ピッチング ステップ編 ステップの軌道・地面を押す力・エネルギーの流れ・ステップ長と向き・捻転動作・ボールを身体の前で放す・SSC
体幹を支える踏み出し脚
軸足の股と膝を曲げて地面を後ろに押す力をつくる
ステップの軌道からわかること
- 投球すれば地面に足跡が残る
- ステップの着地跡はステップの方向を知るのに用いられる
- 一方、プレートの前にできる軸足の跡は投球方向への体重移動と腰の回転の様子を知るのに利用される
- このうちの軸足の跡はスパイクの甲の部分で印されるが、それだけを見て投手の能力を診るという指導者もいる
- 例えば、軸足の跡の直進部分が長いから、十分に体重移動できているので良い、あるいは直進から曲がる角度が直角に近いことから、よく腰を回転させているので良いとか、逆に、その角度が大きいと回転が鈍いので悪い、跡全体が斜めになっていると移動と回転がじゅうふくしているので悪い、などといったように診るのである
野球のピッチングでの足跡
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
地面を押す力
日本人大学生投手
- 投球時に足で地面を押す力(反作用が地面反力)を測ると、軸足では体重の約0.5倍の力で後ろに押す
- 踏み出し脚では体重の約1.5倍の力で前に押す
アメリカ人高校・大学生投手
- 軸足では体重の約0.35倍の力で後ろに押す
- 踏み出し脚では体重の約0.72倍の力で前に押す
- それでも軸足での力はそれほど大きくないことから軸足で地面を蹴るのではない
- 投球方向へ身体を移動させるのである
- 軸足では大きな筋力を発揮するけれども、脚を伸ばして身体を投球方向に大きな速度で押し出すというよりは、身体を支持してスムーズに下降させるような働きをしている
押し出す動きのタイプの違い
日本の投手
- Drop and Drive type
- 軸足の股と膝を曲げて身体を沈め(Drop)、その後伸ばして前に移動する(Drive)タイプが多い
アメリカの投手
- Tall and Fall type
- 身体を高く保ったまま(Tall)、前に倒れ込んでいく(Fall)タイプが多い
軸足の股関節を伸ばす、そして引き付ける
ステップの意味
- ステップをする意味はそこで生み出したエネルギーを体幹そして腕へ伝えて利用することにある
- 流れるようなフォームには技術の高さを感じ、無駄な力が入っていない、しなやかなフォームといえる
- こうしたしなやかさは、身体のある部分から隣の部分にエネルギーが適切に流れているおかげと解釈されている
エネルギーの流れ
- エネルギーとは、仕事をする能力のことであり、このエネルギーが適切に流れれば、受け取った部分では余分な仕事をしなくてもエネルギーが増えて相応に動くので、無駄な力が入っていないと感じることになる
- 投球動作では、踏み出し脚 ⇒ 体幹 ⇒ 上腕 ⇒ 前腕 ⇒ 手 ⇒ ボールという順でエネルギーがが大きくなる局面が現れる
- ただ、先述したように軸足で地面を蹴っているわけではないので、踏み出し脚のエネルギーはそれほど大きいわけではない
- 大きくなるのは、踏み出し脚を着地する局面での体幹の上部(上胴:肩と肋骨で囲まれた部分)からである
- そして、この大きくなることには、主に軸脚の股関節を伸ばす、そして引き付ける(内転する)筋肉によってなされた仕事が効いている
- そもそも、軸脚のもっていたエネルギーが流れるのではない
- この仕事によって増えたエネルギーが体幹の下部(下胴:肋骨より下の腰を含む部分)を介して上胴へ流れているのである
- そして、このエネルギーの流れが大きいほどボールスピードが速かったという
体幹および投球腕書く部分の力学的エネルギーの変動
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
踏み出した脚の膝や足首は固める
踏み出し脚のエネルギーの流れ
- もうひとつ重要なのは、踏み出し脚でのエネルギーの流れである
- 腕を振る局面で、踏み出した脚で体幹をしっかり支えて、その股関節から下胴にエネルギーを流す
- このエネルギーの流れが大きいほど、やはりボールスピードが速かったという
- ボールスピードが速い投手と遅い投手の踏み出した脚の動きが比べられている
踏み込み脚接地からリリースまでの股関節併進速度および踏み込み脚股関節に作用する関節力 (画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 図には股、膝、足首の関節が描かれていて、実践矢印は股関節に働く力を表し、点線矢印は股関節の速さと動く向きを表している
- これをみると、ボールスピードが速い投手は首・膝が固定されていて股関節が上に動いている
- 一方、遅い投手は膝が前に出ていて股関節が下がっている
踏み出し脚の使い方
- 踏み出し脚の膝や足首を固めることによってパフォーマンスが良くなることもある
- 関節を固めることもまたひとつの技術と考えられて、スプリント走などで研究が進められている
- スプリント走では、着地中に膝や足首の関節をバネのように使っていては時間をロスしてしまうし、腰をしっかり押せないということで、これらの関節を固めて使うように勧められている
- バネを使って走ったほうが速いと考えるのが普通だが、膝や足首については固めて使うというのである
軸脚が踏み出し脚の動きをつくる
ステップの長さと向き
- ステップの長さは伸張の約70~80%である
- 外国人の投手と比べると日本人のほうが広い傾向にある
- 軸脚で発揮する力が大きいから広くなるのである
- そして、ステップは長さだけでなく、向きももちろん重要である
- オープンステップでは体幹が早く正面を向いてしまうことになる
- これにはワインドアップで体幹が後ろに傾いてしまうことが影響していて、体幹の捻りが十分につくれずに投球スピードを速くできないだけでなく、肩や肘への負担になる
踏み出し脚の練習法
真下投げ
- 踏み出し脚をしっかりついて投げられるようになる練習法として『真下投げ』が紹介されている
- 真下投げとは、踏み出し脚のすぐ前にボールを叩きつける投げ方である
- 当初は肩が痛い選手のフォーム矯正法として使われた
- 普通に水平に投げるよりは、真下のほうが重力の影響を受け難いからである
- それをマウンド上でやると、マウンドの傾斜もあって踏み出し脚をよりしっかりつけるようになって、投球スピードにも貢献するようになる
四股踏み
- 投球動作において、軸脚は投球方向への体重移動、踏み込み脚はその支持である
- そして、両脚とも股関節で発揮される回転力やパワーが非常に大きいことから、股関節の筋力を高めることや、股関節の動きを改善することがその役割のために重要である
- 股関節周りの筋肉の働きは、まさしく投球動作のパワー源なのである
脚の踏み出し時の体幹の捩り
肩は開かず体幹の捩りを保ち、その後一気に腰を回す
前額面での動きの特徴
- 日本人の投手には軸足でDrop and Drive するタイプが多いと思われる
- そして、Drive による体幹の移動を踏み出し脚でしっかり支え、このような脚の働きによって多くの体幹の動きは生み出される
- 時速150㎞台のボールを投げる投手と130㎞台の投手の肩、腰、体幹の捩りを比べてみると、ハイレベルの投手であっても動きが違う
投手の捻転動作
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 軸脚側を実線、踏み出し脚側を点線で描き、保守側から見た線画で比べる
- 150㎞台のボールを投げる投手は踏み出し脚の着地地点(SFC)では、まだ若干2塁方向に肩が回転している
- 肩を開かずに体幹の捩りが保たれている
- そして、その後一気に腰を回しているのがよくわかる
- ステップする足の位置を調整したり、投げる向きにグラブハンドを保っておいたりするように指導されるのは、この姿勢を保つためである
- 一方、130㎞台ボールを投げる投手はそうなっておらず、少し体幹が後ろに傾きながらオープンステップ気味で肩が開いている
- この後傾と開きは小学生の投手によくみられ、スピードを速くできないどころか、腕に頼ることになるので肩や肘への負担が大きい
水平面での動きの特徴
- 単純に水平面での腰と肩の回転をみると、先に腰が回転し始めて、肩がその腰を追い越す
投球時の腰と肩の回転
(画像引用:科学する野球 ピッチング&フィールディング)
- 横軸にはボールリリースまでの時間がとってあって、0でリリースである
- 縦軸には投げる方向に対する腰と肩の角度がとってあり、0度が横向き、90度で投げる向き、つまり打者と正対する
- 踏み出し脚の局面から描かれていて、その時にも肩も腰も横向きだが、腰よりも肩を少し後ろ向きに回している
- この投手の場合、30度までしか行かない程度である
肩が腰を追い越してボールを前で放す
ボールを身体の前で放す
- 近鉄バッファローズからメジャーリーグにへ行って活躍した野茂投手は打者に背を向けるほどに腰と肩を回していた
- もちろん脚で回していたがのだが、そこまで回すと捩りを戻すのが難しいし、戻すことと腕の振りとのタイミングを合わせるのも難しくなる
- 野茂投手はうまくできたので、体幹を回す勢いを投球スピードに活かせた
- しかし、本人が語っていたように難しい技術なので、特に子供には勧められない
- その後、踏み出し脚から腰を回していくので捩りは大きくなって、踏み出した後に最大に捩られる
- 踏み出し脚を着地しているので、腰の回転は遅くなって60度ぐらいの向きで頭打ちになる
- その腰を支えにして肩を急激にスピードアップ、腰を追い越して反対向きに捩られてボールリリースとなる
- 腰は打者に正対していないが、肩は生体の位置よりももっと回して120度ぐらいでリリースである
- 「ボールを前で放せ」と指導されるが、それは両肩を結ぶラインよりも手を前に出せということでなく、この角度を大きくして手を前に出せ、ということである
SSC (ストレッチ・ショートニング・サイクル)
- 捩りによって下胴(腰を含む)から上胴(肩を含む)へ回転させる力を加える準備ができる
- そして、捩りを戻すことでトルクが上胴に働いて、肩はスピードアップする
- これは、筋肉を一度伸ばしてから素早く短くすると大きな力を生むという伸張-短縮(SSC)運動を利用している
- 下胴を回すことで体幹にある筋肉を伸ばし、素早く短くして上胴を回す
- こうして、上胴は大きなエネルギーをもつことになるが、下胴や両脚がそもそも持っていたものではなく、いずれかの関節まわりの仕事によって生じたものであると考えられる
- 軸脚を伸ばす筋肉の下胴への仕事、踏み出し脚で踏ん張る筋肉の下胴への仕事、さらに上胴と下胴とをつなぐ筋肉の上胴への仕事である
コアスタビリティー・トレーニングで体幹の安定性向上を図る
投げ方による体幹回転の違い
- 捻った後、体幹は水平に回転するだけではない
- 前にも倒すので、併せて斜めになる
- 「柔道の背負い投げのように体幹を使え」と指導されることがあるのは、この斜めの意識を植え付けるためである
- 打撃動作の場合はボールがほぼ水平に来るので体幹もほぼ水平に回転させるが、投球動作の場合には自分主体なので、動きにもう少しバラエティが許される
- オーバースロー、サイドスロー、アンダースロー、どれでも脇の角度は90度くらいで違いがなく、体幹の傾きが違う
- 脇の角度は同じでも腕を振る向きは空間的に違うので、この違いに応じた体幹のSSC運動が求められることになる
コアスタビリティトレーニング
- 腰が痛いという野球選手は多く、年代とともにその割合は高くなる
- 踏み出し脚側の腰がつまって痛いとはよく聞く話である
- 投げるでも打つでも、ひとつの向きに軸脚で体幹を移動して踏み出し脚でそれを支ながら回す
- この勢いを受け止めることがひとつの原因であろう
- 逆向きに回すエクササイズを入れることは当然であるが、姿勢を維持する、動きを良くするエクササイズを練習にも組み込みたい
- 体幹の安定性を向上させるためのコアスタビリティートレーニングは、腰部障害の有無に関わらず、今やどのスポーツにも取り入れられている
- 背筋を伸ばして骨盤を前傾させるエクササイズ
- 体幹の深部にある筋肉を活動させて姿勢を安定させるエクササイズ
- 上胴のみを十分に回すエクササイズ
- 脚を使うことで骨盤を含めた体幹を両方向にスイングするエクササイズ
参考文献
科学する野球 ピッチング&フィールディング (ベースボールマガジン 2016年10月25日 平野裕一)
投球動作分析と投球障害部位 肩関節にかかる関節間力・投球障害に繋がる投球動作の特徴・肩峰下インピンジメント・インターナルインピンジメント・腱板疎部損傷・棘下筋と小円筋損傷
概要
- 野球投手の投球動作は、投球側下肢に溜めた力を指先まで伝える高速で緻密な全身運動である
- 投球障害肩の多くは、いわゆる over use からの身体機能低下により投球動作が変化し起こる場合と、未熟な投球動作により起こる場合が考えられる
- 臨床場面では、身体機能の改善に重点を置くが、再発予防のためにはそれをふまえての投球動作の再構築が重要となる
- 投球動作を三次元動作分析し、各関節運動を数値化することで、投球動作から各関節にかかる負荷を算出し、投球障害の原因を探ることができる
肩関節にかかる関節間力
- 信原克哉は、投球動作を4層に分類している
- 疼痛の訴えが多い acceleration phase は、踏み出し脚の接地(フットプラント)~最大外旋を経てボール・リリースまでである
- ボール・リリースにおける肩関節に加わる前後方向の関節間力と、水平内転・外転角度に強い相関がある
- 関節間力が高いことは、関節周囲の軟部組織にかかる負荷が大きいことを意味している
- ボール・リリースにおいて肩関節に加わる負荷が最小になる上腕姿勢は、水平内転4.49°、外転89.99°である
- 肉眼では、前から見ても上から見ても肩-肩-肘ラインが一直線であるであることを指標とする
投球障害につながる投球動作の特徴
- acceleration phase は投球動作中で最も高速に上肢を運動させる動作であるため、意識的にコントロールすることは困難である
- よって、これより前相である wind up phase ~フットプラントまでの間で acceleration phase に影響を及ぼしていることがないかをチェックする
- cocking phase での肩最大水平外転が大きい
- フットプラントから最大外旋において水平外転が大きいまま外旋が起こると、ボール・リリースで肩水平外転位となりやすい
- ボール・リリース直後には急激な内旋が起こるが、肘が完全に伸展位ではないため、内旋の機能軸は上腕骨軸ではなく、肩・肘・手を結んだ三角形の中にできる
- 従って、内旋によって肘が跳ね上がるように見える
- 肘の屈曲角度が大きければ、肩が大きく揺さぶられるようになることが想像でき、肩後方や肘関節外側に強いストレスが加わる可能性がある
- 障害発生の相として、最大外旋を中心に acceleration phase が注目されているが、このボール・リリース直後の急激な内旋位にもっと注目すべきではないだろうか
- 下半身においては、 wind up phase での踏み出し脚膝最高位時に下半身重心に対する上半身重心が一塁方向(右投手の場合)に大きくなると骨盤後傾が増大する傾向にあり、以後の投球動作に影響を及ぼす可能性がある
- フットプラントで骨盤回旋が大きい、いわゆる体の開くタイミングが早いとボール・リリースで肩水平外転位となりやすい
投球障害部位を探る
肩峰下インピンジメント
- 疼痛部位 :肩峰下
- 疼痛が出現する位相:cocking 以降
- 誘発テスト :Neer テスト、Hawkins テスト
- 徒手検査 :SSP テスト、ISP テスト
インターナルインピンジメント
- 疼痛部位 :肩峰角より後方
- 疼痛が出現する位相:最大外旋
- 誘発テスト :水平外転位で最大外旋を強制
- 徒手検査 :後方タイトネス、前方不安定性
腱板疎部損傷
- 疼痛部位 :三角筋前部・中部線維の境界
- 疼痛が出現する位相:最大外旋~ボール・リリース
- 誘発テスト :最大外旋を強制、Zero position test
- 徒手検査 :Dimple sign 、腱板疎部の圧痛
棘下筋・小円筋の損傷
- 疼痛部位 :棘下筋・小円筋の筋腹
- 疼痛が出現する位相:ボール・リリース直後、フォロースルー
- 誘発テスト :水平内転と内旋を強制
- 徒手検査 :棘下筋・小円筋の圧痛
投球動作の特徴からの身体機能評価
障害を起こしやすい投球動作の特徴 (最大外旋、ボール・リリースでの肩-肩-肘ラインの逸脱)
上半身の身体機能評価のポイント
- 肩関節ルーズにングの有無 (sulcus sign、load and shift test、dimple sign)
- 肩甲上腕リズムの確認 (肩過外転、肩甲骨情報回旋不足)
- 肩甲上腕関節の可動性 (後方タイトネスを含めた可動域制限や過可動性のチェック)
- 肩甲骨の可動性
- 肩甲骨の向きと位置を調整し、胸郭に固定する能力
- 肩甲帯-腱板機能 (腱板筋力低下、肩甲帯-体幹機能低下)
- 前胸部、肋骨の柔軟性 (大胸筋、小胸筋、外腹斜筋)
下半身の身体機能評価のポイント
踏み出し脚膝最高位着目
- 骨盤後傾角度、下半身に対する上半身重心が後方へ位置していないか
- 左股関節屈曲、右股関節伸展可動域の確認
- 右大殿筋・腸腰筋、右股関節内旋・外旋筋群のバランス (右下肢の安定性)
- 下肢-骨盤-体幹の位置関係 (姿勢のチェック)
踏み出し脚膝最高位~フットプラントに着目
- 下肢-骨盤-体幹の位置関係 (姿勢のチェック)
- 右股関節内転筋力
- 右股関節外転・伸展・外旋方向の動的安定性の確認 (サイドランジ)
- 左下肢の支持性 (左股関節内転筋力)
肩甲骨の向きと位置を調整し、胸郭に固定する能力の低下
- 投球障害を有する投手の多くは、ゼロポジションからさらなる屈曲や、リーチ動作(肩甲骨外転)で肩甲骨を固定できず、僧帽筋中部・下部線維や前鋸筋の機能低下が疑われる
- 僧帽筋上部線維や肩甲挙筋での代償動作を認めることが多い
参考文献
モーションキャプチャ・システムを用いた投球動作分析からの理学療法 (関節外科 Vol.33 No.10 2014 亀田淳)
膝前十字靭帯損傷 病態・理学療法(術前・術後)・損傷のメカニズム・再建術後の影響
概要
- 膝前十字靭帯は膝関節の安定性に重要な役割を果たしている
- 完全断裂した場合は自然治癒が期待できないため、靭帯再建を含め、膝関節のさまざまな機能を回復させることが治療に求められる
- 近年の理学療法プロトコルの発展により、より早期に受傷以前の競技レベルまで復帰することが可能となってきている
- 未だ前十字靭帯損傷が重篤な外傷であることに変わりはない
- 近年では、予防がしあ優先の治療法であると認識されるほど、予防への取り組みがクローズアップされている
前十字靭帯損傷時の病態
受傷直後の病態
- 前十字靭帯損傷には大量の関節内出血を生じ、関節内に腫脹や熱感などの炎症症状が出現する
- 激しい痛みを伴い、受傷直後からしばらくは関節運動を行えない場合が多い
- 稀に疼痛が軽度で膝の不安定感や違和感のみを訴える場合もある
- 時間の経過とともに関節内の腫脹が増大し、屈曲・伸展運動に制限を来す
機能的な病態
- 前十字靭帯により制動される脛骨の前方偏位や内旋運動に不安定性が生じ、伸展30°以下の範囲では前外方の亜脱臼が生じる
- 関節内の腫脹によって内側広筋は二次的に興奮性が抑制され、筋緊張が低下し、逆に下腿の筋群は興奮性が増す
- 疼痛や不安定感に対し、拮抗筋同士を強固に固定して荷重する
- スムーズな関節運動が生じず、ハムストリングスや大腿直筋などのに関節筋の過緊張や、殿筋群や大腿筋膜張筋などの過緊張に伴う腸脛靭帯のタイトネスが生じやすくなる
運動学的な病態
- 関節内水腫や軟部組織の可動性低下、内側広筋や中間広筋の緊張低下などが影響し、膝蓋大腿関節の円滑なトラッキングが生じにくくなる
- 伸展時に膝蓋骨が上方に十分動かない、もしくは外側広筋を中心に牽引され外方偏位が生じるといったトラッキングエラーが観察される
- 屈曲時では、大腿直筋や外側広筋の過緊張や腸脛靭帯のタイトネスにより、膝蓋骨が下方に動かない、もしくは外方偏位を呈する場合がある
大腿脛骨関節
- 前面の筋緊張低下と後面の筋緊張亢進は、伸展の制限因子となる
- 膝蓋骨の下方運動の低下は屈曲運動の制限を来す
- 膝蓋骨の外方偏位は屈曲域での脛骨の外旋位拘縮をもたらし、屈曲に伴う円滑な下腿内旋運動を阻害する
- 屈曲時内旋、伸展時外旋という円滑なスクリューホームムーブメントがなされず、下腿外旋位拘縮や内旋可動域制限が生じる例が多い
歩容の病態
- 特徴として、膝関節運動の減少がみられ、荷重応答から立脚中期の屈曲運動や、立脚中期から終期にかけての伸展運動が減少する
- 膝関節の構造的不安定性や自覚的な不安感を代償し、大腿四頭筋とハムストリングスの共収縮が通常より増加する
- 遊脚期には屈曲運動の減少がみられ、クリアランスを確保するために股関節や骨盤の運動で代償する分回し様の歩容となる
- 立脚期にて拮抗筋の共収縮が強まるため、続く遊脚前期でも膝伸展の緊張が低下せず、スムーズな屈曲ができないという運動パターンの連鎖が生じていることが多い
前十字靭帯不全膝の病態
- 前十字靭帯単独損傷であれば、保存療法でも、レクリエーションやジョギングが可能なある程度満足できるレベルまで復帰できる場合がある
- 骨端線が閉じていない若年者には再建術を施すまで保存療法を選択することがある
- 前十字靭帯の断裂により、膝関節には前方不安定性および全内方回旋不安定性が生じる
- そのため、高所からあの着地や方向転換、スピードの変化により膝に急激な力が加わる場面での膝崩れが生じやすくなる
- 長期的にみて、保存的超量の予後は不良である場合が多く、初期に半月板損傷の内前十字靭帯単独損傷であっても、競技活動によって半月板を損傷するリスクもある
- 半月板に損傷があると、変形性膝関節症に移行するリスクが高まる
理学療法を展開する際のポイント
術前
- 腫脹の狭小化
- 健側と同等の大腿脛骨関節および膝蓋大腿関節の可動性獲得
- 正常歩行の獲得
術後
- 術直後の炎症と腫脹の早期消失
- 膝関節可動性の再獲得
- 正常歩行の獲得
- 可動域制限と炎症所見が消失した状態から、グラフトの成熟を阻害しない範囲で段階的にトレーニングや動作獲得
前十字靭帯再建術後の可動域制限
- 伸展制限に関しては術直後より、屈曲制限に関しては術後4ヶ月を目安に、完全な可動域の獲得を目指す
- 可動域制限は副運動の異常パターンの影響が強いと考え、大腿脛骨関節の過外旋や膝蓋骨トラッキングエラーを修正することを目指す
- 内側筋群の活動低下や大腿二頭筋の過活動、腸脛靭帯のタイトネスにより、二次的に膝関節過外旋が増大し、屈曲制限や伸展制限を生じる
- 膝関節外旋や伸展制限に対する理学療法として、内・外側ハムストリングス間、大腿二頭筋・腸脛靭帯間、外側広筋・腸脛靭帯間の過緊張や滑走不全に対して、徒手的アプローチが有効である
- 脛骨内側の後方可動性低下は、膝関節の内旋制限や伸展制限の原因となる
- 膝関節屈曲制限は、大腿直筋など伸筋群の過緊張が原因となるが、関節内水腫の貯留や移動の制限も影響するため、詳細な評価を要する
- 膝関節内の水腫は膝関節伸展位においては膝蓋上包に貯留し、屈曲位においては膝蓋骨下前面や膝関節後面に移動する
- しかし、膝蓋骨のアライメント異常や膝蓋上包の癒着などが存在すると、膝関節屈曲位においても膝蓋上包に水腫が存在する
- この場合、パテラタップテストで関節内水腫が認められるのにも関わらず、indentation test が陰性となり、膝屈曲時に制限が生じ、膝前面での突っ張るような感じを訴える場合が多い
- このような症例では、関節液の循環がスムーズに行われず、水腫の軽減にも支障を来すと考えられる
- 膝蓋大腿関節のマルアライメントやトラッキングエラーを改善させ、水腫のスムーズな移動を促す音が必要である
膝関節周囲筋群の機能改善
- 術後に著名な機能低下を示す内側広筋はもちろんであるが、臨床的には術後の膝蓋上包の水腫貯留や膝蓋骨の上方移動制限により、膝蓋上包の巻き上げ機能を有する中間広筋にも収縮不全が生じる
- このような筋の再教育としては、筋収縮を確認しながら行うエクササイズが有効である
- 表層に位置する内側広筋にはEMSにより筋収縮を誘導し、確認しながら大腿四頭筋セッティングを行う
- 深層に位置し、体表から収縮を確認することが子kkなんな中間広筋に対しては、超音波診断装置などにより筋収縮を視覚的にフィードバックしながら再教育を行う
patella valgus rotation
- 膝蓋骨内下方に位置する膝蓋脛骨靭帯や膝蓋下脂肪体の癒着が原因と推察される
- anterior interval の癒着は膝伸展時の膝蓋骨低位を招き、大腿四頭筋の収縮を阻害する
- 治療としては、膝蓋脛骨靭帯の可動性を高め、膝蓋骨内上方へのモビライゼーションや、徒手的に膝蓋骨を内上方へ誘導しながら大腿四頭筋セッティングを行い、膝蓋骨トラッキングの正常化を図る
前十字靭帯損傷のメカニズム
- 近年、前十字靭帯損傷の予防に注目が集まっているが、その発生メカニズムは明らかとはなっていない
- 現在は、膝関節運動と前十字靭帯負荷(張力や歪み)との関連を調べた研究や、前十字靭帯損傷の発生に関する疫学的研究により、前十字靭帯損傷の発生に影響が大きい因子については明らかになりつつある
- 前十字靭帯損傷の発生メカニズムには以下の3つの因子が考えられる
- 前十字靭帯損傷の受傷リスクが高い膝関節運動が生じやすい人(個人因子)
- 競技特性や疲労により競技中に受傷リスクを高める因子が加わる場合(トレーニング因子や環境因子)
- 素早く速度が変化する動作、片脚動作、膝の軽度屈曲位など、前十字靭帯への力学的な負荷が高まる場面で、受傷リスクの高い膝の姿勢で動作を行う場合(競技スキルやパフォーマンスの因子)
力学的要因
- 前十字靭帯は、脛骨の前方剪断力に加え内旋トルクや外反トルクに抗して緊張が高まり、前十字靭帯自然長からの伸び率を表す指標である歪みが大きくなる
- さらに、屈曲角度が浅い肢位で膝関節に力やトルクが加わった場合、屈曲角度が深い肢位の場合より大きな歪みが生じやすい
- 日常生活レベルの運動における前十字靭帯の歪みを以下に示す
- 動作の種類からみると、膝関節が伸展位に近い動作で前十字靭帯の歪みが大きく、40~50°を超えて屈曲角度が大きくなる動作では歪みは小さくなる
疫学的な調査から
- 前十字靭帯損傷の発生型は、およそ70%が他者とのコンタクトを伴わない非接触型損傷によって生じ、急激な減速動作や方向転換、ジャンプ後の着地動作など、瞬間的に大きな力が加わる動作で発生する
- 受傷時の特徴的な姿勢として、膝の軽度屈曲および外反姿勢、片脚での着地などが挙げられている
- 前十字靭帯損傷者の多くは、受傷時だけでなく、通常の着地動作やスクワットなどの荷重動作中に膝k何背う外反角度が大きくなる傾向がみられ、外反トルクも大きな値を示す
- 臨床的には、膝関節の外反運動には股関節の内旋・内転運動が関連する
- 片脚の動作では、骨盤の回旋運動を伴う膝関節の内方移動や、前足部荷重時の急激な足部回内運動を伴う下腿の内方への傾斜などが膝関節外反に関連する
- 動作中の外反トルク値は、疲労時、リアクションを伴う動作時、上肢の運動を伴う動作時に大きくなることがわかっている
前十字靭帯再建術後の影響
再建グラフトの組織学的治癒と力学的強度の経時的変化
- 再建グラフトの用いられているのは、半腱様筋県や薄筋腱や骨付き膝蓋腱などの腱組織である
- 腱組織は靭帯組織より総コラーゲン量は多いが、Ⅲ型コラーゲン線維やプロテオグリガン含有量は少ない
- 本来の靭帯と組織特性が異なるグラフトは、再建術後に組織壊死に引き続き、術後3週間から血管の湿潤が開始され、線維芽細胞の増殖と成長因子の放散、Ⅲ型コラーゲン線維の賛成を導く
- 術後6ヶ月以降からグラフトに占めるコラーゲン線維の比率が増加し、術後約1年で正常前十字靭帯に近い組織となる
- この一連のプロセスは靭帯化と呼ばれるが、線維径短いなど、正常前十字靭帯とまったく同様の組織特性にはならないと考えられている
- 再建グラフトは骨孔内で骨と強固に結合し、再建靭帯としての機能を果たす
- 結合様式には2種類あり、線維軟骨からなる4層構造を有する direct type と、骨に線維に垂直に走るⅢ型コラーゲン線維によって結合する indirect type とがある
- 正常前十字靭帯や膝蓋腱は direct type であり、薄筋腱は indirect type である
- 骨孔内における治癒過程が異なり、半腱様筋では結合が強固になるのが12週程度なのに対し、膝蓋腱では6~12週であり、組織学的治癒の観点からは膝蓋腱が有利と考えられる
前十字靭帯再建術が膝関節の機能や運動に及ぼす影響
- 前十字靭帯再建術後の膝関節機能の問題として以下の3点がある
- 侵襲による炎症症状
- 術総部の瘢痕化と周囲組織との癒着
- 関節可動域制限
炎症症状
- 初期の炎症症状は侵襲による術創部や関節内の炎症が中心である
- 術後2週間以上経過した膝の炎症症状が残存する場合は、膝関節機能に見合わず運動処方がカフカになっていることや、歩容に異常パターンを抱えたまま過度に移動動作を行っていることが背景にある
- 術後の炎症症状は、運動処方が機能回復に即した適切な内容であるか否かを判断できる判断できる重要な指標である
- 炎症症状が長引くと、関節鏡刺入部の線維化が生じ、anterior interval (膝蓋腱や膝蓋支帯、膝蓋下脂肪体、前方滑膜や滑液包)の癒着が起こりやすくなる
- 加えて、内側広筋が底緊張となることで、膝蓋骨の最大挙上を十分に行えない状態となる
- 前十字靭帯再建膝の膝蓋骨トラッキングは、正常膝や前十字靭帯不全膝と比較し、膝関節屈曲0~30°において外方傾斜、外方偏位、valgus rotation (膝蓋骨下極の外側への回旋)が増大する
- anterior interval の癒着と筋機能の低下が慢性化することで、屈曲・伸展運動の可動域制限を生じる悪循環となり、膝前面痛の原因ともなる
術創部の瘢痕化と癒着
- 膝蓋腱を用いた再建術後の合併症として、膝前面痛や伸展筋力の低下が挙げられる
- 膝蓋腱再建では anterior interval への直接侵襲が大きく、癒着が比較的多くみられ膝前面痛が比較的起こりやすいが、kneeling の痛みを除けば長期的には差がなくなってくる
- 薄筋を用いた術式においても、膝前面痛は一定数存在する病態であることから、原因が膝蓋腱採取のみではないことを意識しておく必要がある
- 膝蓋腱再建術後の伸展筋力は、術後4~8ヶ月の段階では薄筋腱を用いた再建の場合より筋力低下が大きいが、術後1年でほぼ同程度にまで回復する
再建術後の歩容
- 再建術後の歩容は、正常歩行と比較して、立脚中期から終期にかけて伸展角度が減少し、遊脚初期から遊脚中期にかけて屈曲角度が減少する
- 股関節では、初期接地から立脚期にかけて屈曲角度が増加する
- 臨床的には、立脚終期から遊脚前期にかけて、骨盤の同側回旋がみられる場合が多い
- 術後早期では、内側広筋の荷重応答での活動が十分ではなく、大腿二頭筋は遊脚前期に過活動を起こす
- 異常パターンでの歩容を繰り返す期間が長ければ、機能回復に時間がかかることが多い
参考文献
膝前十字靭帯損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法 (理学療法 29巻2号 2012年2月 鈴川仁人)
膝半月板損傷 半月板の構造と機能・荷重分散機能・関節の安定化機能・発生原因・断裂の様式・原因動作・理学療法評価・
概要
- 半月板損傷は膝疾患の中でも発生頻度が高く日常的にみられる疾患の一つである
- 半月板損傷の治療では損傷部位や範囲などを考慮した保存療法が施行されるか、観血療法として半月板切除術、半月板縫合術が選択され理学療法が施行される
- 半月板損傷の程度や範囲、損傷形態、受傷機転などは千差万別である
- 個々の病態の正確な把握と、損傷部位への力学的ストレスをいかに軽減させるかが、半月板損傷後の膝機能を改善するうえで重要となってくる
半月板の構造と機能
機能解剖
- 半月板の主に機能は以下の4つがある
- 関節の荷重伝達
- 関節の安定化
- 関節湿潤
- 関節軟骨の栄養補給
- 組成はタイプⅠコラーゲンが全体の90%以上を占めている
- コラーゲン線維は、円周状に走行する主線維が、中心方向に放射状に走行する線維によって補強されるように配列しており、線維が円周方向に裂けるのを防いでいる
- さらに、表層のすぐ下の層は線維が不規則に入り組んでおり、関節表面に加わる様々な応力に適応できる構造となっている
- 半月板は、成長に伴い内縁の血行が乏しくなり、成人では外縁の10~30%しか血液が供給されていない
- 組織の治癒には血流が必要であることから、血流が乏しい内縁付近では治癒が起こらないと考えられている
- したがって、半月板縫合術は結構領域の損傷のみに適応されている
内側半月板
- C字状を呈し、辺縁部は関節包や内側側副靭帯深層により脛骨に強固に固定されているため、可動性は小さい
外側半月板
- O字状を呈し、辺縁部は関節包や外側側副靭帯と連結しないため、内側半月板に比べて可動性は大きい
運動学
- 膝関節運動に伴う半月板の移動方向は以下の通りである
バイオメカニクス
荷重分散機能
- 半月板は膝関節に生じた荷重を一部伝達している
- 膝関節の内側コンパートメントに生じた応力の50%を内側半月板が、外側コンパートメントに生じた応力の70%を外側半月板が担う
- 膝関節伸展位では応力の50%を半月板が伝達する
- 膝関節屈曲位では応力の85~90%を半月板が伝達する
- 半月板は断面がくさび状であるため、軸圧が加わると円周方向の張力に変換され、最終的には前角と後角の脛骨付着部に吸収される
関節の安定化機能
- 半月板の断面の形状が大腿骨顆部を中心方向に戻すベクトルに作用し、関節の安定化に寄与する
- 前十字靭帯不全膝では、内側半月板の特に後角が脛骨前方移動に重要な役割を果たす
- 靭帯機能が低下した膝では、半月板がスタビライザーとして関節安定性に寄与することが示唆される
半月板損傷の分類と発生メカニズム
発生原因
発生原因は以下の3つに分類される
- スポーツなどにおける外傷性断裂(靭帯損傷を伴う場合もある)
- 加齢による中高年の変性断裂
- 円板状半月を誘因とした若年者の断裂
断裂の様式
- 縦断裂
- 横断裂
- 水平断裂
- フラップ状断裂
- バケツ柄状断裂
- 変性断裂
原因動作
- スポーツでは切り返しやジャンプ動作を反復する種目が挙げられる
- 基本的には、膝屈伸動作と内外旋の協調性が崩れた時に生じることが多い
- 内側半月板であれば、膝軽度屈曲位で脛骨外旋が強制されたとき、または、膝深屈曲位で固い外旋が強制されたときに生じる
- 加齢による半月板の変性断裂は、内側半月板後節を中心に発生する
- 先天的要因、スポーツによる負荷、生活様式(和式)、肥満などが原因となる
- 誘因なく膝関節内側痛を訴えることが多い
- とくに中高年では、変形性膝関節症の曽木症状である可能性が考えられる
半月板損傷の理学療法評価
- 評価の際に重要な3点
- 画像診断および術中所見と症状が合致しているか否かの検討
- 受傷部分へのストレスの増減と症状との関係の把握
- 受傷に至った原因の追究
問診
- 受傷時の膝の屈曲角度や内外反、内外旋に関する情報
- 運動時痛の有無および部位
- 疼痛を生じる動作の種類
- 疼痛が出現する角度
- 荷重痛の有無
- キャッチングやロッキングの有無
視診・触診
- 関節水腫
- アライメント異常の有無(膝関節内反、脛骨外旋)
- 損傷側の半月板に一致した圧痛
関節可動域
- 膝関節屈伸
- 疼痛が出現する部位および角度
- 膝関節屈伸に伴う下腿内外旋の動き
- 疼痛により可動域が制限されている場合、大腿骨と脛骨の位置関係を徒手的に操作して疼痛や可動域の変化を確認する
- ロッキング症状が疑われた場合、医者に報告し治療方針を相談する
- 足関節背屈
- 股関節内外旋
筋力
- 大腿四頭筋
- 特に内側広筋の機能低下が認められることが多い
- 内側ハムストリングス
- 体幹
- 股関節
特殊検査
- マックマレーテスト
- アプレーテスト
- 跳ね返りテスト
- ディスコ検査
スクワッティングテスト
- 患側下肢を一歩前に出した状態で前足に荷重させ、膝をまっすぐ、または、内反位、外反位に誘導し疼痛の変化を確認する
- その際、足部を内向きにしたり外向きにしたりして回旋の動きも誘導する
- また、膝の屈曲角度をさまざまに変えて疼痛の変化を確認する
- 膝外反位で疼痛が出現すれば外側半月板損傷が疑われる
- 膝内反位で疼痛が出現するば内側半月板損傷が疑われる
姿勢および動的アライメント
片脚立位
- 遊脚側の骨盤が降下するトレンデレンブルグ徴候
- 体幹を支持側に傾けるデュシェンヌ徴候
片脚スクワット
- ニーインアライメント
参考文献
膝半月板損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法 (理学療法 29巻2号 2012年2月 松本尚)
膝関節の機能解剖 骨性構造・靭帯構造・半月の構造・関節包・運動生理学・歩行時の機能
膝関節の静的安定化機構
膝関節の基本構造
- 膝関節の4つの構造について理解する必要がある
- 骨性構造
- 靭帯構造
- 半月の構造
- 関節包
骨性構造
- 膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨組織からなる
- 内側・外側大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節の3つの関節から構成されている
- 大腿骨下部は大腿骨頚部との間に約18°の内捻角を形成する
- よって、大腿骨遠位で約18°の大腿骨内捻を認める
- 大腿骨遠位部での両下部は非対称である
- 大腿骨下部と脛骨下部の軸は外側へお互いに約5°開いた形状をなしているため、脛骨は大腿骨に対して約5°外旋する構造になっている
靭帯性構造
- 膝関節は靭帯支持機構により、安定性と運動性が相反する機構をなしている
- 前十字靭帯と後十字靭帯が膝関節の中心軸を支持する役割を担っている
- 矢状面では相対的な変位の制御、前額面では膝の安定性、そして水平面では内旋の制御に関わる構造をなしている
半月の構造
- 脛骨の関節面にC字状の内側半月と、環状に近い形状の外側半月がある
- 両半月とも脛骨の課間隆起に付着部があり、前角は横靭帯に結合している
- 内側半月は、外周縁が冠状靱帯により脛骨外縁部に固定されているため、膝関節の屈曲伸展時の可動性は少ない
- 一方、外側半月は、中節から後節にかけて脛骨外周縁に固定されていないため可動性が大きく、1cm程前後に移動できるようになっている
関節包
- 関節包は膝関節の全周囲を覆っている
- 内、外側前方1/3は内・外側支帯、内側中央1/3は内側側副靭帯の深層前縦走部、内側後方1/3は後縦走靭帯、外側中央1/3は外側側副靭帯、外側後方1/3は弓状靭帯が主な構成要素である
- 関節包は、そのものを靭帯とみなした関節包靭帯とも言われ、他の軟部組織とともに膝関節の安定化に携わっている
膝関節のアライメント
- 日本人の下肢アライメントの計測結果は、大腿骨軸傾斜角81°、脛骨軸傾斜角85°、下肢機能軸傾斜角86°、大腿骨脛骨角176°、下肢機能軸通過点59%となっている
- 以上の結果から、一般的な下肢機能靭帯は膝関節の内側を通過し、荷重は内側によりかかること、正常ではややX脚を示すこと、下腿は立位時に地面に対して約5°外側に傾斜していることが解明された
- これが膝の生理的外反と呼ばれるものである
安定化機構 局所解剖と役割
内側部
- 内側側副靭帯が最も大きく寄与する
- この靭帯は内側部のほぼ中央の浅層に位置し、一部は内側半月と結合している
- 内側側副靭帯は膝関節屈曲約25°の位置において外反に対する制御が78%と最大となる
- 残りの制御は、前十字靭帯や後十字靭帯に加え、内側の深層にある前内側関節包靭帯、中央部関節包靭帯、後斜走靭帯などが担っている
外側部
- 外側側副靭帯と腸脛靭帯が安定性に寄与する
- 外側側副靭帯は膝関節屈曲約25°の位置において内反に対する制御が69%と最大となる
- 残りの制御は、前十字靭帯や後十字靭帯、関節包靭帯が担っている
膝窩部
- 膝窩筋、弓状靭帯、斜膝窩靭帯など後方の安定性を制御する組織が存在する
- これらの組織は、膝後内側と後外側の回旋不安定性に対する安定化機構としても作用している
内部
- 内・外側半月、前十字靭帯、後十字靭帯がある
- 半月の役割として、近年は膝関節自体の安定化機構が追加されている
- とくに前額面での半月の関節適合の静的役割は大きく、立位や歩行などの荷重下ではさらに増大する
- 前十字靭帯のうち前内側線維束と後外側線維束が重要な働きを有する
- 膝伸展位では前十字靭帯は垂直化して顆間窩の頂点と接触し、両線維束とも緊張する
- 膝関節の過度の屈曲位でも両線維束が緊張を増していく
- 下腿内旋位でも前十字靭帯自体が捻じれるため緊張が高まる
- 後十字靭帯は下腿回旋運動において線維自体が回転するため、緊張はほとんど一定である
- こうして、前十字靭帯と後十字靭帯は互いの機構で膝関節の中心軸を構成し、水平面内での軸回旋運動に寄与する
膝関節の運動生理学
屈曲・伸展
- 屈曲・伸展運動は滑り(グライディング)と転がり(ローリング)という2種類の運動を伴っている
- 転がりの単独運動では大腿骨の脛骨に対する後方脱臼は生じないが、脛骨関節面後方と大腿こち後面との間で機械的な制御が働いて屈曲角度が制限される
- 滑りの単独運動では、屈曲運動は十分になされるものの、脛骨に対する大腿骨の後方亜脱臼が誘起される
- よって、この2種類の運動が互いに効率良く機能することで、安定した大きな屈曲角度を可能としている
軸回旋運動
- 軸回旋運動は、直線的な運動と回転運動が組み合わさったものである
- 膝約30°屈曲での膝関節回旋運動の自由度は、徒手的に30°近くといわれている
- 膝屈曲位から伸展していくと最終伸展位では下腿は大腿に対して約15°外旋する
- これはスクリューホームムーブメントと呼ばれる
- 大腿骨と脛骨関節面の性状、靭帯支持機構、膝関節周囲筋の共同運動によって生じ、歩行様式にとって重要な機構となっている
動的安定化機構
前・後方制御機構(伸展機構)
- 伸展機構に最も寄与するのが膝蓋大腿関節の機能である
- 膝蓋大腿関節は、膝蓋骨の内外側関節面と、それに適合した大腿骨顆間窩、および膝蓋骨を取り巻く膝蓋支帯とこれらの原動力となる大腿四頭筋から形成されている
膝蓋骨の役割
- 膝蓋骨は逆三角形をした骨組織であり、膝蓋大腿関節の前方に位置する
- 大腿四頭筋腱内の種子骨である
- その後面は正中隆起によって内側と外側に分けられる
- 外側関節面は内側関節面よりも大きく傾斜が少ない
- 内側関節面は長軸方向に凹状となっており、最も内側には細長い第3関節面を形成する
- 膝蓋骨の下方は、強靭な膝蓋靭帯により脛骨粗面に固着されている
- 膝蓋骨上部の膝蓋骨底には大腿四頭筋が付着している
- 外側には外側膝蓋支帯と腸脛靭帯線維の一部があり、膝蓋骨の内方への転位を抑制するとともに、外側広筋が動的に牽引されるのを強めている
- 膝蓋骨の運動学的機能は次の3つがある
- 膝関節屈曲・伸展運動におけるモーメントアームの増加による膝伸展機能の増大
- 大腿四頭筋をひとつにまとめ膝蓋支帯へ効率よく筋力を伝達する機構
- 膝関節の保護機能
膝蓋大腿関節の運動生理学
膝蓋大腿関節面
- 膝関節が屈曲するにつれて接触面が上方へと移動するとされた
- 最初の屈曲30°で膝蓋骨の関節面下方1/3の部分が大腿骨膝蓋面と接触する
- 屈曲30°~60°までの間では、膝蓋大腿接触面は膝蓋骨中央1/3に移動する
- 屈曲90°ではさらに膝蓋骨上方1/3に移動していく
- 90°以上では、膝蓋骨は大腿骨顆間窩に沈み込み、大腿四頭筋腱が大腿骨関節面と接触し始める
矢状面における膝蓋大腿関節
- 膝関節屈曲に伴い膝蓋骨は下降して大腿骨膝蓋面に対して傾斜する
- 膝蓋腱が垂直線となす角度は膝伸展位では前方に15°である
- 膝屈曲60°では垂直、120°では後方へ20°傾斜する
- この傾斜は屈曲30°で生じ始め、膝蓋骨の傾斜と低位下により関節面の接触領域はさらに増大する
- 膝蓋骨は、膝屈曲とともに半径が膝蓋腱の長さに等しい円運動を行いながら脛骨粗面に対して徐々に後退する
前額面における膝蓋大腿関節
- 膝伸展位では膝蓋骨は滑車上窩の側縁で安定しているが、屈曲開始とともに内下方へ移動する
- 屈曲が進むと膝蓋骨は滑車溝に導かれ、垂直方向へ移動しながら外側へ移動する
水平面における膝蓋大腿関節
- 膝伸展時に膝蓋骨は水平面上で大腿四頭筋の緊張により移動は少ない
- 屈曲時には縦軸に対して傾斜し、屈曲が進むにつれて膝蓋骨外側縁は前方へ、内縁は外方へ傾斜する
大腿四頭筋の役割
- 大腿四頭筋は膝蓋骨を近位へ牽引して膝関節の伸展機構に寄与している
内・外側制御機構
- 大腿後部に存在する筋組織は、膝関節の内側と外側の筋機構を構成し、膝関節の屈筋であるとともに下腿の回旋筋でもあるという二面性を有している
- 膝関節の側方関節包や靭帯支持組織を保護し、下腿の回旋応力を統制して安定化に寄与している
内側の筋性制御機構
- 鵞足と半膜様筋が中心となる
- 鵞足に停止する3つの筋は膝関節の屈筋と同時に、内旋筋の作用を有する
- 半膜様筋は膝関節の屈曲と下腿の内旋運動に寄与するが、下腿外旋の制動と安定化にも寄与している
外側の筋性制御機構
- 大腿筋膜張筋と大腿二頭筋が中心となる
- 膝窩筋が外側の制御機構に含まれ、下腿外旋を制御しながら膝関節の中心軸を安定化させる役割を担う
- 大腿筋膜張筋は片脚支持の膝伸展時には外側膝蓋支帯とともに内反力を制御する
- 屈曲時には脛骨外旋筋として作用し、荷重時の脛骨内旋を制御している
- 大腿二頭筋も屈曲60°以上では外旋筋として機能し、外反・外旋位に固定する
- また、大腿四頭筋の脛骨に対する前方引き出しに拮抗して前十字靭帯を保護する役割を有している
歩行時の膝関節の機能
- 歩行は遊脚相と立脚相から成り立っている
- 立脚相はさらに両脚支持相と片脚支持相に分けられる
- その相においても膝関節の機能は重要であるが、歩行中に膝は完全伸展位になる時期はなく、絶えず屈曲位で機能している
歩行中の重心の位置
- 立位時には身体の重心は第2仙椎前方に位置し、歩行中はその位置から離れると言われている
- これは矢状面と水平面のみに認められ、それぞれの重心は正弦曲線を描く
- 歩行時には重心と基底面の平衡は容易に崩れる
- 歩行動作は平衡の消失と回復の繰り返し動作である
- とくに膝関節はこの平衡の安定化に寄与することが知られている
- 歩行時に推進力を足部に与えるとともに、重心の移動を制御して下肢の動的適合と平衡とを確保している
立脚相における膝関節の役割
- 片脚支持相で重心移動に平行な運動エネルギーを転換、つまり重心の上下移動で得られた位置エネルギーを運動エネルギーに転換して、体幹の前方推進力を発生させる
- 水平面において、膝関節は下腿内旋の緩衝作用を担う
- すなわち、大腿骨の外旋を促しながら中心軸を固定している
- 矢状面では、大腿骨顆部が前方へ強く押し出される方向に働くため、膝関節は慶脛骨に後方引き出しの応力が生じる機構となっている
- これには、膝関節の伸筋と屈筋の総合作用に加え、関節内靭帯などの軟部組織の関与も大きい
- 前額面では、重心が外側へ移動する力が働くため、膝関節では大腿筋膜張筋が主体となってこの応力を制御している
遊脚相における膝関節の役割
- この相においては膝関節は大きな応力はもたらされず、強力な安定化機構は要求されない
- 水平面では大腿骨内旋と中心軸の安定化解除、それと大腿脛骨関節の離開を促す作用が生じ、膝関節それ自体が立脚相への準備として、大腿四頭筋による膝伸展運動の制御機構が主となり、歩行時におけるダブルニーアクションの一部となる
- 矢状面と前額面でも同様に、筋機構の制御を得ながら、下肢の推進作用を担う
参考文献
膝関節の機能解剖学的理解のポイント (理学療法 29巻2号 2012年2月 松本尚)
肘関節の機能解剖 腕尺関節・腕橈関節・近位橈尺関節・内側側副靭帯・外側側副靭帯複合体・橈骨神経・尺骨神経・滑液包・斜索
肘の骨・関節の構造とその機能
- 肘は上腕骨、尺骨、橈骨により、腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節という3つの関節を構成する複合体である
- 構造と機能というポイントとして、次の4つがある
- 肘屈曲ー伸展と前腕回内ー回外という2方向の運動を担う
- 肘屈曲ー伸展には腕尺関節が大きく寄与する
- 腕橈関節は関節面が狭い構造から自由度が高い
- 近位橈尺関節は前腕回内ー回外に寄与する
腕尺関節
- 腕尺関節は、上腕骨と尺骨の間に存在する一軸性のらせん関節である
- 上腕骨滑車と尺骨の滑車切痕によって構成されている
- 上腕骨の前面の内側には鈎突窩と言われる凹みが存在し、肘屈曲時に尺骨の鈎状突起が滑り込み、屈曲可動域を確保している
- 後面には肘頭窩があり、肘伸展時に尺骨の肘頭突起が滑り込み、伸展時の安定性に寄与している
- 上腕骨遠位は上腕骨体に対して40~45°前方へ傾斜している
- これに対して尺骨の滑車切痕も約45°傾斜しており、この形状から肘屈曲の可動範囲145°を確保することができる
- 肘伸展位において、前腕が上腕に対して外側に偏位している角度を生理的外反角もしくは運搬角という
- 運搬角を形成する要素として、次の4つが挙げられる
- 前額面上の回転軸が、上腕骨長軸と直交する線に対して2.5°下方に傾斜
- 上腕骨滑車後面の滑車中心溝が、上腕骨長軸に対してやや外反に偏位
- 尺骨滑車切痕を縦走する峰状隆起の方向に対して尺骨近位の骨軸が外反方向に偏位
- 尺骨近位骨軸に対して尺骨遠位骨軸が再び内方に偏位
- 肘屈伸運動時の屈伸軸は上腕骨滑車と小頭中心を通っており、肘の屈曲角度によって上腕骨滑車側の軸はあまり変化しないが、小頭側の軸は半円を描くように移動する
- これは関節構造上、腕尺関節の適合性が橈尺関節よりも優れていることから、滑車側の軸がずれにくいものと考えられる
腕橈関節
- 腕橈関節は多軸性の球関節である
- 橈骨頭上面は浅く凹んだ関節面を有しており、上腕骨小頭と対抗している
- 球関節という自由度が高い関節構造となっているため、これが小頭側の屈伸軸が変化する一因とも考えられ、橈骨頭は回内方向(内旋位)に可動性がある
- このような橈骨頭の回内状態は、肘屈曲時の運搬角を内反へ誘導する要因にもなると考えられる
- 肘屈曲時、橈骨頭は上腕骨の小頭滑車溝を滑り、屈曲最終域で上腕骨の橈骨窩に入り込み、可動性を獲得している
- 橈骨頭遠位の橈骨頚には橈骨粗面が存在し、ここに上腕二頭筋が付着する
近位橈尺関節
- 近位橈尺関節は一軸性の車軸関節であり、橈骨頭を軸に前腕の回内ー回外を行う
- この関節は、凸面の橈骨頭とわずかに凹面となっている尺骨の橈骨切痕から構成されており、輪状靭帯や外側側副靭帯、斜索、方形靭帯によって補強されている
- 前腕回外時には橈骨と尺骨は平行に並んでいるが、回内時には橈骨は尺骨と交差する構造となっており、このメカニズムをクロスパラレルメカニズムという
- 回外時には、橈骨と尺骨が平行になることによりさらに運動連鎖で肩関節が外旋することにより体側に上腕があり、押し動作や荷物を持つ動作を行いやすくなる
- つまり、回外時には安定性や固定性が高く、筋力を発揮しやすい肢位になるといえる
- 一方、回内時では橈骨と尺骨が交差することから力の伝達能力は劣るものの、手の巧緻性求められる作業の場合には有利となる
肘の軟部組織の構造と機能
内側側副靭帯
- 内側側副靭帯は上腕骨内側上顆から前方は尺骨鈎状突起へ、後方は肘頭突起にかけて存在しており、その走行方向から、前斜走線維、後斜走線維、横走線維という3つの線維から構成されている
- この靭帯の機能は前腕の外側変位を制限して過度の外反力を抑制することである
- 肘屈曲60~70°では前斜走線維が外反を制限しており、肘屈曲70°以上では後斜走線維が伸張される傾向にある
- さらに前腕回線の影響として、前腕中間位で外反角度が増大し、回内位で外反角度が最小となる
- 肘外反ストレスに対する制動の貢献度の割合は、肘伸展位では内側側副靭帯、骨・関節構造、関節包・軟部組織のいずれも同程度である
外側側副靭帯複合体
- 外側側副靭帯複合体は、扇状・Y字形に広がる構造をしている
- この靭帯複合体には、外側側副靭帯、外側尺骨側副靭帯、輪状靭帯、副靭帯が存在する
- 外側側副靭帯の機能としては、過度の内反力に対抗して肘関節を安定させるとともに、腕尺関節の亜脱臼を防止する
- さらには、尺骨に対して橈骨頭を固定している輪状靭帯を補助し、腕橈関節を安定させる
- 内反ストレスに対するこれらの靭帯の張力は、肘屈曲30~40°で発生し、50~60°で最大となる
- 輪状靭帯は、前腕回内時に橈骨頭が尺骨の周りを回転する際、緊張を高めて筋位橈尺関節の安定化に寄与している
- また、方形靭帯も補助的に近位橈尺関節の安定化に作用している
橈骨神経
- 橈骨神経は、上腕三頭筋外側頭の下を出て橈骨神経溝を下行し、上腕筋と腕橈骨筋の間を走行して肘関節に至る
- 腕橈関節前方で浅枝(知覚枝)と深枝(運動枝)に分かれ、深枝は回外筋の腱弓の下を通って前腕伸筋側に出る
- この腱弓は Frohse のアーケードと呼ばれ、回外筋症候群の好発部位である
尺骨神経
- 尺骨神経は上腕内側から筋間中隔後面に達するが、ここに Struthers のアーケードと呼ばれる腱弓がある
- これは弓状靭帯とともに肘部管を形成する
- 弓状靭帯は尺骨神経の圧迫障害をもたらしやすい
関節包
- 関節包は、腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節という3つの関節を含んでいる
- その強度は、靭帯によって補強されている
- 前後面は関節運動を許すために比較的薄くて緩く、内外側は安定性を確保するために内側側副靭帯および外側側副靭帯に付着している
滑液包
- 前方の滑液包は4つ存在する
- 腕橈滑液包
- 回外筋包
- 上腕二頭筋腱橈骨滑液包
- 肘部骨間滑液包
- 後方の滑液包は8つ存在する
- 上腕三頭筋腱下包
- 尺骨神経包
- 内側上顆滑液包
- 上腕三頭筋腱内包
- 肘頭滑液包
- 外側上顆包
- 肘筋下包
- 腕橈滑液包
- 滑液包は、骨への衝撃を吸収する作用や、筋・腱や骨との摩擦を軽減する作用を有する
- 表在性のものとして肘頭滑液包や内側上顆滑液包があり、これらは炎症を起こしやすい
斜索
- 斜索は前腕腹側に存在し、尺骨の橈骨切痕内側面から橈骨結節まで走行する平らな筋膜の帯である
- 骨間膜は橈骨と尺骨を連結する膜であり、棚上構造を有する
- 斜索と直交して走行している
- いずれも最大回外時に緊張して橈尺関節の安定性をもたらしており、重い荷物を運ぶとき、体重を支えるときに作用する
参考文献
肘関節の機能解剖学的離開のポイント (理学療法 29巻11号 2012年11月 横山茂樹)
肘内側側副靭帯損傷 保存的治療法・観血的治療法・病態とバイオメカニクス・理学療法
肘内側側副靭帯損傷の概要
- 肘内側側副靭帯損傷は、肘関節脱臼や脱臼骨折などの外傷に伴う急性損傷と、投球に代表される繰り返し牽引力が加わり微細損傷が蓄積される慢性損傷に大別される
- 野球選手の場合は、微細損傷の蓄積によって内側側副靭帯機能不全が起こり、肘関節不安定症を呈することが問題となる
- 20世紀末から21世紀初頭にかけての10年間で高校生の内側側副靭帯再建術が増加しており、そのうち85%がオーバーユースであった
- この増加の背景には、内側側副靭帯損傷の診断法および観血的治療法の確立、学童期からの単一競技の専門化や練習過多、ジュニア選手育成指導上の問題点などがあると考えられている
肘内側側副靭帯損傷の保存的治療法と観血的治療法
保存的治療法
- 通常、スポーツ選手が抱える慢性疼痛の治療は、まず保存的治療法から開始されることが多い
- 3ヶ月間の理学療法で48%が復帰可能であったとの報告がある
- 保存的治療法に対抗する因子として、剥離骨片が残存する内側側副靭帯損傷、投球時の尺骨神経障害、投球時のら患期間が挙げられる
- 保存的治療法に抵抗性の尺骨神経障害は、Struthers’ arcade や内側側副靭帯の機能不全により尺骨神経が過伸張となるものが多く、時に胸郭出口症候群によってもたらされることもある
観血的治療法
- 観血的治療法は、トミージョン手術が有名である
- これは長掌筋腱を用いて内側側副靭帯を再建する方法である
- 近年では、復帰率が高く完全復帰が可能となっている
- しかし、付随する症状として尺骨神経症障害が6%に認められたとの報告もある
- 観血的治療法で問題となる尺骨神経障害は、尺骨神経移行や手術操作によって生じることが多く、保存的治療法の病態とは異なる
- 手術操作に起因する一過性の尺骨神経障害は術後1〜2日で改善することが多い
肘内側痛の病態と病態把握
肘内側側副靭帯損傷
病態とバイオメカニクス
- 内側側副靭帯は内側上顆下端前方から起始し、尺骨鈎状突起内側面に付着している最も強固な前斜走靭帯と、伸展性に富む後斜走靭帯、さらに、肘頭尖端内側と鈎状結節後部を結ぶ発達の悪い横走靭帯からなる
- 前斜走靭帯は幅約10mm、厚さ2〜3mで、肘関節外反ストレスに対する最も強固な支持機構であり、肘関節の安定性保持に重要なものである
- 肘関節の外反安定化には、屈曲20°以下と120°以上では肘頭や上腕骨滑車の骨構造が寄与する
- 屈曲20°〜120°までは前斜走靭帯が第一の安定化機構となる
- 前斜走靭帯の起始範囲は狭く、付着範囲は広く、その形状は円錐状である
- そのため、前斜走靭帯への伸張ストレスは横断面積の狭い起始部に集中しやすく、損傷も同部に頻発する
病態把握
- 内側側副靭帯損傷は限局した疼痛が誘発されるため、圧痛を確認する
milking テスト
- 前斜走靭帯の後部線維の伸張テスト
- 肘関節最大屈曲位で肘関節外反を強制し、疼痛があれば陽性
moving valgus stress テスト
- 肩関節外転90°最大外旋位として肘関節に外反ストレスを加えた状態で、最大屈曲位から屈曲30°まで伸展させる
- その際、アーリーアクセレーションを疑似した屈曲70°からレイトコッキングを疑似した120°の間で疼痛が誘発されれば内側側副靭帯損傷の可能性が大きいとされる
尺骨神経障害
病態とバイオメカニクス
- 尺骨神経は、上腕内側遠位1/3で内側上腕筋間中隔の後方を通り、内側上顆と肘頭の間で緊張している滑車上肘靭帯から肘部管に入り、尺側手根屈筋腱膜を通過して肘部管を出る
- 尺骨神経障害は、上腕内側遠位1/3を中心とした Struthers’ arcade と肘部管で頻発する
- Struthers’ arcade とは内側上腕筋間中隔、上腕三頭筋内側頭副起始、発達した上腕三頭筋、肥厚した深筋膜により尺骨神経が圧迫される構造である
- 肘部管の解剖学的構造に起因する病態として、内側上顆や滑車上肘靭帯の低形成による尺骨神経脱臼、骨棘が肘頭後内側や滑車内側に形成されることによる肘部管の断面積縮小などがある
病態把握
- 尺骨神経の圧痛は上腕内側中央から肘部管にまで及ぶ
- いわゆる Struthers’ arcade を構成する内側上腕筋間中隔に圧痛を認めることが多く、また、肥厚を認めることも多いため、健側も評価する
- 肘部管については、圧痛とともに尺骨神経の脱臼・亜脱臼も評価する
- 圧痛は肘部管に限局されるため、判断は容易である
- 脱臼・亜脱臼は肘関節を屈伸させて検査するが、静的には内側上顆の低形成や肘頭および滑車内側の骨棘形成により、動的には発達した上腕三頭筋により生じている場合があることを念頭に置いて行う
後内側インピンジメント
- 後内側インピンジメントとは、肘頭と肘頭窩が接触することを意味する
- 正常の状態でも接触し、肘関節外反安定化に貢献している
- しかし、内側側副靭帯損傷によって肘関節外反不安定性を呈すると、その接触圧が増大すると考えられている
理学療法
筋力増強運動
- 肘関節外反ストレスを制御する力があると報告されている筋は、尺側手根屈筋と浅指屈筋である
- これらの筋はリストカールによって筋力増強を行うことができる
- その際、握りを太くすることで浅指屈筋の筋活動も上昇し、同時に筋力増強もできる
- 上腕三頭筋外側頭や上腕筋、肘筋も肘関節外反ストレスを制御すると奉公されている
ストレッチ
- 内側側副靭帯機能不全の野球選手と無症状の野球選手の可動域を比較すると、内側側副靭帯機能不全で優位に肩関節内旋が減少していた
- 胸郭や脊柱(特に胸椎)の柔軟性低下は、コッキングフェーズ以降の胸椎伸展と肩甲骨後傾を制限し、代償的に肩関節外旋と肘関節外反を増加させると考えられる
参考文献
野球肘の機能解剖学的病態把握と理学療法 ー肘内側側副靭帯損傷ー (理学療法 29巻11号 2012年11月 宮本梓)
肘離断性骨軟骨炎と理学療法 病態・観血療法・保存療法・病期分類・病巣部位・理学療法
肘離断性骨軟骨炎の病態
機能解剖の観点より
- 腕橈関節は上腕骨小頭と橈骨頭で構成されており、橈骨頭は肘外反ストレスの制動に関与する
- 腕橈関節内の軟骨に圧を加えて合成を測定したところ、橈骨頭中央と比較して、上腕骨小頭内側では有意差がみられなかったものの、小頭外側では有意差がみられた
- 透亮期の病変が外側にあるものと中央にあるものを比較し、病変が外側にあるものは優位に低年齢であり、いずれも骨端線閉鎖前であった
- これらのことから、肘離断性骨軟骨炎が上腕骨小頭側に生じる要因として、橈骨頭と上腕骨小頭外側の軟骨との剛性の差が考えられ、その差は骨端線閉鎖前の小頭外側から生じ始める可能性がある
運動学の観点より
- 肘関節の屈伸運動は腕橈関節と腕尺関節の複合運動である
- 肘関節は伸展に伴って生理的に外反し、その際、橈骨頭は上腕骨小頭上を後方に滑る
- 肘関節の回内外運動は橈骨頭と尺骨頭結んだラインを軸とし、橈骨頭は最大回外から最大回内の運動中に、正常の場合でも前方に約2㎜偏位すると言われている
- 一方、肘離断性骨軟骨炎患者は、その多くが肘過外反・前腕回内アライメントを呈している
- 術中所見として橈骨頭の適合性不良が観察されるだけでなく、臨床所見として肘伸展時と前腕回内時に橈骨頭の異常運動が観察される
- 超音波を用い、前腕回外位から回内運動中の橈骨頭を掌側より観察すると、肘離断性骨軟骨炎の患側では健側に比べ、橈骨頭が掌側に大きく偏位している
- 橈骨頭の掌側への運動は上腕孤島小頭への圧を上昇させることが示されている
- 肘関節伸展位で前腕の肢位を変えながら軸圧下での腕橈関節の接触圧を測定し、回外位よりも回内位で接触圧が増大する
- 以上のことから、肘離断性骨軟骨炎患者で観察される、橈骨頭が前方に課題に偏位している場合は、橈骨頭が正常な位置にある場合と比較して、上腕骨小頭への剪断力を増大させる
投球動作時のバイオメカニクスの観点より
- 肘離断性骨軟骨炎患者では、ボールリリース前後に痛みを訴える割合が非常に高かった
- 肘離断性骨軟骨炎患者25例では、アームコッキング相が28%、アームアクセレーション相からアームデセラレーション相が64%、フォロースルー相が8%
- アームアクセレーション相からアームデセラレーション相にかけて肘関節は急激に伸展し、リリース直後に前腕回内運動が増加する
- 腕橈関節の圧力は肘関節伸展・前腕回内で強くなること
- 外反トルクが加わる中で、リリース付近で急激な肘関節伸展と前腕回内運動を行うことが肘離断性骨軟骨炎発症をもたらす可能性がある
観血療法と保存療法の選択
- 肘離断性骨軟骨炎は病期や病巣部位、肉眼所見による分類がなされている
- 保存療法か観血療法かの治療方針の決定には、その正確な理解が必要となる
病期分類
- 病気は透亮期、分離期、遊離体期に分類される
- 遊離体期では手術療法になる場合が多い
- 分離期は、軟骨面の連続性があり病巣が安定している前期と、軟骨面に亀裂を有し連続性を失っている後期とに分けられる
- 現在では、MRIのT2協調脂肪抑制画像における高信号領域が「上腕骨小頭内に関節内から連続している場合」、あるいは「連続していなくても線状である場合」に分離後期以降と診断され、手術適応となることが多い
病巣部位による分類
- 病巣部位が小頭中央部に限定されている中央型と、外側辺縁にまで達し上腕骨小頭外側骨皮質の欠損および破壊を伴っている外側型とに大別される
- 病巣部位によって治療成績に影響が出る
- 外側型で、橈骨頭関節面の1/3以上に病巣がわたるものを広範囲型とし、治療成績に影響を及ぼす腕橈関節の関節症変化や橈骨頭の前方亜脱臼、内反肘などを呈す場合が多い
肉眼所見による分類
- 国際的にはICRS分類が使用され、4段階に分けられる
stageⅠ:特に所見がないもの
stageⅡ:軟骨に亀裂があるが病巣は安定しているもの
stageⅢ:骨片が部分的に剥がれて不安定となっているもの
stageⅣ:骨片が完全に遊離しているもの
肘離断性骨軟骨炎に対する理学療法
肘関節の炎症症状への対応
- 肘離断性骨軟骨炎では、肘関節全体に腫脹が及んでいることが多い
- 肘関節内の腫脹は肘頭外側に観察される
- これに対しては、腕橈関節に微弱の電流をかけながらアイシングを行い、腫脹の軽減を図る
肘関節のアライメントおよび可動域への対応
- 肘過外反アライメントの修正(腕橈関節の圧の軽減)と橈骨頭前方偏位の改善(腕橈関節の適合性獲得)を行うことで、肘関節伸展・屈曲可動域の改善を図る
- 腕橈関節の圧の軽減と適合性獲得は、上腕骨小頭に対する剪断ストレスを減弱させ、関節運動時の疼痛も減弱させる
- 肘過外反アライメントを修正するには、橈側に付着する筋(腕橈骨筋)の柔軟性を獲得させる
- 次に、近位橈尺関節のモビライゼーションを行い、橈骨頭の後方可動性を改善させる
- その際、遠位橈尺関節の可動性改善も同時に考慮することが重要である
- 遠位橈尺関節の可動性低下は、近位橈尺関節(橈骨頭)の異常運動を引きおこし、適合性を低下させる
- 遠位橈尺関節のモビライゼーションや長母指屈筋のストレッチを行い、完全な前腕回外可動域獲得を目指す
- 橈尺関節の可動性が改善したのち、肘関節の内反ストレッチを行い、さらに肘関節(腕尺関節)のアライメントを改善させる
- また、橈骨の運動を誘導しながら肘関節屈曲伸展運動を行い、肘関節の正常な屈曲伸展可動域を獲得する
前腕橈側のセルフストレッチ
- 上腕二頭筋ー腕橈骨筋間に指を入れ、肘関節の屈曲伸展を繰り返す
『上腕二頭筋の起始・停止』などを復習したい方はこちら
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近位橈尺関節のモビライゼーション
- 肘頭を内側より把持し、尺骨を前方に引き出しながら対側母指で橈骨頭やや内側を後外方に押す
- セルフで行う場合、橈骨頭を後方に押し込みながら、前腕の回内外を繰り返す
遠位橈尺関節のモビライゼーション
- 橈骨1/2(腕橈骨筋の筋腱移行部周囲)を把持し、対側で尺骨茎状突起を包むように把持する
- 橈骨を近位に押し込み、尺骨を遠位に牽引する
- 肘の過度な外反が生じないように留意する
- セルフでは手関節背屈位にて、母指MP関節を伸展方向に引っ張り、長母指屈筋をストレッチする
肘内反ストレッチ
- 肘関節内側を把持し、対側で母指球から橈骨茎状突起を把持する
- 橈骨を近位に押し込みながら内反方向に牽引し、肘外側をストレッチする
肘関節屈曲伸展時の橈骨頭の可動性の改善
- 橈骨頭を外側より把持し、対側手掌を母指球に合わせる
- 橈骨頭を後方に引っ張りながら、対側の手掌で橈骨を軸圧方向に押しつつ、肘を屈曲伸展させる
- セルフでは橈骨頭前方に指を入れ、前腕を回外させ、小指側を上にしながら、肘関節を屈曲伸展させる
肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の機能への対応
- 肘関節伸展可動域制限と投球動作の繰り返しは、胸椎後弯・肩関節伸展位・肘関節屈曲位の姿勢を取りやすくなる
- それにより、肩甲骨は下制・下方回旋し、それに伴い上腕骨頭を前方偏位アライメントとなる
- 上腕骨頭の前方偏位は、上腕二頭筋長頭腱を伸張させ、さらに腕橈関節の可動性を阻害する
- この一連のアライメント不良パターンのため、一時的に肘関節のみ可動域が改善しても、上腕二頭筋の過緊張が生じ、また肘関節の可動域制限が起こる悪循環から抜け出せない
- 胸郭を拡張し、肩甲骨の可動性を改善させ、上腕二頭筋や肩後方のストレッチを行うことで上腕骨頭のアライメントの改善を図る
- 肩後方のタイトネスを改善することは、正常な肩関節内旋可動域を獲得し、代償的に生じる投球時の過剰な前腕回内運動を抑制するためにも重要である
肘周囲筋機能への対応
- 上腕三頭筋・尺側手根屈筋・浅指屈筋は肘外反制動機能を有するため、これらのトレーニングを行うことは重要である
- とくに肘離断性骨軟骨炎患者では、肘関節の腫脹や伸展制限に起因する上腕三頭筋機能低下を認める場合が多い
- 腕橈関節への圧に留意するため、腹臥位にてベッド端に前腕を垂らし、前腕回外位での肘関節伸展抵抗運動を行う
参考文献
野球肘の機能解剖学的病態把握と理学療法 ー肘離断性骨軟骨炎ー (理学療法 29巻11号 2012年11月 鈴川仁人)
下腿・足部の疲労骨折 骨形成型・骨吸収型・骨硬化型・疲労骨折のメカニズム・脛骨疲労骨折・腓骨疲労骨折・Jones骨折
疲労骨折の概要
- 疲労骨折はどのような競技でもオーバーユースにより生じ得る
- 脛骨が一番多く約50%を占め、次いで大腿骨と中足骨が多く、この3部位で約85%を占める
- 発症年齢は男女とも12〜13歳であり、16〜17歳にピークを迎える
- 疲労骨折はX線分類で骨形成型、骨吸収型、骨硬化型の3型に分類される
骨形成型
- 全体の82%を占め、皮質骨の亀裂骨折に対する骨膜反応像がみられ、旺盛な仮骨形成により治癒する
- 脛骨疾走型、腓骨・中足骨・大腿骨の疲労骨折が骨形成型にあたる
骨吸収型
- 全体の15%を占める
- 伸張ストレスにより骨吸収が生じるため仮骨形成が力強さに欠け、病理学的には治癒に対する生体反応が乏しいとされている
- そのため、難治性であり早期競技復帰のためには手術適応も考慮する必要がある
- 脛骨跳躍型、Jones骨折、舟状骨骨折、足関節内かや第2・4中足骨基部などの疲労骨折が骨吸収型にあたる
骨硬化型
- 全体の3%を占め、海面骨の治癒反応による骨硬化像が特徴的である
- 脛骨内顆、踵骨、仙骨の骨折が骨硬化型にあたる
下腿・足部の疲労骨折のメカニズム
- 荷重負荷やトレーニング刺激は骨の成長には本来不可欠な要素であり、骨に対する刺激が骨の自己修復能力(リモデリリング能力)範囲内であれば、むしろ骨には好影響である
- しかし、骨の微細損傷がリモデリング能力を超えて蓄積されると疲労骨折に至る
- 蓄積する機序には、微細損傷の発生増加か修復能力低下のいずれか、あるいは双方が関与し、蓄積量は負荷の大きさと回数に依存する
- 力学的負荷への骨の耐性については、圧縮には強いとされている
- 一方で、捻りに対して最も弱く、次いで剪断、伸張、曲げの順になる
- 疲労骨折の発生要因のうち、骨にかかる負荷を変化させる要因として、バイオメカニカル要因、トレーニング要因、骨格筋要因、路面要因、靴やインソール形態の要因がある
- バイオメカニカル要因には、床反力の量や割合の増大、体節の衝撃や加速量、マルアライメント、不適切な動作が含まれる
- トレーニング要因には、トレーニングの持続時間や頻度、ランニング強度やスピードが含まれる
- 骨格筋要因には筋力や筋持久力が含まれる
脛骨疲労骨折
- 脛骨疲労骨折は、脛骨前面から発生する跳躍型、後方および後内方から発生する疾走型に分類される
- 骨吸収型の跳躍型は難治性であり、治療経過が長く、再発も多いため、早期復帰を望むアスリートには髄内釘固定術を行うことがある
- 脛骨疲労骨折既往者のマルアライメントの特徴として、扁平足、脚長差、65°以上の股関節外旋可動域、膝関節外反アライメントなどが挙げられる
- 脛骨疲労骨折既往の女子長距離選手のランニング動作について、立脚期間中の股関節内転角度、膝関節内旋角度、後足部外反角度の各最大値が、既往のない選手に比べて大きい
- 後足部外反角度の増加は、拮抗筋である後脛骨筋の早期の疲労を来す
- 後脛骨筋は脛骨内側にかかる伸張ストレスを軽減させる作用を有するため、後脛骨筋の機能低下は結果的に脛骨後内側部の伸張ストレス増大につながる
- 跳躍型の発生には脛骨前面中央部の軽度凸形態も関与しており、ランニングのストップ動作やジャンプ動作により脛骨前面に伸張ストレスが生じると考えられる
腓骨疲労骨折
- 腓骨疲労骨折は近位1/3と遠位1/3が好発部位である
- 腓骨には脛骨の約1/6しか荷重がかからないため、骨折は荷重負荷によるものでなく、筋収縮による撓みの影響が大きいと考えられる
- 腓骨近位1/3は骨間膜上端であり、かつ足趾屈筋や下腿屈筋の起始部であることから、特にヒラメ筋が着地やランニング接地時に強く収縮することが同部位への応力集中の一因と考えられる
- 遠位1/3については形態的に近位の厚い骨皮質が遠位にかけて薄くなり、紡錘状に広がるため、強度の変化が生じやすい部位とされている
Jones骨折
- 第5中足骨骨折は骨幹端に発生する横骨折である
- 外傷で発生することは少なく、足部外側荷重のスポーツ動作の繰り返しにより発症すると考えられている
- Jones骨折では第5中足骨の外側、底側に疲労骨折が起こるため、内転・背屈方向へのストレスが生じていると考えられる
- 第5中足骨は、第4中足骨や立方骨との間に底側中間靭帯や底側足根中足靭帯によって強固に結合されており、ジャンプ動作やステップ動作の反復ストレスによる応力を受けやすい
- 第5中足骨は血液供給に乏しい
- 基部は短腓骨筋腱や第3腓骨筋腱の付着部が近く、常に牽引力が働く
- 内側は第4中足骨と関節面を形成しているため、一度骨折すると骨癒合が得られにくい
- したがって、普段の生活でもストレスを受け、保存療法では骨癒合が得られにくく、早期に復帰を目指すアスリートの場合は手術療法を選択することが多い
参考文献
下腿・足部の疲労骨折の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 田村耕一郎)
シンスプリント 発症メカニズム・下腿コンパートメント症候群・下腿疾走型疲労骨折・内装縦アーチの低下・臨床推論・
シンスプリントの発症メカニズム
- シンスプリントの発症メカニズムは、筋腱の牽引損傷に起因するものと、脛骨への曲げ応力が加わるものの2つの理論がある
- 後者は骨実質への微細損傷に起因すると考えられており、近年報告が増えている
- シンスプリント複数に分類する試みがなされている
TypeⅠ:脛骨前内側の疼痛で、骨の微細損傷によるもの
TypeⅡ:下腿後方筋群の深部筋膜から下腿内側縁を起始とする筋の疼痛と張り
TypeⅢ:TypeⅠとTypeⅡが組み合わさった、中長距離ランナーに生じるものや、骨の未熟や低い骨密度によるもの
- 筋腱の牽引損傷が原因であるとする発症理論では、ランニングなどによる下腿後面筋群の緊張力の高まりから筋膜・骨膜連結部で疲労損傷が生じると考えられている
- したがって、疼痛発現に関与する筋群については、運動時痛や圧痛の部位となる脛骨内側部に付着する筋に焦点が絞られてきた
- 下腿後面筋群の筋付着部
長趾屈筋:脛骨遠位後面内側からヒラメ筋線
ヒラメ筋:腓骨近位の後面、脛骨の後内側面、ヒラメ筋線
後脛骨筋:骨間膜後面、脛骨後面の外側面、腓骨後面の内側面
『下腿後面筋群の起始・停止』などの復習をしたい方はこちら
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シンスプリントの鑑別
- シンスプリントは下腿後内側面遠位1/3から中央1/3の運動時痛や圧痛を主たる書症状とするため、同部位に疼痛を有する疾患との鑑別が極めて重要となる
- 鑑別の対象となる疾患は、下腿コンパートメント症候群と下腿疾走型疲労骨折が該当する
下腿コンパートメント症候群
- 下腿コンパートメント症候群は、筋区画内の内圧が運動に伴って上昇し、痺れや疼痛の出現する疾患である
- 下腿の筋区画には、前方、外側、浅後方、深後方の4区画が存在する
- ランニング障害として出現する
- 前方コンパートメントに出現することが多いため、疼痛部位が重複することはない
- しかし、頻度としては少ないが、深後方コンパートメントの疼痛では鑑別の判断が困難となる
- スポーツによって生じるコンパートメント症候群は、運動停止とともに症状が軽減ないしは消失することが多く、シンスプリントとは病態が異なることが判断材料となる
下腿疾走型疲労骨折
- 下腿疾走型疲労骨折はシンスプリントと疼痛発現部位が類似するため、慎重な判断が求められる
- 臨床的には、シンスプリントでは比較的広範囲(最低でも5㎝以上)に圧痛が認められるのに対して、疾走型疲労骨折ではより限局される(2~3㎝)
- しかしながら、これらの理学所見のみで判断することは難しく、画像所見でも確認する必要がある
- シンスプリントでは、MRIのT2強調画像あるいはSTIR像で筋膜上に高輝度像が観察される
- 一方、疾走型疲労骨折では皮質骨骨膜上に高輝度像が認められ、かつ骨髄内にも高輝度像が観察される
シンスプリントの発生因子
性差
- 男性よりも女性で多い
- 女性は男性よりもストライドが小さく、同じ距離を走るのにステップ数が多くなることが理由である
- 長趾屈筋やヒラメ筋の脛骨付着部位置が異なるなど男女間の解剖学的差異の影響も指摘されている
体格指数の増加
- 体格が増大し体格指数が増加すると、ランニングやジャンプ着地時に足部の緩衝能を超えて負荷が加わることになり、筋腱への牽引ストレスが増大することが考えられる
内側縦アーチの低下
- 内側縦アーチの低下や過回内がシンスプリントの発症と関連があることについては多くの報告がある
- シンスプリント発症の起点となるのはアーチを支える下腿筋群の牽引損傷であるため、シンスプリントに伴う内側縦アーチの低下は筋損傷による足部アーチ構造の機能不全が背景にあると考えられる
- 内側縦アーチの低下はレントゲン画像と体表上のランドマークから計測される
- レントゲン画像では、踵骨傾斜度(踵骨下縁と床面がなす角度であり、10°以下となった場合に偏平足と判断される)が用いられる
- 体表面上からの評価は、安静立位で距骨下関節を中間位とし、舟状骨内側の舟状骨粗面と床面との距離を計測する
競技特性
- 競技によっては下肢のマルアライメントを導きやすい姿勢や動作が含まれている
- 体重心を下げたアスレティックポジションを動作の起点とすることが多い
- Q-angle の大きい選手では不適切なアスレティックポジションからニーイン・トゥアウトを形成している場合があり、すでに内側縦アーチの低下や後足部の過回内を形成している
シンスプリント治療のための臨床推論
マルアライメントの改善
- 静的アライメント(内側縦アーチや過回内)の改善を行う
- Q-angleが15°以上になるとニーインの傾向が強くなるため、スクワットやカット動作時に膝と足部長軸が同一方向を向くよう石指揮させる
ストレッチング
- ヒラメ筋あるいは長趾屈筋のストレッチングでは膝関節屈曲位で足関節を背屈させていく
テーピング
筋腱に対する牽引ストレスを軽減する目的や、内側縦アーチの低下を防ぐためのテーピングがよく用いられる
- 内側縦アーチを維持するためには、後足部の回内だけでなく、前足部の回内や母趾列の回内を抑制する必要がある
- 前足部まで過回内となるアライメントは、母趾MP関節を外反へ誘導し、長母指屈筋腱の停止位置を底側から外側へと変化させ、トラス機構に対する十全な張力伝達を妨げる
- そこで、母趾を内反方向へ誘導するテープを最初に貼付し、そのあと母趾球から背側に巻き上げて前足部回外を誘導し、外側縦アーチから底側に入り踵骨を巻き上げ、外反に対する制限を加える
- 母趾球接地時の母趾外反を制限するとともに後足部の過度回内を制限することで、足底圧中心の軌跡の正常化も目的としている
- また、回内の制限を強化するため、後足部からテープを脛骨後方に回している
参考文献
シンスプリントの理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 渡邊裕之)
アキレス腱炎 病態と分類・アキレス腱付着部症・踵骨後部滑液包炎・付着部以外のアキレス腱障害・発生要因・理学療法評価
アキレス腱炎の病態
- アキレス腱周囲に痛みを訴えるものを総じてアキレス腱炎と称する
- 病態の違いを区別するために、アキレス腱周囲に痛みがあるものはアキレス腱障害と称されることが多くなっている
- アキレス腱障害は、踵骨付着部より約2㎝を境界として、アキレス腱付着部症と、付着部以外の腱障害とに分けられる
病態の分類
アキレス腱付着部症
アキレス腱付着部症は、アキレス腱の踵骨付着部そのものの障害と、踵骨後部滑液包炎の2つの病態に分けられる
アキレス腱の踵骨付着部の障害
- アキレス腱の踵骨付着部は、健常な環境では血行が比較的乏しく、微細損傷がいったん生じると修復に時間がかかる
- 過度の牽引ストレスにより付着部線維軟骨組織の微細損傷が誘発され、その修復状態が不良のうちに牽引ストレスが加わることで、変性が進行していくものと考えられる
踵骨後部滑液包炎
- アキレス腱付着部には踵骨後上部滑液包が存在し、足関節底屈・背屈運動により圧迫刺激を受けやすい構造になっている
- 圧迫刺激が繰り返し加わることで滑液包炎を呈するとされている
付着部以外のアキレス腱障害
付着部以外のアキレス腱障害は、アキレス腱症、アキレス腱周囲炎、アキレス腱症を伴うアキレス腱周囲炎に分けられる
アキレス腱症
- 腱組織そのものの微細損傷や小断裂など、アキレス腱そのものに炎症が発生した状態である
- 足関節底屈、背屈運動の際の圧痛部位は一定でない
アキレス腱周囲炎
- パラテノンなどの研修医組織に炎症が生じた状態である
- 足関節底屈、背屈運動の際の圧痛部位は一定である
アキレス腱炎の発生要因
①足部アライメント不良
- 踵骨内反、外反
- 足部回内、回外
②筋・腱の問題
- 下腿三頭筋の短縮や筋緊張増大
- アキレス腱の変性による弾性低下
③トレーニングの問題
- オーバーユース
- トレーニング内容の変更
④その他
- 加齢、肥満
- 高血圧症、糖尿病、関節リウマチなどの全身性疾患
- ステロイド、エストロゲン製剤の使用歴
- 靴の不適合
アキレス腱炎の理学療法における評価
問診
- 主訴
- 現病歴
- 既往歴
- 目標とする復帰時期
- 症状が発生する部位
動作観察・分析
- 症状が発生するるん認ぐの位相を確認しておく
- その前後の位相も確認し、特徴を確認しておく
各種検査・測定
①痛み
- 圧痛部位の特定
- 運動時痛
- 動作時の痛み
- 疼痛誘発、再現テスト
②腫脹・熱感
③静的アライメント
- 後側部:レッグヒールアライメント
- 足部アーチ(内側・外側・縦)の状態、程度
④足部機能
- トラスの動き
- ウィンドラス機構
- 足趾開排
⑤筋の状態
- 腓腹筋内・外側頭の萎縮、収縮、タイトネス
- ヒラメ筋の萎縮、収縮、タイトネス
⑥筋力
- 足関節:底屈、背屈、内返し、外返し
- 膝関節:屈曲、伸展
- 股関節:屈曲、伸展、外転、内転、外旋
- 体幹:屈曲、伸展、回旋
⑦運動協調性
- 股関節、膝関節、足関節の運動協調性
⑧周囲径
- 下腿最大囲、大腿
⑨関節可動域
- 足関節背屈、底屈
- 膝関節伸展
- 股関節屈曲、伸展、内旋、外旋
⑩関節動揺性・不安定性
- 足関節内反、外反、前方 (距骨下関節の可動性)
- 足部回内、回外、外転
⑪関節弛緩性
- ジェネラルジョイントラキシティーテスト
⑫その他
- 全身的な体力の測定
アキレス腱炎に対する理学療法
- 筋力、筋機能の低下、関節可動域制限に対しては各種エクササイズを実施する
- アキレス腱炎を有する対象者では下腿三頭筋の収縮機能が低下している例がみられ、電気刺激下で足関節底屈エクササイズを実施することも有効である
- 下腿三頭筋の伸張性が低下している例も多く、伸張ストレスを考慮しながらストレッチングを実施する
- 患部の状態の改善にともない、エクササイズの運動範囲、抵抗強度、運動強度の各設定を漸増していく
- 関節動揺性、不安定性の不可逆的な問題や、足部機能が低下している場合、テーピングや足底挿板などの補装具を用いる
- レッグヒールアングル増大(回内足)やランニングフォームのアライメント不良の場合、アキレス腱内側部への伸張ストレスが増強しやすいため、テーピングや足底挿板などでコントロールすることも有効である
- スポーツあk津堂を制限したことによる全身持久力低下の防止や身体組成の管理を目的に、上肢エルゴメーターや下肢エルゴメーター、ステップマシーンなどを用いる
- アキレス腱炎の症状が強い時期には非荷重でのエクササイズとなる水泳も用いる
- 下肢エルゴメーターでは、動作エクササイズを行う前段階で下肢関節の運動協調性を改善する目的でも実施する
- ランニング再開時に患部への力学的ストレスが増強することを回避するため、前足部で設置するランニングフォームの対象者であっても、踵接地でのランニングフォームから開始させる
- これにより、体幹の前方へのスムーズな移動も学習できる
- また、ストライドが大きい筋・腱への負荷が増強することが考えられるため、再開時にはピッチの頻度を増し、ストライドを小さくしておく
『アキレス腱断裂』について復習したい方はこちら
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参考文献
アキレス腱炎の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 岡戸敦男)
腸脛靭帯炎 発生機序・整形外科的評価・ファンクショナルテスト・動作分析
腸脛靭帯炎とは
- 腸脛靭帯炎は膝関節側面に生じる最も一般的な障害である
- 腸脛靭帯炎は、走り始めでなく、ランニングおよびサイクリングの距離の増加とともに出現し、膝関節屈伸時に膝関節外側に刺すような痛みが生じる
- 局所所見として、大腿骨外側上顆顆上の腸脛靭帯に圧痛、軽度の腫脹、屈伸に伴う轢音が認められる
- 性別の発症率は、男性が女性の2~9倍であった
腸脛靭帯の解剖学
『腸脛靭帯』について復習したい方はこちら
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腸脛靭帯炎の発生機序
- 腸脛靭帯は、膝関節伸展時に大腿骨外側上顆の前方に位置しており、膝関節の屈曲に伴い後方に移動し、大腿骨外側上顆を乗り越える
- この時の膝関節屈曲角度は20~30°である
- この乗り越えの際に腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との間に摩擦が頻発することで腸脛靭帯炎が発症する
- 腸脛靭帯炎を有する患者のMRIについて、腸脛靭帯には炎症所見を認めず、腸脛靭帯の深部に存在する脂肪組織に高信号所見を認めた
- これは、腸脛靭帯の下部にある脂肪組織が腸脛靭帯炎に関連することを示唆している
腸脛靭帯炎の発生要因
- 発生要因については次の3つがある
- 個体要因
- 環境要因
- トレーニング要因
- 3つの要因の背景には、絶対要因として、重力、重心移動、移動方向が関わってくることを考慮しなければならない
①個体要因
- 腸脛靭帯や大腿筋膜張筋の固さ
- 膝関節内反
- 距骨下関節過回外
- 股関節外転筋の筋力低下
②環境要因
- 未舗装の路面
- アスファルトなどの固い路面
- 靴などの用具
③トレーニング要因
- ランニング時間の増加
- ランニング距離の延長
- 低速でのランニング
- 同方向のコーナー走
腸脛靭帯炎の評価
問診
- 疼痛の部位
- どの動きでいつ疼痛が生じるか
- スポーツの種目
- 練習時間
- 競技レベル
- どのような動作が多いのか
理学療法評価
次の3つに分ける
- 整形外科的評価
- ファンクショナルテスト
- 動作分析
①整形外科的評価
スタティックアライメントテスト
- 膝関節内反
- 距骨下関節過回外
疼痛検査
- grasping test :腸脛靭帯を外側上顆で押さえ、膝関節屈伸運動を他動的に行い、疼痛を誘発する検査
- ober test :患側下肢を上にした側臥位をとり、股関節外転・膝関節90°屈曲の状態から股関節内転を他動的に行い、大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の短縮の程度を確認する検査
徒手筋力検査
- 股関節周囲筋(特に外転筋)
関節可動域測定
- 股関節
②ファンクショナルテスト
- スクワッティングテストを用い、疼痛や機能不全の有無を確認する
- スクワッティングテストとは、検査側の下肢を半歩前に出し、足部が向く方向を変化させて荷重した状態とし、外力を加えるテストである
- このテストでダイナミックアライメントに変化を生じさせ、症状の再現を図り、問題点を推察する
- 腸脛靭帯炎の対象者は、膝が外側を向き爪先が内側を向くニーアウト・トゥイン肢位で症状が再現される
③動作分析
- 疼痛が生じるスポーツ動作を中心に行う
- 患部である膝関節に限らず、体幹や骨盤、足部などについても動作分析を行う
- 中でも、腸脛靭帯炎が生じやすいといわれるるん認ぐ動作の例を3つ紹介する
①フットストライク~ミッドサポート
- フットストライク~ミッドサポートの間に対側への骨盤の側方傾斜が生じる例
- これは、中殿筋の機能不全のため、支持側での反対側骨盤の引き上げが十分にできないことが問題となる
- 骨盤の側方傾斜は、テイクオフからフォロースルーにかけて支持側股関節の内転・内旋位を助長する
- これは、股関節殿筋群の弱化と股関節屈曲位で伸展作用に働く大内転筋の影響が考えられる
- 大殿筋が機能不全に陥ると、大内転筋による股関節伸展が優位となるため、股関節内転・内旋位での蹴り出しとなる
- それにより腸脛靭帯の硬度を高め圧迫負荷が強まる
②フォロースルー~フォワードスイング
フォロースルー~フォワードスイングの間に骨盤の回旋・前傾不足が生じる例
- 骨盤が後方に残っていると股関節内転・内旋と重心線の膝関節内側通過が予想され、ニーアウトを助長する可能性がある
- それにより腸脛靭帯に伸張ストレスが加わることが考えられる
- この動きが生じる原因として、同側の内腹斜筋、反対側の外腹斜筋の筋持久力低下や体幹・股関節の可動域制限が考えられる
③フットストライク
- フットストライクで生じる距骨下関節の過回外と、それ伴うミッドサポートでの膝関節に対する下腿内旋の例
- この現象により小趾荷重となり、ニーアウト肢位が強制されて膝関節外側部に伸張ストレスが加わる
腸脛靭帯炎の理学療法
- 急性期では、抗炎症薬や鎮痛剤は一定の効果がある
- 初期治療のあと、整形外科的評価から得られた関節可動域制限、マルアライメント、筋力低下などの問題点に対して、改善を図っていく
- 問題点が解決したあと、実際に疼痛が出現するスポーツ動作を想定したトレーニングや、荷重位でのダイナミックアライメントの修正を行う必要がある
参考文献
腸脛靭帯炎の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 尾崎勝博)
梨状筋症候群 発症メカニズム・梨状筋・坐骨神経・椎間関節・仙腸関節・理学療法評価
梨状筋症候群とは
- 梨状筋症候群とは、坐骨神経が骨盤出口部で何らかの原因によって梨状筋から圧迫や刺激を受けて臀部や坐骨神経支配域に疼痛を惹起する症候群である
- 狭義の解釈においては、梨状筋の肥大や瘢痕化、解剖学的破格など梨状筋そのものによる坐骨神経の圧迫が原因である
- 広義に解釈すると、梨状筋だけでなく双子筋や内閉鎖筋による坐骨神経の絞扼、腫瘍病変、異常血管、人工股関節置換術後など、さまざまな病態がある
梨状筋症候群の発症メカニズム
- 梨状筋を含む外旋筋のスパズムを次の3つに分ける
- 梨状筋周囲の解剖学的破格の問題
- 椎間関節の問題
- 仙腸関節の問題
梨状筋周囲の解剖学的破格の問題
梨状筋と坐骨神経の解剖学的破格がある場合
- 坐骨神経は通常、梨状筋の下方を通過するがその位置関係を6つに分類している
- 坐骨神経は梨状筋下を走行
- 頭側の坐骨神経成分が梨状筋間を走行
- 頭側の坐骨神経成分が梨状筋上を走行
- 坐骨神経が梨状筋間を走行
- 頭側の坐骨神経成分が梨状筋上を、尾側の坐骨神経成分が梨状筋間を走行
- 坐骨神経が梨状筋上を走行
- 坐骨神経の貫通例では、股関節内旋により梨状筋が伸張されることで坐骨神経が圧迫・障害される
- 逆に、股関節外旋により、その絞扼が解除される
梨状筋と坐骨神経の解剖学的破格がない場合
- 坐骨神経と梨状筋の位置関係に破格が存在しない場合、次の2つの例がある
- 上双子筋が通常よりも頭側の大坐骨孔に付着し、梨状筋と同じ高さで併走することにより両筋の隙間が狭くなる場合
- 坐骨孔の形態が円形ではなく楕円で小さく、相対的に梨状筋が大きいために大坐骨孔を占拠している場合
- 股関節屈曲・内転・内旋によって症状の再現を認めることがほとんどである
- 慢性的圧迫よりも動的因子が関与している
椎間関節の問題
- 椎間関節は脊髄神経後枝内側枝により支配されている
- 内側枝の第1枝は隣接する椎間関節包の下部を支配している
- 第2枝は多裂筋を支配している
- 第3枝は1つ下位の椎間関節包の上部を支配している
- L4、L5から分枝する脊髄神経後枝内側枝に支配されているL5/Sの椎間関節に侵害刺激が生じると求心性インパルスが亢進し、内側枝を介して外旋筋にスパズムを生じさせ得る
仙腸関節の問題
- 仙腸関節の前方はL4、L5、S1神経前枝が支配している
- 仙腸関節の後方はL5、S1、S2神経後枝外側枝が支配している
- 仙腸関節下1/3では、腰神経叢が仙骨と接しており、ここに骨棘があると坐骨神経は直接圧迫されるが、仙腸関節に侵害刺激が生じることでも、L5、S1、S2神経を介して梨状筋を含む外旋筋群にスパズムを生じさせて症状を呈し得る
梨状筋症候群の評価
問診
- スポーツでの臀部打撲など外傷の有無
- 日常生活での長時間の座位、または重労働の有無
- 腰部疾患の既往
- 出産歴
- 症状が臀部のみか腰痛や下肢痛を伴うか
画像所見
- MRI、CTで梨状筋肥大を確認する
- 臼蓋形成不全があれば、臼蓋の代償として骨盤前傾・傾斜が起こり、梨状筋や椎間関節、仙腸関節への負担が増大する
圧痛
- 梨状筋に加え、仙腸関節や椎間関節の圧痛の有無も確認し、腰部への影響を把握する
疼痛誘発テスト
- 腹臥位で股関節中間位、膝90°屈曲位から股関節を内旋させ、疼痛が誘発されれば陽性
SLRテスト
- 重度陽性なら腰椎椎間板ヘルニアの合併が示唆される
- 股関節外旋位SLRと、内旋位SLRでの臀部圧迫による坐骨神経滑走性の変化を確認する
仙腸関節ストレステスト
- 次の1~4のテストのうち2つ、あるいは1~5のテストのうち3つが陽性であれば、仙腸関節原性の可能性が高い
- 離開テスト
- 大腿スラストテスト
- 圧縮テスト
- 仙骨圧迫テスト
- ゲンスレンテスト
関節可動域・タイトネス
- 股関節可動域制限
- 腸腰筋や大腿筋膜張筋、腸脛靭帯
脊柱可動性
- 前後屈、側屈、回旋、またこれらの組み合わせで椎間板や椎間関節へ負荷をかけ、疼痛と可動域制限を確認する
筋力・感覚
- 大殿筋、外旋筋、中殿筋は短縮位での筋出力を確認する
- 前脛骨筋、長母趾伸筋の筋出力を確認する
- 感覚ではL5、S1領域が障害されやすい
アライメント
静的アライメント
- L5/S1レベルでの前腕増強の有無
片脚立位
- 骨盤傾斜により股関節が内転するか内旋するか
- ニーインに関わる大腿骨前捻角、足部過回内、内反拘縮
動的アライメント
- ローディングレスポンスでの股関節内転・内旋や、対側骨盤下制、腰部過前弯の有無
梨状筋症候群の理学療法
梨状筋周囲へのアプローチ
- 梨状筋のスパズムを取り除くことが中心となる
- 梨状筋や双子筋の外旋筋リラクセーションを行う
- 股関節外旋筋の軽い収縮・弛緩を繰り返す
- 症状増悪のない範囲で坐骨神経と外旋筋の間の滑走性改善を図る
- 疼痛コントロールが可能になったらセルフストレッチングに移行する
- ストレッチの肢位は股関節深屈曲・外旋位とする
椎間関節・仙腸関節へのアプローチ
椎間関節
- 多裂筋リラクセーションや腸腰筋ストレッチング、腹横筋を意識した体幹エクササイズを実施する
仙腸関節
- 多裂筋リラクセーションに加え、徒手的操作、ハムストリングスなどのストレッチ、腹横筋のエクササイズ、寛骨前方回旋に関わる腸骨筋のリリースやエクササイズなどを実施する
動作修正のアプローチ
- 動作上で梨状筋周囲の負荷が予測されるニーインや、仙腸関節または椎間関節に影響する骨盤傾斜や腰椎過前弯などを修正していくことが重要である
- 股関節周囲筋や腹横筋などの単独のエクササイズをはじめ、スクワットやランジなどのスポーツ動作に近い動作で脊柱・四肢を分節的かつ協調的に動かすことを目指す
参考文献
梨状筋症候群の理学療法における臨床推論(理学療法 33巻9号 2016年9月 金子雅志)
仙腸の運動 ニューテーション・カウンターニューテーション・左捻転左傾斜軸・右捻転右傾斜軸・左捻転右傾斜軸・右捻転左傾斜軸
骨盤の運動
基本的に、骨盤帯には3つの主要な運動がある
- 寛骨上での仙骨の運動からなる仙腸運動
- 仙骨上での寛骨の運動からなる腸仙運動
- 対側の恥骨に対する一側恥骨の運動である恥骨結合運動
仙腸運動
- 仙腸運動には、2つの主要な運動様式がある
- ニューテーション(仙骨屈曲)
- カウンターニューテーション(仙骨伸展)
- この仙骨の双方向性の運動は、体幹の前屈・後屈とともに生じる
- 仙骨の片側性運動は、歩行初期および歩行周期などに、股関節と下肢の屈曲・伸展とともに生じる
ニューテーション
- ニューテーションは、仙骨底(仙骨の上面)は前下方に向き、同時に仙骨尖(仙骨の下部)および尾骨は寛骨に対して後上方へ動く
- ニューテーション中において、仙骨はL字型の関節面の短腕を下方へ、長腕に沿って後方に滑ると考えられている
- 仙骨の楔型の形状は、関節面の稜や溝と同様にニューテーションを制限している
- さらに、骨間仙腸靭帯や仙結節靭帯、仙棘靭帯はニューテーションの位置で緊張が高まると同時にこの動きを制限するが、この位置は最も安定した位置と考えられる
- ニューテーションは仙腸関節靭帯の大部分、そのなかでも広い骨間仙腸靭帯や後仙腸靭帯(長後仙腸靭帯を除く)を緊張させる代表的な運動であり、これは骨盤に生じる強い負荷を準備していると考えられる
カウンターニューテーション
- カウンターニューテーションでは仙骨底は後上方へ移動し、同時に仙骨尖および尾骨は寛骨に対して前下方へ働く
- この運動が生じる間、仙骨はL字型の関節面の長腕に沿って前方へ、短腕を上方へ滑らせると考えられる
- 長後仙腸靭帯は、カウンターニューテーションのこの特有の運動を制限する
- カウンターニューテーションでは、骨間仙腸靭帯と仙結節靭帯が弛緩するため、仙骨は不安定になると考えられる
腸仙運動
- 腸仙運動には、2つの主要な運動様式がある
- 前方回旋
- 後方回旋
- 両側の寛骨に生じる運動は、体幹の前屈・後屈とともに生じる
- 一方で、寛骨の片側の運動は、歩行周期など股関節と下肢の屈曲・伸展とともに生じる(仙骨の片側の運動と類似している)
前方回旋運動
- 股関節や下肢が伸展されると、寛骨はL字型の関節面の短腕を下方へ、長腕に沿って後方へ滑りながら、同時に前方へ回旋する
- この前方回旋運動は、仙骨のカウンターニューテーションと関連する
後方回旋運動
- 股関節と下肢の屈曲されると、寛骨はL字型の関節面の長腕に沿って後方へ、短腕を上方へ滑られながらあ、同時に後方へ回旋する
- この後方回旋の動きは、仙骨のニューテーションを誘導する
恥骨結合運動
- 前方では2つの寛骨が結合し、恥骨結合として知られる連結を形成する
- 正常歩行時恥骨結合関節は2つの寛骨による運動のための回旋軸として機能する
- 恥骨結合における運動は可能だが通常は上下の強靭な靭帯により制限されている
- この恥骨結合運動は主に歩行周期中で生じるが、片脚立位でバランスを保持しているときにも、この関節でも運動が起こる
- 恥骨結合異常 (SPD:Symphysis Pubis Dysfunction) は上部の恥骨結合、あるいは下部の恥骨結合のどちらが固定されているか、その位置により分類される
仙腸運動と腸仙運動の組み合わせ
- 骨盤帯、つまり2つの寛骨および仙骨が、股関節においてひとつのユニットとして回旋する場合、この運動は骨盤の前傾、あるいは後傾として知られている
両側の運動 前屈
- 体幹の屈曲の初期においては、バランスを保つために重心をコントロールする目的で、骨盤帯は後方へシフトする
- 仙骨はニューテーションの位置にあり、前関節可動域を通してそこに留まる
- 左右の寛骨は大腿骨上を左右対称に前方回旋(骨盤前傾)し、第5腰椎が仙骨上で屈曲するにつれて、上後腸骨棘は頭側(上方)へ対照的に動いていく
- 体幹が前屈するにつれ、仙結節靭帯、大腿二頭筋、胸腰筋膜の緊張が高まるポイントに到達し、仙骨のニューテーションが終了する
- この時点で寛骨は前方回旋を続けるが、たとえ仙骨がニューテーションの位置にあるように見えたとしても、体幹の最終屈曲位では、軟部組織、とくにハムストリングスの緊張の増大により、仙骨は相対的カウンターニューテーションの位置にあると考えられる
両側の運動 後屈
- 後屈の初期において骨盤帯は前方へシフトするが、同時に寛骨は大腿骨上で左右対称的に後方へ回旋(骨盤後傾)し、第5腰椎が仙骨上で伸展するまで胸腰椎の伸展が続く一方で、同時に上後腸骨棘が尾骨方向(下方)へ回旋していく
- 仙骨は後屈を通じてニューテーションの位置で留まり、この位置は仙腸関節の圧迫により最も安定すると考えられる
仙骨の片側(一側)の運動
- 歩行・歩行周期において、仙骨は両側性の運動ではなく、特異的な片側性の運動様式となる
- つまり、歩行する場合、仙骨の片側をニューテーション方向へ前方に運動させる必要があり、一方で同時期に対側はカウンターニューテーション方向へ後方に運動させるのである
- 仙骨が回旋する場合、側屈とともに複合運動が生じる
- 仙骨の左側がニューテーションに向かって前方へ動くと、仙骨は右側へ回旋し、左側へ側屈する
- 仙骨の右側は、同様に右側へ回旋するが、仙骨底はカウンターニューテーションの位置にある
- 一側への回旋と対側への側屈は仙骨捻転として知られており、この特異的な仙骨の運動は、傾斜軸上で生じると考えられる
仙骨軸
- 6タイプの仙骨軸が存在する
画像引用:骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)
傾斜軸
- 左傾斜軸は、左仙骨底から右の下外側角を通過する
- 右傾斜軸は、右仙骨底から左の下外側角を通過する
- 自然な生理学的運動が2つある
- 仙骨左捻転左傾斜軸
- 仙骨右捻転右傾斜軸
- 非生理学的運動が2つある
- 仙骨左捻転右傾斜軸
- 仙骨右捻転左傾斜軸
生理学的運動 (前方運動固定/ニューテーション)
仙骨左捻転左傾斜軸
- この運動は仙骨が左回旋する場合に特有の動きであり、仙骨溝(仙骨底と腸骨との結合により自然に形成される)は右側の深部で触察できる
- 下外側角は仙骨溝と同様に左側の後部で(浅部)で触察できる
- それは、右側の仙骨が左前方へニューテーションしていることを示している
仙骨右捻転右傾斜軸
- この運動は仙骨が右回旋する場合に特有の動きであり、仙骨溝(仙骨底と腸骨との結合により自然に形成される)は左側の深部で触察できる
- 下外側角は仙骨溝と同様に右側の後部で(浅部)で触察できる
- それは、左側の仙骨が右前方へニューテーションしていることを示している
生理学的運動のまとめ
- 仙骨左捻転左傾斜軸と仙骨右捻転右傾斜軸は、仙骨上の自然発生的運動である
- 仙骨左捻転左傾斜軸の状態にある場合、仙骨の左側はニューテーションで固定されるため、カウンターニューテーションが不可能であり、仙骨右捻転右傾斜軸は起こらない
- 歩行周期を通じて正常な歩行を可能とするために、仙骨左捻転左傾斜軸と仙骨右捻転右傾斜軸による仙骨の運動を保つ必要がある
- 仙骨がこれらの自然発生的な仙骨捻転運動をできない場合、結果的に機能異常が生じることになる
非生理学的運動 (後方運動固定/カウンターニューテーション)
- 仙骨の非生理学的運動は、仙骨の傾斜軸上で生じる異常な運動である
- これは、回旋運動を伴った屈曲増強(強制屈曲)の姿勢、例えば、床から重いものを拾うための回旋運動による腰椎および体幹によって引き起こされている傾向がある
仙骨左捻転右傾斜軸
- 仙骨左捻転右傾斜軸における仙骨捻転は、右斜軸上の左回旋と関連し、仙骨が左回旋する場合に特有である
- しかし、仙骨の左側の後方回旋により、仙骨溝と下外側角は左側の後方(浅部)で触察される
- これは、仙骨の左側がカウンターニューテーションしていることを表している
仙骨右捻転左傾斜軸
- 仙骨右捻転左傾斜軸における仙骨捻転は、仙骨左捻転右傾斜軸と正反対の運動ということになる
- したがって、仙骨捻転は左傾斜軸上での右回旋と関連しており、これは右側へ回旋している仙骨に特有である
- 仙骨の右側の後方運動により仙骨溝と下外側角は右側の後方(浅部)で触察される
- これは仙骨の右側がカウンターニューテーションしていることを表している
生理学的運動のまとめ
- 仙骨左捻転右傾斜軸と仙骨右捻転左傾斜軸は仙骨の不自然な運動であり、ゆえにそれらは非生理学的とされる
- これらの特異的な運動は、カウンターニューテーションあるいは後方ねじれの位置で固定されることがある
- 例えば、仙骨左捻転右傾斜軸の機能異常的位置にある場合、仙骨の左側が固定されニューテーションを行えないために、仙骨は仙骨左捻転左傾斜軸あるいは仙骨右捻転右傾斜軸といった、正常な生理学的運動をはたすことができない
- これについてもう一つの考え方は、仙骨がカウンターニューテーションの固定された位置の後方へ保持されるため、仙骨の左側は前ニューテーションが行えない、あるいは単純に左側での前方移動ができない、ということである
仙骨捻転のまとめ
仙骨左捻転左傾斜軸 ニューテーション
深部の仙骨溝 :右側
浅部の仙骨溝 :左側
下外側角後方 :左側
L5回旋 :右側
座位屈曲検査 :右側
腰椎スプリング検査:陰性
スフィンクス検査 :仙骨溝レベル
腰椎の負荷 :増強
内果(脚長) :左側が短い
仙骨右捻転右傾斜軸 ニューテーション
深部の仙骨溝 :左側
浅部の仙骨溝 :右側
下外側角後方 :右側
L5回旋 :左側
座位屈曲検査 :左側
腰椎スプリング検査:陰性
スフィンクス検査 :仙骨溝レベル
腰椎の負荷 :増強
内果(脚長) :右側が短い
仙骨左捻転右傾斜軸 カウンターニューテーション
深部の仙骨溝 :右側
浅部の仙骨溝 :左側
下外側角後方 :左側
L5回旋 :右側
座位屈曲検査 :左側
腰椎スプリング検査:陽性
スフィンクス検査 :左仙骨溝浅部(右仙骨溝深部)
腰椎の負荷 :減少
内果(脚長) :左側が短い
仙骨右捻転左傾斜軸 カウンターニューテーション
深部の仙骨溝 :左側
浅部の仙骨溝 :右側
下外側角後方 :右側
L5回旋 :左側
座位屈曲検査 :右側
腰椎スプリング検査:陽性
スフィンクス検査 :右仙骨溝浅部(左仙骨溝深部)
腰椎の負荷 :減少
内果(脚長) :右側が短い
参考文献
骨盤と仙腸関節の機能解剖 骨盤帯を整えるリアラインアプローチ(医道の日本社 John Gibbons)