慢性腰痛症における体幹機能とアプローチ 内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ・骨盤変位とアプローチ
腰痛症における体幹機能のアプローチ
- 腰痛症には器質的要因、機能的要因がある
- いずれの場合も体幹筋、股関節周囲筋の機能低下が予測される
- 疼痛が認められる場合、筋は疼痛に適応するといわれている
- 疼痛のある筋が求心性収縮する時、その収縮力を低下させ、筋録を十分発揮させないことで損傷部位を保護する
- これらの適応によって異なる損傷部位へのストレスを軽減させる
- その結果として、疼痛筋の筋力低下や疼痛部位の関節可動域制限を来し、二次的問題を抱えることになる
- ここでは、内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ、骨盤変位とアプローチについて述べる
内腹斜筋の骨盤安定化機能とアプローチ
- 仙腸関節は、中央にある仙骨を左右の寛骨で挟んでいる構造である
- 仙腸関節の関節面が平坦であることから、立位姿勢で一側下肢への荷重の増大により剪断力が増大する
- 内腹斜筋は骨盤内で水平方向の筋線維を有しており、この剪断力に対し側方から圧縮させる力にて骨盤を安定させる作用がある
- そのため、荷重時に内腹斜筋の筋活動が低下し、骨盤に不安定性がある場合には、内腹斜筋の骨盤安定化機能を向上させることが重要である
- 腰痛症患者では、内腹斜筋に機能低下を呈することが多く、仙腸関節が不安定になりやすい
- 結果として、仙腸関節の偏位をきたすことになる
- 反対に、仙腸関節の偏位が内腹斜筋の機能低下をきたすことも考えられる
- したがって、徒手的療法評価によって仙腸関節に偏位があったとしても、内腹斜筋の機能が低下していればモビライゼーション実施による改善が困難になり、慢性化しやすくなる
- 臨床的には、骨盤前傾または後退の偏位がある場合、荷重時の内腹斜筋の筋活動が低下しやすく、荷重時における仙腸関節安定化機能が低下している場合が多い
- その際、骨盤前傾の要因が腸腰筋の短縮である場合、骨盤モビライゼーションと腸腰筋のストレッチを併用した治療を選択する
- 骨盤前傾に対するアプローチおよび荷重時の内腹斜筋機能が改善したときに、骨盤安定化を図ったことになる
- このように、仙腸関節の偏位、内腹斜筋の機能、股関節や骨盤のアライメントなどを関連させながら治療法を展開していく
①立位での体重移動による内腹斜筋の促通
②座位における内腹斜筋の促通
③立位での一側下肢の前方ステップ
骨盤変位とそのアプローチ
- 骨盤は中央の仙骨と両側の寛骨から構成されており、寛骨は坐骨・恥骨からなる
- 骨盤に付着している筋の緊張程度や直接受けた衝撃などにより骨盤変位が生じる
- 体表上から触診可能な部位はASIS、PSIS、恥骨、坐骨である
- これらを触診することで左右の寛骨の位置関係を立体的にイメージする
- 仙骨は両側から梨状筋をはじめとする股関節外旋筋の起始部になっていることから、これらの筋緊張亢進がある場合、仙骨下部が側方に偏位しやすい
- さらに、仙骨は矢状面において前傾・後傾するが、これらの運動に支障がある時、体幹前傾や後傾において痛みが生ずることになる
- よって、仙骨の偏位についても評価・治療が必要になる時もある
アプローチ
①骨盤前傾に対するモビライゼーション
対象:骨盤の前傾
肢位:治療側を上にした側臥位
方法:
- 治療側の股関節・膝関節を屈曲させる。
- 非治療側上肢を軽く牽引して、体幹回旋位とする。
- 治療側の膝関節を治療者の両大腿にて挟み、両手にて対象の骨盤を把持する。
- 治療者の下肢の動きにより対象の股関節を屈曲し、それに伴い骨盤後傾のモビライゼーションを行う。
②骨盤後傾に対するモビライゼーション
対象:骨盤の後傾
肢位:治療側を上にした側臥位
方法:
- 治療側の股関節・膝関節を屈曲させる。
- 非治療側上肢を軽く牽引して、体幹回旋位とする。
- 治療側の膝関節を治療者の両大腿にて挟み、両手にて対象の骨盤を把持する。
- 治療者の下肢の動きにより対象の股関節を伸展し、それに伴い骨盤前傾のモビライゼーションを行う。
③恥骨前方変位に対するモビライゼーション
対象:恥骨前方変位
肢位:背臥位
方法:
- 治療側の恥骨上に治療者の手を添える。
- 非治療側の股関節、膝関節を屈曲させる。
- 非治療側の股関節・膝関節の屈曲に伴い骨盤後傾が生ずるが、この時、治療側の骨盤後傾によって恥骨が前方に挙上する。
- それに対し、治療者の恥骨上に置かれた手において、恥骨前方への動きを制限する。
④腸骨後方変位に対するモビライゼーション
対象:腸骨後方変位
肢位:背臥位
方法:
- 両股関節・膝関節を屈曲させ、治療者の大腿の上に患者の大腿下面をのせる。
- 治療側のPSISの下に治療者の手を入れ、非治療側のASISに他方の手を添えておく。
- 患者の下肢を治療側に倒すことで骨盤を治療側に回旋させる。
- このとき、治療側PSISを介して治療者の手にかかる圧が増大する。
- それに伴い、非治療側に添えた手で骨盤回旋により生ずるASISの前方の動きに制限を加える。
- 結果として、治療側骨盤の前方への動き、非治療側骨盤の後方への動きを同時に入れ、モビライゼーションを実施する。
⑤仙骨前傾に対するモビライゼーション
対象:仙骨前傾
肢位:腹臥位
方法:
- 仙骨下部に両手を重ねて添えておく。
- 患者側にゆっくりと体重をかけていく。
- それと同時に仙骨が後傾するよう力を加えていく。数回繰り返す。
⑥仙骨後傾に対するモビライゼーション
対象:仙骨後傾
肢位:腹臥位
方法:
- 仙骨下部に両手を重ねて添えておく。
- 患者側にゆっくりと体重をかけていく。
- それと同時に仙骨が後傾するよう力を加えていく。数回繰り返す。
⑦仙骨側方変位に対するモビライゼーション
対象:仙骨側方変位
肢位:腹臥位
方法:
- 偏位している側の仙骨側面に両側の母指を添えておく。
- 仙骨を正中方向にゆっくりと圧を加えていく。
- 数回繰り返す。
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)
上肢の運動器疾患における体幹機能とアプローチ 菱形筋の機能不全・小胸筋の短縮・脊柱筋と腹部筋の機能不全・上腕骨頭前方変位・翼状肩甲・外反肘
上肢の運動器疾患における体幹機能とアプローチ
- 運動器疾患の発生に関連する力学的負荷は『牽引』、『圧縮』、『剪断』の3つに集約される
- 生体には通常その3つの負荷が複合して加わっている
- 靭帯や筋などの軟部組織損傷は、直接的な打撲の場合を除いて牽引力によって生じ、骨軟骨損傷は牽引力、圧縮力、剪断力のいずれによっても生じる
- つまり、運動器疾患の病態を離開するためには、生体に生じている力学的負荷を特定できなければならない
- 力学的負荷の減少や分散は、それ自体がその負荷によって生じている症状の緩解や予防につながるものである
- 体幹が屈曲位を呈する状況では、肩関節のアライメントが変化し、肩関節屈曲・外転可動域が制限され、伸展可動域は増大する
- この伸展可動域は増大は、上腕骨頭が前方偏位したことによるもので、それによって肩関節前方での牽引力と後方での圧縮力が増大する
上肢のアライメント不良に関連する体幹機能
- 上肢の代表的アライメント不良の原因となるもので、共通しているものに菱形筋群の機能不全と、小胸筋の短縮がある
- 上肢の代表的アライメント不良にとって重要な体幹機能として、傍脊柱筋の筋緊張や筋活動、腹直筋や側腹部の筋の筋緊張や筋活動が挙げられる
菱形筋群の機能不全
- 菱形筋群は上肢のアライメントだけでなく、体幹機能を考える上でも非常に重要である
- 菱形筋群は、肩甲骨を介して肩甲帯を脊柱に連結し、肩甲帯の運動を安定化せせるだけでなく、様々な運動において脊柱に加わる外乱に抗しながら、脊柱の自由度を保つ作用をもっている
- この作用は骨盤帯における腸腰筋にもみられ、肩甲帯と骨盤帯が各々の運動を協調的におこない、脊柱を安定化させることを菱形筋-腸腰筋バランスとしている
- すなわち、菱形筋群の働きによって胸椎後方の自由度のある安定化が得られることと、腸腰筋の働きによって骨盤帯の機能的な運動が可能になることで、腰背部を含めた体幹機能が非常に安定して直立位を保持することが可能になる
- 具体的には、肩甲帯の肢位によって上位胸椎と頚椎、頭部の位置が決定され、上位胸椎の肢位を正すには肩甲帯の動きをコントロールすることが必要になる
小胸筋の短縮
- 小胸筋は、その短縮により肩甲骨を前傾・挙上・外転させ、上腕骨頭を対側に対して前方に変位させる
- これにより、肩甲帯は前方突出し、上位胸椎や頚部のアライメントに影響を及ぼし、さらに菱形筋群の活動が起こりにくくなるという悪循環を生じさせる
傍脊柱筋・腹部筋の機能不全
- 傍脊柱筋の機能不全によって、脊柱背部の筋緊張が低下し、脊柱の後弯が増強して骨盤が後傾しやすくなる
- 骨盤後傾により重心線が正常よりも後方に落ちた状態で脊柱の後弯が増強すると、さらに脊柱背部の筋活動が生じにくい状態となり、両側の肩甲骨は外転位をとり、肩甲帯のアライメント不良を引き起こす
- 一方、体幹の矢状面におけるアライメント不良に関係するのに対して、腹部筋の機能不全は体幹の前額・水平面アライメント不良に関係する
- なぜなら、一側のみの腹部筋が機能不全になることで体幹は同側に側屈し、それによって同側の肩甲骨は下制・外転位を呈し、肩甲帯のアライメント不良が惹起される
- また、腹部筋の機能不全は胸部の回旋に影響する
- 脊柱が直立した状態では脊椎の回旋可動域は大きいが、脊柱全体に後弯がみられる場合には椎体間の回旋が制限され、胸腰部移行部での代償や、胸部での体幹側屈、肩甲帯の下制が生じる
- 体幹回旋は腹部筋の緊張による腹圧の変化にも影響を受け、腹部筋の緊張が低い場合、側弯を伴った回旋運動を呈する
- このように、体幹筋に機能不全がある場合、一側の上肢を挙上していくと、挙上側に凸の側弯が生じる
代表的アライメント不良
上腕骨頭前方変位
- 上腕骨頭前方変位は、肩甲骨前方傾斜や肩関節内旋の程度が大きくなった場合に生じやすい
- 肩甲骨前方傾斜は、胸椎の後弯増強や骨盤後傾を伴う脊柱の全体的な屈曲により生じる
- また、小胸筋の短縮や、菱形筋群・僧帽筋中部線維の機能不全による肩甲骨内転不全によっても生じる
- 肩関節内旋の増大は、大円筋や広背筋の短縮および外旋筋の機能不全によって生じる
翼状肩甲
- 翼状肩甲は、肩甲骨が胸郭に固定されにくくなった状態である
- 前鋸筋や菱形筋群の機能不全および肩甲骨挙上筋の短縮によって生じる
外反肘
- 外反肘は肘関節の問題だけでなく、上肢を用いた動作時にみられる肩甲帯の下制や肩関節の外旋制限によっても生じる
- 外反肘に関連する肩甲骨の下制は、体幹が側屈した状態の誘因となり、外旋制限とともに日常生活における上肢の到達範囲を制限するものである
上肢のアライメント不良に関連する体幹機能とアプローチ
ウィンギングエクササイズ
- 脊柱の全体的な後弯を矯正しながら、肩甲骨を脊柱・体幹に引きつける菱形筋群と肩甲骨の上方回旋に重要な役割を果たす肩甲挙筋を優位に活動させるエクササイズである
- 翼状肩甲の改善と脊柱後弯を矯正・防止し、肩甲骨の内転安定性を高め、さらに肩甲骨の上方回旋を肩甲挙筋優位に行わせることである
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)
頚部と体幹機能に対するアプローチ 頭部と胸郭の位置関係・内腹斜筋による下部腹直筋の安定化・外腹斜筋による上部腹直筋の安定化・腹横筋による腹直筋の安定化
頚部と体幹機能に対するアプローチ
1.頚部と胸郭の位置関係
- 頚部は最上部に頭部があり、7つの頚椎から構成されている
- 頚椎の運動には屈曲、伸展、側屈、回旋があり、それぞれの動きに対し複数の関節が関与する
- 関節モビライゼーション個々の脊椎の可動性を評価することが可能であり、脊椎の可動性低下または過可動性について把握し疼痛との関連性について推察できる
- 頚椎以下には胸椎があり、肋骨とともに胸郭を形成している
- よって、頭頚部の運動の土台として胸郭が存在している
- そのため、胸郭の位置によって頚部の運動は影響されることになる
- 胸郭の真上に頭部が位置していない状態では、頭部と胸郭を連結しなければならず、必然的に頭部周囲筋の筋緊張は更新するか、もしくは頚椎の弯曲を強める結果となる
2.脊柱起立筋による胸郭の運動制御に対するアプローチ
- 頚部の運動機能に胸郭の位置関係が影響することから、頚部の運動機能を考える時には胸郭の運動制御機能を評価しなければならない
- 骨盤上にある脊椎および胸郭は、主に脊柱起立筋によって制御されている
- 胸郭を制動背うる脊柱起立筋は、最長筋であることから各部位の制御に対し最適な脊柱起立筋を選択し、制御できるか否かが重要になってくる
3.頚部周囲筋に対するアプローチ
- 頚部固有受容器は上部頚椎の頚部背側の高重力筋に多く存在し、特に頭板状筋、大後頭直筋、頭最長筋、頭半棘筋に集中している
- これらの筋の固有受容器からの情報は、主に脊髄網様体を経由し、前庭神経核にフィードバックされ、頭部運動の間、前庭神経核にインパルスを発射している
- そのため、頚部筋や関節の障害により、頚部固有受容器に異常興奮が生じた場合、前庭神経に病的な影響を与えることで、めまいを引き起こすと考えられる
- 頚部軟部組織の固有受容器より発生した求心性インパルスの異常興奮は、上行性ん脊髄網様体を経由して脳幹に伝達され平衡機能異常を発生し、この機能異常は下降性に内側縦束や網様体脊髄路を通じて、眼や四肢、体幹の筋肉に伝達され、それらの器官に機能失調を引き起こすと説明している
体幹機能に対するアプローチ
1.骨盤の安定化
- 座位姿勢や立位姿勢での体幹に関連する垂直連結の関節は、仙腸関節、肩甲上腕関節が挙げられる
- これらの関節に荷重量を増大させることで、横方向に跨ぐ筋の筋活動が増大し、関節を安定化させることができる
2.腹筋群による胸郭制御に対するアプローチ
①内腹斜筋による下部腹直筋の安定化
- 立位にて骨盤を前方に移動させる
- その状態から元の立位の状態に戻させる
- この時、体幹を屈曲させて元の状態に戻すが、内腹斜筋の筋活動を増大させながら腹直筋が求心性収縮することで元の状態に戻すことができる
- 内腹斜筋と腹直筋を触診し、筋緊張が増加することを確認する
内腹斜筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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② 外腹斜筋による上部腹直筋の安定化
- 座位や立位にて両側上肢の挙上させていく
- この時、外腹斜筋の筋活動が増大する
- 物を持たせて同様の動作を行わせることで外腹斜筋と腹直筋の筋緊張が増大することを確認する
- 外腹斜筋の働きで腹直筋鞘を側方に引っ張ることで、上部腹直筋を安定させることができる
- これにより、腹直筋による胸郭の伸展方向の制御が可能になる
外腹斜筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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③腹横筋による腹直筋の安定化
- 立位にて骨盤を前方に移動させながら同時に上肢も挙上させる
- その状態から元の状態に戻させる
- 内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋の筋緊張が増大するが、側腹部においても強い筋緊張の増加が確認できる
3.胸郭と肩甲骨の安定化に対するアプローチ
①胸郭上での肩甲骨安定化に対するアプローチ
- 肩関節屈曲では、三角筋前部線維による肩甲骨と上腕骨の連結が生じ、矢状面では肩甲骨の前傾モーメントを生じることになる
- 僧帽筋上部線維は肩甲骨の内側下部を覆っていることから、肩甲骨の前傾モーメントを制御し、安定させる機能面を有している
- 肩関節外転運動では、三角筋中部線維による肩甲骨と上腕骨の連結が生じ、前額面では肩甲骨の下方回旋が生ずることになる
- 僧帽筋中部線維は肩甲棘上に付着していることから僧帽筋中部線維と下部線維によって、この下方回旋を制御し、安定させることになる
僧帽筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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②胸郭上での肩甲骨の運動に対するアプローチ
- 肩甲骨は内側縁において前鋸筋と菱形筋で連結している
- よって、肩甲骨内側縁を介して外転方向には前鋸筋、内転方向には菱形筋において制御されている
- 肩甲骨が上方回旋する時、前鋸筋の求心性収縮が必要になるが、このとき反対の作用を持つ菱形筋は伸張しなければならず、両者がそのような関係にあるとき、肩甲骨の上方回旋が可能になる
前鋸筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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菱形筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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③上肢運動時の体幹安定化に対するアプローチ
- 前鋸筋の起始部が肋骨外側面であることから、前鋸筋の求心性収縮のみ生じた場合、肋骨外側面を肩甲骨内側縁に引きつける力が生じ、結果として反対側への体幹回旋が生じてしまう
- よって、肩甲骨上方回旋するために前鋸筋が求心性収縮する際、体幹が反対側に回旋しないよう同側外腹斜筋の等尺性収縮が必要になる
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)
歩行と体幹・股関節筋の活動 立脚初期と立脚中期と立脚後期それぞれの前額面・矢状面・水平面
歩行時における体幹筋の筋活動パターン
- 歩行中の体幹筋の筋活動は、腹筋群においてそれぞれ異なる筋活動パターンを示した
- 背筋群においては、多裂筋、最長筋、腸肋筋ともに類似した筋活動パターンを示した
歩行時における股関節周囲筋の筋活動パターン
- 中殿筋は立脚初期から筋活動が増大し、立脚中期まで筋活動が増大するパターンであった
- 内転筋は立脚初期および終期にかけて筋活動が増大し、立脚中期および遊脚期に筋活動が低下するパターンであった
各歩行周期における体幹筋・股関節周囲筋の役割
1.立脚初期
矢状面
- 踵接地時、支持面である足底に対し重心は後方にある
- そのため、骨盤および胸郭には前傾モーメントが増大する
- よって、骨盤前傾に対し大殿筋、ハムストリングスによる制御が必要となる
- 胸郭の前傾に対しては、腰背筋による制御が必要になる
- さらに、腹筋群では腹直筋の筋活動が増大する
- これは、踵接地直前まで下肢を前方に挙上しているため、骨盤には前傾モーメントが生じることになり、腹直筋による骨盤の空間保持としての機能が求められる
- 踵接地時には腰背筋との同時収縮による体幹の矢状面での安定化に機能している
前額面
- 踵接地の衝撃により骨盤には反対側骨盤の下制もしくは挙上モーメントが生じる
- これは、歩行速度が遅いときにはより骨盤下制が生じ、歩行速度が速いときには骨盤挙上が生じやすい
- 内転筋と中殿筋の筋活動パターンは、ともに筋活動が増大するパターンであるためこの踵接地時における骨盤の不安定は両筋の同時収縮によって安定させている
- ブリッジの状態であるため、股関節は重力により外転方向に崩れる力が生ずる
- そのため、内転筋のブリッジ活動により股関節外転位を保持させている
水平面
- 上肢は後方へ振り出されている状態である
- それに伴い胸郭は骨盤の回旋方向とは反対側に回旋する
- 外腹斜筋の筋活動パターンは増大するが、これは胸郭の回旋に対するブレーキング作用であると考えられる
- 広背筋と外腹斜筋は体幹回旋に関連しているといわれており、胸郭の回旋に対し求心性に、または遠心性に制御していると考えられる
2.立脚中期
矢状面
- 支持面状に骨盤および胸郭がのっており、矢状面においては安定している状態である
- 腹直筋および腰背筋の筋活動パターンは筋活動が低下する時期である
前額面
- 内腹斜筋の筋活動は立脚初期、中期を通して筋活動が増大しており、特に中期をピークとして終期、遊脚期と比較して優位に増加した
- 下肢への荷重量の増大と内腹斜筋の筋活動には関連性がある
- 荷重によって仙腸関節へ剪断力が働くとし、内腹斜筋は骨盤内で横方向の筋線維であることから、内腹斜筋の筋活動はこの仙腸関節への剪断力を防ぐ効果がある
- これにより、立脚期の骨盤帯の安定性に寄与したと考えられる
- 片脚立位となるため、遊脚側の骨盤は下降する
- 中殿筋の筋活動は、中期まで筋活動は増大しており、骨盤下降を防ぐ作用がある
水平面
- 中期では体幹の回旋が生じない
- 外腹斜筋の筋活動パターンにおいても、活動が低下している時期である
3.立脚後期
矢状面
- 踵接地直後とつま先離地直前に、第5腰椎と仙骨の椎間板へ最も負担がかかる
- 腰背部の筋活動は、初期と終期において増大が認められた
- 最も腰椎への負担が増加する時期に腰背筋の筋活動を増大させることで、第5腰椎と仙骨の椎間板へのストレスを軽減させていると推察できる
前額面
- 立脚初期から中期にかけて股関節は4°内転するといわれており、中期から後期にかけて外転し、歩行周期50%で股関節外転0°、歩行周期60%では股関節外転角度4°になる
- 歩行周期における股関節内転筋の筋活動パターンは、踵接地時に筋活動が増大し、立脚中期で筋活動低下し、再度歩行周期50~60%で筋活動が増大するパターンである
- これらのことから、立脚終期に股関節外転し、反対側下肢が設地する直前に股関節内転筋の筋活動が増大することからブリッジ活動が生じていると考えられる
- このように、両側下肢が接地する直前および直後は重力の影響でアーチ内に崩れる力が働き、さらに荷重が均等にかかっていない状態であることから、ブリッジ活動は動作を継続するうえで非常に重要となる
水平面
- 外腹斜筋の筋活動は立脚後期で優位に増大した
- 後期では同側上肢の前方への振り出しに伴い体幹回旋が生ずる
- 外腹斜筋と腹直筋の求心性収縮によって体幹回旋運動が生じたと考えられる
- また、外腹斜筋と腹直筋の筋活動パターンは類似しており、立脚初期および終期で筋活動が増大するパターンであった
- 立脚初期が胸郭の立脚側への回旋運動に対する遠心性の制御であるのに対し、後期では求心性収縮による胸郭の遊脚側への回旋に機能したと考えられる
参考文献
The Center of the Body -体幹機能の謎を探る- (関西理学療法学会 2005年12月18日)
PIR 等尺性収縮後弛緩法 胸腰部脊柱起立筋・腰方形筋・腸腰筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋・梨状筋
PIRとは
- PIRとは、PNFの contract-relax と筋エネルギー法 (muscle energy) を応用したテクニックである
- チェコの神経科医 Vladimir Janda によって開発された
PIRの手順
患者の位置および肢位
- 患者にできるだけリラックスした肢位をとらせる
筋の緩みをとる
- 肢位が整ったら、目的とする筋の緩みをとる
- ストレッチとは異なり、できるだけ筋をリラックスさせ、動きの止まるところで保持する
等尺性収縮
- セラピストの軽い抵抗に対して目的とする筋を等尺性収縮させる
- 通常5~8秒行うが、延長することもでき、これを3~5回繰り返す
- もし、8秒以内でリリースされない場合、長い収縮が必要である
- この収縮は最大収縮の10~20%の力で行いできる限り緩やかに行うべきである
- したがって、セラピストは最小限の抵抗から始めるのが望ましい
呼吸と視覚の共同運動
- 呼吸と眼の動きは筋の抑制に役立つ
- 等尺性収縮の時に吸気を行わせ、目で筋の収縮をみる
- そして、呼気を行いながら力を抜き、リラクセーションを促す
- その際には筋から目をそらす
- この呼吸と視覚の共同運動は、筋のリラクセーションに役立つといわれている
PIRの実際
胸腰部脊柱起立筋
患者の肢位
- 患側を上にした側臥位とする
方法
- 下側の肩は後方に回旋させ、下肢は曲げる
- 両方の腕は治療台の外に垂らし、上側の下肢はわずかに伸ばす
- セラピストは患者の背後に回り、片手を上前腸骨棘に置き、もう一方の手は胸郭下部に置く
- 筋の緩みをとるために上前腸骨棘を後方に動かし、胸郭下部を前上方に動かす。これによって緩みをとり、筋の抵抗感をみつける
- セラピストの手で胸郭下部に抵抗を与え、等尺性収縮を促す。この時、患者には上をみてもらい、深く息を吸うように指示する
腰方形筋①
患者の肢位
- 側臥位とする
- 腰椎をわずかに側屈させるために、巻きタオルなどを下に入れる
- 患者の上側の上肢は挙上し、頭上の治療代を軽くつかむ
方法
- 患者に股関節を屈曲するように下肢を持ち上げさせ、セラピストの大腿部で下肢を挟むようにする
- セラピストの両手を患者の腸骨稜に置く。そして、前腕は股関節のあたりに軽く置く
- 可動域の最終を見つけるために、腸骨稜をまっす尾側に動かす。これによって緩みが取れ、筋の抵抗感がみつかる
- 患者はセラピストの抵抗に対して腸骨稜を引き上げ、腰方形筋の等尺性収縮を促す。この時、患者には上をみてもらい、深く息を吸うように指示する
- 筋が弛むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで筋を伸張するように腸骨稜を尾側に導く
腰方形筋②
患者の肢位
- 側臥位で行う
- 患側の股関節を上側にして伸展した肢位とする
方法
- セラピストは患者の背後に回り、患者の下肢を後方にもってきて、大腿部で挟む
- 筋の緩みをとるために、腸骨稜をまっすぐ尾側に動かす。これによって緩みが取れ、筋の抵抗感がみつかる
- 患者はセラピストの抵抗に対して腸骨稜を引き上げ、腰方形筋の等尺性収縮を促す。この時、患者には上をみてもらい、深く息を吸うように指示する
- 筋が弛むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで筋を伸張するように腸骨稜を尾側に導く
腸腰筋
患者の肢位
- 背臥位で行う
- ベットの端から患側の下肢を出す(トーマス肢位変法)
方法
- セラピストは健側に立ち、患者の両下肢を屈曲位に保持する
- 患者の股関節をゆっくりと伸展させ、長預金の緩みをとる。その際、健側の下肢はセラピストの側腹部で固定する
- 患側の股関節が可動域の最終に達したら、セラピストの手に抵抗するよう患者に患側股関節を屈曲してもらう
- 患者に力を抜かせ、ゆっくりと息を吐かせる。リラックスするのを待ち、筋が弛むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで患側の股関節を伸展して筋を伸張するよう導く
大腿直筋
患者の肢位
- 側臥位とする
- 患側を上側にする
方法
- 患者の上体をまっすぐにし、そして患者の骨盤が前傾しないようセラピストの骨盤を患者の臀部に押しつけ、患側の大腿を一方の手で、下腿をもう一方の手でセラピストが持つ
- 筋の緩みをとるために患側の股関節を伸展、膝関節を屈曲し、大腿直筋の抵抗が感じるところまで行う
- この位置で、股関節屈曲と膝関節伸展運動を同時に行ってもらい、大腿直筋の等尺性収縮を促す
- 患者に力を抜かせ、ゆっくりと息を吐かせる。リラックスするのを待ち、筋が緩むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで患側の股関節を伸展、膝関節を屈曲して筋を伸張するよう導く
大腿筋膜張筋
患者の肢位
側臥位とする
患側を上側にする
方法
- セラピストは患側の大腿を一方の手で、下腿をもう一方の手で持ち、そして患者の骨盤を固定するためにセラピストの骨盤を患者の臀部に当てる
- 筋の緩みをとるために患側の股関節を伸展・内転し、大腿筋膜張筋の抵抗が感じるところまで行う
- この位置で患者に股関節を屈曲・外転してもらい、大腿筋膜張筋の等尺性収縮を促す
- 患者に力を抜かせ、ゆっくりと息を吐かせる。リラックスするのを待ち、筋が緩むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで患側の股関節を伸展、内転して筋を伸張するよう導く
梨状筋
患者の肢位
- 背臥位とする
方法
- セラピストは健側に立ち、患側の大腿を一方の手で、下腿をもう一方の手で持ち、そして股関節を60°以下に屈曲する
- 患側の股関節を内転し、大腿骨長軸に向かって圧縮を与える
- 筋の緩みをとるために患側の股関節を内旋し、梨状筋の抵抗が感じるところまで行う
- この位置で患者に股関節を外旋してもらい、梨状筋の等尺性収縮を促す
- 筋が緩むのを感じたら、次の抵抗感を感じるところまで患側の股関節を内旋して筋を伸張するよう導く
『マッスルインバランスと姿勢』を復習したい方はこちら
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『運動パターンテスト Jandaのテスト』を復習したい方はこちら
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『筋の長さテスト』を復習したい方はこちら
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参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)
筋の長さテスト 腸腰筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋・内転筋群・ハムストリングス・梨状筋・下腿三頭筋・胸椎伸筋群・腰方形筋
筋の長さテスト
- 姿勢の評価や運動パターンテストで過緊張を疑う筋に対して、実際に『筋の長さテスト』を行い確認する
- このテストは関節可動域を確認するのではなく、他動的な伸張に対する抵抗感(エンドフィール)を評価する
- 可動域は正常か、短縮により制限があるのかを確認する
- 最終域での抵抗感が短縮か、過緊張なのかを確認する
- 左右差を評価することも大切である
1.腸腰筋
患者の肢位
- 患者はベッドの端に座位をとる
- セラピストは患者の両下肢を屈曲位に保持しながら背臥位にする(トーマス肢位変法)
方法
- 非検査側の下肢を屈曲位にし、セラピストの体幹で固定する
- 腰椎が平らになるように、非検査側の股関節屈曲で調節する
- 検査側の下肢をゆっくりと伸展させ、動きが止まるとことで抵抗感をみる
- 標準では股関節伸展0°、オーバープレッシャーをかけると股関節伸展10°になる
2.大腿直筋
患者の肢位
- 患者はベッドの端に座位をとる
- セラピストは患者の両下肢を屈曲位に保持しながら背臥位にする(トーマス肢位変法)
方法
- 非検査側の下肢を屈曲位でセラピストの体幹で固定する
- 腰椎は平らになるように非検査側の股関節屈曲で調節する
- その際、検査側の股関節を伸展0°位に保持する
- 代償運動の股関節屈曲を防ぐ
- 標準では股関節屈曲90°に位置する
- そして、下腿部前面に当てた手で膝関節を屈曲させ、動きが止まるところで抵抗感をみる
- 標準ではオーバープレッシャーをかけると膝関節屈曲125°になる
3.大腿筋膜張筋
患者の肢位
- 患者はベッドの端に座位をとる
- セラピストは患者の両下肢を屈曲位に保持しながら背臥位にする(トーマス肢位変法)
方法
- 非検査側の下肢を屈曲位で、セラピストの体幹で固定する
- 腰椎は平らになるように非検査側の股関節屈曲で調節する
- その際、検査側の股関節を伸展0°位に保持する
- 代償運動の股関節屈曲を防ぐ
- そして、大腿外側に当てた手で股関節を内転させ、動きが止まるところで抵抗感をみる
- 過緊張の場合、男性では大腿外側部に溝、女性では平坦さを観察できる
- 標準では股関節は伸展0°位で15~20°内転する
4.股関節内転筋群
患者の肢位
- 背臥位にする
方法
- 股関節内旋、外旋中間位で股関節を外転させASISを触診し、動きが出たら留める
- 代償運動である骨盤の回旋、股関節の屈曲を防ぐ
- 標準では股関節は伸展0°位で40~45°外転する
5.内転筋群の単関節と二関節内転筋の鑑別
患者の肢位
- 背臥位にする
方法
- 膝関節屈曲位で行うことで、単関節内転筋の鑑別になる
- 股関節内旋、外旋中間位で股関節を外転させASISを触診し、動きが出たら留める
- 代償運動である骨盤の回旋、股関節の屈曲を防ぐ
- 標準では股関節は伸展0°位で40~45°外転する
- もし、股関節外転が膝関節屈曲位で大きくなればハムストリングス・薄筋が短縮、変わらなければ恥骨筋・大内転筋・長内転筋・短内転筋が短縮している
6.ハムストリングス
患者の肢位
- 背臥位で、非検査側の膝関節を屈曲させて腸腰筋を緩める
方法
- 患者の足部をセラピストの肘窩で保持し、前腕で下腿を把持する
- そして、股関節を屈曲させてASISを触診し、骨盤の動きをみる
- 膝関節が屈曲するか、または骨盤の動きが起こるところで止める
- 非検査側の膝関節屈曲位の場合、標準では下肢伸展挙上 (SLR) の可動域は90°、伸展位の場合、80°である
7.梨状筋
患者の肢位
- 背臥位にする
方法
- 2種類の方法がある
- 1つは股関節屈曲60°以下でテストを行う
- まず、大腿長軸方向に圧迫を加え、次に股関節内転・内旋を加え抵抗感をみる
- もう1つの方法は、股関節屈曲90°でテストを行う
- まず、大腿長軸方向に圧迫を加え、次に股関節内転・外旋を加え抵抗感をみる
8.下腿三頭筋
患者の肢位
- 背臥位で足部をベッドの端から出す
方法
- セラピストは一方の手で踵を保持、もう一方の手で前足部の外側で足関節背屈方向に力を加え、エンドフィールをみる
- 正常な長さは内反・外反中間位で足関節背屈0°である
- 子の肢位から膝関節をくっきょくさせて足関節背屈角度が増える場合、腓腹筋の短縮が疑われる
9.胸腰椎伸筋群
患者の肢位
- 座位にする
方法
- 2種類の方法がある
- 1つはセラピストが患者の骨盤を固定し、患者に体幹を屈曲してもらい、額と膝の間の距離を測る
- 標準では額と膝の間が30㎝以下である
- もう1つの方法は、PSISレベルと10㎝情報をマークしたうえで、患者に体幹屈曲してもらい、PSISとマークした部位との距離を測る(ショーバーテスト変法)
- 標準では距離が6㎝以上増加する
- しかし、この方法は椎間関節の可動性の問題も含まれるので、正確とは言えない
10.腰方形筋
患者の肢位
- 座位または立位にする
方法
- セラピストはは患者の骨盤を保持し、骨盤の偏位を防ぐ
- 患者は検査側と反対方向に体幹を側屈する
- セラピストは第12胸椎から第5腰椎までの弯曲を観察する
- 標準では、滑らかなカーブが腰部から胸部にかけてみられるはずだが、そうでない場合、反対側の腰方形筋の短縮が疑われる
- しかし、この方法は椎間関節の可動性の問題も含まれるので、正確とは言えない
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参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)
運動パターンテスト (Janda のテスト) 片脚立ちテスト・スクワットテスト・股関節伸展テスト・股関節外転テスト・体幹屈曲テスト・静的背筋持久力テスト
運動パターンテスト (Janda のテスト)
- 過緊張筋は拮抗筋を抑制し、異常運動パターンの原因となる
- そして、異常運動パターンは特定の組織にストレスをかける原因となり、習慣化することにより機能障害や痛みを起こす
- 単関節筋には関節の軸を固定する役割があるのに対して、多関節筋はレバーアームが長く、強い力を出す役割がある
- 両方が協調的に働くことが望ましいが、一般的に多関節筋は過緊張に陥りやすく、短関節筋とのインバランスを生み出し、運動パターンを変えてしまう
- このマッスルインバランスによる異常運動パターンを評価し、機能障害の原因を特定することが治療プログラムを立てるうえで重要になる
『マッスルインバランスと姿勢』について復習したい方はこちら
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『4つの姿勢不良』について復習したい方はこちら
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1.片脚立ちテスト
評価する項目
- 協調性
- バランス能力
方法
- 立位で片脚を上げ、バランスを維持する
- 開眼、閉眼それぞれ30秒行う
所見
- トレンデレンブルグ、逆トレンデレンブルグ
- 体幹動揺
- 膝関節:内反、外反
- 足関節動揺
解釈
- トレンデレンブルグ徴候や骨盤の側方変位の有無を観察する
- 例えば、トレンデレンブルグ徴候が認められる場合、中殿筋の弱化ばかりでなく、大腿筋膜張筋の過緊張、腰方形筋の過緊張が認められることがある
- 膝関節の内反が認められる場合、股関節内転筋群・大腿筋膜張筋の過剰活動、中殿筋・大殿筋の弱化の可能性がある
- 逆に、膝関節の外反が認められる場合、大腿二頭筋・梨状筋の過剰活動、中殿筋・大殿筋の弱化の可能性が考えられる
- 足関節の回内が認められる場合、偏平足、外反母趾の可能性がある
- バランスをとるために股関節で動揺するか、足関節で動揺するかを観察する
2.スクワットテスト
評価する項目
- 動作時姿勢における体幹・下肢の協調性
方法
- 上肢を前方に水平挙上、両足は肩幅、大腿が水平になるまで屈曲する
所見
- 腰椎:後弯、ニュートラル、前傾過剰
- 骨盤:後傾、前傾過剰
- 膝関節:内反、ニュートラル、外反
- 足関節:背屈過剰、つま先立ち
解釈
- 股関節に比べて相対的に体幹が柔らかい場合は、腰椎前弯の減少が起こり、椎間板ヘルニアなどの原因になる
- 脊柱起立筋が 過緊張な場合は、腰椎前弯が過剰となり椎間関節の障害やすべり症、分離症の原因となる
- 膝関節の内反が伴う場合、股関節内転筋群の過剰活動、中殿筋の弱化の可能性が予測される
- 踵が浮いてしまう場合、下腿三頭筋の過緊張の可能性がある
3.股関節伸展テスト
評価する項目
- 主動作筋である大殿筋とハムストリングス、協働筋である脊柱起立筋、拮抗筋である腸腰筋と大腿直筋の機能を評価する
方法
- 腹臥位
- 股関節伸展の運動パターンを観察する
- 10~20°伸展してもらう
所見
- ハムストリングス⇒大殿筋⇒反対側起立筋⇒同側起立筋の順番に収縮しているか
- 脊柱前弯過剰になっていないか
- 膝関節は屈曲していないか
- 股関節伸展可動域は減少していないか
解釈
- 正常な運動パターンでは、最初にハムストリングス、次に大殿筋が活動し、その後、反対側の脊柱起立筋から同側の脊柱起立筋の順に活動する
- 例えば、脊柱起立筋が過緊張の場合、腰椎の前弯が生じ、ハムストリングスが過緊張の場合、膝関節屈曲が認められる
- 腸腰筋が過緊張であれば、伸展可動域の減少が認められる
- 腸腰筋の過緊張は相反抑制により、大殿筋の活動を抑制する
- このため、大殿筋は相対的に弱化を示すことが多い
- このマッスルインバランスにより股関節伸展が腰椎前弯で代償されると、腰椎に過剰なストレスがかかる
4.股関節外転テスト
評価する項目
- 主動作筋である中殿筋、協働筋である大腿筋膜張筋・腰方形筋・梨状筋、拮抗筋である股関節内転筋群の機能を評価する
方法
- 側臥位
- 股関節外転の運動パターンを観察する
- 股関節は屈曲・伸展0°
- 45°外転してもらう
所見
- 中殿筋⇒大腿筋膜張筋⇒腰方形筋の順に収縮しているか
- 脊柱後弯していないか
- 股関節屈曲、外旋していないか
- 外転可動域が減少していないか (<40°)
解釈
- 正常な運動パターンでは最初に中殿筋が活動し、その後、大腿筋膜張筋、腰方形筋が活動する
- その間、股関節屈曲-伸展は0°に保たれる
- 例えば、大腿筋膜張筋が過緊張な場合、股関節が屈曲し、腰方形筋が過緊張な場合、体幹が側屈し、梨状筋が過緊張の場合、股関節の外旋が認められる
- 股関節内転筋群が過緊張の場合、可動域の減少が認められる
- いずれも中殿筋は抑制され、相対的に弱化を示すことが多い
- 股関節外転運動が腰椎側屈や回旋で代償されると腰椎に過剰なストレスがかかる
5.体幹屈曲テスト
評価する項目
- 主動作筋である腹直筋、協働筋・安定筋である腸腰筋、拮抗筋である脊柱起立筋の機能を評価する
方法
- 背臥位
- 下肢屈曲位
- 肩甲帯が床から離れるように上体を起こす
所見
- 足底が床から離れていないか
- 脊柱の後弯が十分に出ているか
- 下顎が突出していないか
解釈
- 腸腰筋の過緊張がある場合、足部が床から離れ、脊柱起立筋の過緊張がある場合、脊柱の弯曲が少なくなる
- 後頭下筋群が過緊張であれば、下顎が突出する
6.静的背筋持久力テスト
評価する項目
- 多裂筋、脊柱起立筋、殿筋群、ハムストリングスの静的筋持久力を評価する
方法
- 治療台から状態を出した肢位
- 脊柱の伸展を維持し、その時間を測定する
所見
- 痛みはないか
- 震えなどで途中で中止にならないか
- 最大4分まで可能か
参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)
姿勢の異常 4つの不良姿勢と軟部組織移行部のストレス 前弯型・後弯-前弯型・偏平型・スウェイバック・後頭下関節部・頚椎胸椎移行部・胸椎腰椎移行部・腰椎仙骨移行部
姿勢の異常と機能障害
- 姿勢は遺伝的要素に加えて、環境、生活習慣、仕事スポーツなど後天的な要因によっても形成される
- 立位姿勢は重力に対して、筋・筋膜・靭帯などの軟部組織の張力によって保たれており、マッスルインバランスはその人の姿勢によって表現される
- 姿勢アライメントは機能障害と密接に関連しており、姿勢のタイプにより物理的ストレスがどこに加わりやすいかが予測できる
- 姿勢アライメントを評価することで非常に多くの情報を得ることができる
標準的姿勢アライメント
良い立位姿勢とは
よくいわれる良い姿勢とは、背筋を伸ばして、顎を引いて…などの表現がよく使われると思います。
では、具体的には何がどうなっているのが良い姿勢なのでしょうか。
前額面の正常な立位姿勢
前額面(人の体を前からみること)における正常な立位姿勢における重心線
- 後頭隆起ー椎骨棘突起ー殿烈ー両膝関節内側の中心ー両内果間の中心を通る
矢状面の正常な立位姿勢
矢状面(人の体を横からみること)における正常な立位姿勢における重心線
- 耳垂ー肩峰ー大転子ー膝蓋骨後面ー外果2~3㎝前方を通る
矢状面の各部のアライメント
- 頸椎前弯は約30~35°
- 胸椎後湾は約40°
- 腰椎前弯は約45°
- 仙骨底は第5腰椎に対して約40°前下方に傾斜
- 肩甲骨は前額面から前方に約35°傾斜
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/27/2/27_119/_pdf
標準的姿勢アライメントについて復習したい方はこちら
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脊柱彎曲による姿勢の分類
前弯型
①アライメント
- 骨盤前傾と腰椎前弯の増強
- 膝関節の過伸展
- 足関節の軽度底屈
②過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 股関節屈筋群
- 梨状筋
③弱化筋
- 腹筋群
- 腰仙部脊柱起立筋
- 大殿筋
- ハムストリングス (※長くなるか、姿勢の代償として短縮する)
後弯・前弯型
①アライメント
- 頭部前方姿勢
- 肩甲骨の外転
- 胸椎の後弯
- 腰椎前弯の増加
- 骨盤の前傾
- 股関節の屈曲
- 膝関節の過伸展
②過緊張筋
- 後頭下筋群
- 斜角筋
- 肩甲挙筋
- 股関節屈筋群
- 前鋸筋
- 大胸筋
- 小胸筋
- 僧帽筋上部線維
③弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 胸腰椎部脊柱起立筋
- 外腹斜筋
- 僧帽筋中部・下部線維
偏平型
①アライメント
- 頭部前方姿勢
- 胸椎上部の後弯
- 胸椎下部は平坦
- 骨盤の後傾と腰椎前弯の減少
- 股関節・膝関節の過伸展傾向
- 足関節の軽度底屈
②過緊張筋
- ハムストリングス
- 腹筋群
③弱化筋
- 脊柱起立筋
- 腸骨筋
スウェイバック
①アライメント
- 胸椎の後弯
- 腰椎の平坦
- 股関節は重心線の前方
- 骨盤はニュートラルか、もしくは後傾
- 股関節・膝関節の過伸展
②過緊張筋
- ハムストリングス
- 内腹斜筋
- 大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の短縮
③弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 外腹斜筋
- 脊柱起立筋
- 大殿筋
- 大腿四頭筋の広筋群
軟部組織移行部に対するストレスと機能障害
- 軟部組織移行部は解剖学的に構造が移り変わっていく部分で重心線はここを通る
- ストレスの変化を受けやすいところであり機能障害を起こしやすい部分でもある
- 評価、治療を進めるうえで重要な部分である
1.後頭下関節部
- この部分は硬い硬膜から良く動く頚椎への移行部であり、椎間関節の方向も中部頚椎とは異なっている
- また、後頭下関節・環軸関節があるためストレスを受けやすい
- 習慣的には頭部の重心は前方に位置することが多く、後頭下筋群に対するストレスが増加する
- この筋群の過緊張は、大後頭下神経および小後頭下神経の血行障害を招き、頭痛の原因になる
2.頚椎・胸椎移行部
- この部分は、第1胸椎の上関節突起はより頚椎方向に、下関節突起はより胸椎方向に向いている
- 頚椎は胸椎に比べて動きが多いため、この部分には重心線の移動が起こる
- したがって、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋、斜角筋などは過緊張を起こしやすく、第1肋骨を挙上させる
- これは胸郭出口症候群、斜角筋症候群、肩関節機能障害の原因になる
3.胸椎・腰椎移行部
- この部分は、椎間関節の方向が前額面から矢状面へと変わっていく
- 棘突起も胸椎から腰椎へと角度が変わっていく
- 脊柱のカーブは後弯から前腕に移り変わる
- また、動きの少ない胸椎と動きのある腰椎の移行部はストレスがかかりやすく、圧迫骨折の好発部位でもある
4.腰椎・仙骨移行部
- この部分は、動きのある腰椎から硬い骨盤への移行部である
- 椎間関節の方向は、再び矢状面から前額面へと移り変わっていく
- 第5腰椎から第1仙椎間の椎間板はもっとも楔状で前方へと引かれる力を受ける
- また、第5腰椎~第1仙椎間の神経孔はもっとも小さく、椎間関節の症状が出やすい
- このため、椎間板ヘルニア、すべり症の好発部位でもある
頭部前方姿勢と機能障害
問題点
- 後頭下筋群に短縮や過緊張を生じさせ、大後頭下神経・小後頭下神経の絞扼を引き起こす
- それにより、頭痛の原因になる可能性がある
- また、深部頚屈筋群は相反抑制により弱化する傾向にある
- 後頭下関節は伸展位で固定されるため、屈曲が困難になる
- それにより、下部頚椎は屈曲する
- 中部頚椎は可動域過剰を起こしやすい
- 下部頚椎は椎間関節を圧迫するため、可動域制限を起こしやすい
- 顎関節は開く傾向にあるため、口呼吸のパターンになる
- そのため、咬筋・側頭筋の緊張を生み出し、歯ぎしりや顎関節症の原因になる
- また、嚥下を妨げることもある
- 胸椎は後弯、肩甲骨は外転、前胸部は短縮傾向になるため、横隔膜呼吸を阻害し、呼吸補助筋が促通される
- 第1肋骨は挙上するため、胸郭出口症候群の原因になる
- 肩甲骨は大胸筋、小胸筋が過緊張となるため、外転傾向になる
過緊張筋
- 後頭下筋群
- 側頭筋
- 咬筋
- 斜角筋
- 胸鎖乳突筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部線維
- 大胸筋
- 小胸筋
弱化筋
- 頚部深部屈筋群
- 僧帽筋中部、下部線維
- 横隔膜
胸椎中部機能不全と機能障害
問題点
- 第4~8胸椎の機能障害であり、デスクワークなど長時間の座位保持により胸椎の後弯が起こる
- いったんアライメントが崩れると歯車が回るように徐々に重力により進行する
- 胸椎の後弯は頭部の位置を前方に移動させるため、頭部前方姿勢を引き起こす
- 胸椎の後弯は肩関節の屈曲・外転・外旋を制限するため、肩関節のインピンジメントの原因になる
- 腰椎の前弯は減少し、そのため腰椎に屈曲ストレスが生じることで椎間板障害などが起こり疼痛の原因となる
- 胸郭が腹部を圧迫するため、横隔膜呼吸を抑制する
過緊張筋
- 後頭下筋群
- 側頭筋
- 咬筋
- 斜角筋
- 胸鎖乳突筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部線維
- 大胸筋
- 小胸筋
弱化筋
- 僧帽筋中部、下部線維
- 菱形筋
- 腰仙部脊柱起立筋
- 横隔膜
- 腸腰筋
骨盤交差症候群と機能障害
問題点
- 腸腰筋と脊柱起立筋の過緊張により、腰椎の前弯を増強し骨盤の過剰な前傾を引き起こす
- 相反抑制の結果により、腹筋群および大殿筋は弱化する
- 腰椎に伸展ストレスがかかるため、椎間関節症、脊椎分離症、すべり症の原因となる
過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 腸腰筋
- 梨状筋
- ハムストリングス
弱化筋
- 腹筋群
- 腰仙部脊柱起立筋
- 殿筋群
逆骨盤交差症候群と機能障害
問題点
- 腸腰筋および腰仙部脊柱起立筋の弱化により、腰椎の前弯減少と骨盤の後傾を引き起こす
- 骨盤が後傾することにより腹筋群下部は緩み、腹筋群上部は過緊張となる
- また、腰仙部脊柱起立筋は引き伸ばされ弱化し胸腰部脊柱起立筋は過緊張となる
- 腰椎に屈曲ストレスがかかるため、椎間板障害の原因となる
過緊張筋
- 胸腰部脊柱起立筋
- 腹筋群上部
- 梨状筋
- ハムストリングス
- 大腿筋膜張筋
弱化筋
- 腹筋群下部
- 腸腰筋
- 腰仙部脊柱起立筋
- 大殿筋
参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)
マッスルインバランスと姿勢の関係 マッスルインバランスの原因・姿勢筋と相動筋・主動作筋と拮抗筋の関係・マッスルインバランスの改善
マッスルインバランスの考え方による理学療法
マッスルインバランスの原因
- 腰痛症に限らず筋骨格系の障害は、感染や外傷など原因の明らかなものを除けば、個人の姿勢や生活習慣、職業、スポーツなどといった毎日繰り返される物理的ストレスが特性の筋、筋膜、関節などの組織に炎症や損傷を起こすことが原因となる
- また、特定の筋の過剰使用は、筋の過緊張を引き起こし、短縮傾向にさせる
- 一方、過緊張筋の拮抗筋は相反抑制の影響を受け、弱化の傾向に陥る
- このマッスルインバランスにより姿勢アライメントの異常や運動パターンに変化が生じ、これにより起こる異常な代償運動パターンが機能障害の原因となる
姿勢筋と相動筋
- Janda らは、筋の損傷や物理的ストレスに対する筋の反応により、筋のタイプを姿勢筋(postural type)と相動筋(phasic type)に分類している
- 姿勢筋は短縮する傾向にあり、相動筋より筋力は強く、主に多関節筋である
- 例えば、脊柱起立筋、腰方形筋、梨状筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋、ハムストリングス、内転筋群、腓腹筋などがある
- 相動筋は、筋力が姿勢筋に対して弱い傾向にあり、正常な状態より緩んだ状態になりやすく、主に単関節筋に多い
- 例えば、腹筋群、大殿筋、中殿筋、内側広筋、前脛骨筋、腓骨筋などがある
主動作筋と拮抗筋の関係
- これらのマッスルインバランスは主動作筋と拮抗筋の間で起こり、徒手理学療法により過緊張筋を伸張しても拮抗筋である弱化筋を活性化しないと、その効果が長続きしない
- スポーツ選手などでは種目の特性により、特定の筋が強化されるとアライメント異常を起こす
- 例えば、水泳選手は大胸筋が発達しているため、拮抗筋の菱形筋と僧帽筋中部線維が相対的に弱化し、外転肩となり、肩のインピンジメントを起こしやすい姿勢アライメントになる
- また、股関節の屈筋群に過緊張や短縮があると大殿筋の抑制が起こり、股関節伸展の運動を腰椎伸展で代償する異常運動パターンが習慣化する
- バレーボールやテニスなどでは、サーブやスパイクを繰り返すことにより、脊椎分離症を起こしやすい姿勢アライメントになる
- したがって、この異常運動パターンを修正し、代償運動を改善するためには運動療法が重要である
- 長期間習慣化された代償運動を修正するためには、数ヶ月必要になるかもしれない
頚部・上胸部の主動作筋・拮抗筋群関係
姿勢筋 相動筋
僧帽筋上部線維 ⇔ 広背筋
肩甲挙筋
大胸筋(上部線維) ⇔ 僧帽筋中部・下部線維
小胸筋 ⇔ 菱形筋
頚部脊柱起立筋 ⇔ 頚部前方筋群
腰部・骨盤帯の主動作筋・拮抗筋群関係
姿勢筋 相動筋
腸腰筋 ⇔ 大殿筋
大腿筋膜張筋
ハムストリングス ⇔ 大腿四頭筋
股関節内転筋群 ⇔ 中殿筋
下腿三頭筋 ⇔ 足背屈筋群脊柱起立筋 ⇔ 腹筋群
梨状筋
マッスルインバランス改善の考え方
- マッスルインバランスの考え方による腰痛症に対する理学療法の目的は、過緊張筋を抑制し、拮抗筋である弱化筋を活性化させ、異常運動パターンを修正することで腰部にかかるストレスを軽減させるものである
- 運動パターンの修正は
➡運動レベル (単関節運動)
➡動作レベル (スクワットなどの基本動作)
➡行為レベル (歩行など)
➡スポーツレベル と、段階的に取り入れていかなければならない
- 評価で得られた所見をもとに、過緊張筋の抑制や関節機能障害の改善には徒手理学療法、弱化筋活性化や運動パターン改善のためには運動療法を組み合わせて治療プログラムを考える
- 再発予防に対しては、自己管理法など教育的なアプローチが必要である
頚胸部の主動作筋・拮抗筋群の機能障害とその結果
僧帽筋上部線維、肩甲挙筋
作用
- 肩甲骨の挙上
- 肩甲骨内転の補助
- 脊柱の後屈、側屈
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 肩甲骨の挙上、内転
- 頚椎前弯の増加
- 抗重力伸展の制限
- 頚椎の側屈と回旋の制限
大胸筋上部線維
作用
- 肩関節屈曲
- 上腕骨水平内転
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 肩関節伸展の制限
- 上腕骨水平外転の制限
小胸筋
作用
- 肩甲骨の前方突出
- 呼吸補助筋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 下角の外方回線を伴う肩甲骨外転
- 肩甲骨下縁の突出
- 胸椎後弯の増加
菱形筋、僧帽筋中部・下部線維
作用
- 肩甲骨内転
- 肩甲骨下角の胸壁への固定
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 下角の外方回線を伴う肩甲骨外転
- 肩甲骨下縁の突出
- 胸椎後弯の増加
脊柱起立筋群
作用
- 頚椎の伸展
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 頚椎前屈の制限
- 抗重力伸展の制限
- 頚椎を頚部前方姿勢に固定
頚部前方筋群
作用
- 頚椎の屈曲
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 頚椎前屈力の低下
- 抗重力伸展の制限
- 頭部前方姿勢の修正困難
腰部骨盤帯の主動作筋・拮抗筋群の機能障害とその結果
腸腰筋
作用
- 股関節屈曲
- 股関節外旋の補助と内転
- 腰椎の前弯
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節伸展の制限
- 前方の関節包の短縮
- 腰椎前弯の増加
- 腸骨の後方回旋の減少
大腿筋膜張筋
作用
- 股関節屈曲、内旋、外転
- 腸骨の前方回旋
- 膝関節屈曲の補助
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節伸展、外旋、内転の制限
- 腸骨後方回旋の制限
- 腰椎前弯の増加の一助
大殿筋
作用
- 股関節伸展
- 腸骨の後方回旋
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 股関節伸展の制限
- 腸骨の後方回旋の減少
股関節内転筋群
作用
- 股関節内転
- 股関節屈曲の補助
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節外転の制限
- 腸骨の後方回旋の制限
中殿筋
作用
- 股関節外転 (前部線維-内旋・屈曲、後部線維-外旋・伸展)
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 股関節外転の制限
- 股関節外側の安定性の低下
梨状筋
作用
- 股関節外旋
- 股関節外転と伸展の補助
- 仙骨の屈曲または回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 股関節内旋、屈曲、内転の制限
- 仙腸関節機能不全の一因
ハムストリングス
作用
- 膝関節屈曲
- 股関節伸展
- 腸骨の後方回旋
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 膝関節伸展の制限
- 股関節屈曲の制限
- SLRの制限
- 腸骨前方回旋の制限
- 腰椎前弯の減少
大腿四頭筋
作用
- 膝関節伸展
- 股関節の屈曲
- 腸骨の前方回旋
機能障害の反応
- 弱化 (内側広筋)
- 短縮 (大腿直筋とその他の広筋)
機能障害の結果
- 膝関節屈曲の制限
- 股関節伸展の制限
- 腸骨の前方回旋
脊柱起立筋
作用
- 脊柱の伸展
機能障害の反応
- 短縮
機能障害の結果
- 腰椎前弯の増加
- 骨盤の前傾
腹筋群
作用
- 脊柱の屈曲
機能障害の反応
- 弱化
機能障害の結果
- 骨盤前傾の傾向
参考文献
理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて 荒木茂 マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療 (三輪書店 2012年9月10日)
バッティング 地面反力・流し打ち・バットの動き・腕の動き・腰の回転
地面反力
踏ん張るのではなく足踏みする
- 「両足でしっかり踏ん張れ」はスポーツでよく聞く言葉で、そうなっていると安定感がある
- しかし、野球のバッティングでで打者が地面を押す力を測ってみると両足でしっかり踏ん張る局面はない
- 画像は実際のフリーバッティングで左右それぞれの足で地面を押す力を測ったものである
打撃時の三方向床反力
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- これは右打者の場合で、右足(軸足)による力は一点鎖線、左足(踏み出し足)による力は実線で描いている
- そもそも左右1つずつの押す力なのだが、わかりやすいように3つの方向に分けて描かれている
- 前は腹側に、後は背中側に押す、右は捕手側に、左は投手側に押す、そして下は真下に押す力である
- 左から右に時間が流れてステップの局面、フォワードスイングの局面、そしてインパクトが示されている
- 上に0.5秒間のものさしがある
- それによって、フォワードスイングの時間はおよそ0.2秒間とわかる
- また、右に20㎏wという力の大きさのものさしがある
- この長さで20㎏の重さに相当する力で押しているということである
- 20㎏wのものさしが一番短いのが真下に押す力である
- つまり一番大きいということなのだが、それは立っているだけでも体重分の力で地面を真下に押しているからである
- 例えば打者の体重が60㎏とすると、20㎏wのものさしの3倍のところに体重の横線があって、その線を基準に打者は下に押す力を加えたり抜いたりしているとみることになる
- 打者はステップに入る時、踏み出し足で下、投手側に地面を押してその足を持ち上げている
- 次のステップ局面では、踏み出し足は空中にあるので地面を押す力はどの方向にも出ていない
- 軸足だけで下、捕手側に地面を押している
- さらに、フォワードスイングが始まると、着地した踏み出し足で前へ、軸脚で後ろ押して、その後に踏み出し足で下、投手側へ押してインパクトを迎えている
- こうみてくると、確かに両足でしっかり踏ん張る局面ではない
- 下に押す力をみればわかるように、野球のバッティングでは右打者の場合、左、右、左と足踏みをするようにして打つのである
地面を押す力の反力で身体を加速する
- こうした地面を押す力の働きは何なのだろうか
- 地面を押すと、同じ大きさで反対向きの力を地面から受ける
- 作用反作用の法則である
- 地面反力(床反力)というのはこの反作用の力のことで、打者の場合、バットを持つ身体がこの反作用の力の向きに加速されるのである
- したがって、ステップ局面でみると、自分では軸足で捕手側に押しているが、その反作用で身体は投手側に加速される
- フォワードスイングに入ると、左右の足で前後反対向きに押すので、その反作用を受けて身体は、踏み出し足側は背中側、軸足側は腹側へと加速される、つまり、フォワードスイングする向きに身体は回転加速されることになる
- その後、踏み出し足で下、投手側へ踏ん張るので、ステップ局面で投手側に加速されてきた身体は減速されることになる
- この減速された身体の支えがあるからこそバットを投手方向へ走らせることができる
- フォワードスイング局面の前後方向の力をさらによくみると、踏み出し足で前に押すよりも軸足で後ろに押す力のほうが先に現れる
- 一方、軸足で後ろに押す力よりも踏み出し足で前に押す力のほうが大きい
- これはフォワードスイングを始める時に軸足の押しが使える状態であるし、バットは身体の前を通過するので踏み出し足で前、その後投手側へしっかり踏ん張っていることを示している
身体の移動を調整できる余力を軸足に残しておく
- ティーバッティングで地面反力を分析した調査によると、構えた位置からバックスイングで捕手側へさがる距離はレギュラー選手のほうが長く、構えた位置からインパクトまでに投手側へ出ていく距離は非レギュラー選手のほうが長かったという
- これは、レギュラー選手のほうがフォワードスイングを開始する時に軸足が使える状態にあったことを示唆している
- 直球とカーブを打った時に地面を押す力、そのうち左右方向(投捕方向)への力を眺めてみる
打者の左右方向力曲線
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 直球を打った時が実線で、カーブが破線、踏み出し足を地面から離す時点で両方の力の線を一致させているのだが、ステップの後半になると直球とカーブとで押す力の様子が違っている
- 画像の数値の意味は「0」が両方ともインパクト、一致させた マイナス0.48 は直球でのステップ開始がインパクトの0.48秒前、マイナス0.56 はカーブでのステップ開始がインパクトでの0.56秒前という意味である
- その後、それぞれインパクトの0.24秒前と0.30秒前にステップを終え、0.16秒前にフォワードスイングを開始していた
- カーブのほうがボールスピードが遅い分、捕手側へ押す力が長く続いているのがわかる
- どこかの時点で打者はボールの速さの違い、軌道の違いに気づいてステップ後半には身体の移動を調節していることになる
軸足の内側でタイミングをとる
- 足裏のどの部分で押すのかが測れるセンサーをシューズの中に入れてバッティングしてもらった
- すると、ステップの局面では軸足裏の前側で押す力が大きくなり、それが同じ前側でも外側から内側へと移っていった
- そして、フォワードスイング局面になると軸足の母趾球で押す力が大きくなって、インパクトに向けてはそれが小さくなった
- 踏み出し足裏はというと、ステップ着地後、大きな押す力が母趾球から外側全体へと移っていった
- この様子から、軸足裏の内側で投手側への身体の移動を調節し強く打つために母趾球を働かせ、その勢いを踏み出し足裏の外側で受け止めていることがわかった
流し打ち
流し打ちでは肘を伸ばさず、手首を速めに効かせる
- 最初に調べられたのは、内外角のコースに対する打撃ではなく、引っ張り内と流し打ちの動作の違いだった
- どちらにするかをあらかじめ指示してピッチングマシーンからのボール、つまり同じようなコースのボールを打ってもらい、その動作の違いが調べられた
- 打者の動作を上から撮影して、右打者の左肩・左ひじ・左手首・左中指、そして「バットの先端の動きが比べられたのである
- その結果、流し打ちのほうが肘を伸ばす量が少なく、手首を早めに聞かせることでインパクトでの適切なバットの角度をつくっていたという
- そのおかげで、インパクトは捕手よりになり、スイング時間は短かったものの、バットスピード自体は引っ張り打ちと変わらなかったという
- 同じようなコースのボールであれば、スイング軌道やスイング時間が短くても流し打ちのバットスピードを引っ張り打ちと同じように早くできる、ということである
- 引っ張り打ちのほうが身体の回転を使えるし、ヘッドも効かせられるので、バットスピードを速くできると思いがちであるが、腕を動かす向きと手首を使うタイミングによって流し打ちでも同じようなバットスピードをつくれる、ということである
流し打ちでは肩や腰の回転が少ない
- 次に、ティーを置いて打たせると、どのような動作になるか調査した結果がある
- 外角流し打ちでは、スイング開始以降インパクトまでの時間が短かったという
- 打球スピードに内外角で大きな差はなかったという
- 動作については、外角流し打ちでは、踏み出した足が地面に着いて以降の肩の回転が小さく、スイング開始以降の腰の回転も小さかったという
- これは、肩や腰の回転を抑えて、身体の向きを流し打ちの向きにしたからである
- スイングでは、左肘をより大きく伸ばして、インパクトでは左脇の開き(左肩の外転)が小さかったという
- これは、外角のポイントが身体の前方向(腹方向)遠くにあるから、バットをそこへ運ぶために肘を大きく伸ばしたし、脇をしめておいたのである
- 一方、内角引っ張り打ちでは、踏み出した足先が地面に着いて以降の肩の回転が大きく、スイング中には踏み出した足首が伸びて、インパクトになると肩と腰の回転が大きく、踏み出した足首と膝の伸びも大きかったという
- これは、内角のインパクト位置へバットを出すために、肩を回してそして踏み出した足を延ばして身体を後ろに下げたためである
流し打ちでは押し腕の脇が絞られ、グリップが走る
- その次には、試合での外角のコースを流し打ちした動作、しかもヘッドスピードを速くするための動作が調べられた
- ヘッドスピードの速い打者の特徴は、時間経過とともに以下のように記されている
- 踏み出し脚の着地において、身体重心を左右の足にバランスよく乗せ、懐の深い姿勢をとっていた
- 右わきを閉めたままスイングを行っていた
- スイング中、バットが水平、後向きになった時、投手方向へのグリップ速度を大きくしていた
- インパクトに向けて、軸足の蹴り(足底屈)と肩の回転を大きくしていた
バットヘッドを下げて、バットの上にボールを当てる
- 最後に、流し打ちをするときのバットの動きを確認する
- どうして流し打ちが可能になるかを調査した報告がある
- インパクト時に水平面内のバット角度が流す方向に向いていることだけでなく、鉛直面内のバット角度(ヘッドの下がり具合)とボールが当たる位置によっても流す方向は影響を受けていたという
- ホームベース中心から18.9㎝外角のボールを大学生選手に流し打ってもらった
- そのうち飛距離が40m以上、右中間からファールライン付近の範囲に打球が放たれた場合のバットの動きが調べられた
- インパクト時の水平面内のバット角度、鉛直面内のバット角度(ヘッドの下がり具合)、バットの上下方向についてのボールが当たる位置を計測した
- すると、大半の流し打ちではインパクト時の水平面内のバット角度はマイナス、つまり流す方向に向いていたのだが、引っ張り方向に向いている場合もあったという
- 一方、鉛直面内のバット角度はすべてプラス、つまりグリップよりヘッドが下がった状態でインパクトしていた
- このうち、水平面内のバット角度が引っ張り方向に向いている場合は、この下がり具合が大きく、バットの上のほうにボールが当たっていたという
- 見方を変えると、バットのヘッドがやや大きく下がって、バットの上のほうにボールが当たれば、バットが引っ張り方向に向いていても流し打ち方向に打球はいくということである
- ただし、その場合の打球の強さについては明らかではない
- こうしてみてくると、流し打ちの場合、まず肩と腰の回転を流す向きへ調節して、それぞれの脇を締めて腕を流す方向に動かし、手首を早めに効かせて、バットを流す向きに走らせるということになる
バットの動き
バットの動きをつくってから振り始める
- スイング開始でのバットの動きを観察すると、2つのパターンに大別される
- 1つは、振り出しの際に肩の後ろで小さな回転をともなって出てくるパターン
- もう1つは、動き始めるとすぐにバットの重心が下へ動き出すパターンである
- 静止させたままのバットを振り出すことには無理があるため、何らかのきっかけを使ってバットの動きをつくってから振り始める
- 前者では、バットを加速する時間が長くなるのでバットのスピードは出しやすいが、いろいろな投球に対応するのは難しいかもしれない
- 後者のように余分な動きを少なくすればきっかけを得難いので振り始めるためには工夫がなされるだろうともいう
- あるキューバの打者では、振り始める前に一旦ホームベース方向に傾けられたと見られるバットヘッドが元に戻る過程でバットが振り出されていた
- いわゆる「バットのヘッドを入れる」という動きである
- この前後へのわずかなコック(ピクッという動き)もその工夫の1つの例という
- 指導ではバットの振り出しで刻苦するのは悪いとされているが、それは大きくコックすると身体やバットの動きがバラついてしまうためだし、その間に速球に差し込まれてしまうためである
- 動き出しのきっかけをつくるのであれば、わずかなコックは問題ないのだろう
曲面を描くようにバットは振り下ろす
- その後の動きを観察すると、局面を描くようにバットは振り下ろされてくる
- 「インパクトまで最短距離でバットを運べ」とよく指導されるが、最短距離で、つまり直線的にバットは動いていない
- 直線的にバットを動かすと、グリップを引き抜くようになってしまって、ヘッドは走らない
- 引き抜いてからヘッドを走らすために回すのでは時間もかかってしまう
- 指導で言われる「最短距離」とは、「できるだけ短い時間でバットを運べ」という意味である
- その最短時間を与えるバットの軌道は、サイクロイド曲線になる、という
- サイクロイド曲線とは、滑らずに直線上を回転する円の円周上の定点によって描かれる曲線である
- 振り出しの位置とインパクト位置を直線でつなぎ、その上を3次元的に回転する円周上の定点をバットの重心がたどれば良い、ということである
- 「螺旋が徐々にほぐれるように」とイメージしてもそう間違いではないだろう
- その結果は、画像でのバットの動きに似ている
日本人選手とキューバ人選手が各方向へ長打を打った際のインパクトまでのスイング起動 (画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- その振り出しは、ここでのキューバ選手のバットの動きに近いが、キューバ選手は振り出した後にヘッドが下がって遠回りしているように見える
- 一方、日本選手のバットの動きは、ヘッドこそ下がらないが、振り出して少し遠回りしているようにみえる
バットは少しアッパースイングにする
- こうした違いはあるにせよ、遠くに飛ばすためには、インパクト直前で投球されたボールとバットヘッドの軌道が横から見て平行になるようなスイング角度でインパクトすることが重要である
- 投球されたボールは、少し落ちてきているので、バットは少しアッパースイングにしろということである
- 打球に角度を出すためには、ボール中心の2.6㎝下を、上方へ10°のアッパースイングでインパクトすることが計算上では最も打球を遠くに飛ばすことができる
- こうしてみると、「ボールを上から叩け」という指導は、振り出しでバットヘッドが下がることを戒める言葉といえよう
ボールと打撃面が直角に当たるように押し手を使う
- 一方、水平面でみて、投球されたボールをバットでこすると打球はスライスして飛ばない
- 良い当たりだなと思っても外野で打球が失速するのは経験するところである
- こすれてスライスする原因には以下の3つが挙げられる
- 投球されたボールの動き
- スイングするバットの動き
- インパクトでのバットの動き
- 外角へ逃げるボールであればスライスするし、そもそも回転しているバットの動きはスライスを生む
- 円運動しているということは、バットはグリップの向きに加速しているからである
- そして、インパクトでバットヘッドがまだ捕手側に向いていればスライスする
- こうした原因を取り除くには、投球されたボールとバットの打撃面が直角に当たるように押し手(右打者の右手)を使ってスイングすることが必要である
- 指導では、「引っかけるな」とよく言われるが、引っかけるぐらいの意識でスイングしないと打球はスライスしてしまう
- プロ野球をみていると、ホームランを打った時にはバットのグリップよりもヘッドのほうが前に出ているように見えることがある
インパクト近くでバットを並進させる利点もある
- 日本人の大学選手、熟練者と未熟練者でバットの動きを比べてみた
スイング中の重心並進速度と回転速度
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- バットの動きは並進運動と回転運動に分けて示す
- 動きが分かりやすくなるし、動きの原因を特定しやすくなるからである
- 横軸は時間で左から右に流れていき、踏み出し脚着地時とインパクト時の上から見た打撃姿勢が描かれている
- 一方、縦軸は水平面内でみたばっとの並進速度と回転速度がとってある
- 熟練者と未熟練者でバットの回転速度に違いはなかったが、並進速度には違いがあった
- 未熟練者は踏み出し脚を着地した後、並進運動を徐々に高めていたが、熟練者は並進運動を急増させてインパクト時には未熟練者の速度を凌いでいた
- こうすれば正確に当てる確率は高くなる
- 押し腕がよく効いていたということである
腕の動き
両腕と体幹でできる三角形を保つ
- 足で地面を押した力の反作用(地面反力)を受けて腰や肩を回転させた勢いは、腕を介してバットに伝えられる
- ボールを打つ能力と引き腕を持ち上げる肩の力(屈曲力)との相関が高いことや、引き腕の上腕三頭筋を強化すればバットに大きな力を加えられる、という報告からすると、バットを振るために引き腕の果たす役割は大きい
- 「両腕と体幹でできる三角形を保て」と指導されて、保てない打者はゴムチューブなどを利用して保たせるドリルが行われる
- 三角形を保つ意味は何なのだろうか?
- 好打者と未熟な打者を上方から見た時の模式図を描いたところ、確かに未熟な打者は三角形がつぶれているように見えた
- 画像では腰の中点を1点に集めて、腰と引き腕の上腕をつないで、さらに前腕、バットとつないでいる
打者を上方から見た時の模式図
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 未熟な打者のように三角形がつぶれてしまうと引き腕の力が使えずに腰が開いてしまい、腰の回転がバットの回転に伝わっていないようにみえる
- さらに、これでは内角球もうまく打てそうにない
引き腕を伸ばせば三角形はつぶれやすい
- メジャーリーグの打者の打撃動作を分析した報告によると、共通した5つの力学的な特性があるという
- スイング中に身体の重心は水平に移動する
- ボールをよく、長くみられるように投球ごとに頭の位置を調整する
- 引き腕はバットスピードを大きくするために伸ばす
- ステップの長さは投球によらず一定
- インパクト後、上半身は投球方向に向けて、体重を前足に乗せる
- このようにバットのヘッドスピードを大きくするためには引き腕を伸ばすこととあった
- 引き腕の肩あるいは体幹からバットのヘッドまでの距離、回転半径を長くしてヘッドスピードを速くしようという力学的な考え方である
- しかし、引き腕を伸ばせば三角形はつぶれて引き腕の力を使い難くなる
- また、バットがそのまま遠回りすればドアスイングになって内角球も打てなくなる
- メジャーリーグ打者のように腕力が強ければ再び三角形を作れるのだろうか?
- さらに、日本のプロ野球一流打者でもスイング開始前に引き腕の肘は真っ直ぐ伸ばされている
プロ野球一流打者に観察されるテイクバック時の引き腕の肘伸展動作
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- このように肘を伸ばしてスイングすると体幹を回転させ難くなるので地面反力を大きくできる効果が期待できて、結果として身体の回転の勢いに貢献する
- 引き腕の力を使わないのであれば良いかもしれないが、引き腕の果たす役割は大きいはずである
引き腕の力を使えるようにする
- 自分の背中にあるものを自分の前に腕で引っ張ってくる牽引力を測ると、肩の近くを通すように引っ張ったほうが大きな力が出る
- 肩から遠く離れれば、腕の力は使い難い
- バッティングで引き腕の肘を伸ばしてしまうと同じように腕の力は使い難くなると考えられる
- ティーバッティングにおける腕の動きを詳細に分析した報告によると、それほど大きな動きはないが、引き腕の肩では一度三角形がつぶれて(水平屈曲して)から再び三角形がつくられて(水平伸展して)いるという
- 引き腕の力が使われているということである
- そして、バットのヘッドスピードが速い打者は引き腕の肩の内転と水平伸展が大きかった
- すなわち「脇をしめる」ようにしていたという
- この動きは両腕による三角形をつくることに貢献するだろう
- 引き腕の肩や肘の角度を調整あるいは維持することによって、身体の近くにバットを留めて操作しやすくする、いう言い方もされている
インパクト近くで押し腕を急激に伸ばす
- 一方の押し腕の動きは、引き腕の動きよりも大きい
- フォワードスイングに入ると肘を伸ばしながら前腕を回外して(掌を上に向けて)、手首は小指側に曲げる(尺屈する)、という
- 柱に刺した水平な釘を金槌で打つ動きである
- 指導現場では「パワーの源は引き腕」といわれることがあるが、フォワードスイングの開始ではそうであったとしても、釘打ちの動きからしてインパクト近くになったら押し腕のパワーは重要となるはずである
- 押し腕の肘を伸ばしながらと書いたが、角度でみると45~90°からインパクトに向けて急激に伸びる
- それに対して、引き腕では90~135°という鈍角から緩やかに伸びていく
- この肘の伸ばし方、押し腕では急激に、引き腕では緩やかにというのが重要なポイントである
- このスピード差があるからバットを回転させる力(トルク)を生む出せるのである
- バットを引き抜いてくるというイメージが強いので引き腕を働かせてバットを引っ張ってきたくなるが、それではヘッドは走らない
- 極端に言うと、押し腕では投手側へ押し、引き腕では捕手側へ引くのでバットは回転してヘッドが走る
- ただし、タイミングが早ければ押すことになるが、普通は両腕とも肘じゃ完全に伸びきっていないところでインパクトを迎える
腰の回転
踏み出し足側を軸に腰を回転させる
- 足踏みをする中で投手側へ身体を移動させるし、フォワードスイングのために鉛直軸回りに身体を回転もさせる
- これらは主に脚の筋肉の働きである
- それを脚の動きでみると、軸足では横向きのまま投手側へ腰を押していき、脚を内向きに捩り込みながら(内旋しながら)伸ばして軸足側の腰を押す
- ステップして投手側へ身体を一息に押すのではなく、軸足に余力を残して押すのだった
- 余力を残しておかないと投球スピードの違いに対応できないからである
- 一方の踏み出し足では、ステップして着地した後、脚を外向きに開いて(外旋して)踏み出し足側の腰の回転をリードする
- 腰といっしょに外向きに開くのではなく、腰よりも先に開いてリードする
- それぞれの脚をこのように使うと、腰の中心を軸にではなく、投手側に身体が移動していくので踏み出し足側を軸に腰を回転させることになる
- ゴルフスイングでよく言われる「左半身で壁をつくる」という動きである
- そのほうが腰の回転半径を長くできて、ひいてはバットのヘッドスピードも速くできる
- この腰の回転がスイングスピードを速くするために最も重要な動きで、体幹の捩りを戻す回転がその次に重要という
- 続いて腰や肩の回転、体幹の捩りを眺めてみる
- バッティングの構えでは「腰を捩っておくように」と指導され、バックスイングの向きに腰を少し回しておく
- これは腰を回す範囲を広げてエネルギーを多く発揮しようとしているのである
- 一方で、「バックスイングでは肩をあまり大きく回さないように」と指摘される
- 投球を見難くなるし、大きく捩るとすぐに戻りやすくなるという理由からである
腰が先に回って、肩は後から追いかける
メジャーリーグの打者
- メジャーリーグ打者7名のティーバッティングでの動作を解析した報告がある
- 踏み出し脚を上げる時に腰は18°、肩は30°バックスイングの向きに回していた
- それがステップ着地時になると腰はフォワードスイングの向きに4°、肩はバックスイングの向きに29°になっていたという
- 画像では左から右に時間が流れて、●が腰、〇肩の水平内転の角度である
野球の打撃中の腰部と肩部の回転角度
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 縦軸の0°は投手に対して打者の肩や腰が横向き、プラスはバックスイングの向き、マイナスはフォワードスイングの向きである
- アメリカの打者にありがちだが、ステップしている間、腰よりも肩をバックスイングの向きに大きく回しているのがわかる
- そして、腰から先にフォワードスイングの向きに回し始めて、肩はその後から回している
- 腰の角度と肩の角度の違いを「体幹の捩り」とするならば、このメジャーリーグの打者は腰をフォワードスイングの向きに回しつつ、肩をバックスイングの向きに回して体幹の捩りを大きくしていた
- 最大で30°程度になっていた
- その後は肩の回転のほうが速いので、インパクトになると角度差が小さくなっていた、つまり捩りが戻ってきていた
日本の打者
- 日本を代表する2人の左打者のフリーバッティングを撮影して、メジャーリーグの打者と同じように水平面内の腰、肩、バットの角度を求めてみた
野球のバッティング中の腰、肩、バットの角度変化
(画像引用:科学する野球 バッティング&ベースランニング)
- 180°を投捕方向(横向き)としているので、90°で投手と正対することになる
- バットが回転し始める前をみると、両打者ともにバックスイング向きに腰を20°、肩を40°回していた
- つまり、体幹を20°程度捩っていたことになる
- 両者ともに腰よりも肩を大きく回していたが、打者 Y.T. はメジャーリーグ打者のように肩をさらにバックスイングの向きに回していた
- そして、両者ともに腰から先にフォワードスイングの向きに回していたが、回すパターンは少し違っていた
- 打者 H.M. は腰を速く回して、インパクト前にはその回転を終えていた
- 肩も早い時期から加速させて腰とともに回していくパターンであった
- 一方、打者 Y.T. はインパクトまで一定の速度で腰を回していた
- 肩の角度を維持して捩りを一旦大きくし、その後、肩を加速させるパターンであった
- 両者ともにインパクト前に捩りが戻っていた点はメジャーリーグ打者の報告とは異なっていた
- つまり、肩の回転が腰の回転を追い越していたのである
体幹をすばやく捩ってすばやく戻す
肩を残して腰を回す
- ティーバッティングでこの体幹の捩りを詳しく検討した報告によると、捩りの大きさとバットのヘッドスピードとは関係なかったが、すばやく捩りをつくる打者ほどバットのヘッドスピードは大きかったという
- しかも、そういう打者はすばやく捩りを戻す傾向にもあったという
- 体幹の捩りは大きさだけでなく、すばやく捩ってすばやく戻すことがバットのヘッドスピードに貢献するという話である
- 体幹をすばやく捩るというとバックスイングの向きに腰を回して捩ると思いがちであるが、そうではない
- 肩を残して腰を先に回すから捩りができるのである
- この腰を先に回すのをすばやく、ということである
SSC
- 筋肉の使い方に伸展-短縮サイクル(SSC:Stretch-Shortening Cycle)という使い方がある
- 通常、筋肉は短くなって力を発揮するが、短くなる前に一度伸ばすという使い方である
- こうすると、短くなる時に大きな力を発揮できるし、エネルギーを節約できて運動を長続きさせることもできる
- ただし、こうした効果を得るためには条件がある
- それは、使う筋肉を一度伸ばす局面で活動させておくことと、伸ばしてから短くする切り替えをすばやくすることである
- 野球のバッティングで体幹をすばやく捩ってすばやく戻すのはこうしたSSCの効果を狙っているのである
- 現に、野球選手の外腹斜筋の厚さを測ってみると、体幹の捩りを戻す側、右打者でいえば左側の筋肉のほうが厚いという
- 筋肉が太くなるためには強い力を出さなくてはならず、使う筋肉を一度伸ばす局面で活動させておく(伸張性筋活動)ことを繰り返すとよく見られる効果である
身体を回転させるのではなく、バットを回転させる
- 体幹と腕の回転がバットのヘッドスピードにどう貢献するのかをみた報告によると、フォワードスイング前半では体幹の回転、後半では手首の回転がバットのヘッドスピードの大部分を生じさせているという
- 踏み出し脚を着地する時には肩の開きを抑えて、また、バットのヘッドスピードの増加もできるだけ抑えて、インパクトまで加速させるための距離を保つ
- そして、フォワードスイング前半、腰の回転に遅れないように胸部を回転させることで体幹としての回転に勢いをつけ、バットのヘッドスピードを急増させることが重要という
- こうして腰の回転と体幹の捩りを戻す回転によって身体全体としての回転の勢い(角運動量)は大きくなるが、インパクトまでその勢いを続けるわけではない
- フォワードスイング後半にはバットの回転の勢いに移していくことになる
- バットの回転に移せば、その反作用を受けて身体の回転の勢いは弱まる
- 野球のバッティングでは身体を回転させるのが目的ではなく、バットを回転させるのが目的である
参考文献
科学する野球 バッティング&ベースランニング (ベースボールマガジン 2016年12月25日 平野裕一)
股関節外旋筋トレーニング 外旋筋のバイオメカニクス・梨状筋・上下双子筋・内外閉鎖筋・筋交代テスト・股関節屈曲角度を考慮したトレーニング
股関節運動の捉え方
- ニーイン&トゥアウトというアライメント異常を上位からの運動連鎖の視点で考えると、股関節内転・内旋位が問題となることが多い
- この問題の原因を股関節外旋筋の機能不全と捉えて、アプローチを行っていく
股関節外旋筋のバイオメカニクス
- 股関節外旋筋は、その走行から、多くは大転子に停止部を持ち、そこから扇状に広がるように起始部を持つ筋として捉えられる
- 股関節のポジションの違いにより筋の機能が変化する
- 股関節外旋筋の役割について、股関節の屈曲角度、回旋軸中心、モーメントアームという各要素から考える
梨状筋
- 梨状筋は、股関節伸展位では股関節の回旋軸中心の後方を通り、モーメントアームも長いことから、股関節外旋の筋力発揮におおきに貢献していると考えられる
- 股関節伸展位では外旋筋としての貢献度が大きい
- 股関節屈曲が大きくなるにつれて外転筋として働く
- 股関節屈曲角度がさらに大きくなると、やがて内旋筋として働く
梨状筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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上双子筋・内閉鎖筋
- この2つの筋は、股関節伸展位では回旋軸中心からのモーメントアームが短く、外旋筋としての貢献度は小さいと考えられる
- 股関節屈曲に伴いモーメントアームが長くなり、股関節外旋筋として貢献度が大きくなると考えられる
- さらに屈曲角度が増すことで、梨状筋と同様に股関節内旋筋として働くポジションがあると考えられる
上双子筋と内閉鎖筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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下双子筋・外閉鎖筋
- この2つの筋は股関節伸展位では大腿骨頚部に巻きつくように走行しているため、モーメントアームが短く、股関節外旋筋としての貢献度は小さいと考えられる
- その後、屈曲角度が増すにつれてモーメントアームが長くなり、股関節外旋筋としての貢献度が次第に大きくなると考えられる
下双子筋と外閉鎖筋の起始・停止などの復習をしたい方はこちら
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股関節外旋筋の筋交代テスト
- 股関節外旋筋の機能は股関節の屈曲角度によって変化することが考えられるため、通常の徒手筋力テストでは評価が困難である
- そこで、股関節外旋筋の機能評価に、次の方法を用いる
- 側臥位・膝屈曲位として股関節内転方向に抵抗を加え、そのまま股関節屈曲の自動運動を行わせ、股関節中間位での運動が遂行可能か否かを評価する
- 特にアライメント不良を呈する股関節角度について注意深く観察する
- このテストによるアライメント不良は、①股関節内転・内旋、②骨盤帯の後傾、③骨盤帯の側方挙上、④上記①~③の複合の各動作で表出される
- このような代償例では、実際の片脚スクワット動作との関連を認める
股関節外旋筋のトレーニング
- 筋力トレーニングにおける可動域については、他動運動での可動域と自動運動での可動域を同等とすることを基本とされている
- したがって、最終可動域でのセッティングを十分に意識して行わせることが重要である
- 同時に、股関節外旋筋力のトレーニングでは、股関節の屈曲角度の変化に伴う筋の機能の変化を考慮するとともに、アライメント不良を呈している股関節角度に配慮することを基本としている
股関節の屈曲角度を考慮したトレーニング
- 側臥位となり、それぞれの外旋筋に適した股関節屈曲角度をとる
- 梨状筋を意識したトレーニングでは、股関節伸展位からの開排動作を行わせる
- 上双子筋と内閉鎖筋を意識したトレーニングでは、股関節を軽度屈曲位として行わせる
- 下双子筋と外閉鎖筋を意識したトレーニングでは、股関節の屈曲角度を深くして行わせる
- それぞれ骨盤帯の代償動作や下腿外旋に伴う外側ハムストリングスの代償動作に注意して行わせる
股関節外転を意識したトレーニング
- 股関節軽度屈曲位では、梨状筋の外転作用を意識したトレーニングを行わせ、深い股関節屈曲角度(90°)では上双子筋と内閉鎖筋の外転作用を意識したトレーニングを行わせる
- それぞれ、骨盤帯や体幹での代償に注意して行わせる
参考文献
アライメントからみた膝関節のスポーツ障害と理学療法 (理学療法 32巻5号 2015年5月 吉田昌平)
偏平足 病態・FPI-6・HFT・ウィンドラス機能
偏平足の評価と理学療法
偏平足障害の病態
- 偏平足障害は『内側縦アーチの偏平化に伴う慢性的な足部・足関節の諸症状』と定義される
- 近年では、後脛骨筋機能不全(PTTD:Posterior tibial tendon dysfunction)という名称が用いられることが多い
- PTTDは、急性外傷やオーバースースなどによる滑膜炎や腱変性に伴う後脛骨筋の筋力低下、後脛骨筋腱の機能不全や痛みの総称である
- 偏平足障害の発生頻度は、内側縦アーチ構造が未成熟である小児期において高く、大学スポーツ選手に関しては14.7%との報告がある
- 中年以降に増加するとも言われている
- 踵骨外反が蔓延化すると短腓骨筋優位の筋活動となり、前足部外転が起こる
- それに伴い、足底内側の靭帯とショパール関節の関節包が伸張され、骨・関節・靭帯性組織の破綻によって偏平足障害へと進展する
- 内側縦アーチが低下している症例は、後脛骨筋腱の滑走抵抗が増大することがあり、筋力だけでなく腱の滑走性の改善が求められる
- 痛みは距骨舟関節、踵立方関節、足底などに生じ、関節関連性により足部以外の下腿、膝関節、腰部などに波及する場合も少なくない
偏平足障害に対する評価
- 偏平足障害の後足部アライメントでは、calcaneus-angle が外反位で、HFT(Heel -Floor test)が陽性となる例において、内側縦アーチの低下が最も大きい
- 背屈時に距骨頭内側の後方への滑りが阻害され外側優位に活動すると、踵骨外反・前足部外転が増大するため、距骨内側頭・外側頭の活動性評価が重要となる
- 立位で患者の踵部を後方から観察し、外側に1.5趾以上が見える場合を陽性と判断する too many toes sigh は、PTTD患者で感度9.2%、特異度75%と報告されており、有用な評価の1つである
FPI-6
- 国際的には、足部・速関節の静的アライメント評価に foot posture index (FPI-6)が用いられている
1:距骨頭アライメント
「距骨頭内側触知可、外側触知可+2」~「内側触知不可、外側触知可-2」
2:外果上下のカーブ
「外果下のカーブは外果上より明らかに大きく凹+2」~
「外果下のカーブが凸・平ら-2」
3:踵骨内外反
「約5°以上の外反+2」~「約5°以上の内反-2」
4:距舟関節周囲の突出
「距舟関節周囲が明らかに凸+2」~「明らかに凹-2」
5:内側縦アーチの形状
「アーチがかなり低く中央部が地面に接触+2」~
「アーチが高く後方に向かって急にに傾斜-2」
6:前足部の内外転
「内側のつま先は見えないが外側ははっきり見える+2」~
「外側のつま先は見えないが内側ははっきり見える-2」
- 合計点が+10以上を極度の回内足、+6~+9を回内足、0~+5を正常、-1~-4を回外足、-5~-12を極度の回外足と評価する
HFT
- 偏平足障害では内側縦アーチの問題に着目しがちであるが、外側アーチや横アーチには偏平化が認められる例も少なくない
- HFTは、陽性か陰性かを判断するだけでなく、スクワット動作の初期に踵骨外反が強くなるのか、前足部に体重が移動してから内側縦アーチが降下するのかなど、詳細な評価のために行う
ROM
- 距骨下関節やショパール関節、リスフラン関節についても確認する
- 距骨下関節が回内するとショパール関節やリスフラン関節第1列の柔軟性が高くなる
- 下腿外旋が強い例ではフットアングルが大きくなるため、荷重に伴い内側アーチが降下する場合がある
- 症例に応じて近接関節の評価も必要となる
筋機能
- アーチを構成する筋の機能が重要であり、特に長腓骨筋は内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチのすべてに影響を及ぼす
- 内側縦アーチを構成する筋のうち、長母趾屈筋は距骨内側結節と踵骨載距突起部を支持しており、長趾屈筋とともに踵骨外反を制動する
- 後脛骨筋は舟状骨と内側楔状骨に停止しており、アーチ機能のキーポイントとなる中足部を支持する最も重要な役割を担う
- 特に、内果後方での後脛骨筋腱の滑走抵抗増大が筋力低下をもたらすと考えられており、同部の伸張性や県の滑走性も確認する
『長腓骨筋・長母趾屈筋・後脛骨筋の起始停止』などを復習したい方はこちら
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ウィンドラス機能
- 内側縦アーチの安定性に関与する足底内側組織には足底腱膜の貢献度が最も大きいと言われており、ウィンドラス機能の評価も必要に応じて実施する
- ウィンドラス機能の評価では、足関節中間位で母趾を他動的に伸展し抵抗感を触知する
- ウィンドラス機能が十分に発揮されない者は、抵抗感なく30°以上容易に伸展し、歩行の蹴り出し時に影響を与えることが予測され、CKCでのヒールアップ時に足底腱膜の緊張が得られるか否かを評価することも必要である
評価から得られるアライメントの情報
- 偏平足障害の典型的な動的アライメントはニーイン&トゥアウトであり、片脚スクワット時のHFTでは強陽性となる
- 静的アライメントは、calcaneus-angle が外反位で、内側縦アーチおよび横アーチが低下し、前足部外転位となる
- too many toes sigh は陽性で、距骨頭アライメントは「内側触知可、外側触知不可」である
- 距舟関節周囲の凸形状が認められ、足部・足関節の内側構成体には明らかな伸展負荷が生じていることが推察される
- 関節運動連鎖の関係から上位関節への影響も大きく、アライメントを崩す要因を特定し適切なアプローチを実施することが求められる
『足関節捻挫』について復習したい方はこちら
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参考文献
アライメントからみた足部・速関節のスポーツ障害と理学療法 (理学療法 32巻5号 2015年5月 加賀谷善教)
足関節捻挫 病態・HFT・距骨下関節と立方骨モビライゼーション・腓骨筋エクササイズ
足関節捻挫の評価と理学療法
足関節捻挫の病態
- 足関節捻挫は代表的なスポーツ外傷の一つであり、その発生頻度は高い
- 中でも内反捻挫は70~77%と報告されており、発生機転は着地や方向転換時の内返し強制が大多数を占める
- 損傷部位は前距腓靭帯が65~73%と最も多く、前距腓靭帯と踵腓靭帯の複合損傷は20%とされている
- 前脛腓靭帯や腓骨筋腱、後脛骨筋腱などの損傷もみられる
- 足関節捻挫の問題として、機能的不安定性の残存や後遺症、再受傷率の高さなどが挙げられ、年間3回以上の捻挫を繰り返す慢性的な足関節捻挫に移行した患者が11%に達したとの報告がある
『前距腓靭帯・後距腓靭帯・踵腓靭帯』について復習したい方はこちら
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足関節捻挫のアライメント評価の実際
- 足関節捻挫のアライメント評価では、calcaneus-angle やアーチ高などの静的アライメントだけでなく、動的アライメントを的確に評価することが重要となる
- 後足部機能の評価に heel-floor test (HFT)がある
- HFTは、片脚立位時の床面に対する踵骨軸の傾斜角を基準として片脚スクワット時およびカーフレイズ時の変化量を評価する方法である
- 片脚立位時の傾斜角と各動作時の傾斜角との差を把握し、以下の5段階に分類し、それぞれカッコ内に示した記号で表示する
- 5°未満の外反は陽性 :(+)
- 5°以上の外反は強陽性:(++)
- 5°未満の内反は陰性 :(-)
- 5°以上の内反は強陰性:(--)
- 変化なし :( ± )
- 強陽性例では片脚スクワット時の膝外反が大きくなることが分かっており、足部アライメントが上位関節に与える影響を考慮しつつ、必要な評価を選択することが重要となる
- アライメントと痛みや不安定性との関連に着目し、問題となる負荷様式を推察し、アライメントを崩す要因と考えられるROMや筋機能を評価する
- 痛みについては、前距腓靭帯や踵腓靭帯にとどまらず、前脛腓靭帯や腓骨筋腱、後脛骨筋腱などとの合併損傷の存在を疑って評価する
- ROMについては、その制限因子を特定することが重要であり、関節包内運動や筋スパズム、痛みなどによる制限の有無を確認する
- 足関節捻挫の場合は、背屈ROMだけでなく距骨下関節の可動性が重要となる
- 距骨下関節に回内制限があると足関節内反を引き起こす可能性が高くなる
- また、正常な背屈運動を誘導するためには、背屈に伴って距骨頭内外側の後方への滑りが均等に生じているか評価する
- 筋機能については特に長腓骨筋が重要であり、筋力評価の際に母趾球を底側および外反方向に蹴り出せるか確認する
- さらに、足関節背屈筋群の評価も必要に応じて実施する
評価によって得られるアライメント情報
- 足関節捻挫は急性外傷であるため、受傷機転と静的アライメントとの関連性は高いとは言い難い
- ハイアーチや calcaneus-angle が内反位の症例では足関節内反捻挫を惹起しやすいと考えられるが、実際には偏平足の症例でも足関節捻挫は多発しており、静的アライメントよりは動的アライメントが受傷機転に関連する
- ニーアウト&トゥインの動的アライメントでは、スポーツ動作時に足関節内反が生じやすくなるため、足関節内反捻挫の発生リスクは高くなる
- 片脚スクワットでHFTが陰性となりニーアウト&トゥインを呈する症例は、踏み込み動作やジャンプの着地で足関節内反が生じやすくなるが、ニーイン&トゥアウトタイプに比べるとアット的に少ない
- カーフレイズでHFTが陰性となる症例は、足関節内反が生じやすい
- このことは接地動作に関連がないように思われるが、蹴り出し後のリカバリーが遅れると足関節内反位のまま接地することになるため、実際のスポーツ動作や足関節内反捻挫の発生に大きな影響を与える
アライメントからみた理学療法
距骨下関節・立方骨モビライゼーション
- ハイアーチや calcaneus-angle が内反位の症例では、静的アライメントが足関節外側靭帯に対する伸張負荷を高め、距骨下関節の回内ROMに制限を認める場合が多い
- さらに、偏平足であってもHFTやニーアウト&トゥインを呈する症例では、距骨下関節回内に制限が認められる場合がある
- これらの症例に対しては、距骨下関節の回内ROMを改善することで踵骨内反位を修正する
- 踵骨を把持し、回内方向に徒手的操作を加え、距骨が足関節窩に固定される背屈位か中間位で実施する
- 外側アーチ低下例に対しては、立方骨のモビライゼーションを施行する
- 立方骨を把持し、回外方向に徒手的操作を加え、足底側から押し上げ、外側縁を引き下げるイメージで実施する
長腓骨筋エクササイズ
- カーフレイズでHFTが陰性となる症例は、長腓骨筋の機能低下を有していることが多い
- 長腓骨筋の筋力エクササイズでは、ゴムチューブを利用した方法に加え、母趾球荷重を意識した片脚立位エクササイズやカーフレイズを実施する
足趾伸筋および短腓骨筋のエクササイズ
- 足関節背屈ROM制限や足趾伸筋機能低下、短腓骨筋機能低下も動的アライメントを崩す要因となるため注意する
- 背屈ROMが十分獲得されていない場合、スポーツ動作時の重心位置が高くなり、距骨の前後径の形状から内反を引き起こしやすくなる
- HFTが陰性で足趾伸筋群や短腓骨筋の機能低下を有する症例は症例は蹴り出し後のリカバリーが十分得られず、足関節内反が生じやすい
- この場合、短腓骨筋のチューブエクササイズや足趾伸筋を伴ったカーフレイズなどを実施する
参考文献
アライメントからみた足部・速関節のスポーツ障害と理学療法 (理学療法 32巻5号 2015年5月 加賀谷善教)
腰部のバイオメカニクス
腰背部の運動学
体幹伸展によって生じるストレス
- 腰椎伸展時は、前縦靭帯などの腰椎前方には伸張力、後方の椎間関節や棘突起などの棘間には圧縮力が高まる
- これに伴って椎間孔の直径は11%狭小し、脊柱管の容積も15%減少して脊柱後方へのストレスが増大する
- 死体による検討では、椎間関節包と後方靭帯への負荷はそれぞれ40%、20%に達するとされている
- 椎間関節の機能は、椎体間の動きを制限することと、軸方向の荷重を受けることである
- 腰椎椎間関節は上下2つの腰椎を結びつける一対の滑膜関節であり、上位腰椎の下関節突起と下位腰椎の上関節突起とからなり、椎間板とともに脊椎のモーターセグメントを構成し、関節列隙の方向は上い椎間関節になるほど歯状化し、逆に下位腰椎になるほど冠状化しているのが特徴となる
- 歯状化している椎間関節では回旋運動を制限し、冠状化している椎間関節では前屈した際の前方への剪断力を制限する
- また、腰椎を伸展すると軸方向荷重の約16%を受けるが、脊椎に変形があるとその荷重は70%程度まで増加するとされる
- これは、椎間関節包は前方は黄色靭帯、後方は棘上靭帯で補強されているが、椎間関節の運動を制御しているのは椎間板の最外層の線維輪であるため、線維の変性変化が起こると関節の遊びが大きくなり荷重を受けやすくなるとされている
- そのため、腰部脊柱管狭窄症のように加齢による変性が主な原因での脊柱後方の障害では腰部の伸展障害が著名となることが多い
- しかし、この逆にこの伸展の際に椎間板内で髄核が前方へ移動するため、後方の椎間板への負荷は減少する
- この運動学的特徴が、腰椎椎間板ヘルニア例における症状緩解のメカニズムとなっている
- このメカニズムを利用した治療法がマッケンジーの伸展エクササイズである
- また、体幹伸展時は腰椎の前弯が増強することになるが、腰最長筋などのアウターマッスルの活動が優位にとなった場合、腰椎前弯が増強して脊柱後方へのストレスはさらに増大する
- これに比してインナーマッスルである多裂筋の活動により椎体の垂直方向への安定性が増加し、腰椎前弯の増強が抑制される
- したがって、近年では腰部・脊柱安定化エクササイズなどのモーターコントロールエクササイズが重要視されている
体幹後屈時痛に対するリハビリを復習したい方はこちら
⇩
体幹屈曲によって生じるストレス
- 体幹屈曲時は椎体をはじめとする前方組織が圧迫を受け、後方の椎間関節包や靭帯には引き離し張力が働く
- そのため、椎間孔の直径は19%、脊柱管の容積は11%増加する
- 椎間関節は、屈曲し始めは圧迫ストレスは減じるものの、最終屈曲時には上下の関節突起により上方への椎体へ生じる前方剪断力拮抗して後方ストレスが増大する
- その際、髄核は後方へ移動する
- したがって、腰椎椎間板ヘルニア例では体幹屈曲により症状が悪化する場合があることを念頭に置く必要がある
- 立位の膝伸展位での体幹屈曲時には腰椎屈曲が約40°、股関節屈曲が約70°の組み合わせで行われ、この運動学的関係を腰つい骨盤リズムと呼ぶ
- ハムストリングスの短縮などにより股関節屈曲の制限が認められると、下位胸椎では通常よりも屈曲の増大が強いられる
- 逆に腰椎に屈曲制限が認められると、股関節は通常より大きな屈曲を強いられることになる
腰部屈曲伸展による生体力学的影響
仙腸関節へのストレス
- 仙腸関節は、その位置および構造的特徴から、脚長差はもちろん、腰椎や骨盤の不良姿勢によって大きなストレスを受けやすい
- しかし、腰痛の多くが仙腸関節の機能障害や不良なアライメントに起因するという考え方を裏付けるメカニズムについては、依然合意には至っていない
- したがって、仙腸関節だけが腰痛や背部痛の原因になるということはあり得ない
- 仙腸関節は矢状面で比較的小さな回転・並進運動を担っており、その平均可動域は回転が0.2~2°、並進が1~2㎜とされている
- 仙腸関節の運動として、腸骨に対する仙骨底部の相対的な前傾を意味する前屈運動(ニューテーション)、仙骨底部の相対的な後傾を意味する後屈運動(カウンターニューテーション)がある
- 仙腸関節は、前屈トルクを生む力によって安定化される
- この前屈トルクは体重や靭帯の伸張でも生じるが、腰椎・骨盤周囲筋の筋収縮が安定化により貢献する
- そのため、仙骨への前屈トルクを高めるためには脊柱起立筋、腰部多裂筋、外腹斜筋、腹直筋、ハムストリングス(大腿二頭筋)などお筋力強化が重要となる
仙腸関節の運動や安定について復習したい方はこちら
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参考文献
腰椎・腰部のバイオメカニクス的特性 (理学療法 28巻5号 2011年5月 村田伸)