加に作用し、歩行における立脚期の間、膝の安定化に役立つ
姿勢に関する復習をしたい方はこちら
⇩
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
コアマッスルと仙腸関節 腹横筋・多裂筋・内圧の増加・後斜走スリング
コアマッスルとの関連
インナーコアユニット(ローカルシステム)
- インナーコアユニットは以下の筋より構成されている
- 腹横筋
- 多裂筋
- 横隔膜
- 骨盤底筋
インナーコアユニット
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
腹横筋
- 腹横筋は最も深層に位置する腹部筋である
- 腸骨稜、鼡径靭帯、腰部筋膜、下位6つの肋軟骨に起始し、剣状突起、白線、恥骨に停止する
- 腹横筋の重な作用は腹壁において「引き込み」を介して腹圧を高めることである
- この「引き込み」は臍の脊柱方向への動きとして観察することができる
- この筋は屈筋でも伸筋でもない
- Kendallらも、「この筋は体幹の側屈には作用せず、白線を安定させることにより前外側に位置する筋(内・外腹斜筋)の良好な活動が許容される」と述べている
- 腹横筋はインナーユニットの鍵になることは明らかである
- Richsrdsonらは、腰痛がない人の場合、腹横筋は肩の運動よりも30ミリ秒前に、下肢の運動よりも110ミリ秒前に筋発火が生じていることを報告している
- これは、腹横筋が四肢骨格の動作パターンに対して、必要となる安定性を提供するための鍵となる役割を持つことを示唆している
- 腹横筋は吸気時において、中心腱を下方へ引き平坦となり、胸腔の垂直方向の長さを増加させ、多裂筋を圧迫する
腹横筋の起始・停止などを復習したい方はコチラ
⇩⇩⇩
多裂筋
- 多裂筋は腰部筋のなかで最も深層に位置する
- 筋線維は近隣の腰椎棘突起から起こり、乳頭突起へ付着する
- 筋線維は尾方へ放射状に走行し、横突起を横断してL2/L5に位置する
- 仙結節靭帯と遠位部で結合しているいくつかの筋線維と同様、これらの筋は第5腰椎を腸骨と仙骨へ固定する
- 多裂筋は小さい筋の集合体を考えられており、これらはさらに表層部と深層部に分類される
- 仙骨尖部よりも仙骨底部の方が多裂筋の容積は大きく、特に下外側角部よりも左右の上後腸骨棘間の領域で大きい
- 伸展筋力を発揮する多裂筋の役割は、前方への体幹屈曲やこの上部で生じる剪断力に対抗する作用と同様、腰椎を安定させるために大変重要である
- さらに多裂筋は、椎間板への圧力を軽減する機能を持つため、最終的に体重が前腰椎へ分配される
- 表層に位置する多裂筋は、腰椎を垂直方向に保持する役割を持ち、深層に位置する多裂筋は脊柱全体の安定性に貢献している
- Richsrdsonらは多裂筋と腹横筋は腰椎安定化の鍵となる筋であることを報告した
- 両筋は、Richsrdsonらが「障害から腰部を守る天然の深層コルセット」と呼んだ胸腰筋膜と結合している
- 近年、Richsrdsonらは、仙腸関節において筋がどのように作用しているか超音波ドップラー法により調査した
- 彼らは、腹横筋と多裂筋は共同収縮して仙腸関節の固定性を高め、負荷が生じている場合ではこれらの筋が仙腸関節を圧迫して関節安定性を高めるために不可欠であるとともに、この圧迫は適切なタイミングで生じることが重要であることを示した
多裂筋の起始・停止などを復習したい方はコチラ
⇩⇩⇩
内圧の増幅
- Osarによると、筋収縮により筋膜内の内圧を増幅する作用が生じる
- すべての筋線維の内側では、筋収縮が生じると筋線維は胸腰筋膜を圧迫して関節周囲の硬化が生じる
- 脊柱では、胸腰筋膜内にある脊柱起立筋の多裂筋の硬化により体幹伸展力が発揮され、脊柱伸展を助ける
- Osarは、腰椎背側多裂筋が収縮した場合、後方の腰背筋膜へその力が広がると述べている
- このような効果は、腹横筋の収縮を助け、脊柱起立筋や多裂筋の周囲にある胸腰筋膜を硬化させ、これにより脊柱を安定させる
多裂筋が収縮すると胸腰筋膜を圧迫し、腹横筋の収縮とともに内部の区画の安定性をもたらす
水平面から見た安静時の多裂筋
腹横筋と多裂筋の共同収縮は胸腰筋膜の硬化を引き起こし、内部の区画の安定性をもたらす
腹横筋が収縮すると胸腰筋膜が緊張し、これに対して多裂筋と腰部脊柱起立筋が収縮し、脊柱の伸展と効果が生じる
恥骨筋の収縮は白線を緊張させ、腹横筋の収縮に対して安定性を与える
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
アウターコアユニット(グローバルシステム)
- フォースクロージャーにかかわるアウターコアユニットは、4つに統合された筋膜スリングシステムから構成されている
- 後縦走スリング
- 外側スリング
- 前斜走スリング
- 後斜走スリング
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ
- これらの筋膜スリングはフォースクロージャーをもたらし、その結果として骨盤帯の安定性につながる
- これらのスリングのいずれかが欠損または弱化した場合でも、腰部骨盤領域の疼痛や機能異常を引き起こす
- アウターコアユニット属する筋群が個々にトレーニングされた場合、効果的なフォースクロージャーを発揮して適切な機能やパフォーマンスが遂行されるためには、筋膜スリングの個別的な協働収縮やリリースが要求される
- 統合された筋膜スリングシステムでは多くの力が存在し、いくつかの筋が関与している
- ひとつの筋はひとつ以上のスリングシステムに関与しており、またスリング同士が重なり結合しているため、上肢の動きに依存する
- アウターユニットにはコントロールスリング(内側と外側の2区画)、矢状スリング(前方と後方の2区画)、そして、斜走らせんスリングを含むいくつかの筋膜システムに関与するスリングが存在する
- 仮説として、スリングは起始と停止を持たないものの、力を伝達する補助のために結合していると考えられる
- これにより、スリングはすべての内的結合筋膜システムとして機能しており、ある運動では全体のスリングの一部が選択的に機能している可能性がある
- フォースクロージャーを修復する時や、なぜスリングの一部が動作を抑制または低下させるかを理解することは、ある特定の筋機能異常(弱化、不適切な活動、あるいは硬化)の同定と治療を行う場合に重要となる
- 以下がそのポイントである
1:アウターコアの4つのシステムは、身体の土台となる力を生じさせるために必要な関節硬化や安定性に寄与するインナーコアユニットに依存している
2:アウターユニットの作用中におけるインナーユニットの低下は、しばしばマッスルインバランス、関節障害、そして、パフォーマンス低下を引き起こす
3:アウターユニットは近代的なトレーニングマシンにより効果的に調整することはできない。トレーニングマシンの種類の違いは日々の機能的運動に関連しない。
4:アウターユニットの効果的な調節方法には、対象者の作業やスポーツ活動内容に即した運動パターンを用いたインナーユニットの機能を統合した運動が要求される
姿勢に関する復習をしたい方はこちら
⇩⇩⇩
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
頚椎捻挫 牽引テスト・並進テスト・ストレステスト・回旋テスト・不安定性テスト・スタビライゼーション・牽引・神経モビライゼーション
頚椎捻挫
- 頚椎捻挫は、頚椎の亜脱臼や靭帯に障害を受けるため、様々な神経症状を呈するようになる
- 視診では、頚椎の前弯角度の減少や斜頚位が認められる
- 主訴としては、めまい、耳鳴り、視覚障害、痺れ、疼痛等の症状を訴えることが多い
- 上位頚椎は、後頭骨と環椎そして軸椎で形成されている
- 環椎は、円形で椎体が存在しない
- 軸椎は、歯突起が上部に突出し後方に大きな棘突起を持っている
- 上位頚椎は椎間板を持たず、左右の椎間関節は側方やや前方に位置する
- 軸椎の歯突起は前方では環椎の椎弓と、後方では横靭帯と関節を形成している
- 頭蓋および上位頚椎領域における靭帯の不安定性は、上位頚椎領域の血管や神経構造にも障害を引き起こす
- 環軸関節の不安定性は、脊髄神経に異常な圧力を引き起こし、椎骨動脈や神経根をも圧迫する可能性がある
- したがって、上位頚椎の安定性や椎骨動脈のテストを行い、構造体の状態を確認する必要がある
- そして、上位頚椎に問題がなければ、下位頚椎の評価治療に移る
頚椎捻挫における問題点
- 複合損傷であることが多い
- 上位頚椎の靭帯損傷による過可動性
- C4、C5分節の複合靭帯損傷による過可動性
- 椎間板の脱出や椎体の終板の損傷
- 胸鎖乳突筋、頚長筋などの筋損傷
- 椎間関節の骨折、亜脱臼、関節軟骨の損傷、関節包の損傷
- 脳-脊髄損傷
- 交感神経や椎骨動脈の損傷
- 痛みが腰椎に波及することもある
上位頚椎の安定性に重要な靭帯
蓋膜
- 環椎横靭帯を後方から覆う幅広い膜であり、後頭骨の斜台起こり第2・3頚椎体の後方で後縦靭帯に続いている
翼状靭帯
- 軸椎の歯突起と後頭骨を強固に連結している
- そのため、上位頚椎の連結パターンにもっとも影響を及ぼしている
- 翼状靭帯の伸張や断裂は、上位頚椎の間で過度の回旋を引き起こし、椎骨動脈を過度に圧迫し、損傷を受けやすくなる
- 翼状靭帯の損傷に伴う症状としては、頭痛(後頭部)、めまい・嘔吐、四肢の感覚障害・四肢麻痺、視力障碍、耳鳴り、バランス障害などがみられる
環椎横靭帯
- 歯突起を環椎の腹側椎弓を強固に固定し、回旋のコントロールを行うだけでなく、歯突起の後方移動による脊髄の圧迫を防いでいる
- 環椎横靭帯の損傷に伴う症状としては、足下をみるときしばしばめまいを生じる
- 下肢の麻痺、眼振、嚥下障害、下の感覚障害、咽頭の違和感、頭痛、耳鳴り、バランス障害などがみられる
上位頚椎の安定性のテスト
蓋膜のためのテスト
1.牽引テスト
- 患者は背臥位、もしくは座位
- セラピストは患者の頭側に立つ
- 一方の手で軸椎の歯突起と椎弓を固定する
- もう一方の手を後頭骨の背側にあてがい、易しく頭部を牽引する
- もし、動きが1~2㎜以上あれば陽性である
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
2.上位頚椎を屈曲位での牽引テスト
- 牽引テストを発展させた方法
- 上位頚椎を屈曲位にして牽引を加える
3.上位頚椎屈曲テスト
- 患者は背臥位
- 軸椎の椎弓を固定し、セラピストの肩と同側の手で菅屋の頭を前後から挟む
- 上位頚椎だけを屈曲させる
- 正常では、動きはほとんど認められない
4.上位頚椎腹側並進テスト
- 患者は座位
- セラピストは一方の手を患者の後頭骨下部に置く
- もう一方の手は前方から軸椎横突起に置いて固定する
- 後頭骨を腹・頭側へ動かす
- 正常では、動きはほとんど認められない
翼状靭帯のためのテスト
1.側屈ストレステスト
- 患者は背臥位
- セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の手と母指手固定する
- もう一方の手で頭部を把持する
- 後頭骨と環椎を側屈させる
- 上位頚椎を屈曲位、中間位、伸展位でも行う
- 正常では、動きはほとんど認められない
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
2.回旋テスト
- 患者は座位
- セラピストは軸椎の椎弓から棘突起を一方の手の母指と示指で固定する
- もう一方の手で頭部を把持する
- 後頭骨と環椎を回旋させる
- もし、20~30°以上の回旋がみられる場合、反対側の翼状靭帯の損傷が示唆される
- また、過度の回旋の動きが同側への過度の側屈を伴う場合、翼状靭帯の損傷が示唆される
- 過度の回旋の動きが反対側の過度の側屈を伴う場合、環軸関節性の不安定性が示唆される
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
3.上位頚椎回旋テスト
- 患者は座位
- セラピストは下方の手の示指と中指を軸椎の椎弓に置き、尾背側へ押すように固定する
- 上方の手は示指を乳様突起、中指を環椎横突起に置き、回旋を加えるように頭腹側へ動かす
- このテストは、軸椎に対する後頭骨・環椎の回旋の動きの質と量を評価するためのテストである
4.側方並進運動テスト
- 患者は背臥位
- セラピストは環椎を右手母指と示指の間を用いて右から他動的に固定し、環椎が左方へ移動した状態を維持する
- そして、左手母指と示指の間を用いて軟部組織のたわみを取り、軸椎を右方向に動かす
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
5.環軸関節の後方安定性テスト
- 患者は背臥位
- セラピストは患者の頭側に立ち、両手掌全体で患者の後頭骨を把持し、左右の示・中指を患者の環椎と軸椎の横突起から棘突起に置き、後頭骨に対して環・軸椎を同時に腹側へ動かす
- 正常では、動きはほとんど認められない
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
6.環軸関節の前方不安定性テスト
- 患者は背臥位
- セラピストは患者の頭側に立つ
- 左右の母指を患者の環・軸椎の左右の横突起の前・側方に置き、両手掌全体と残りの指で後頭骨を背側から固定する
- そして、両母指で同時に環・軸椎を背側へ動かす
- 正常では、動きはほとんど認められない
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
治療
- 上位頚椎に不安定性が認められた場合、基本的に徒手療法は禁忌となる
- 頚椎の深部筋に対するスタビライゼーションは、不安定性を保護するためにも必要である
- 下位頚椎の不安定性により椎間孔が狭窄し、神経根が圧迫されて疼痛やしびれなどの症状が出現している場合、頚椎の牽引や神経のモビライゼーションを行う
1.スタビライゼーション
- 上位頚椎周囲の深部筋を中心にしたスタビライゼーションは、眼球の動きと上位頚椎の動きが同調していることを利用して行われる
背側の筋のスタビライゼーション
- まずは眼球だけで上方視を行ってもらう
- 頚椎は動かさないように注意する
- 5~7秒間上方視し、休憩を5秒入れて、10回繰り返す
- 最初は深部筋だけが収縮するように注意して行う
- うまくできるようになれば、真横や斜め上、上下にも動かすとよい
- 次に、座位になり、眼球で上方視しながら頭部から体幹を真っ直ぐにしたまま、股関節屈曲し、ゆっくり戻す
- 1回につき5秒程度時間をかけて行うとよい
- 休憩を入れて、10回繰り返す
- 頚部の背側にベルトやタオルで抵抗をかけて、スタビライゼーションを行うこともできる
過可動性のある部位に対するスタビライゼーション
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
腹側の筋のスタビライゼーション
- まずは眼球だけで下方視を行ってもらう
- 頚椎は動かさないように注意する
- 5~7秒間上方視し、休憩を5秒入れて、10回繰り返す
- 最初は深部筋だけが収縮するように注意して行う
- 次に、患者に5~7秒下方視しているときに、セラピストが一方の手で患者の頭を背側から把持し、腹側から眉間に抵抗をかける
- もしくは、5~7秒間下方視しながら自分の両母指で眉間に抵抗をかける
- どちらも休憩を入れて10回繰り返す
過可動性のある部位に対するスタビライゼーション
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
2.牽引
- 椎間孔の狭窄により症状が出現している場合、椎間孔を開大させて症状の改善を図る目的で行う
頚椎全体の牽引治療
- 患者は座位か背臥位
- セラピストは患者の背側に立ち、両手で患者の頭部を把持し、頭部の重さを取り除く程度の力で頭部を30秒以上牽引する
- 症状の改善が認められるなら、1分程度行う
- 疼痛などの症状が強い場合は、もっとも症状が軽い肢位で行い、症状の改善に合わせて中間位で行うようにする
セグメント単位の牽引治療
- 患者は座位か背臥位
- セラピストは一方の手で牽引を行うセグメントの尾側の椎体を固定し、もう一方の手を頭側の椎体の横突起から椎弓にあてがう
- 頭側にわずかな力で30秒以上牽引する
- 症状の改善が認められるなら、1分程度行う
3.神経モビライゼーション
牽引を加えての神経モビライゼーション
- 患者は座位か背臥位
- 正中神経レベルのモビライゼーションを行う場合、セラピストは患者の背側に立ち、両手で患者の頭部を把持し牽引する
- 患者は、その状態で患側上肢の肩関節を伸展・外転・外旋、肘関節を伸展、前腕を回外、手関節を背屈、手指伸展する
- 次に、患側上肢の肘関節を屈曲する
- そして、この動きをゆっくりと繰り返す
牽引した状態での神経モビライゼーション
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
神経モビライゼーション
- 患者は座位か背臥位
- 正中神経レベルのモビライゼーションを行う場合、患者は患側上肢の肩関節を伸展・外転・外旋、肘関節を伸展、前腕を回外、手関節を背屈、手指伸展し、家五男w患側に側屈する
- 次に、患側上肢の肘関節を屈曲すると同時に、頚椎を患側と反対に側屈させる
- この動きを繰り返す
- セラピストが動きを誘導する場合、もう一方の手で患者の頭部を把持し、動きをコントロールする
頭部の動きと同調した神経モビライゼーション
画像引用:頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法
参考文献
頚椎捻挫(むちうち損傷)と徒手理学療法 (理学療法学 第41巻第8号 622~629項 2014年 山内正雄)
肩関節周囲炎 炎症期・拘縮完成期・ディステンション・マニピュレーション・モビライゼーション・ストレッチ
肩関節周囲炎
- 肩関節周囲炎は、微細損傷などの炎症を起こすきっかけ
⇒ 炎症反応の進行と収束
⇒ 関節包や靭帯の瘢痕変性
⇒ 二次性拘縮による組織編成と進行し、凍結状態に至る
- 炎症反応に拍車をかけることなく瘢痕変性を最小に抑えられたときは凍結状態に至らないが、不幸にも凍結状態に至った場合、その後の自然緩解に半年から1年を要する
1:病期と介入の考え方
1.発症直後 (炎症反応第1期)
- 肩関節周囲炎は原因不明が特徴のひとつとされる
- 加齢による変性を考えると、上肢の自重のみでも過負荷になり得る
- 何気ない日常の動作が微細損傷を引き起こしている可能性が高い
- この時点で安静が確保できればすぐに収束に向かうものと思われる
- 痛みを無視せず、使わない配慮が必要である
2.炎症最盛期 (炎症反応第2期)
- 炎症反応は、組織を修復するには必要な反応である
- しかし、炎症に拍車をかけると、この後の瘢痕形成が重症化する
- いまだに『痛くても動かさないとダメ』と指導されるのが一般的で、炎症反応の収束が速やかに進まない原因がそこにあると思われる
- 痛みを伴わない強さの運動で可動域を維持することに主眼を置く
- 可動域の拡大は狙わない
3.炎症収束期 (炎症反応第3期)
- 一般的には、炎症反応が順調に進めば、受傷後7~10日で収束期が始まり痛みの緩和が加速する
- ここから修復(瘢痕化)が始まるが、炎症が遅延すれば瘢痕組織が多く作られることになり、凍結に至る原因となる
- 有害物質の除去と修復のために毛細血管が豊富に構築され、修復が進むにつれ減少していく
- メカニカルストレスを与えることなく、新生した毛細血管に豊富に血液を供給することに主眼を置く
- 痛みを伴うストレッチは行わない
4.拘縮完成期 (結合組織治癒過程の成熟期に相当)
- コラーゲン線維がタイプ3からタイプ1へ変化し伸張性に乏しい瘢痕組織になる
- 競技の凍結肩は、この瘢痕組織、二次性拘縮、滑液包の癒着による強固な拘縮である
- 全身麻酔下においてさえ可動域の最終域感は変わらない
- ストレッチに対する反応性はほぼないため、運動量による即自的変化は望めないが、炎症の再燃はないと考えて、伸張感を感じる程度のストレッチを行う
- もし、即時的に変化が出た場合、肩甲上腕関節以外の部位が変化したか、完成された拘縮ではなく、筋の防御収縮や痛みが制限因子であったと考えるべきである
- リモデリングのような変化を促すために、自動運動を多用したり、温熱療法を併用したりして血液循環や新陳代謝を高めることを考える
2:理学療法に併用される主な整形外科的治療
1.関節造影時のディステンション
- 肩の痛みを訴える患者では、肩甲下滑液包が閉塞している場合が多く、特に肩関節周囲炎患者では高率に認められる
- 腱板断裂の有無を確認することとあわせて、肩甲下滑液包の閉塞を開放することを目的に、関節造影とディステンションが行われる
- 関節造影剤と局所安麻酔剤をあわせて約20~25mℓを関節内に注入する
- 外転、内旋方向にマニピュレーション関節内圧が上昇し、その圧によって閉塞部位が押し広げられる
- 軟部組織が伸張されるわけではないので、直後の可動域にはほとんど変化がないが、関節液が広がる空間が増えたことで、一気に内圧が下がるため、痛みが軽減し、この後の運動療法が行いやすくなる
関節造影時のディステンション
画像引用:肩の運動療法の基本と実際
2.全身麻酔下でのマニピュレーション
- 保存療法に費やす時間がとれない患者や可動域改善に難渋する患者に対して、滑液包の癒着を剥離することと下部関節包の離開を狙って全身麻酔下でマニピュレーションが行われることがある
- 実施後はほとんど痛みを訴えず大幅に可動域が改善する患者から、著名な腫脹を伴って実施前と変わらない硬さに戻る患者までさまざまである
- 後者の場合も、腫脹の軽減に伴って可動域が改善していく
3.観血的癒着剥離術 + マニピュレーション
- 腱板の不全断裂を合併している場合や、極度の可動域制限がある場合、観血的な方法が選択されることもある
- 肩峰下滑液包、烏口下滑液包の癒着剥離、烏口上腕靭帯の起始部周辺での切離に加えて、挙上方向や回旋のマニピュレーションで、主に下部関節包の離開を行ってようやく可動域が得られる
3:可動域運動を行う際の工夫
1.肩峰下滑液包、烏口下滑液包、三角筋下滑液包の機能維持・改善
- 肩峰下滑液包と烏口下滑液包は、烏口肩峰アーチと腱板の間の滑動性を保障する
- 三角筋下滑液包は前2者と同じ深さにあり、より遠位部で上腕骨と三角筋の間の滑動性を保障する
- 痛みの最盛期にはこれらの滑液包に水腫が存在する患者がいる
- いずれも肩の可動域や痛みに直結する機能であり、癒着の増悪を防ぎたい
- 肩峰下滑液包に対しては、烏口肩峰アーチのすぐ遠位で、徒手的に三角筋をずらすことで腱板との間隙を滑動させる
- この操作を挙上角度を変えて行う
- 烏口下滑液包は、烏口突起・烏口突起を起始とする筋の腱と肩甲下筋腱との間にあるので、三角筋をずらしても滑動させられない
- 上腕骨頭を背側へ押すようにモビライゼーションすることで間隙を広げながら、肩水平内転や内旋方向への関節運動を行う
- 三角筋滑液包は、肩峰下滑液包より遠位部で徒手的に三角筋をずらすことで上腕骨との間隙を滑動させる
肩峰下滑液包のモビライゼーション
画像引用:肩の運動療法の基本と実際
2.肩峰下インピンジメントがある場合
①解剖頸軸回旋を利用する
解剖頸軸回旋模式図
画像引用:肩の運動療法の基本と実際
- 肩甲骨臼蓋面に上腕骨頭の解剖頸軸を垂直に立てたアライメントを保ったまま、解剖頸軸のスピン(解剖頸軸回旋)を行うと、大・小結節は烏口肩峰アーチの下に入り込まず、アーチと平行に動くことになる
- よって、インピンジメントすることなく最終可動域までストレッチができる
- 正常可動域(肩甲骨を固定した場合)は外旋方向に約75°、内旋方向に約55°である
- 臨床では側臥位で行う
- 135°の頚体角を相殺するために45°外転位、かつ30°の後捻角を相殺するために30°外旋位とし、肘と手の高さを変えることなく肩の挙上・下垂を行うと、肩の中では解剖頸軸回旋が生じている
解剖頸軸回旋を行うための肢位
画像引用:肩の運動療法の基本と実際
②プレスアウトストレッチ
- 目的の筋をやや緊張下に置き、奥の空間に押し出すように徒手的に操作して、筋を押し伸ばすように直接ストレッチする
- 骨運動を行わないので、インピンジメントがある患者や、炎症が激しいためにわずかな運動でも痛みが出る患者にも応用できる
- ただし、押し出すための空間が必要になるため、適応できる筋が限定される
- 大円筋、大胸筋、小胸筋、上腕三頭筋長頭に適応できる
大円筋に対するプレスアウトストレッチ
画像引用:肩の運動療法の基本と実際
参考文献
肩の運動療法の基本と実際 (Jpn Rehabil Med Vol.54 No.11 2017 立花孝)
尺骨神経麻痺 運動枝・知覚枝・近位尺骨神経障害・中位尺骨神経障害・遠位尺骨神経障害・鷲手・フロマン徴候・尺骨神経の走行・尺骨神経管
- 尺骨神経(第8頚神経と第1胸神経)
- 尺骨神経の外傷性障害と圧迫性症候群
- 尺骨神経障害による鷲手
- フロマン徴候の陽性
- 腕神経叢を出た後の尺骨神経の走行
- 上腕の主要な神経欠陥経路:内側上腕二頭筋溝
- 上腕中央部での断面
- 尺骨神経管の出入り口と壁
- 参考文献
尺骨神経(第8頚神経と第1胸神経)
運動枝
筋枝(尺骨1/2から直接)
- 尺側手根屈筋
- 深指屈筋(尺側1/2)
筋枝(浅枝より)
- 短掌筋
筋枝(深枝より)
- 小指外転筋
- 小指屈筋
- 小指対立筋
- 第3・4虫様筋
- 掌側骨間筋
- 背側骨間筋
- 母指内転筋
- 短母指内転筋(深頭)
知覚枝
関節枝
- 肘関節包
- 手関節包
- 中手指節関節包
尺骨神経手背枝(終枝:背側指神経)
尺骨神経掌枝
固有掌側指神経(浅枝より)
総掌側指神経
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
尺骨神経の外傷性障害と圧迫性症候群
- 尺骨神経麻痺は、最も一般的な末梢神経麻痺である
- 尺骨神経麻痺の特徴は “鷲手” と呼ばれる変形である
- 骨間筋の障害により、中手指節関節において指が過伸展し、近位・遠位指節間関節おいてはやや屈曲している
- この変形は示指と中指では顕著ではない
- なぜなら、正中神経によって支配されている第1・2虫様筋が、示指と中指の変形を部分的に代償するからである
- 母指内転筋が障害され、長母指伸筋と母指外転筋が優位になるため、母指は著名に過伸展する
- 骨間筋は2~3ヶ月で萎縮する
- この現象は第1骨間筋で最も顕著に現れ、小指球の萎縮も伴う
- 知覚障害は、手の尺側に発生する
- 薬指の尺側半分と小指の全部などである
近位尺骨神経障害
- 外傷性の障害は通常、肘関節レベルで、尺骨神経溝内の尺骨神経が圧迫されたり(例えば、肘掛けによる腕への圧迫など)、尺骨神経が尺骨神経溝から脱出したり、骨折による関節の障害などによって起こる
- 肘関節の変性や炎症により引き起こされる
- 尺骨神経溝での慢性的圧迫、または肘関節の反復性屈曲による慢性的牽引(尺骨神経溝症候群)
- 尺側手根屈筋の二頭筋に挟まれることによる圧迫(肘部管症候群)
- 臨床症状:鷲手、知覚障害
中位尺骨神経障害
- 手首における外傷(例えば、裂傷)
- 尺骨神経管における掌側手根腱、豆状骨、屈筋支帯の間の線維骨化した菅による慢性圧迫(尺骨神経管症候群)
- 臨床症状:小指球領域を除いた部分の鷲手、知覚障害(掌枝は正常である)
遠位尺骨神経障害
- 手掌における尺骨神経深枝への慢性的圧迫(例えば、空気ハンマーやそのほかの道具による)
- 臨床症状:知覚障害を伴わない鷲手
尺骨神経障害による鷲手
- 典型的な鷲手のほかに、骨間筋の萎縮により、中手の骨間領域が陥凹することがある
- 知覚障害は多くの場合、小指に限定される(尺骨神経のみで支配されるため)
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
フロマン徴候の陽性
- フロマン徴候の陽性所見は、母指内転筋の麻痺を示す
- 母指と示指の間で紙片を強く持つようにと伝えると、患者は、麻痺している尺骨神経支配の母指内転筋ではなく、正中神経支配の長母指屈筋を使わざるをえなくなる
- したがって、指節間で母指が屈曲する時に、この徴候は陽性となる
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
腕神経叢を出た後の尺骨神経の走行
- 尺骨神経は、腕神経叢の内側神経束の続きとして腋窩を出て、最初は上腕二頭筋内側溝を下行する
- 上腕の中程で、内側上腕筋間中隔を貫き、伸側に至る
- その後、内側上腕筋間中隔と上腕三頭筋内側頭の間を通り肘部に至り、上腕骨内側部の、内側上顆の後面にある骨製の尺骨神経孔を通る
- その後、尺側手根屈筋の両頭間を通って前腕の屈側に向かい、同筋の下を手首まで走る
- 手では豆状骨の橈側で屈筋支帯の尺骨神経管を通り、手掌の表面に至り、浅枝と運動性の深枝に分かれる
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
上腕の主要な神経欠陥経路:内側上腕二頭筋溝
- 内側上腕二頭筋溝は、上腕内側の皮下の縦走する溝であり、上腕二頭筋、上腕筋、内側上腕筋間中隔で境されている
- 内側上腕二頭筋溝は、腋窩から肘窩までの上腕の主要な神経血管経路を示している
- 最も浅部にあるのが内側前腕皮神経で、尺側皮静脈とともに尺側裂孔を通って出ていく
- 最も内側にあるのが尺骨神経で、最初は、内側上腕筋間中隔の上を走行する
- 上腕の下1/3で、尺骨神経は内側上腕筋間中隔を貫き、中隔の背側にまわり、上腕骨の内側上顆の尺骨神経溝に入っていく
- 内側上腕二頭筋溝の深部には、上腕の主要静脈である上腕動脈が走っており、腋窩から肘窩まで正中神経に伴行する
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
上腕中央部での断面
- 尺側裂孔(尺側皮静脈が、上腕二頭筋の内側で深部筋膜を貫くところ)は、この断面より遠位(下位)である
- そのため、尺側皮静脈と内側前腕皮神経は筋膜下にある
- 尺骨神経と尺側側副動脈は、既に内側上腕二頭筋溝を離れて、内側上腕筋間中隔を貫いており、中隔の後面に位置している
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
尺骨神経管の出入り口と壁
- 尺骨神経管の天井は、皮膚と皮下脂肪、および掌側手根靭帯(近位)または、短掌筋(遠位)で構成されている
- 尺骨神経管の背側は屈筋支帯(横手根靭帯)と豆鉤靭帯で境されている
- 尺骨神経管への入り口(近位裂孔)は、掌側手根靭帯の下の豆状骨のレベルで始まる
- 出口は有鉤骨鉤レベルで、豆状骨と有鉤骨鉤の間を横方向に伸びる三日月型の腱弓(遠位裂孔)である
- 有鉤骨鉤には小指屈筋が付着する
- 尺骨動脈と尺骨神経の深枝は、研究の深部を通過し、豆鉤靭帯の上を手掌中央に向かう
- 尺骨動脈と尺骨神経の浅枝は、研究の上を遠位に向かい、短掌筋の深部に入る
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
参考文献
プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 (医学書院 2009年6月15日)
橈骨神経麻痺 運動枝・知覚枝・近位橈骨神経障害・中位橈骨神経障害・回外筋症候群・下垂手・橈骨神経の走行・三頭筋裂孔・橈骨神経溝
- 橈骨神経
- 橈骨神経の外傷性障害と圧迫性症候群
- 近位・中位橈骨神経障害による下垂手
- 腕神経叢の後束を出た後の橈骨神経の走行
- 三頭筋裂孔
- 橈骨神経溝における橈骨神経の走行
- 肘窩深部の解剖
- 橈骨神経と回外筋の関係
- 参考文献
橈骨神経
運動枝
筋枝(橈骨神経から)
- 上腕筋(部分的)
- 上腕三頭筋
- 肘筋
- 腕橈骨筋
- 長橈側手根伸筋
- 短橈側手根伸筋
深枝(終枝:後骨間神経)
- 棘筋
- 指伸筋
- 小指伸筋
- 尺側手根伸筋
- 長母指伸筋
- 短母指伸筋
- 示指伸筋
- 長母指外転筋
知覚枝
関節枝(橈骨神経から)
- 肩関節包
関節枝(後骨間神経から)
- 橈骨手根関節包
- 橈側4ヶ所の中手指節関節
後上腕皮神経
下外側上腕皮神経
後前腕皮神経
浅枝
- 背側指神経
- 尺側交通枝
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
橈骨神経の外傷性障害と圧迫性症候群
- 橈骨神経はその走行のどのレベルでも外傷や圧迫によって障害されることがある
- その臨床症状は障害部位によって異なる
- 一般的には、障害部位がより近位であればあるほど、より多くの伸筋が障害を受けることになる
- 近位のレベルでの橈骨神経障害の特徴的な症状は、下垂手である
- この場合、患者は手首を伸展したり、中手指節関節を伸ばしたりすることができなくなる
- 付随的に知覚障害(疼痛、感覚異常、しびれなど)が生じる部位もある
- 特に、手背の橈側の浅枝だけが支配する領域(母指と示指の間の第1骨間領域)では、知覚障害が顕著である
近位橈骨神経障害
腋窩への慢性的な圧迫(長期の松葉杖の使用など)
- 臨床症状:上腕三頭筋の障害を伴った典型的な下垂手(および知覚障害)
橈骨神経溝(ラセン菅)レベルでの上腕骨骨折による障害
- 臨床症状:一般的には、上腕三頭筋の障害を伴わない典型的な下垂手。なぜなら、上腕三頭筋を支配する筋枝は、橈骨神経が橈骨神経溝に入る前に分岐するからである。しかし、知覚障害は残存する。
橈骨神経溝における慢性的な圧迫
- 受傷機転:睡眠中や全身麻酔中の不適切な肢位、骨折後の仮骨の過増殖、上腕三頭筋の外側頭からの腱の伸張。公園のベンチ麻痺は、公園のベンチの背もたれを越して腕を垂らした時によく起きる。
- 臨床症状:上腕三頭筋の障害を伴わない下垂手で、知覚障害も存在する。予後は良好で、数日で全快する。
中位橈骨神経障害
- 圧迫部位:橈骨神経が外側上腕筋間中隔を通過するところや、橈骨神経管の中での慢性的な圧迫(例えば、横切る血管による場合や結合組織性の隔壁による場合)
- 臨床症状:知覚障害を伴った下垂手
遠位橈骨神経障害
回外筋症候群
- 圧迫部位:橈骨神経深枝が回外筋菅に入る部位での回外筋の浅部の鋭い腱での圧迫
- 臨床症状:典型的な下垂手や知覚障害はみられない。回外筋菅に入る前に、深枝からは純粋な知覚性の浅枝や回外筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋などへの筋枝が既に分岐しているため。短母指伸筋、長母指伸筋、指伸筋、示指伸筋、尺側手根伸筋などに関与した麻痺が起こる。
骨折や橈骨の脱臼による橈骨神経深枝に対する外傷性病変
- 臨床症状:下垂手や知覚障害はみられない
近位・中位橈骨神経障害による下垂手
- 橈骨神経が障害されると、患者は手首を能動的に伸展することが不可能となり、下垂手と呼ばれる状態になる
- 下垂手のほかにも手背橈側、母指の伸展、示指、中指の橈側の近位指節間関節までの部分での知覚消失がみられる
- 知覚障害はしばしば、純粋に橈骨神経だけに知覚支配を受ける領域(母指と示指間の骨間領域)に限局することがある
腕神経叢の後束を出た後の橈骨神経の走行
- 橈骨神経は腕神経叢の後束の直接的な続きである
- 橈骨神経は上腕深動脈と伴行しつつ、橈骨神経溝の中を通って上腕骨の背面を回る
- 上腕骨外側上顆の約10㎝近位で外側上腕筋間中隔を貫通した後、橈骨神経は腕橈骨筋と上腕筋の間(橈骨神経管)を遠位に肘に向かって走行し、そこで深枝と浅枝に分かれる
- 深枝は回外筋の浅部と深部の間(回外筋菅)を通り、手首まで後骨間神経として走行する
- 浅枝は橈骨動脈と伴行して腕橈骨筋に沿って前腕を下行し、前腕下1/3の高さで橈骨と腕橈骨筋の間を通って屈側に出て、手背橈側と橈側の2本半の指(母指、示指、中指の橈側半分)の背側の近くを主に支配する
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
三頭筋裂孔
- 上腕骨、上腕三頭筋長頭、大円筋によって三頭筋裂孔が作られる
- そこに、橈骨神経と上腕深動脈が通過する
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
橈骨神経溝における橈骨神経の走行
- 橈骨神経溝の遠位端で、橈骨神経は外側上腕筋間中隔を貫き、上腕骨の前面に出て、引き続き橈骨神経管を経て肘窩に至る
- 上腕三頭筋への橈骨神経の枝は、橈骨神経溝より近位で起こる
- そのため、橈骨神経溝のレベルでの上腕骨骨折によって橈骨神経が障害されても、上腕三頭筋への橈骨神経の枝は障害部位より近位で分岐するため上腕三頭筋は機能する
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
肘窩深部の解剖
- 橈骨神経あ橈骨神経管を通った後、知覚性の浅枝と橈側の筋群への筋枝を出し、回外筋に入っていく
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
橈骨神経と回外筋の関係
- 橈骨神経は、回外筋の少し近位で、運動性の深枝と知覚性の浅枝に分かれる
- この位置関係により、運動性の深枝の絞扼や圧迫が起きやすくなる
- その結果、運動性の深枝で支配されている伸筋群(および長母指外転筋)の選択的麻痺が生じる
画像引用:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系
参考文献
プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 (医学書院 2009年6月15日)
姿勢筋と相動筋 マッスルインバランスの影響
不良な姿勢
- 不良な姿勢は多くの異なった要因によって生じる
- 身体、筋骨格システムの変形や不良な負荷でさえも要因となる
- 座位は長い時間同じ姿勢を保持しているので、ほとんどの人が抗重力能力や重心位置を修正する能力が低下している
疼痛スパズムサイクル
- 虚血は不良姿勢の初期における主要な疼痛原因となる
- 筋への血流は、ゼロから50~60%の収縮強度に達するまでの間では筋収縮や筋活動レベルと反比例する
- 10%を超える等尺性収縮ではホメオスタシスを維持できないと報告されている
- 頭部の重量はおおよそ身体重量の約7%である
- これは、体重80㎏の人では5~6㎏である
- もし、頭部や肩が前方へ移動したら、アライメントは崩れ、頚部伸筋の活動が劇的に増加し、その血流量は抑制されることになる
- 約2.5㎝の頭部前方移動で約4.5㎏の頭部重量が増加する
- この持続した等尺性収縮では筋が嫌気性作業を強いられ、乳酸が増加して蓄積する
- もし、安静状態が与えられなければ、虚血筋では反射性収縮が始まる
- この場合、疼痛スパズムサイクルへ突入する
- 神経筋システムは、遅筋線維と速筋線維から構成され、各々は身体機能における役割を持つ
- 遅筋線維(タイプⅠ)は、姿勢保持のような低レベル活動を維持する
- 速筋線維(タイプⅡ)は、力強く粗大的な運動を行う
- これらの筋群は、緊張筋と相動筋に分類される
緊張(姿勢)筋と相動筋
- 筋は機能的に緊張筋と相動筋に分類される
- 緊張筋は屈筋群から成り、反復する、あるいはリズム的な活動や協調された屈筋の活動を含む
- 一方で、相動筋は伸筋群から成り、生まれて間もなく出現する
- 相動筋は重力に対して遠心性に作用し、伸筋協調活動が含まれる
姿勢優位筋群
肩
- 大胸筋
- 小胸筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部線維
- 頚部伸筋群
- 斜角筋
- 後頭下筋群
- 胸鎖乳突筋
前腕
- 手関節屈筋群
体幹
- 腰部と頚部伸筋群
- 腰方形筋
骨盤
- 大腿二頭筋
- 大腰筋
- 腸脛靭帯
- 大腿直筋
- 内転筋群
- 梨状筋
- 大腿筋膜張筋
下腿
- 腓腹筋
- ヒラメ筋
相動優位筋群
肩
- 菱形筋
- 僧帽筋中部、下部線維
- 前鋸筋
- 上腕三頭筋
- 頚部屈筋群
- 舌骨上筋群
- 舌骨下筋群
- 頚長筋
前腕
- 手関節伸筋群
体幹
- 胸椎伸筋群
- 腹筋群
骨盤
- 内側広筋
- 外側広筋
- 大殿筋
- 小殿筋
- 中殿筋
下腿
- 前脛骨筋
- 腓骨筋
筋の延長と短縮
- 安定機能(姿勢)を持つ筋は、負荷が生じた場合に短縮する傾向がある
- 相動筋は伸張に続いて抑制される
- 短縮する傾向のある筋群は主要な姿勢筋であり、殿筋群弱化の潜在的抑制に関連する
- ある筋は短縮するパターンの役割に例外がある一方、他の筋は延長する
- 例えば、斜角筋は元来姿勢筋であるとする一方、相動筋でもあるといわれる
- 遅筋線維と速筋線維が混在している特徴がある
- 例えば、ハムストリングスは姿勢安定機能を持ち、かつ多関節筋であり、短縮しやすいことでも有名である
姿勢筋の延長と短縮
機能 :姿勢
筋の種類:遅筋線維
疲労 :遅い
反応 :短縮
相動筋の延長と短縮
機能 :運動
筋の種類:速筋線維
疲労 :早い
反応 :遅延
姿勢筋群
- 緊張筋としても知られている
- 姿勢筋は抗重力筋であり、多くは姿勢維持に含まれる
- 遅筋線維は姿勢を維持するために適している
- すなわち、持続収縮するが一般的には短縮し、その後に硬化する
- 姿勢筋は、疲労に対応するため小さい運動ニューロンにより支配されている遅筋線維である
- よって、閾値は低く、これは神経活動が相動筋の閾値に達する前に発揮されることを意味する
- この神経活動の枠組みは、姿勢筋が相動筋(拮抗筋)を抑制し、これにより収縮や活動を減少させる
相動筋
- 運動は相動筋の主な機能である
- これらの筋はしばしば姿勢筋の表層にあり、多関節筋であることが多いが、速筋線維が優位であり、随意的な反応調節が行われている
- 短縮、硬化した姿勢筋は、しばしば相動筋に関連する筋群を抑制し、これらの筋機能は低下する
- 硬化傾向のある筋と低下傾向のある筋との関連は一方向性である
- 硬化傾向のある筋は硬化し、その後、強化される
- これは、低下傾向のある筋が伸張され、その結果として低下する
- 例えば、大腰筋や大殿筋、あるいは大胸筋・小胸筋や菱形筋について、このような関係がある
マッスルインバランスの影響
- シェリントンの相反神経抑制の法則を通して阻害された主動作筋だけでなく、通常それらが関連しない運動においても、硬化した筋や過活動筋になることを指摘した
- これは、マッスルインバランスを正しい方向へ修正しようとする場合、マッスルエナジーテクニックで過活動筋の伸張を試み、伸張された筋の強化を行う
- 硬化した筋により、関節は機能障害が生じる位置へ移動する
- これは、低下した筋により引き起こされる
- もし、マッスルインバランスへの介入がされなかったら、身体は代償的姿勢を矯正される
- そして、筋骨格システムにストレスを与えることになり、結果的には組織を破壊、刺激し、障害を与える
- マッスルインバランスは、最終的には姿勢に影響を与える
- 姿勢筋は少ない神経支配領域であり、よって低い閾値である
- 相動筋の活動前に姿勢筋が活動するため、姿勢筋は相動筋を抑制し、潜在的収縮能や活動を減少させる
- 筋が不良、あるいは反復した負荷を受けやすいとき、姿勢筋は短縮して相動筋は低下する
- よって、張力関連が変化する
- 結果とて、周囲の筋が軟部組織や骨格を移動させるために姿勢は直接影響を受ける
『姿勢』に関する復習をしたい方はこちら
⇩⇩⇩
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
仙腸関節の安定性 フォームクロージャ・フォースクロージャ・ニューテーション・カウンターニューテーション・仙結節靭帯・長後仙腸靭帯・筋膜・筋群
仙腸関節の安定性に関わる2つの要素
- 仙腸関節の安定性に影響を与える主要な要素は2つある
- ひとつは、フォームクロージャーである
- もうひとつは、フォースクロージャーである
- これら2つのメカニズムは、『セルフロッキングメカニズム』の理論を支持するものとして知られる
- フォームクロージャーとフォースクロージャーとは、セルフロッキングメカニズムにおける自動と他動の違いである
- 仙腸関節の剪断力は、特徴的な解剖学的形状(フォームクロージャー)と、荷重環境(フォースクロージャー)に適応した筋や靭帯によって生じる圧迫力のコンビネーションによって抑制される
フォームクロージャー
- フォームクロージャーは仙骨と寛骨の解剖学的アライメントから成り立っており、仙骨は骨盤の両翼の要である
- 仙腸関節は大きな負荷を伝達するため、その形態は負荷に適応する
- 仙腸関節面は比較的平坦であるため、この形状は圧迫力や屈曲モーメントを分散している
- しかし、平坦な関節面は剪断力による障害を受けやすい
- 仙腸関節は、3つの方向からの剪断力から保護されている
- まず第一に、仙骨が三角形の楔状であり、両側に位置する寛骨により安定化されている
- 第二に、他の関節と比較して関節軟骨は滑りにくく、規則的な形状ではない
- 第三に、仙腸関節の関節軟骨を覆う骨は関節まで覆われている
- こうした特徴的な構造は、仙腸関節に圧迫力が加わった場合に、それを安定化させることと密接な関連がある
- 仙腸関節が圧迫されるメカニズムは、フォースクロージャーと呼ばれる
- 仙腸関節が圧迫、摩擦の増加によりフォームクロージャーが強化される
フォースクロージャー
- フォースクロージャーは以下のように行われる
- 第一の法則は、仙骨のニューテーションである
- これは、仙骨底の前傾か寛骨の後方回転によって起こる
- これらいずれかの運動により、仙結節靭帯、仙棘靭帯、そして骨間仙腸靭帯の連結はフォースクロージャーを支持し、仙腸関節の圧迫力を高める
- 一方、カウンターニューテーションでは上記の靭帯の緊張が低下するため、仙腸関節の安定性は低下する
- 寛骨と仙骨は1/3の面積しか接触していないため、靭帯が仙骨と寛骨の安定した連結の役目を果たしている
- 第二の法則は、体幹の深層にある筋と表層にある筋の活動、または収縮によって支持されるフォースクロージャーである
仙腸関節の安定性
- いくつかの靭帯・筋・そして筋膜システムは、骨盤のフォースクロージャーに貢献している
- そして、これらは骨関節靭帯システムとして総合的に説明される
- 身体は効率的に作用し、寛骨と仙骨の剪断力は適切に調節され、負荷は体幹・骨盤・下肢へと伝達される
- 仙腸関節のフォースクロージャーには、腹直筋、縫工筋、腸骨筋、大殿筋、そしてハムストリングスのような筋も仙腸関節のモーメントに十分な影響を与えるレバーアームとなる
- これらの筋の作用は、開放運動連鎖あるいは閉鎖運動連鎖であるか、また骨盤が十分に固定されているかによる
- いくつかの大殿筋線維は、胸腰筋膜として知られる結合組織と同様、仙結節靭帯に付着している
- 胸腰筋膜を介した大殿筋と反対側の広背筋の連結は、後斜走筋膜スリングとして知られている
- 大殿筋の筋力低下あるいは潜在的な筋活動以上による後斜走筋膜スリングの機能低下によって、仙腸関節が損傷しやすくなることが示されている
- 大殿筋の低下、あるいは潜在的な筋活動以上は歩行・走行時において、反対側の広背筋の代償的過活動を引き起こし、これが仙腸関節への負荷となるため、荷重関節は代償的動作を減少させる自己安定性が要求される
仙骨のニューテーションとカウンターニューテーション
- 仙骨のニューテーションが仙骨底の前下方運動、カウンターニューテーションは後上方運動である
- 仙骨のニューテーションは、片脚立位では仙腸関節がロックされるために必要である
- 仙骨のニューテーションができない場合は、片脚立位の不安定とトレンデレンブルグ歩行を引き起こす
- 一方、仙骨のカウンターニューテーションでは、仙腸関節がロックされるように寛骨の前方回旋と股関節伸展が必要となる
- 仙腸関節をロックできないこと、あるいは仙骨のカウンターニューテーションの異常は、腰椎や骨盤の屈曲が代償的に増加し、腰部の永続的な不安定が生じる
フォースクロージャー靭帯
- フォースクロージャーに影響を与える主要な靭帯は以下の通りである
- 仙結節靭帯(仙骨から坐骨結節へ付着し、鍵靭帯あるいは誘導靭帯と呼ばれる)
- 長後仙腸靭帯(第3、第4仙椎からPSISまで付着する)
- これれらの靭帯が付着している骨の動き、あるいは筋の収縮によって靭帯の緊張あるいは伸張が生じた場合、関節面の圧迫力は増加する
- 仙結節靭帯の緊張が増加することができるのは以下の3通りである
- 仙骨に対する相対的な寛骨の後方回旋
- 寛骨に対する相対的な仙骨のニューテーション
- 仙結節靭帯に直接付着している4筋のうち、ひとつの筋収縮、すなわち大腿二頭筋、梨状筋、大殿筋、多裂筋
- 仙骨のカウンターニューテーション、寛骨の前方回旋を抑制するための主要靭帯は、長後仙腸靭帯である
- 仙腸関節は圧迫力が少なく固定されないので、これらの靭帯は骨盤が水平あるいは垂直方向の負荷に対して不安定となる
- 長後仙腸靭帯は疼痛の原因となり、PSISの高さのすぐ下で触知できる
仙腸関節を安定させる構造
筋膜
- 筋膜が関節周囲を走行すると関節が安定する
- 仙腸関節領域でも筋膜が関節を安定させている
- この領域の筋膜は上下から伸びてきて、仙腸関節の上側で交差するように走行し、互いに絡み合っている
胸腰筋膜
- 胸腰筋膜は細い線維性構造を有し、その中で縦横に走行する線維が互いに絡み合っている
- 次の3つの層からなる
- 後層:脊椎および仙椎の棘突起と棘上靭帯に停止する。広背筋および下後鋸筋の腱膜に伸びて、腸骨稜外唇にいたり、仙骨に向かって走行する
- 中間層:腰椎横突起先端とその横突間靭帯に向かって伸びる。最下位肋骨および腸骨稜で固定される
- 前層:腰椎の横突起底、腸腰靭帯、腸骨稜に停止する。上側から脊柱起立筋が、外側から腹筋群が筋膜に伸びる
『胸腰筋膜の起始・停止』などについて復習したい方はこちら
⇩⇩⇩
殿筋膜
- 腸骨稜に停止し、中殿筋を超えて走行する
- 殿筋膜は大殿筋周辺で筋繊維束につながる
- 線維は仙骨の停止部で胸腰筋膜の線維と絡み合う
大腿筋膜
- 靭帯繊維の一部も殿筋膜を超えて仙腸関節へ向かう
- これは胸腰筋膜が大転子を回旋点として利用し、上腿外側部に沿って腸脛靭帯の一部になっている
靭帯
骨間仙腸靭帯
- 骨間仙腸靭帯は関節包のすぐ後側にあり、さらに緻密に仙骨溝を完全に満たすことから、関節安定に非常に重要な機能を有する
- 線維は短く、運動に応じて必ず一部が収縮する
仙結節靭帯と仙棘靭帯
- 仙腸関節は前傾方向に運動する傾向が強い
- したがって、非常に強靭なこの2つの靭帯が前傾方向への運動を安定させている
腸腰靭帯
- この靭帯は前仙腸靭帯と結合して、仙腸関節前側を安定させている
- 腸骨に伸びる線維の補助により、後下方への転移を阻止する
筋群
大殿筋
- 大殿筋は背側で仙腸関節を直接覆う唯一の筋である
- 関節の安定性を向上させている
- 線維は関節線に対してほぼ直角に走行し、関節を圧迫する
- 上側は胸腰筋膜、腸骨、仙骨、尾骨、仙結節靭帯と結合して骨盤帯に大きな影響を与えている
『大殿筋の起始・停止』などについて復習したい方はこちら
⇩⇩⇩
梨状筋
- 仙腸関節の下側を覆う筋である
- 関節に対してほぼ水平に走行しており、仙骨を牽引して腸骨に近づけることで関節を圧迫する
『梨状筋の起始・停止』などについて復習したい方はこちら
⇩⇩⇩
脊柱起立筋
- 脊柱起立筋の腱繊維は大半が仙骨溝の中央部の高さに停止し、仙骨尖にいたるのはわずかな長い線維のみである
- この長い線維が仙結節靭帯と癒合する
『仙腸関節の運動』について復習したい方はこちら
⇩⇩⇩
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)